世界で一番抱きしめたら幸せになれる女の子   作:すかすかのタキ

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第2話

「…説明しろアイセア。何がどうしてこんな事になってやがる?」

まともな返答、有益な情報はあまり期待できないが、とにかく聞くだけ聞いてみる。

 

「ういうい〜。今日はっすね〜、年一あるかないかのネフレンの機嫌がさいっこ〜にいい日なんすよ〜〜」

年一でこんな事やってんのかよ。あのトロールが管理者やってる時点でお察しだが相変わらずクレイジーな保育施設だなここは。

続きを促す。

 

「技官ならよおっくご存知と思うんすけどね〜?レンて抱きしめたらポカポカあったかいし、フィット感はすごいし、髪の毛はふわふわだし、何だかとってもいい香りはするしでたまんなく幸せになれるじゃないっすか〜」

 

存じてねえよ。毎回毎回あいつの方からベタベタベタベタひっついて来るんだよ俺から抱きついて甘えてるみたいな言い方すんな。てゆうかいくら心地いいっていっても俺以外のやつがレンに抱きついたり抱きしめられたりしたらこんなんなっちまうのかよ聞いてねえぞ。

 

「反面レンて、マイペースで無駄なスキンシップが嫌いっすからね〜。無理矢理にでも抱きしめようもんなら、噛みついたり足を踏みつけたり、お尻をつねったりいい角度でボディを入れたり顎に頭突きを突き上げたりしてくるから、なかなかやりたくても出来ないんすよ〜」

 

待て。確かに俺も時々尻をつねられるくらいの事はあるが、そこまで凶暴な女だったのかあいつ?

 

「ん、その通り」

クトリの拘束を解いて、レンが俺達の傍までとことこ歩いてきた。

あっさり事実と認めるなよ、日々纏わりつかれてる俺には恐怖以外の何者でもねえよ。

 

「今日はとてもいい事がたくさんあった。まずとても感動できる素晴らしい本に出会えた」

「おう」

いつも通りの鉄面皮であんまり感動しているようには見えないんだが、あえて水を差す事でもない。相槌を打っておく。

「わたしがお世話していた花壇の花が綺麗に咲いた」

「おう」

「ラーンにギャンブル20連勝して、ここ最近はおやつとかデザートの量がずっと二倍だった。最高」

親指をビッと立てて報告した後、さあ、だからヴィレムも今なら好きなだけわたしを抱きしめていいよと言わんばかりに両腕をいっぱいに広げてくる。

だから俺から抱きついた覚えはねえって言ってんろ!!

 

「にゃははははは、いや〜あたしも妖精倉庫の情報屋としてっすね。レンのハグで骨抜きになった連中から、理性が働いてる状態なら絶対口にしない情報をこの機に上手く引き出してやろうと画策してたんすけど?結局欲望には抗えず、この通りへにゃへにゃふにゃふにゃの体たらくなんすよ〜にゃっははははははははははははははははははは」

 

代わりにアイセアが更にうざくベタベタ絡みついてきた。

性格悪いなこいつも!

大体俺はな!今の妖精倉庫のちび共も、かつてのゴマグ市の養育院のちび共も等しく俺の家族として愛してるんだよ!

だから誰を抱きしめても等しく気持ちがいいし等しく幸せになれるんだから、レンだけに特別な感情を抱く事なんてありえねえっつーの!

 

…という具合の事をかつてアルマリアやリーリァ、当時の仲間らの前で言ってみたら、どいつもこいつもそれから一ヶ月ばかり犯罪者を見る目で俺を見て、明らかに距離を取ってきやがった事がある。

俺は二度同じ間違いを犯す男ではないから、あえて口にせず黙っておく。

 

しかし、何故連中は俺に対しそんな冷たい態度を取ったのだろう。

誰も何も言わなかったから分からないが、俺はそんなに問題のある発言をしてしまっていたのだろうか。スウォンとも決裂し、問い質す相手ももういない今となっては永遠の謎である。

 

ああ、そういえばラーントルク。あいつの姿だけはこれまでちっとも見てねえな。さっきレンとのギャンブルで連日連敗したとか言ってたし、またどっかその辺で落ちこんでるのか?

ちび達や年長組、ダメな管理者の片割れがあっちこっちで幸せそうにビクビク痙攣している混沌とした室内を、改めてじっくり見渡してみると、

 

「ああ!?いやがった!」

部屋の隅っこで、遊戯室の中に散らばってる大小様々なやつを一ヶ所にかき集めたらしい大量のぬいぐるみの中に引きこもって、膝を抱えたまま真っ白になってやがる!一応それなりの存在感を放っている筈が、他の連中の惨状がそれ以上に酷すぎて、ここまで全く気付かなかった!

 

おいラーントルク、大丈夫かよ!?

とにかく傍まで走り寄り、大量のぬいぐるみの中から引きずり出して頬を軽くペシペシ叩いてやる。しかし、

 

「私は弱い」「私は無能」「後輩に醜態を晒してばかりの無様な女」「『自称』妖精倉庫で最も頭が切れる女(笑)」「勝利の女神に見放された女」などなど、己に向けた罵詈雑言を、生気の欠片もない空虚な表情でぶつぶつぶつぶつ繰り返しているだけで全く反応がない。

 

お前ら全員この状態のラーンを放置してレンとのハグを優先してたのかよさすがにひでえぞ!?

抱き起こしてガクガク揺さぶって見るが、「うふふふふふ20連敗」と壊れた笑いを漏らすのみである。

こいつはマジでやべえぞ、即医務室まで連れて行ってナイグラートを最優先で叩き起こして診てもらわなければ。それから万が一の事まで想定して、通信晶石でマゴメダリ先生へ連絡を取る手筈も整えておくべきかとあれこれ考えを巡らせていたら、

 

「ねえヴィレム、聞いて。ここからが一番嬉しかった話なんだけど」

ネフレンが背中側からくいくいと服の裾を引っ張って話しかけてきた。

あーもー何だよ俺は見ての通り今めちゃめちゃ忙しいんだよ、話したい事があるんなら勝手に話せ。

「ん、そうする。実はわたしね、今朝身長を測ってみたら、なんと前回より2ミリも伸びていたの」

「計測誤差の範囲だろそれは!?」

 

 

─────その、迂闊すぎる一言に。

ビシリと、その場の空気が凍る音がした。

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