世界で一番抱きしめたら幸せになれる女の子 作:すかすかのタキ
「んはああ〜気持ちいい〜〜。もふもふねふねふ、もふもふねふねふ。
あったか〜い柔らかい〜いい臭い〜。ねふねふねふねふ、もふもふねふねふ……」
何事もなかったように、静かに丁寧に。出来る限り音をたてないように、パタンと扉を閉めた。
…俺は今、何を見た?
何かクトリが、ネフレンのやつを抱きしめて頬ずりしながら、それはそれは幸せそうな顔で妙に蕩けた声を漏らしていたような気がするんだが…。
バチンと自分の頬を叩く。
痛い。
これは夢じゃない、現実だ。
…………………………とにかく現状を整理しよう。
俺の名前はヴィレム・クメシュ。
地神イーボンキャンドルとの死闘の果てに、七つの禁呪の反動が折り重なった結果全身が石化し、500年の時を経て、この浮遊大陸で呪詛を解除された。
それから紆余曲折を経て、この辺境の地、68番島妖精倉庫で。
浮遊大陸郡を脅かす獣と戦い続ける妖精の少女達に手を貸すべく、彼女達の管理官などをやっている。
うん、大丈夫。俺は正常だ、記憶はしっかりしている。
そして今の俺は、ちび達におままごとを一緒にしようと誘われて、その約束を果たすべく遊戯室の扉を開けたら、あの見てはいけない感満載の光景に出くわしたのだ。
…………………………まあ、ちょっと疲れてるんだな。
子供達と遊んだり家事全般をこなしたり。文字の勉強をし直したり資料の整理をしたり、戦いから帰ってきた連中の剣の整備や魔力中毒対策のマッサージをして暴れられて殴られたり日々色々あってるから。
そもそもクトリは後輩達の前ではいつも理想の先輩であろうとビシッと胸を張って過ごしている、筋金入りの見栄っ張り体質だ。
よりにもよってその後輩達が遊び回っている遊戯室で、あんな醜態を晒す筈がない。
うん、やはり俺は疲れてるんだな。
疲れてるからあんな妙な幻を見たんだ。
しばらくは勉強や資料の整理は控えて、休息を多めに取るとしよう。そう納得し、改めて遊戯室の扉を開くと、
「ああ〜もう無理、快楽が強すぎる…。ねふねふねふねふ、もふもふねふねふ、もふねふもふねふ……」
改めて足を踏み込んだ遊戯室では、腰を抜かして床に倒れ込み、しかし腕に抱いたネフレンだけは決して離さず、恍惚の表情でビクンビクンと痙攣しているクトリがいた。
やっぱり幻じゃなくて現実だった。しかもさっきより悪化してやがる。
もう一回扉を閉めて何も見なかった事にしようかなと思ったが、一応管理者としての責任があるので、ぐっとこらえて室内を見渡す。
そこではナイグラートが。ノフトが。ティアットが。ラキシュが。パニバルが。コロンが。
その他ちび共がことごとくビクンビクンと痙攣し、よだれをたれ流しながら恍惚とした表情で倒れ伏す、犠牲者(?)達は今この時の幸福が満ち足りすぎて他の事などどうでもいいかもしれないが、残された者(俺だけ)は途方に暮れるしかない地獄的光景が広がっていた。
「およ〜技官も来たんすか〜?この星神様がもたらす、永久の快楽が約束された楽園への入り口に〜」
目は軽くイっちゃってるし、足取りは泥酔した酔っぱらいそのものでふらふらふらふらと危なっかしい事この上ないが、まだギリギリで会話が成立しそうなアイセアがやって、もとい俺の肩に絡んできた。
「…説明しろアイセア。何がどうしてこんな事になってやがる?」
まともな返答、有益な情報はあまり期待できないが、とにかく聞くだけ聞いてみる事にした。