見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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長くなりそうなのでかなり割愛しましたがスマイル側のストーリー補足です。
また、本編に入れる事ができなかった重要な設定についてまた後日投稿します。


スマイル・ストーリー

最近、グリエ博士を見ていない。元気にしているかな。カーマンはここへ来る度に色んな事を僕に学ばせる。話術とか、色仕掛けとか、機械の事とかその他色んな事。食事も前と違って人間の死体を持って来る。

 

今日は沢山人に化けた。少しでも化け方が甘いとカーマンに電流を流される。僕はあの人が嫌いだ。今日のお仕事が終わると僕は体を液体に戻して寛いだ。

 

「それ、潜入任務の時はやるなよ。必要となれば数日は連続で擬態してもらわなければならん」

 

「はいはい。分かってますよー。でもこれ、本当に人を救うためになるんですか?」

 

「もちろんだ。ファーガスは大義名分をでっちあげてオルコスに戦争を仕掛けようとしている。エージェントの情報では後3年以内と言う推測だ。戦争の被害を最小限に抑えるよりそもそも起こさない方がいいだろう?お前にはそれができるんだ」

 

カーマンが言うにはファーガスと戦争になれば大勢の死者が出るらしい。どの国でも魔法は大人になるまでにある程度は使える様にならなければ生きていけない。それは幼少期からある程度戦える様に育てられると言う事でもある。

 

国同士の争いになると余程子供を戦争に参加させる様な真似をしない限り巻き込まれる事は稀だ。大人の魔法使い達さえ降参させればそれ以上の争いはしない。しかし、攻撃して来たと言い張る事で子供まで虐殺する野蛮な国も存在する。

 

ファーガスは主に4つの民族に分かれている国だが、特に力を持っているアルパと言う民族が多民族に圧力をかけて民族浄化を行っている。そのため敗戦して国家主権を奪われる事を国王カヴァロンは大変危惧しているんだそうだ。

 

「時にエージェント、時に破壊工作員、時にボディガード、時にハニトラ。やってもらう事は沢山ある。国の存亡はお前の両肩に乗っていると言っても過言じゃない」

 

「ふあい」

 

そんな重責をスライムの僕に乗せられても潰れちゃうよ。そう思いながらうねうねと動き回る。やがてカーマンはいくつかの紙にペンを走らせる。

 

「へっいっわ~へっいっわ~」

 

適当に作った曲を歌う。カーマンはさっきの書類をバインダーに挟むと部屋を後にした。彼がいなくなったのを確認してからため息をつく。

 

「全く、結局檻から出してくれないんじゃないか。何が自由だよ」

 

そう愚痴を呟いた。しばらくしてふと疑問に思う。

 

「あれ?檻から出してくれるなんていつ言ったっけ。言ってなかったっけ?」

 

僕は取り込んだ人間や動物の記憶を持っている。『スマイル』の記憶を保持するにしたって時々別人の記憶が入り込んで来る事がある。これを区別するのが簡単な様で難しい。なので別人の記憶かもしれない。

 

どちらにせよ今の僕は平和のための訓練をしている。人の役に立てるのは素晴らしい事なんだ。だから今は檻から出られるかどうかは大した問題じゃない。きっとそうだ。

 

暇で仕方がないので僕は体を分裂させる。誰に教わった訳でもなく最初から擬態する事ができる唯一の謎の人間の姿をした僕に話しかけた。

 

「ところでさ、どうにも大事な事を忘れてる気がするんだど何だっけ?」

 

「思い出せない僕に聞いたって仕方ないでしょ?他の誰かに聞いてよ」

 

仕方がないのでもう1人の僕には別人になってもらう。確かカーマンが言うには三重スパイの人だったかな。

 

「ねえねえ、僕は何を思い出せないんだっけ」

 

「知る訳ないでしょ。あなたの記憶でしょ?」

 

この人も駄目だ。別の人を呼ぼう。この人は…確かただ僕が変えられる姿のバリエーションを増やすためだけに回収された遠い国の人の死体だ。

 

「僕が思い出せない記憶ってなんだっけ?」

 

「知らんな」

 

この人も駄目だ。結局誰に尋ねても駄目だった。うーん、どうしても思い出したい。忘れてる何かが何なのか。私はも分裂した体を元に戻すと、謎の人間に姿を変えた。液体の次だとこの姿が一番いい。でもこの人は本当に誰なんだろう。カーマンから聞いた事はない。グリエ博士なら知ってそうだけど…会えないしなぁ。

 

それから何時間も思い出せず、僕はその場にブリッジしながら部屋を歩き回っていた。

 

「暇だ、暇だ、暇だヅラ~」

 

そうやって遊んでいると誰かがやって来た。グリエ博士だ!!

 

「スマイル、久しぶり。元気にしてた?」

 

「グリエ博士!グリエ博士、どうしてここに?」

 

僕は厚い透明な板に触れて博士の顔をまじまじと眺める。

 

「連れ出しに来たんだよ。君はここにいてはいけない」

 

そう言って彼はカードキーを取り出すと近くの装置にスキャンさせようとする。しかしその時、まるでポップコーンが弾ける様な音がした。博士は肩から血を流して倒れる。駆け寄りたいができない。

 

やがて部屋の奥から誰かがやって来た。カーマンだ。

 

「残念だよグリエ博士、こんな事になってしまって」

 

グリエ博士は体をゆっくりと起こした。

 

「夜分遅くまでお勤めご苦労、カーマン」

 

カーマンは銃を構えたまま近寄る。

 

「ゆっくりカードキーを床に置いてそこから10歩下がるんだ。今すぐ」

 

グリエ博士はしばらく黙ったままカーマンとにらみ合っていたが、ゆっくりとカードキーを床に置いた。それから1歩、2歩と下がる。カーマンはまだ銃を構えたまま彼を睨む。

 

「グリエ博士…」

 

カーマンが言いかけた所で走ってカードキーを拾うグリエ博士。照準を付けられる前に装置に向かう。今にカードキーを差し込み口に入れようとした所を銃で撃たれた。カーマンは傍に寄ると容赦なく頭を撃った。

 

「グリエ博士!グリエ博士!!」

 

僕は透明な壁の向こうから名前を呼んだ。しかし返事が帰って来ない。カーマンは近くの穴に博士を放り込んだ。するといつも食事をする時の様に僕のいる部屋にグリエ博士の死体が流れて来た。

 

彼を治療しようと頑張るが既に死んでいる。

 

「どうして…どうして殺したんですか!?」

 

「そんな事はいい。スマイル、そいつを取り込むんだ」

 

「でも…」

 

僕は死んだグリエ博士を眺める。分かってる。取り込めば僕の中でグリエ博士を復活させる事ができる。それは分かっているのに僕の中で何かが抵抗した。その気持ちが何だか分からない。カーマンはいつも命令に従わないといつも電流を流して僕を虐めたが、今日は不思議とそうしなかった。

 

彼は壁の傍まで歩み寄る。彼も複雑そうな表情でグリエ博士を眺めていた。

 

「俺は最後までグリエ博士と分かり合えなかった。だから争いが起きた。もし彼があの場で大人しく指示に従っていたなら俺は射殺せずに済んだ。彼も死なずに済んだ。こういった争いを無くすためには相互理解を促さなければならん」

 

もしグリエ博士とカーマンが充分にお互いを理解しあえていたなら、こんな悲劇は起きなかったのかな。グリエ博士も平和への一歩は相互理解からだと言っていた。僕の生みの親でさえそれが充分にできなかったから争いの末に死んでしまった。

 

「さあグリエ博士を取り込め。そして蘇らせるんだ。その時、始めてグリエ博士と俺は充分に理解し合える関係になる。争わなくて良くなる。それは相互理解できたからに他ならない。それがお前にできる相互理解なんだ」

 

僕にできる相互理解…。

 

僕はグリエ博士を体液で覆って溶かす。そして体の中からグリエ博士を作った。僕の隣にいるグリエ博士はため息をつく。

 

「今のは痛かったよカーマン。それで、当分は僕もこっちで生活するのかな?」

 

「グリエ博士の一人称は私だぞ。しばらくはそこで生活してもらう。必要になったら呼ぶからそれまではそこで待機だ。それまではスマイルの中にいろ」

 

「はいはい」

 

そう言ってグリエ博士は僕の中に戻った。僕の中でできたグリエ博士は大人しくカーマンに従った。だから銃弾で撃たれたり電流を流される事はなかった。そうか、相互理解と言うのはそう言う事だったのか。

 

なるほど、こうしてお互いを理解して行けば次第に争いはなくなる。そう言う事だったのか。

 

「それじゃおやすみ、スマイル。明日は早いから早く寝るんだ」

 

「分かった」

 

彼が去ると私はグリエ博士を出してお話をした。彼に言われたってこればかりは我慢できない。だって、生みの親と再会する事ができたんだ。話したい事は沢山ある。言いたい事は沢山あるけど…そうだな、まずは褒めてもらいたい。

 

最も、相互理解を終えた後なのでグリエ博士にはわざわざ口にしなくても分かっているのは間違いないが。

 

「グリエ博士、やっと僕は理解できたよ!相互理解が何なのか!褒めて褒めてー♪」

 

「おーいい子いい子。やっと理解できたんだね。素晴らしい事だ。君の思う相互理解をどんどん促し、平和に貢献しよう。それが私達の使命だ」

 

「はい!」

 

あまり不用意にグリエ博士を出しているとカーマンにまた電流を流されかねない。それから10分ぐらいお話をしていたがそれ以降は彼を体にしまって眠る事にした。

 

…そう言えば、グリエ博士はどうして僕をここから連れ出そうとしたんだっけ。僕はグリエ博士の記憶を辿ってその答えを探す。ふーむ…ミルジナに亡命するつもりでいた様だ。何でミルジナなんだろう。

 

そこで僕を医療用のスライムとして薬にしたりするつもりでいたみたいだ。そして僕と一緒に研究をしたり、色んな所にでかけたり…。色んな予定があったみたいだ。まるで家族みたいに僕と接するつもりだったらしい。

 

「変なグリエ博士。僕はここに残ってファーガスとの戦争を止めなきゃいけないのに。それじゃ平和の礎になる事ができないよ」

 

僕はやっぱり気になって頭だけグリエ博士を出してその事について尋ねた。

 

「そうだなぁ。やっぱり相互理解が上手くできてなかったからだと思う。今、スマイルと一体化した今なら分かるよ。僕のやり方じゃ平和には貢献できないって」

 

「やっぱりそうだよね!」

 

「でもね、私が思うにカーマンのやり方に従っていればいいと言う物でもないと思うんだ。だって、いくら理解し合えないにしてもあそこで僕を射殺するのは争いを無くしたい人間の考えじゃないはずだろ?」

 

「そうだね、私もそう思う」

 

「だからそのためにも私達はここにいるべきじゃないと思う。オルコスを始めとして、ファーガスにももっともっと相互理解を促さなきゃ。そしたら誰も争わなくなる。それって素晴らしい事じゃないか?」

 

「そうだね、とっても素晴らしい事だ」

 

やっぱりグリエ博士は賢い。常に俺の考えを越えた答えを出してくれる。そうだ、計画を練って決行に移そう。皆、皆幸せになれる様に全て蕩け合って1つになるんだ。それが相互理解に違いない。きっとそうだ。

 

僕は笑いが止まらなかった。グリエ博士の願った相互理解を理解できた、こんなに嬉しい事があるだろうか?

 

さて、まずはグリエ博士に擬態して何も知らずにやって来た見張りに僕が脱走ししてここに閉じ込められたとでもと伝えて中を空けてもらおうか。グリエ博士が取り込まれているなんて知らない見張りなら騙されるだろう。

 

 

 

 

本体から分裂して僕は逃げ出した。城を出て空を飛び、水気のある所を伝って移動する。僕は今までの人生でかつてないほどの憤りを感じていた。オルコスの平和は何もかも壊されてしまった。やって来たファーガス人とミルジナ人によって。

 

あの野蛮人共は何が何でも許せない。万の言葉で語るよりも先に兵器で襲い掛かるような連中だ。あの二カ国は1人残さず相互理解を促す。戦争を生む火種の芽は摘まなければならない。カーマンの言う通りだ。戦争は起こってしまった。

 

道中、動物を襲ったり人を襲ったりして生き長らえた。ミルジナまでの道のりは遠く、安全な道を通るためには多くの水分を失う道を通らざるを得ない日もあった。

 

ある日、日照りが続いてロクに水も得られなかった。僕は1cmも動く力もなくて岩陰でじっとしていた。

 

「苦しい…死んでしまいそう…」

 

本当にまずい。このままでは死んでしまう。僕には相互理解を促し世を泰平に導く使命がある。何としても生きなければならない。

 

もう随分と人と話していない。今の僕には友達を作るだけの水分も体積もない。僕は寂しかった。話し相手が欲しい。構って欲しい。それでも今の僕にできるのはただただこの暑さに耐える事ばかりだった。

 

弱ってる僕を虫が襲おうとする。僕は襲って来る虫をそのまま取り込む。やがて夜が来ると今度は非常に体が冷えた。日中は暑さが、夜は寒さが僕を襲った。

 

「うう…寒いよ…冷たいよ…」

 

こんな時、誰かが寄り添ってくれていたなら…。その時、僕の傍に寄り添ってくれていた誰かの事が頭に過る。不思議ととても大切な人の思い出だった気がする。でも誰だったか思い出せない。どんな顔で、どんな声で僕に話しかけてくれたっけ。

 

必至になって思い出す。一体どこの誰の記憶だっただろう。分からない。僕の記憶は既に400万人近くのの数を管理している。もう死んでるかもしれない。取り込んだかもしれない。誰だったっけ。

 

1つだけ思い出した。

 

「そうだ…あの人もミルジナにいる。会わなきゃ、会う約束をしたんだ」

 

僕は体を引きずって先へ先へ進む。使命を果たせないのなら、せめてあの子に会いたい。もう一度だけ会いたい。それが誰なのか思い出せないけど。行けばきっと会える。

 

その後、奇跡的に雨が降った。その間に一気にミルジナに向かって進んだ。記憶の中の地図を頼りに、時に川に流されたりして。魔法使いに魔法の試し打ちにされて殺されかけた事もあった。次第に僕の中で使命よりもあの人に会いたいと言う気持ちが強くなった。それぐらい余裕がなかった。

 

やがて森の中に入った。もうすぐ、きっともうすぐ会える。もう何千回繰り返したかもわからない言葉を繰り返して森の中をさまよった。

 

奇跡の連続が続いた僕の大冒険もついに命運が尽きた様で、弱りはてた僕を犬の魔物が襲った。今の僕の力では内側から取り込む事さえできない。水、せめて水が欲しい。僕は水分を失いながら森の中を逃げ回る。

 

「撒いた…のかな」

 

犬の魔物が僕を追う気配がない。ほっと一息つくと僕の体を覆う影が現れた。見やると魔法使いがいた。僕は急いで身を守るために僅かに身体を固くする。魔法使いは僕の体に躓いて転んだ。

 

「あいった!…なんだスライムか。邪魔な所にいるなよな」

 

人の事を蹴っておいて何という言い草だろう。

 

不用心な魔法使いが歩いていると先ほど撒いたはずの犬の魔物が飛び出して来た。狙いは彼ではなく僕らしい。獲物を狩る側としての意地なんだろう。

 

「外の世界は弱肉強食だ」

 

魔法使いがそんな事を言いながらあっちへ行く。僕は残りの気力を振り絞って犬の魔物から逃げ回る。駄目だ、このままじゃ殺されてしまう。嫌だ。あの子に会うまで死にたくない。まだ死ねない!!

 

僕は藁にも縋る思いで魔法使いの背中に飛びついた。

 

「うわっ!そうまでして助かりたいかスライム!」

 

「た、たひゅけて…!」

 

「人間の声!?」

 

 

 

 

あの日の出会いを境にイジーと親友になった。沢山遊んで、沢山勉強して…沢山相互理解を促した。イジーは未だに僕を恋人と認めてくれないけど、いつかは彼も認めてくれる日が来るんじゃないかと思った。だって、人間で言う恋人の距離にずっと僕を置いてくれるから。

 

イジーは取り込む必要がない。彼は僕を受け入れてくれた。どんな時も僕の期待に応えてくれた。僕自身から相互理解を促す必要がない。彼は最高のパートナーだった。後は彼から愛してるの言葉を聞くだけ。

 

…だけどその他のミルジナ人はそうはいかない。オルコスで襲撃を受けた晩に僕はずっとそうすると決めていた。彼らには相互理解を促す必要がある。この決意だけは揺るがない。イジーの置かれた環境を聞いてますますそうしなければならないと思った。

 

上水道を抑えてからは後は簡単だった。イジーは僕との契約にファーストキスで済ませる事に少しも疑いを持たない純粋な子だった。騙す様で悪いとは思ったけど、残念ながらファーストキスで魔物の行動は一切制限ができない。その代わり、この国を平和にする。それが僕の使命でありイジーに対する償いだった。

 

学校の貯水槽に細工をしに来た時、誰かが止めに来るだろうと思っていた。僕を止めに来たのは意外にもスティル先生だった彼女と戦うのは辛かった。それでも最後は分かり合えた。

 

ミルジナにおいて最後の障害になったのはビジーだった。あいつは危険だ。ムヘンの揺り籠で殺された時、僕は改めて色んな人の記憶を照合して彼女の正体を割り当てた。イジーの姉弟弟子なので簡単に脅して追い払った。何食わぬ顔で帰って来た時はその厚かましさに呆れたほどだ。

 

しかし、ケネスィ…いやチェルダーが襲い掛かって来るとは思わなかった。あの今までずっと観測者の立場を取って干渉する事はなかったのに。あの神徒に同情したから?神の遺骨を使ったから?分からない。

 

かつてはこの世界の最高神として君臨したかもしれないが、神の叡智も神の遺骨もなくしてしまっているいわば抜け殻となった神は勝てない相手じゃなかった。

 

チェルダーが襲って来た時、僕は真っ先にイジーから離れた。僕が傍に居る限りビジーが姿を現さないのを知っていたからだ。イジーの救出にはかなり時間がかかった。ケネスィに万全の状態で挑む事ができなかったからだ。

 

全てイジーの師匠、アレンのせいだ。あの男はあろう事か神の叡智を持ち出し戦いを挑んで来た。お互いにイジーを誤って殺さない様に幻惑の城で戦った。元よりアレン1人だけでも充分に強いが神の叡智のせいで危うく死ぬ所だった。僕の体積の4分の1は失った。

 

アレンを相互理解させた後に神の叡智は王国に戻した。あれは誰かの手にあっていいものじゃない。僕にさえ。

 

今となっては全て過去の話。イジーを殺害しようとしたからやむを得ず目の前で殺人をする事になってしまった。姉弟弟子の死はイジーにとっても辛い事だっただろう。でもこうして彼の目の前には生きたビジーがいる。時間はかかってもこれからきっと納得してくれる。

 

僕達は一緒にアレンの家に向かって歩き出していたが、ふと足音が1人ぶん少ない事に気が付いた。僕は振り向く。

 

「イジー?」

 

僕の視線に移ったイジーは、頭と体が離れた場所にあった。僅かに魔力の痕跡がある。

 

「イジー!!!」

 

すぐに駆け寄ってイジーの頭を抱きかかえる。それから体液を使って彼の首の傷口をくっつける。

 

「ああ、駄目だ…駄目だイジー!死んじゃ嫌だ!!」

 

駄目だ、こんな方法じゃ駄目だ。僕はミルジナとオルコスで知る限りの回復魔法を頼って彼の傷口を治癒する。イジーの体の傷は確かに塞がった。なのに意識が戻らない。どうして??どうして???

 

心臓マッサージをする。電気マッサージもする。やっぱり生き返らない。力なく横を向くイジーの目から僅かに涙がこぼれた。

 

「イジー、イジー…どうしてこんな…」

 

離れた場所にいたビジーが僕の隣に座る。

 

「スマイル。いい方法があるだろう。グリエ博士の時みたいに」

 

「…………………………」

 

そうだ。そうじゃないか。いつもそうやって相互理解を促して来たじゃないか。簡単な事じゃないか。頭がパニックを起こしててこんな簡単な事も気付けなかった。

 

僕は早速と液状になってイジーを包む。いつもベッドで一緒に眠っていた時にそうした様に。そうだ。僕はイジーの何かを理解できなかったから死別してしまった。彼と和解しあわなきゃ。相互理解しなきゃ。

 

頭で分かっているのに、僕は何故かイジーに相互理解を促す気にはなれなかった。

 

「スマイル?」

 

ビジーが僕に尋ねる。

 

「このままイジーを腐った肉の塊にする気なのか?簡単だろう」

 

「そ、そうだ…。そうに決まってる。簡単な事なんだよ…」

 

僕は意を決してイジーの身体を分解した。そして再構成してイジーを作り上げた。イジーは今度こそゆっくりと起き上がった。彼はこちらを向くとニッコリ笑う。

 

「ごめんごめん、心配させたね。もう大丈夫だよ」

 

我慢できずにイジーに抱き着いた。彼は僕の頭を撫でてくれる。イジーだ。本当にイジーだ。僕としたことが危うく本当にイジーを殺してしまう所だった。これでもう大丈夫。これで分かり合えた。

 

僕は泣きながら彼を責める。

 

「どうして自分の首を斬ったりしたんだよ!心配したじゃないか!!」

 

「ちょっとびっくりさせてみたかったんだよ。驚いた?」

 

その言葉を聞いて僕はイジーから離れた。びっくりさせたかったからって…。

 

僕はイジーの記憶の中を探る。彼が最期に何を思ったのか。何を感じたのか。

 

彼は絶望していた。ミルジナ中の人間が全てが――――しまっているに気付いてしまったから。そしてその事態を引き起こしたのが他ならない自分のせいだと理解したから。僕はふらふらと後ずさって躓き尻餅を搗いた。イジーの記憶の一部を僕の頭が理解を拒否している。だから分からない。

 

でも、確信に近い何か僕の中で徐々に理解しようとしている。僕は全力で理解を拒否した。これだけは、これだけは理解してはならない。僕の全てがそう警告していた。

 

だから、僕は気にしない事にした。そうだ。イジーやビジーと一緒に帰るんだ。それで今日の続きの明日が来るんだ。そうだな…決闘祭の続きだ。いや、考えれば本物のケネスィを殺したんだ。皆で。明日は皆でお祝いじゃないか?

 

そうだ、それがいい。バズと、ステンシーと、リプと、クレムと、イジーが城で褒め称えられるんだ。それから、それから…。

 

あれこれ考える僕にイジーが手を伸ばした。

 

「スマイル、早く帰ろうよ。僕、お腹空いてて…」

 

イジーの言葉に僕は笑った。笑うしかなかった。

 

今になってやっと分かった。グリエ博士やイジーを取り込む事に抵抗感を覚えた理由を。

 

遅すぎた。あまりに遅すぎた。

 

僕は最初からグリエ博士の言う相互理解を正しく理解できていなかった。

 

相互理解なものか。

 

ミルジナ中の人間が全てが僕に成り代わってしまっただけなんだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「僕なんか…生まれるべきじゃなかった…。イジー、グリエ博士、皆…ごめん…」

 

 

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