永久に君を刻んで~スピンオフ~ 零れ落ちる砂   作:アテル

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フェルマータ・一閃の熱狂

「変身」

『Altair form』

 

 新月が見守る夜中、真船は仮面ライダーゼロノスに変身した。彼と対峙するはラットファンガイア。数多の人を食い散らかしその毒牙を真船にも伸ばそうとしていた。

 

「はあああ!」

「ガアアアアア!」

 

 同時に駆け出す。咆哮を上げながら距離を縮めていき、残り4mにまで近づいた瞬間ラットの方がゼロノスへ飛び掛かった。ゼロノスはそれを受け止め、転がりながら蹴とばし仕切り直す。

 二者に緊迫した空気が流れる。ジリジリと横に動きながら、ゼロノスは腰にある小さな得物、ゼロガッシャーへと手を伸ばす。ゼロガッシャーとはゼロノス専用の武器であり、左右のサーベルパーツとガンパーツを組み合わせサーベル、ボウガンの2つの形態を用いて戦う。彼はそのサーベルパーツを閉じたままガンパーツと連結、サーベルモードにした。

 敵が得物を作ったことを危険と見たラットは自分の体の一部を破壊し、それをピストルと変えゼロノスに発射する。3発の鉛玉は空気を突き抜けながら真っすぐ伸びる。ダメージは必至。そうラットファンガイアは踏んだ。

 だがそれはゼロノスには届かない。組み立てたゼロガッシャーを振るい、おもちゃレベルのサイズから立派な武器としてのサイズにまで肥大化させながら銃弾を弾く。さらに弾が弾かれた事にラットが動揺している隙に距離を詰め切りかかる。

 

「はあ!」

 

 まずは掬い上げるような一閃。腹部から肩への流れる一撃でラットを大きく吹き飛ばす。

 

「くっ、マズイ!」

 

 ラットは慌てて銃を拾い、乱射する。だがゼロノスはそれを刃で受け止めると、ゼロガッシャーのサーベルパーツを展開。ボウガンモードへと切り替え狙い撃つ。

 

「ギャッ!」

 

 短い悲鳴を上げ、ラットが仰け反る。腹部、肩、耳。3か所から煙が立ち上がる。

 

「く~~~~~、この野郎!おい、お前ら!」

 

 このままじゃ負けると判断したラットは大声を出し、暗闇に呼びかける。それを聞きゼロノスはボウガンを構え、警戒を強める。だが待てど暮らせど一向に何かくる気配がない。疑問に思い、一瞬警戒を緩めた。その瞬間彼の体を横方向から強烈な衝撃が襲う。火花を散らし、転げてしまう。即座に衝撃が来た方向に銃口を向けるがそこには何もいない。そのまま警戒していると今度は後ろから攻撃された。

 

「ぐはっ!」

 

 背中が痛む。ヒリヒリと熱を帯びた痛みから、ひっかき傷の類だと推測する。すぐさまゼロガッシャーをサーベルモードへと切り替え、カウンターを狙う態勢へと切り替えた。

 

「はっはっはっ!苦しめ、仮面ライダー!」

 

 典型的悪役が口にしそうなセリフを叫びながら、ラットは高みの見物をする。無視を決め込むゼロノスだが、確実にフラストレーションは溜まる。そうして集中力が若干落ちたその瞬間を狙い更なる一撃が彼を襲う。肩を狙ったその一撃は火花が物理的に散る程重い。だが何とか受け流しカウンターの刃を当てようとする。その瞬間だった。

 

「シャア!」

 

 攻撃に完全に切り替え、防御ががら空きだった腹部へ高速の爪が命中する。勿論大ダメージ。ゼロノスは体勢を崩し地面を舐めながら転がる。さらによろめきながら立ち上がった所へ更なる一撃。ゼロガッシャーを手放し吹っ飛ぶ。

 

「(くっ…敵は追加で2体…いや、3体か)」

 

 土を掃いながら立ち上がり、感覚を研ぎ澄ます。追加の敵の戦法は高速で近づき、攻撃をするもの。それを3体で行い隙を埋めていく、といった所だろうか。夜の闇と合わさって非常にタチの悪い戦法だ。ゼロノスは心の中で悪態をつく。せめて初戦の相手はもっと楽なのがよかった。いや、そもそもこんな奴ら存在するな。愚痴ってもどうしようもないのは理解しているが、それはそれこれはこれである。

 

「(今下手に剣を取りに行っても逆に攻撃を食らうだけだ。どうにかしてタイミングを作らなきゃ…)」

「ギシャア」

 

 だが考える間も与えず、更なる攻撃が襲い掛かる。正面からの突進攻撃が命中する。

 

「がっ!」

 

 声にならない呻き声が漏れ出る。胃が激しく揺れ、胃酸の逆流を起こしかける。だがそれを堪え、逆に襲い掛かったやつへ強烈な膝蹴りをかます。その際ようやく見えたのだが、さっき増えたのは向こうで高みの見物をしている奴、ラットファンガイアと同種のファンガイアの様だ。

 

「ギュルルルル」

 

 だがあの個体と比べてかなり本能的な様子だ。これならもしや…。策が思い浮かんだゼロノスはすぐに実行へ移す。まずは先程同様、ヤクザ紛いの膝蹴りを連続で叩き込む。こうしてこの引っ付いた個体を引き剥がさねばならない。何発か入れ続けるとようやくホールドが緩む。その隙を付き横へなぎ倒す。投げられたラットはすぐに立ち上がり、再び暗闇に消えていった。

 

「ったく、油断も隙もねぇ」

 

 そう文句を言いながらゼロノスは次に来るであろう攻撃に備え、臨戦態勢を構え直す。すぐに予想通り別の個体による辻斬りがやってくる。彼はそれを()()()受け、大きく飛び退く。さらに息つく暇も与えず追撃がやって来る。

 

「はっ!」

 

 その攻撃を読んでいたゼロノス。前に飛ぶ事で辻斬りを回避し、さらにさっきの飛び退きで近づいていてゼロガッシャーを回収した。

 回収後、更なる追撃がゼロノスに襲い掛かる。鋭い爪が彼の装甲を引き裂かんと忍び寄るが、彼はそれを刃で受け流し、すれ違い際にカウンターの一撃を入れる。

 

「ジュルルル」

 

 攻撃を受けたラットは切られた衝撃で体勢を崩し、スピードを維持したまま地面に激突。土煙を上げ地べたに這いつくばることになった。突然の反撃に驚いた他のラットたちも警戒を強め、攻撃の手がしばし落ち着く。夜の冷たい空気が流れていく。仄かに混じる爽やかな感覚が、朝の訪れを示していた。両者ともに朝になることはあまり望ましくない。早急に決着をつけることが求められていた。

 倒れていたラットが立ち上がる。少し頭を振り、感覚を通常に正す。未だぐらつく脳だったが、緊迫した空気を感じ取ると彼の小さな脳が全力でアドレナリンを分泌し、戦闘への集中が自動で行われる。彼の頭部に付く特徴的な耳が僅かに動いた。仲間たちと超音波を用いて会話をしているのだ。

 たった数十秒の会議は幕を下ろし、実行のフェーズへ移行する。まずは1体、さっきと変わらず雑に突撃をする。当然ゼロノスも受け流し、一閃の反撃をしようとする。その瞬間…

 

「かはっ!!」

 

 彼の手に銃弾が命中する。反撃の手が緩むどころか、膝を付き、大きな隙を晒してしまう。正面を睨む。銃を放ったのは向こうで顎で指示していたボスラット。他の3体を従えているだけあって、実力はそれなりにあるようだ。

 

「おっと、これで終わりと思うなよ?仮面ライダー」

 

 嘲笑交じりの醜い声と共にゼロノスに強い痛みがやって来る。背中から感じる鋭い痛み。

 

「(連続攻撃って事か…)」

 

 体勢を立て直す暇も与えず追撃が来る。何とか剣を地面に突き立て、耐え忍ぶがそれでもダメージは蓄積される。そうこうしている間に更なる1撃。今度は肩を切り裂いた様だった。

 

「(べた付く…。まさか出血!?)」

 

 硬い強化スーツを貫通する鋭さに驚愕する。もしこんなのが生身できたと思うと、怪人の恐ろしさを痛感せざるを得ないだろう。

 そんな事を考えている内にも3発ほど攻撃を浴びている。大きな戦法こそ変わらないが、攻撃の密度が格段に増している。このままではやられるのは必至だった。

 

「(考えろ…考えるんだ…何か抜け道が…)」

 

 全身の感覚を研ぎ澄まし、脳をフル回転させる。視覚嗅覚触覚聴覚。彼の持てるすべてを総動員し、勝利の糸口を探る。過敏になった感覚は痛みさえ増幅させ、さっきまでは少し気になる程度だった切り傷さえ今は涙を零したくなる程の激痛へと変化し彼をいたぶる。だがゼロノスは必死に耐える。痛い辛い泣きたい。そんな感情さえ押し殺し機械の様に痛みを淡々とデータへと変換し解析する。傷の方向、深さ、強さ、場所。すべてのデータを手繰り寄せ必要な情報を探し出す。 

 そして、見つけた。それは痛みの『リズム』。ほぼ一定のリズムでやって来る攻撃。だがあくまで、『ほぼ』。機械でない限り、そこにはほんの僅かなズレが生じる。だが僅かなズレも積み重なれば大きな違和感になっていく。たった0.001秒しかなかったズレが今や0.1秒という隙へと変わっていた。

 

「(ズレた瞬間。一瞬だがその僅かな隙をついて布陣を崩す)」

 

 突き立てていた剣を抜き、反撃に備える。

 

「(まだだ…見極めろ…『差す』タイミングを)」

 

 一撃一撃、感じて、聞いて、『視る』。最適なタイミングを手探りながらに掴もうと足掻く。血が噴き出る。痛いと心が叫ぶ。それでも、彼の本能が戦えと命じ脳を動かす。

 そして、その時はやってきた。

 

 

タン・・・タン・・・タン・・・・

 

 

「ここだ!」

 

 一瞬のズレ。ほんの僅かな綻びを感じ取った。まずは次に来る攻撃をサーベルの刃で受け流す。そしてその次の攻撃に合わせてゼロガッシャーに全力のエネルギーを込めて振るう。真船の持つフリーエネルギーを帯び、刃の部分が緑に発光したゼロガッシャーはラットの体を見事切り裂き、乾いた音と共に彼を色とりどりのステンドグラスの数々に変えた。

 

「ジュ!?」

 

 間近で仲間の死を目にし、恐れる新たなラット。だが彼は既に超スピードで攻撃を仕掛けようとしている最中だ。誰も止める存在はいない。ラットの目に映るのはキラリと光る断頭台(ゼロガッシャー)。そこ目掛けてぐんぐん風を切っていく。そして彼も先に死んだ仲間と同じく、ゼロガッシャーの錆になった。

 

「あと2匹!」

 

 荒々しく叫びながら走る。その先にいるのは最後の呼び出されたラットだった。

 

「ジュルルル!」

 

 しかし彼もそう簡単に死にたくはない。自分の体を砕き片手剣を生成する。

 

「はあああ!」

「ジュルルル」

 

 剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。金属と金属が擦れ合い、チリチリと音が鳴る。力関係は拮抗。…かのように見えた。

 

「だああああ!!!」

 

 ゼロノスは、雄たけびと共に剣を両手で持つ。両手剣VS片手剣。どちらの方が威力が出るかなど、わざわざ言うまでもないだろう。持てる全力を出し尽くし、エネルギーを最大までチャージしたゼロガッシャーは光の刃を形成。元の2倍以上のデカさを誇る刃に圧倒され、ラットは自身の剣ごと切り裂かれたのだった。

 

「はあ…はあ……。残るは…お前だけだ!」

 

 ここまで力を使い過ぎたのか、肩で呼吸するゼロノス。だが彼は諦めない。持てる力の最後の最後を出し切るまでは倒れない。故に今、ふらつきながらも彼は最後のラットファンガイアを見ているのだ。

 

「まさかあいつらを倒し切るとは…。初めての戦いにしては慣れ過ぎてねぇか?ま、関係ねぇか。そのフラフラな体じゃあ、俺には勝てないぜ?」

 

 最初の痴態を無かったかのように自信満々な口調でゼロノスを見下す。それに対しゼロノスは剣をラットに向けながら挑発をする。かかって来いよ、そう言わんばかりの態度にラットは腹を立て、剣を生成し襲い掛かる。ラウンド2の開幕だ。

 剣と剣がぶつかり合う。今度は互いに両手剣。そう簡単に決着はつかず、じりじりと鍔迫り合いが始まる。

 

「ぐっ」

 

 ゼロノスから苦悶の声が上がる。最初の戦いとは打って変わり今度は劣勢に立たされているようだった。少しずつ、少しづつ剣が外へと押し退けられていく。このままではまずい。彼の中に焦りが生まれる。焦りは隙となり集中力を削ぐ。隙を付かれラットのパンチを顔面にモロに食らってしまった。さらに追撃の蹴りも貰い、体勢が崩れる。

 

「ここだぁ!!」

 

 鍔迫り合いに敗れラットの剣がゼロノスを切り裂く。後退し、切られた箇所を押さえる。痛む傷口に気を取られていると胸を撃ち抜かれた。ラットの銃弾だ。膝をつき蹲る。彼の口から痛みをこらえようとする悲痛な声が零れた。

 

「死ねえええええ!!」

 

 最後の一撃。ラットはトドメを刺さんと飛び上がり、ゼロノスに切りかかる。重力の乗った一撃は、ゼロノスの硬い装甲諸共切り裂ける威力を持つ。絶体絶命。大ピンチのこの瞬間、ゼロノスは迷わず必殺技の準備をする。

 

『Full charge』

 

 バックルの左側にあるフルチャージスイッチを押し、自身のフリーエネルギーをカードにチャージ。満タンになると同時にベルトから機械音声が発せられた。瞬時にカードを抜き取りゼロガッシャーガンパーツにあるガッシャースロットに装填、チャージしたエネルギーをサーベル全体に行き渡らせる。緑の光を帯びたゼロガッシャーを振るい、ゼロノスはラットの剣を受け止めた。

 

「「うおおおおおおお!」」

 

 両者、力が拮抗する。一歩も引かぬ互角な戦い。その均衡を破ったのは、ゼロノス側だった。一瞬力を緩め、あえて向こうを引き寄せる。その後すぐにまた力を掛け、力関係に波を作った。彼の目論見は大成功。発生した波は見事ラットを飲み込み、容易く切り裂くことに成功した。

 全身で小爆発を起こしながら大きく後退するラット。そんな彼に最期の一撃が放たれようとする。

 

『Full charge』

 

 再びフリーエネルギーをチャージ。カードを装填。巨大なA字の光刃が形成される。

 

「いい加減くたばれ!!」

 

 回転しながらその光刃を飛ばす。光刃は回転しながら飛んでいき、ラットファンガイアの腹部に刺さった。そしてさらに回転し威力を増していく。最終的に、ラットの体を貫き爆発させた。

 

 

______

 

 

 

 戦いを終え、変身を解いた真船はその場に倒れ込む。

 

「はぁ…はぁ…疲れた…」

 

 服は赤黒く変色し、体のあちこちからも生々しい切り傷と共に血が垂れている。ぼろぼろになり、ふらつきながらもベルトからカードを引き抜く。すると、カードは空気中に霧散し彼の手元から消えてしまった。これが何を意味するか、彼は不思議と知っている。

 仮面ライダーゼロノスに変身する代償。それは自分に関する誰かの記憶。変身する度、誰から忘れられていく。そしていつかすべての人間から忘れられた瞬間、この世界からも消えてしまう。そんな文字通り命がけな代償だ。

 風が傷口に染みる。朝焼けと共にやってきた涼しい風が肌を撫で、痛い個所の感覚を過敏にさせてくる。季節は夏。今日もまた、暑くなりそうだ。突如感じた眠気に負けそうになりながら思ったことは、そんな暢気なものだった。

 

 

______

 

 

 

 目が覚めると真船は列車内にいた。それもただの列車ではない。彼をトレセンから連れ出し、戦いに巻き込んだあの列車、ゼロライナーだ。背中の感触からしてどうやら自分は車内のソファに寝かされているようだった。慌てて起き上がると先の戦いで傷ついたからだが悲鳴を上げる。あちこちを押さえながらうずくまった。

 

「目覚めたか」

 

 声がした方向を向くとあの外套の男がいた。

 

「アンタ…」

「戦え、金城真船。今日からお前が、仮面ライダーゼロノスだ」

 

 相変わらず一方的に語ってくるその男。だが様子が変だった。彼が少しずつ、消えていっている。まるでこの世界から消えてしまうかのように。

 

「待ってくれ!まだアンタに聞きたい事が山ほどあるんだ!」

「もう遅い。さっきお前が使ったのは俺の最後の1枚だ。俺は間もなく、消える」

「そんな…」

「後の事はこの列車に聞け。きっと答えてくれる。それじゃあ、頑張れよ」

「待って!」

 

 だが真船の言葉は届かず、外套の男は消えてしまった。唐突な消失に困惑し、ソファから転げ落ちる。鈍い音がしながら車体が揺れる。

 

「…薄情な列車だよ。長年の相棒が消えても余韻もなしに僕について聞くなんて」

 

 ゼロライナーから彼に語られる。誰の記憶までをカードにするか、と。

 

「マーチャン。マーチャン以外全部だ」

 

 容赦なく彼は答える。

 

「僕は、マーチャンのために戦うんだ」

 

 そう語る彼の目は、酷く濁っていた。




誰でしたかね、戦闘描写は筆が進むって言ったやつ(お前じゃい)
言い訳をすると…マジで私生活が忙しくって時間が取れなかったんです。許してください

ウマ娘要素…ウマ娘要素isどこ

何か真船君戦闘センスおかしい…。盛りすぎたかもしれん(後悔)

それでは次回もよろしくお願いします


追記(2026/02/07)  誤字修正





次回予告

ゼロノスとして戦う真船に、新たな試練が襲い掛かる
戦いの運命に翻弄されていく彼の前に現れたのはなんと…新たな仮面ライダー!?
「ごめん、マーチャン。変身!!」
次回 邂逅新人、最強変身
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