すみませんすみませんすみませんっ!! スランプなんですっ!!
今回はやっと九人がそろう時です。
いつもより、少し長めとなっています。
それでは、ごゆっくり。
ーー時間は、屋上に絢瀬 絵里が来る少し前。場所は、生徒会室。
これは少し前に起こった、そんな奇跡の前章……。
*途中まで希目線です。
「っと……えりち、そろそろと違う?」
「……そうね」
整理の終わったプリントの束を、長机に二、三回軽く打ち付ける。
まぁしかし、改めてプリントの束をパラパラめくって見てみると……やっぱり凄い量。
つくづく思うけど、こんな量を私とえりちはこなしていたんやなぁ。
「行かなくてええの?」
私は浮かない顔をして俯いている彼女、えりちこと"絢瀬 絵里"。ロシア人の祖母譲りの金髪碧眼、白い雪のような肌の持ち主の美少女。私が男性だったら絶対に心を奪われるだろうなぁ。
「なぁに浮かない顔してるん? せっかくの可愛い顔が勿体無いよ?」
「……はぁ、もう。希はいつも私をおちょくるのね」
まったくもう、とため息をつくあたり、本当に疲れているみたい。それもそのはず、えりちは毎回遅くまで学校に残って生徒会の仕事、それに廃校にならないためにいろんな企画を考える毎日……もう心も体もひどく傷ついているはず。それは、えりちの一番近くにいた私がよく知っている。
「……そろそろ行ってくるわ。 あの子達にあんな実力じゃ駄目だって事を教えてこないと……」
えりちは整えたプリントの束を再度整え直すと、重々しく立ち上がった。
「えりちは、本当にあの子達が嫌い?」
私は生徒会室を出て行こうするえりちにこう問いかけた。
「……ええ、嫌いよ」
「嘘、やね」
「っ!」
今、えりちははっきり"嫌い"と言った。だが、それは嘘。根拠はえりち自身。
えりちが生徒会長に立候補した理由としてまず今問題となっている"廃校を阻止するため"。彼女はそれを「生徒会長としての義務」と言っていた。しかし、それは空回りし、現在のえりちを傷つけている。
だが、えりちはその理由以上に、立候補を後押しした理由がある。
ーーこの学院"音ノ木坂学院"が大好きだから。
学院が大好きと言う事は、そこに通う生徒達もかけがえの無い大切な存在と言う事も分かっているはず。だからえりちは、この学校の生徒を、"穂乃果ちゃん達"を嫌いな訳がない。
「う、嘘なんかじゃないわよ……!」
「いいや、絶対に嘘や。第一、えりちは音ノ木坂が大好きやろ?」
私の言葉に、えりちは更に顔をしかめる。
「……それが、何よ?」
「後は、言わなくても分かるやん?」
「……」
えりちは無言で俯き、何かを呟いたと思ったら、すぐに生徒会室を出て行ってしまった。んもう、せっかちさんだね、えりちは。
「さ、ウチも行くとしますか……」
私は、えりちの後を追うように生徒会室を出た。もちろん、えりちの行き先に(勝手に)ついて行くの。
だって、その"行き先"はわかってる。
ーー屋上やね。
*ここから葵目線になります。
ーー息が上がっている。
それは激しい運動からではなく、怒りと熱意からきているもの。頭が少し冷えた今の状態なら、俺が何を言ったかが理解できる。
「はぁ、はぁ……分かりましたか? 絢瀬先輩と穂乃果達は違うんです……」
言葉が途切れ途切れだが、ちゃんと伝えたい事は伝えたはずだ。
ハッとして、周りを見渡してみると……まず最初に穂乃果の驚愕している顔が目に入った。そりゃ、そうだよな……あそこまでの大声は久しぶりに出したから、自分でもよくだせたなー、なんて思うくらいに驚いている。
一方、絢瀬先輩はというと……。
「……」
深く俯いたまま、小さく肩を震わせていた。
……少しばかり言い過ぎたか? いや、そんなことはない。俺が言った事は全部本心である。間違った事は言っていない。
……まぁ、なんと言いますか。
穂乃果達"μ's"は俺が挫折させない、と白昼堂々と宣言してしまった。でも後悔はしてない、むしろ俺が関わんなくても挫折はしないと思う。
μ'sはそんだけのメンバーがそろっているのだから。
「……のよ……」
不意に、俯いていた絢瀬先輩が恐ろしく低い声で呟いたのが聞こえた。その後、やや早足で此方に近づき、俯いた顔を上げて俺を見据える。
「貴方に……貴方に私の何が分かるって言うのよッ!?」
スパァーンッ!!
「ッ!?」
ーー頬にくる、面の痛み。目の前には、涙で顔を歪ませている絢瀬先輩の顔。そして、振り切られた右腕。
俺は恐る恐る痛みのする左頬を抑える。
ーー痛い。ジンジンする。
「私の過去の何を知ってるの!? 私の本当の思いを知ってるの!? 私の……私の何を知ってるって言うのよッ!! 知ったような口を聞かないでッ!!」
……絢瀬先輩の強烈な平手打ちで少しぐらついた頭に、先輩の叫びが反響する。絢瀬先輩のその綺麗な青い瞳は、涙でもっと深い青色に滲んでいた。
「私だって……本気で嫌いなわけじゃないのよ……本当は、すごく心配なのよ……!」
半ば声が上ずりながら、絢瀬先輩は必死に言葉を繋げる。
……俺は、痛む頬を抑えながら、その言葉に目を、耳を向ける。
「ここまで成功して、でも、でも……失敗して、立ち直れなくなったら……音ノ木坂は本当にお終いになっちゃうの……だから! 私は生徒会長として、貴女達にはそんな事に……昔の"私"みたいにはなってほしくなくて……っ!」
耐えきれずに、大粒の涙が一粒、また一粒と零れ落ちていく。
そんな様子の絢瀬先輩に、俺はかける言葉を知らない。もし、知っていたとしても、俺にはその資格がない……だって、俺は絢瀬先輩の事をなにも分かっちゃいないんだから。
「ーーえりち」
ドアの方から、ここには居ないはずの人の声が聞こえる。その声に全員が振り返ると、そこには……希先輩が立っていた。
「のぞみ……? ……いつから?」
「うーん、最初から全部聞いてたよ?」
ふんわりと包み込むような笑みで微笑む希先輩。
そんな希先輩は絢瀬先輩をあやすように、ゆっくりと言葉を紡いでいたった。
「えりちは、本当はこの学院も、学院の生徒達も……大好きなんやろ?」
「……うん、好き。だからこそ、廃校なんかにはなってほしくない。生徒達が築き上げてきた、音ノ木坂を、廃校なんかにしたくない……」
涙目になりながら、言葉は搾り出そうとする絢瀬先輩。その光景に、俺はもちろん、μ'sメンバー一同も割って入る事が出来ない。
……ただ見ているだけしか出来ないのだ。
「だから、だからぁっ……!」
「よしよし、えりちは良く頑張ってる。ちょっち空回りしてるだけやんね……」
希先輩は優しく絢瀬先輩を抱きしめ、その綺麗な金髪を撫でる。撫でる手のひらの動きにあわせて、ポニーテールが揺れる。まるでその揺れは、絢瀬先輩の心の情景とリンクしているように動く。最初は大きく揺れていたが、段々落ち着いてきたのか揺れ幅が小さくなっていく。
「……ひっく……」
「落ち着いた?」
「ええ……お陰様で」
まだ声が少し上ずったままではあるが、絢瀬先輩はある程度の平静は取り戻したらしい。
指で涙を拭った絢瀬先輩は、困った笑みを見せながら此方を振り返った。
「……ごめんなさいね、恥ずかしいところを見せちゃって」
「い、いえ! 元はと言えば勝手にキレた俺が悪いんですから! 絢瀬先輩に非はないですよ!」
そう、元は先輩の言葉に突然キレた俺が悪いんだし……それに後から聞いたμ'sを嫌う理由もちゃんとしたのがあった。
……本当に、本当に馬鹿だったのは俺の方だ。絢瀬先輩の気持ちにも知らず、ただただ思いをぶつけただけでしかない。
「……私はね、幼い時にバレエの大会に出たの。しかも、本場と言われるロシアの大会」
その大会に出れたのは、あの頃の私にとってどれだけ嬉しかったことか、と絢瀬先輩は徐に空を見上げる。今まで気づかなかったが、空はもうすでに赤らみ始めている。空の赤が反射した先輩の金髪は、この瞬間だけは何故か哀愁じみていた。
「それでね? その時の私ったら天狗になってて……絶対優勝するんだって意気込んでいたのよ。……でもね」
ーーでもね。
その言葉を発した途端、絢瀬先輩はまた暗いトーンで話しはじめる。
「……結果は最下位。自分に慢心しちゃってたのよね……」
「……」
明確な、挫折。
絢瀬先輩は幼いながらも……いや。幼いからこそ、挫折という"絶望"をより大きく、間にうけてしまったんだろう。
俺だって、数年前の俺らだって挫折になりかけた事は幾度となくあった。それこそ、さっき浮かび上がった数々の罵倒と皮肉の言葉みたいに、ダンス業界の"裏"にぶち当たってどうにも出来ない時もあった。
……でも、俺は"一人"じゃなかった。
いつも隣に朱美がいた。大人びたその精神力で俺を励ましてくれた。
そして、V.Sの裏にはハルさんが居てくれた。圧倒的なポジティブさには苦笑してしまうが、何度も俺の気持ちを明るくしてくれた。
その他にも、朱美の母さんや父さん、手伝ってくれた人達もいる。
俺の周りには、俺を支えてくれた人達がたくさんいたんだ。だから、頑張れた。
「……後悔、してるんですね」
「後悔、ね……してないと思ってたけど、やっぱりしてるの……バレエをやめちゃったことにね」
「ーーだったら、μ'sに入らへん?」
「えっ……!?」
唐突に希先輩がそんなすっ飛んだ提案を申し出た。え、絢瀬先輩がμ'sに!? いや、でも絢瀬先輩は……。
「後悔してるんやろ? ステージに、踊る事に」
「で、でも……」
「それにウチ、知ってるんよ? えりちがこの子達の事を"羨ましい"って言ってるのを」
あまりにも突拍子のない事にメンバー全員も、朱美でさえも驚きを隠せないでいる。もちろん俺もびっくりしている。
「でも、でも……ここまでやっといて今更……」
「大丈夫、穂乃果ちゃん達を見てみ?」
そう言われ、穂乃果は一瞬焦ったように見えたが、海未にことり、花陽に凛に真姫、そしてにこさんを見る。次々に顔を見合わせ、頷く。
ーー穂乃果が絢瀬先輩に向かって、手を差し伸べる。
「あの、私……嬉しいです! 生徒会長……いえ、絢瀬先輩がμ'sの事を、私達の事を思って下さっていて……。その、良ければですが……」
穂乃果はもう一度、全員の顔を見る。それにみんなはまた頷きで返す。
……もう、答えは決まっているみたいだな。
「よろしくお願いします!
みんな『よろしくお願いします!』
……もう、こうなる事は運命だったのかもしれない。
「……本当に、いいの? だって私、散々貴女達を嫌って……」
そう戸惑う絢瀬先輩の後ろに、希先輩がぴょんと飛びつく。
「ほら、えりち。もっと素直になったらええやん。えりちホンマに可愛いし♪」
「ちょっ! の、希っ! ここにきてからかわないでよ!」
「こういう時だからこそ、からかうんや♪」
「意味が分からないわよっ!」
……なんだろう、この夫婦漫才的なノリは。
せっかくここまで作った雰囲気が台無しだよ……。
「もう……えっと、さっきの答えよね?」
「は、はいっ!」
希先輩と戯れていたのが良かったのか、絢瀬先輩は力強い笑みで穂乃果を見つめる。
「此方こそ! よろしくお願いするわ、
ーー夕焼けに揺れる金髪は、先程の哀愁はまったく感じさせず、反射した光は希望の一筋を導いているように思えた。
「じゃ、ウチもμ'sに入れてもらおっかな?」
「えっ!? 希先輩もですか!?」
そんな穂乃果の驚いた顔に、なにやら意味ありげな笑顔をみせる希先輩。
……まさかだけど、最初からこうなるように仕込んでいた、のか……?
「だって、"μ's"ってグループ名、考えたのウチなんよ♪」
みんな『えぇ!?』
そしてそのあと、俺に向かって片目をウインクさせる希先輩。
あー……うん。案の定、希先輩の筋書きでしたか……。
ーーまぁ、色々ありましたが。
これでμ'sは九人。
音楽の女神"ミューズ"も九人の女神達。
……これで、いけるかもしれない。
廃校阻止に向かって!
そしてなによりも……。
ーー"ラブライブ!"に!!
〜後日談(葵&絵里&希)〜
「葵、ごめんね……思いっきりビンタしちゃって……」
「別に大丈夫ですってば! 気にしていませんし、俺が悪かったんですから!」
「そうやで、えりち。葵君は叩かれて当たり前の事をしたんや」
「そうですよ! 俺は叩かれて当たり前の事を……って、なんで知ってるんですかっ!?」
「あの時言ったやん? "全部聞いてた"って♪」
「すぱぁんって、軽快な音やったな?」
「もう希、やめてよ……」
「ふふっ♪ ごめんごめん」
「絢瀬先輩、本当にすみませんでした……」
「いいえ、悪いのは私の方なのに……」
「…………それ〜っ!」
むにゅんっ。
「ひゃあ!? の、希ッ!? なにするのよぉっ!?」
「いや、なんかシリアスな雰囲気だったんでつい♪」
「つい、じゃないわよ! んぁっ……あ、葵君……あんまり見ないで……っ!」
「す、すみませんっ!!」
「ふふふ〜♪ ここがええんか〜、ここがええんか〜♪♪」
「あんっ、うぁっ、も、もうやめてぇ……」
「(破壊力ぱねぇよ……)」
あー、ライブ行きたかったぁ〜……。