見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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イジーは憂鬱だった。スマイルと協力して師匠の用事を終わらせたはいいが、学校に行くために自宅に帰らなければならない。両親にスマイルの事を話さなければならない。その日がやって来てしまった。

様々な経験から少しだけ成長した事を実感していたイジーはスマイルの事を何とか説得するつもりでいた。果たして上手くいくのか…。


5話 魔物の友達、人間の親

あれから数日、あっという間に素材集めや調合が終わってしまった。これで師匠がビジーに私の恥ずかしい寝言を言いふらす事はなくなったが、代わりに1つの不安と向き合う事になった訳でもある。

 

そう、自宅に帰るにあたってスマイルを両親に紹介しなければならない事だ。彼はその…とてもいい奴なのだが。両親がとう捉えるか…。

 

「楽しみだなぁ~。イジーのご家族ってどんな人なんだろう」

 

自宅に帰らずに師匠の家から学校に通うとどうしても遠すぎる。こればかりは仕方がない。諦めて私は戸締りをすると荷物を持って自宅を目指した。

 

「私の両親は頭が堅いから余計な事を言わないようにね。私が話をつけるから」

 

「僕は必要だと思えば発言もするし会話もするよ。だって語らなければ相互理解なんてできないからね。大丈夫、きっとわかってくれるよ」

 

そうだといいけど。

 

町中を歩いて行く。時々振り返る魔法使いがいたが、殆どの人間がスマイルをスライムだと気付かない。考えてみればここまでしっかり擬態していると普通は分からない。見抜けるのはよほど魔法に通じている人ぐらいだろう。この町には魔法使いは多くいるがそれでも気付く人は意外に多くない。

 

いっそ、スマイルは人間だと言う事にして生活できたらいいけど…。でもバレたらどんな目に遭うか。そんな考えが頭を巡り、仕方がないので親にはちゃんと事情を説明する事にした。

 

やがて自宅に到着した。私は深呼吸をして中に入る。

 

「ただいま」

 

「おかえり。あら、お友達?」

 

家に帰ると洗濯物を運んでいる母と会った。スマイルが前に出る。

 

「こんにちは、スライムのスマイルです」

 

「ふふっ、ユニークな子ね。どうぞあがってって」

 

母は笑って洗濯物を上に運んで行った。私達は中に入ると今度は居間から父が出て来た。

 

「おお、戻ったか。隣の子は?」

 

「こんにちは、スライムのスマイルです」

 

「随分変わった子だね。ゆっくりしていきなさい」

 

気付かれなかった。スマイルは不満そうな顔で私を見る。私は荷物を下ろしに2階に上って自分の部屋に向かった。そこに荷物を置く。それからどの授業を何回ずつ受講しなければならないのか確認する。私は学校にいるより師匠と過ごす方が好きなので、できるだけさっさと終わる様に時間割を組んだ。

 

スマイルはしばらく私を隣で眺めていたり近くにある本を読んだりしていたが、やがて飽きてベッドで寝た。

 

「スマイルって本当にこうしてると人間みたい」

 

「何でー?」

 

「何だろう。人間らしい生活が板についてるというか」

 

「ふーん」

 

スマイルは食いしん坊じゃないが物を飲み食いするのが好きだ。その次ぐらいにベッドで寝るのが好きだった。私と傍に居る時以外は探せば大体寝室にいる。

 

「スマイルは本当に寝るのが好きだよね」

 

「もっと言えば君の寝るベッドで寝るのが好きだよ。何だろうね。君の匂いがするとたまらなく安心するんだ」

 

自分の匂いと言う物はあまり気にした事がなかったが、そう言われるのは何だか悪い気がしなかった。両親は信じてくれなかったけど、これからは一緒に過ごす事になるのでやっぱりきちんと説明しておくべきだと思う。

 

夕食時になってから家族で集まると改めて私はスマイルが本当にスライムである事を説明する。最初は信じてくれなかったが、スマイルが目の前で液状になって見せると2人共それぞれ違った驚き方で椅子を立った。

 

「お前、これは一体どういう事なんだ!」

 

父が声を荒げる。私は出会いから今に至るまでの事を話した。

 

「いくらスライムだからってお前…。お前みたいな子供に魔物を扱えるわけないだろ!」

 

「そ、そうよ。それにそのスライム変じゃない。人に擬態するなんて聞いた事がないし、喋るだなんて…」

 

スマイルは隣で人の形に戻る。

 

「そう邪険にしなくたっていいじゃないですか。イジーだって日々成長しているんですよ。彼ぐらいの年齢の子が魔物と契約を結ぼうとすれば多くは殺されるのがオチです。ところがイジーは喋る上に人に化けるスライムと無事に契約を済ませたんです。凄い事ですよ」

 

スマイルはまるで他人事の様に両親に説明する。

 

「そんなスライムなら余計にイジーの手に余るでしょう。アレン様ならまだしも…。それに、クラスには魔物を連れてる子なんていないでしょ?」

 

「確かにいないけど…」

 

「駄目だ駄目だ。契約を破棄するんだ。魔物なんて危なっかし過ぎる」

 

駄目だ、子供と言うだけで相手にしてもらえない。一体どうしたらわかってもらえるのか。親はいつでもそうだ、あれをしろこれをしろと私のやる事為す事にいちいち口を出してくる。やりたいようにやらせてもらえない。

 

私が話を付けるとスマイルには言ったのに、もう内心諦めかけている。そんな私を他所にスマイルはまだ諦めない。

 

「見なさい、イジーが委縮して何も言えなくなってるじゃないですか。これまでもそうやってイジーの考えを頭ごなしに否定して自分の考えを押し付けて来たんですね。最も信頼する親に否定され、卑屈で自分に自信がない子に育ってる事をご存じか?」

 

私は思わずギョッとした。確かに私は自分に自信はないし卑屈ではあるがそれを親のせいだと思った事はなかった。自分に自信が持てないのは根拠がある。単に実力不足だからだ。だから疑問に思った事はなかった。言われてみれば親から何かを期待される事は殆どなかった。人並みを目指す様に言われるだけだった。

 

成績のいい科目はあまり褒めてくれず、成績の悪い科目ばかり目をつけて努力する様に言われた。それを不満に思う事はあったものの、いつもの事だったので気にしなくなっていた。

 

「彼は魔法が上手く行かず学校生活で心苦しく思ってます。それでも問題の解決のために日々苦心しています。心の拠り所であるはずの親がどうして寄り添ってあげないんです?」

 

「何だこのスライム」

 

父が露骨に嫌な顔をする。

 

「イジーのためを思えばこそ危険な魔物を傍に置きたがらないのも当然でしょう。あなたの言う問題は私達の家庭の問題であってあなたには関係ありません」

 

母がスマイルに食いつく。スマイルは首を横に振る。

 

「ありますよ。何故ならイジーは僕の親友だからです」

 

「自惚れるな!主従関係を結んだ魔物が、主人と対等だと?!」

 

父は席を立つと部屋に飾ってある斧を持ってきた。

 

「父さん!!いいんだスマイル、もうこの話はやめにしよう!私が親の言う事を聞けば済む話だから…」

 

私はスマイルの前に立って庇う。スマイルは尚も怯まない。

 

「僕は一向に構いませんよ。気が済むまで僕を切り刻んでみなさい。尤も、他人の所有物となった魔物に乱暴を働くのはこの国の法律で合法だったか知りませんがね」

 

スマイルがやや大きな声で言うと家の扉や窓が一斉に開いた。よく見ると部屋や窓に僅かにスマイルの体液が付着してるのが見えた。本当の姿を表すと同時に仕組んだんだろう。外には僅かに人通りがある。下手に暴れ回れば目立つだろう。世間体を気にする親だからこそスマイルはそれを利用た。何より今のスマイルはどこからどう見ても人間の子供だ。

 

スマイルは私を優しく後ろに下げて斧を持つ父の前に立つ。

 

「イジー、悪い事は言わないからそいつと契約を切るんだ。お前が立派な魔法使いになったら魔物と契約するなとは言わん、今のお前には早すぎるんだ。ましてやこんなスライムは…」

 

「わ、私は…」

 

「イジー、立ち向かうんだ。君が意思表示さえすれば僕は君の矛となり盾となる。易い安心感のために誰かの傀儡になる様な人生でいいのか?」

 

「私は…、分かんないよ…」

 

両親もスマイルも好きだ。だからどちらかを選ぶなんてできない。どちらが正しい事を言ってるのかも分からない。親を擁護すればスマイルを否定する事になる。スマイルを擁護すれば親から見捨てられるかもしれない。どうしていいか分からなくなって涙がこみ上げる。

 

ローブを強く握る。堪え切れず涙がこぼれる。

 

「どうしていいか…分からない…」

 

どうしていいか分からず逃げた。自宅を飛び出した。私が何もかも嫌になった時はいつもそうして来た。きっとこれからもそうなんだろう。

 

「「「イジー!」」」

 

後ろから両親とスマイルの声がした。気にせず走る。

 

そうだ、師匠の家に行こう。師匠はいないけどあの家なら安心だ。私を傷つけるものが存在しない。私だけの安心の居場所。あそこに篭ろう。私は走った。走って逃げた。

 




毎日投稿はキツイので後で週に何回投稿か考えようと思ふ
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