collage または劣化したユリシーズ   作:sumisode

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●廊下

副校長先生が歩いている。そこへAさんがすれ違う

A:「おはようございます」

副校長:「ああ、おはよう、読んだかい?私の作品」

A:「読みました」

ナレーション:「副校長先生と知り合ったのは1年生の頃である。Aさんが図書室で本を読んでいた時、副校長先生に声をかけられたのが始まりである」

●回想、1年前

副校長先生:「君、太宰治が好きなのかい?」

A:「まあ…」

副校長先生:「いや私もね、高校生の頃に読んだよ、人間失格、あれは快作だね。太宰文学の集大成とも言える作品だよ」

A:「そうですね」

副校長先生:「実は私もね、小説書いてるんだよ。すごいだろ?この前出版社に勤めてる知り合いに自分の作品読ませたりもしたんだ」

A:「はあ」

副校長先生:「でも駄目だったね、流石に出版は。だが諦めはしないよ。私には夢があってね、それは現役で副校長を務めつつ小説も出版してベストセラーを生むことなんだ。売れっ子作家の副校長、どうだい、ミスマッチ感があっていいだろう?」

A:「そうですね」

副校長先生:「そうだ、今度君にも読ませてあげよう、私の作品を。実は何冊か印刷してあるんだ」

A:「印刷までしたんですか」

副校長先生:「ああ。今度手渡しだけれど一冊ほど渡そう、読み終わったら感想を頼むよ」

A:「…分かりました」

ナレーション:「それから副校長との関わりは続き、彼の作品も3作ほど読まされたのである」

●現代

副校長先生:「それでどうだったかい、私の今回の作品は」

A:「まあ面白かったです」

副校長先生:「今回は映画の台本として作ったものを無理やり小説に変えたものだからね、普通の小説に比べ少し読みづらかったかと思うんだが、どうだい、内容がわかったかい」

A:「おおむね分かりました」

副校長先生:「そうか、それは良かった」

ナレーション:「実を言うと副校長の作品はいつもそこまで面白くはないのである。2つ目に読んだものは少し完成度が高かったが、それ以外は大したものではなかった。今回のものは台本のような無個性な文体でありながら劇や映画などではあまり推奨されない心の声という技法が多用されている、シナリオと小説の悪いところどりとでも言えるような作品だった。しかし本人にそれは言わなかった。」

副校長先生:「ところで君、君もたまには作品など書いてみたらいいんじゃないかな」

A:「そうですか?」

副校長先生:「ああ、君なら面白いものが書けるような気がするんだよ、君は自分が書くならどんな作品を書きたいのかい」

A:「そうですね、明治時代における雅文調擬古調の影響を受けていてその上で現代風にブラッシュアップされているような、または噺家や講談師のような、個性の強い文体で書きたいです」

副校長先生:「自分の書きたいことが書く前から定まっているのはいいことだ。雅文調なんてよく知ってるねその年で。いわゆる『たけくらべ』とかああいうものかい」

A:「基本的にああいう感じです」

副校長先生:「いいじゃないか。ああいう文体は好きなんだよ私は、作者の素養を存分に発揮できるからね。じゃあ君もすぐとは言わないが今度作品を書いて、私に読ませてみてくれ」

A:「分かりました」

ナレーション:「Aさんは小学生の頃に国語か何かの授業で書いた作品が高い評価を受けたということもあって、自分の物語を紡ぐ能力に強い信頼を抱いていた。副校長と別れて教室へ入ってからも、Aさんは自分が今度書く小説のことばかりを考えていた。自分なら副校長よりも面白いものが書ける、そういう自信があったのである。下手したら私の小説が様々な人に読まれて天才の中学生として持て囃されたりするのではないかとまで思い上がりいやそれは流石に現実を見なさすぎだと反省したりもして、見かけは相変わらず平静でおとなしいように見えても内ではずっと興奮していた。巷に溢れかえっていた所謂WEB小説などははじめから歯牙にもかけなかった。授業は身に入らず、ずっと小説の文体や構想ばかり練って休み時間に新ハムレットを読んでいる時も目だけ文字をなぞり頭には入らなかった。

帰りの学活が終わってBさんから一緒に帰ろうと誘われたりもしたがそれすら断り帰途では小説のことばかり考えていた。家に帰り、Aさんは早速机の前に向かって作品を書き始めた。」

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