昼…普段はストイックで律儀な学園であるトレセン学園も昼時は楽しさ溢れる時間になる。
午前は書類仕事に勤しんでいたトレーナーたちもこの時間は無料で使える食堂に群がる。生徒・職員が一斉に昼休憩となるこの時間、食堂には人が溢れかえるその規模はちょっとした渋滞を引き起こすほどだ。そして勿論、その中には真船の姿もあった。
「真船~、こっちこっち~」
夏限定メニューの冷やしトマトそうめんを抱えながら辺りを見回す真船。その耳に遠くから声がかかった。声の主は彼の大学時代の友人にして同僚、田崎翼であった。
声に導かれ、彼が確保しておいてくれた席に無事着席する。
「ありがとう翼。失礼しますよ~っと」
待ち合わせた2人が来るまで、彼らは世間話に集中しだす。食堂のあちこちに置かれたテレビ。そこに映し出されたニュースを翼は指差した。
「な、あれ見ろよ」
画面上には真船にとって見覚えある男がインタビューに答えていた。
「ん?あ~狩谷さん?」
狩谷。以前真船と共に戦った仮面ライダーデモンズの変身者だ。そんな彼が今、仮面ライダーの存在についてテレビで大きく宣伝している。
ヒーローとしてのイメージ戦略。不気味な姿、異形、常識離れした能力の数々、畏怖を持たれかねない彼らのイメージを良くしようと狩谷は精一杯自身や仲間をいかに正義の存在か宣伝をする。
その強い思いに真船もいくらか、心打たれることがあった。
「正義のヒーローねぇ。やっぱ仮面ライダーは頼りになるよ」
「前も仮面ライダーに学園救われたって話だからなぁ。俺らからしたら頭が上がらねぇよ。んでだ…その仮面ライダーの一人、この学園内にいるって噂だぜ」
「ゴフッ!!」
翼の唐突な発言に真船がむせる。飲みかけた水が気道に流れ込み、大きく咳き込む真船。バレたか…?なんて疑問も彼の脳裏に過るが、親友に限ってそんな察しの良いことはない。そう切り替え深呼吸をする。
「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとビックリしただけ…。…ふぅ、それで…仮面ライダー?まぁ…意外とどこにでもいるんじゃない?じゃなきゃこうも平和にならないよ」
「まぁ…確かにそうか」
その時だった。2人の前にバンと音がする。
「トレーナー!その話に俺を混ぜないのはナシだろ!!」
「ウオッカ!」
見上げれば、目を輝かせたウオッカが彼らの会話に入りたがりそうに耳を小刻みに振っていた。
「マーちゃんも、いらっしゃい」
「お待たせしました。マーちゃん、さんじょーです!」
ウオッカの後ろからひょっこり現れ、お盆を持ったまま見栄を切りバシッと決めるアストンマーチャン。すかさず真船もスマホを取り出し、撮影タイムを逃さない。
「流石ですトレーナーさん、今日はしっかりマーちゃんのこと見逃しませんでしたね。えらいえらい」
ウオッカ、マーチャンは各々のトレーナーの向かいに座り会話に混ざる。
「仮面ライダー、カッケぇよなぁ~!人知れずバケモン倒してよぉ!」
「ウオッカすっかりハマっちまってなぁ。お陰で俺も詳しくなってってるって次第よ」
「翼がやけに詳しいのそういうことかぁ」
「はい!平和を守るヒーロー…くぅ~!」
「仮面ライダーさん…ええ、マーちゃんもとっても馴染み深いですとも。ふふっ…仮面ライダーさんたちにも愛されるマスコットにならねばいけませんね」
アストンマーチャンの言葉に真船の背筋がゾッと凍る。柔らかな微笑みも、冷凍庫に投げ入れた如く固まり首筋にはうっすら汗が垂れていた。
「えっ…ああ、確かにそうだね。ははっ、2人のとっても仮面ライダーはヒーローなんだね」
「そりゃ勿論っすよ!あっ…えっと、初めましてっすよね!俺のトレーナーのご友人さんで!」
「ん?初めましてだっけ…あっ!そっか、初めましてだもんね!」
再び冷や汗の量が増す。マーチャンと同じレースを数度は走ったウオッカ。しかも日常的にこうして仲が良いにも関わらず、面識がないはずがない。しかし…しかしまるで初対面かのように接してくるウオッカに真船の危機感が強まっていく。
翼も、マーチャンも彼女の様子を怪訝に見つめる。
「僕は金城真船。えっと…チーム『スパイチャン!』のトレーナーだよ…えと…そのまぁ…君のトレーナーとは昔からの友達でね…ねぇマーちゃんその…なんでジッと僕見てるの…?」
「なんだよ相棒…そんなジッと見て…」
もう、ここまで近しい人間の記憶にまで関与しているのか。あと何回、戦えるだろうか。あと何人守れるだろうか。
運命に翻弄され続け真船の心はすっかり、戦う存在に染まり切っていた。
「ん?あれは…スカーレットちゃん?」
真船が逃げるように目線を逸らすと奥に特徴的なツインテールが揺れている。アストンマーチャンとウオッカの同期であり桜花賞を争い合ったダイワスカーレットの姿だった。
スカーレットはお盆を持ったままきょろきょろと首を振っている。この混みあった昼時、空いている席は早々見つからない。幸い今真船らが座っているのは6人席。これは僥倖。飛びつくようにスカーレットの名を呼んだ。
「えっと…あ、マーちゃん!それに…ウオッカ…」
突然の呼びかけに戸惑いジッと視線を凝らしたスカーレットだったが、同期の存在に安心を覚えたのか尻尾が少し揺れている。そのまま彼らの方へ来れば、アストンマーチャンの隣にどっかり座った。
「スカーレットちゃんいらっしゃい」
「あ!翼トレーナー…!それに…」
ウオッカが『そう』ならスカーレットも『そう』であろう。少し気まずそうな顔を浮かべるスカーレットに真船がすぐさま自己紹介を挟む。
「金城真船。マーちゃんのトレーナーだよ。よろしくね」
「初めまして!ダイワスカーレットです!」
「あはは、そんなに畏まらなくていいよ」
真船は口の奥で悔しさをかみ砕く。初めましてなわけ…ないだろう。どうしようもない理不尽に心を痛めながらもそれは決しておくびにも出さない。それが戦士の宿命。そう、真船は心を押し込め続ける。
そんな事情をスカーレットも知るはずもなく。知らない人間相手に少々の猫を被って会食に臨むのであった。
「それじゃ食べよっか。冷めないうちにね」
「「いただきます」」
「「「いただきま~す!」」」
画してそれぞれ、昼食に箸をつけだす。真船もそうめんをズズっと啜れば、酸味の効いたドレッシングの味と香りが口腔を通り抜け味が体の芯へ通っていく。
「ん、やっぱ美味しいや」
「トレーナーさんが唸る一品…じゅるり」
「はいはい、どーぞ」
「ありがとうございます」
強かに自身のトレーナーの皿を見つめるマーチャン。そんな彼女の視線を受けて真船も割りばしを使い小皿によそってあげた。差し出された小皿を受け取りしたり顔で微笑むマーチャン、そんな彼女へ真船も軽い笑みを返すのだった。
そんな一方、ウオッカとダイワスカーレットはいつの間にか意地を張って早食い競争へと発展。味わうのなんて二の次のデッドヒートは既に折り返し地点を過ぎていた。
「ウオッカ。危ないからもう少しゆっくり食べなさい」
「んなこと言ってもよトレーナー!こいつだって…」
「スカーレットちゃんも。早食いは満腹中枢の刺激が疎かになって過食の元なんだから」
「っ…はい」
翼の仲裁でそんな一幕もすぐに降り、談笑混じりの和やかな昼時がゆったりと過ぎていく。和気藹々、その空気の下に確かな淀みの種を残して。
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午後。会食で昼を終えいつもより機嫌よく仕事をすれば効率も良いと言うもの。いつ仮面ライダーとしてこの席を空けるか分からない実状、仕事は貯めることなく早く終わらせておきたい。軽快な手でキーボードを叩いていく。
14時半をそろそろ回るという頃、一区切りつけトレーニングの準備をしようかと思っていた時部屋のドアが叩かれた。少し力の籠ったノック音、たづなさんや生徒らではない。ともなれば…、そんな推測を頭に思い浮かべながらドアを開ける。
「ま~ふね!夏合宿の申請書、提出に行こうぜ!」
現れたのは彼の推測通り、翼だった。苦笑を浮かべながら応対する。
「一人で行けばいいでしょ~?」
「いいじゃーん。まだ出してないんだろ?」
真船は自身のデスクにチラと目をやる。そこに積まれた数十枚の書類の一番上、向きを斜めにし置かれたその紙は翼が持っているものと同じもの。
夏合宿まで一カ月を切った今、学園は合宿の準備で追われていた。何人が合宿に向かうのか、どんな器具を運び出しておく必要があるのか等々、トレーナー陣に求められる書類の量が爆増する。
「そうだけどねぇ。今日の退勤の時にでも出そうかと思っていたよ」
「じゃ、今からでも問題ないだろ?」
微笑みを浮かべ、真船は足を自室に向ける。
「はい!確かに田崎トレーナーの申請受理しました!…えっと、そちらの方は?」
その後すぐさま理事長室へと移動、職員室でなく理事長室で業務を行う駿川たづなへと書類を提出しに向かったのだが…。どうやら彼女も、らしい。また一つ真船の心に鋭い刃が突き刺さる。
「嫌だなたづなさん~。今日ばかしはちょっと冗談になってないですよ~」
「いえ…冗談では…」
「ほら、金城トレーナー…」
「そ、そのような方は知りませんが…」
たづなは本当に、心の底から、三女神に誓ってこの男のことを知らない。それにも関わらずこの後輩は何故、ここまで食い下がってくるのだろうか。理解できず不思議に思いながらも対応せざるを得ない。
言葉を紡ぐほど翼の顔に汗が滲み、語気の力が衰えてゆく。目の動きが消えただ脳だけを働かせるかのように言葉も少なくなっていく。学園の事なら何でも知ってる、そんな…そんな頼れる理事長秘書が何も知らず覚えておらず。翼の背筋に悪寒が走る。
両者明らかに空気が固まっている。このまま居座るのは良くないだろう。追求だけは何としても避けたい真船が慌てて口を開いた。
「金城真船です。僕って影薄いのかな~あはは。チーム『スパイチャン!』の申請書類です。確認したら僕のデスクにでも。分からなかったら翼経由で大丈夫ですから。それじゃ、僕はこの後トレーニングの準備があるので…」
言葉を捲し立て、会話を一方的に閉ざし、真船は理事長室を後にした。
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夏を間近に控えたこの頃はなんて油断ならない暑さをするのか。じりじり照り付ける強い日差しと視界がくらむくらいの湿気が、トレーニングを行う生徒らを襲う。
「マーちゃん、次はタイム計測行こう。スプリンターズステークス本番意識で」
時刻は16時を回る頃、アストンマーチャンが真船の指導の下ターフを駆けていた。桜花賞敗北後、アストンマーチャンは短距離路線へと方針転換。『いつも通りの流れ』で夏合宿を迎えようとしていた。
短いレースになるSSにうかうかとしてる暇はない。最初からクライマックスの覚悟で全力を出させるトレーニングを積んでいく。もっと脚を回し、力強く地面を蹴れるよう6月の日々を送っている。
対するスパイラルウインド、彼女は夏の数少ない障害重賞レースに向け確かな実力を積んでいっている。3000メートル以上を当たり前に要求される障害レースではスタミナの強化は不可欠。走り込みを積んでいっていた。
「よし…いいタイムだよ~!」
ターフを走りきったマーチャンへ労いの言葉とドリンクを渡す。真船から受け取った彼女は美味しそうにドリンクを飲むと改善点の指摘を仰いだ。いくらか指導を行った後、マーチャンは再びターフへと駆けていった。
その様子を見守ってから真船はウッドチップを走るスパイラルウインドの方へ眼をやった。
変わらず真剣にトレーニングを行っている。足取りに不調も見られず、疲れもあまり見えない。この様子なら次のレースも大丈夫だろう。そう思った瞬間だった。
「あっ…くっ…いっ…!」
スパイラルウインドがこめかみの辺りを押さえながらその場に倒れ込む。突如として現れた異常に真船も血の気が引きながら彼女の下へ向かう。
「スー!大丈夫…?」
「ちが…これっ…呼んでる…!」
手で彼を制しながらスパイラルウインドは必死に顔を空へ向ける。何かと釣られ、真船も天を仰ぐと重低音の汽笛が空に響いた。ゼロライナーが…呼んでいる…!
スパイラルウインドもいつの間にかデッキケースをその手に握っている。戦いに呼ばれている、そう感じた真船は彼女を抱え、ゼロライナーの方へ走り出した。
ウマ娘パートと仮面ライダーパートが行ったり来たりするだけなのはそろそろ終わります。こ…ここら辺からドラマが動くんで…
サブタイトルは基本的にその回のライダーのサブタイ法則に則ってつけてるんですがこのシリーズは特段ムズイっすね…そのライダー出るのもうちょっと後だから予想を楽しんでください
読者のライダー知識を信頼しすぎではないか?(自戒)
追記(2026/02/08) 誤字修正
次回予告
次なる戦場、戦うのは…
「「「変身」」」
仮面ライダー!?
「『ハンドレッド』が一人、ヒトモシ。貴様らの力を奪いに来た」
護れ、仮面ライダーの力!
次回、『クロスオン!侵略してくる魔導士たち』