登場怪人 バクラーケン、ディスパイダー
午後3時過ぎ。ストーブの乾いた熱気がトレーナー室を温める。ストーブの真ん前で両手を突き出し一寸でも先で熱を感じようとするマーチャン。デスクでカタカタとキーボードを叩く真船。先日のKBSファンタジーステークスの一件で多少のわだかまりこそ出来たが、大きな事態に発展する事無く2人は変わらぬ日常を追っていた。…追っていたかった。
最近、真船には悩みがあった。それは…
「じ~~~~」
マーチャンの視線がすごい、という事だ。今も手先だけはしっかりと暖を取っているのに、フクロウばりの首回転でこちらを見つめてくる。しかもセルフ効果音付きで、だ。
正直な話…可愛い。そりゃあれだけまん丸としたつぶらな瞳で見てくるのだ。可愛くない訳がない。とはいえ見られ続けるのはかなりのプレッシャーである。仕事に集中できない。
中々仕事に集中できない為、少し気分転換に出る事にした。最も、ただコーヒーを飲むだけだが。
「マーチャンも飲む?」
インスタントコーヒーの粉をカップに入れながら呼びかける。お願いします、という返事を聞くともう1つカップを取り出し同じように粉を注ぐ。粉は小さな山を為し、お湯を待っていた。今しがたケトルに水を入れたばっかなのでお湯が沸くまでしばし待たねばならない。かと言って仕事をする気にもならないので適当にスマホを取り出す。
マーチャンの視線を感じながら、大して興味もないニュースを読み流す。彼が欲しいのは未だよく分からずいる怪人の情報。断じて今見ているバイオリン教室などではない。
「(正直面白そうだな…)」
もう一度言おう。断じてバイオリンに興味を抱いた訳ではない!おもむろに通帳アプリを開き残高を確かめているが断じてバイオリンに興味を持っt…
「おや?バイオリンですか?トレーナーさん、バイオリンに興味がお有りなんですか?」
「えっ?いやまぁ…気にはなるかな…」
気になるんかい。
その後も怪人情報そっち退けでバイオリン教室についての会話に花を咲かす。どうせなら一緒に行こうか、それなら何曜日がいいだろうか、など完全に2人の世界に入り込んでいく。うふふ、あははと話しているとケトルが電子音を鳴らす。お湯が沸いたようだ。早速ケトルからお湯を注ごうとした瞬間、真船の勘が叫んだ。
「マーチャン危ない!!」
持っているケトルを放り投げ、即座にマーチャンを抱き締めながら後ろに飛ぶ。そんな2人の上を
「マーチャン外に出て!」
咄嗟の判断でマーチャンを立たせ、部屋から出る様に促す。勿論、パニックを起こさせない為に目線を下げさせて、だ。
だがしかし獲物をみすみす逃すバクラーケンではない。自慢の触手を伸ばしマーチャンを捕えんとする。それに気づいた真船は自身の腕を伸ばし触手を腕に絡める。ギチギチと腕が締め付けられる。骨が音を立てて軋むがそれも少しの辛抱だ。…マーチャンの気配が無くなった。
それに気づいた瞬間、触手に絡められた方の腕に力を込め、腕1本でバクラーケンを引き寄せる。日頃の鍛錬の成果がよく出た瞬間だった。拳の入る間合いまで引き寄せ、胸面目掛けてアッパーパンチをかます。バクラーケンにとっての胸はイカにとっての外套と等しい。内臓が詰まった弱点ともいえるその場所に入れられたパンチは当然大ダメージ。すぐに真船に絡めた触手を離しミラーワールドへ帰っていく。
「はぁ…はぁ……。早めに逃げなきゃ」
戦いで疲れた体を休ませるのも程々に部屋を飛び出しマーチャンを追いかける。とは言ってもさほど距離が離れていたという事もなく、あっさりと合流した。
「マーチャン、大丈夫?」
「はい、ケガはありません。ですが、その…あれは一体…」
動揺の色が濃く出た彼女の表情を見て咄嗟に和らげる方法を思案する。物もない。急がねばならない。留まっていても危険。そんな状況の中導き出した結論が、手を握る、だった。
「トレーナーさん?」
「大丈夫。僕が付いてる。今はとにかく逃げよう」
そう言って強引に手を引き廊下を進む。所々で悲鳴が聞こえる。どうやら他の教室でも似たような事象が発生しているらしい。助けに行かなきゃ。ふと彼の心に沸いた使命感を首を振って霧散させる。まずはマーチャンを守り抜かねばならない。それが何よりも大切ではないだろうか。己が定めた役割を思い出し帯を締め直す。それに連れられる様にマーチャンの手を握る強さが増した。
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真船のトレーナー室があるのは校舎の4階。外に逃げるためには長い階段を下りる必要がある。しかもこれまた大変なのが3階と4階を繋ぐ階段と、2階と3階を繋ぐ階段は続いていないという事だ。則ち、2階に移動するには3階の廊下を通り抜けなければならない。
「ちっ。この欠陥構造の見直し今度の会議で代診しようかな…」
冗談でもなく本気で考えた事を零す。いつどこで再びバクラーケンの襲撃があるか分からない状況で長く校舎内に居たくない。一刻も早くマーチャンを逃がさねばならないのだ。
さて、その3階にとうとう差し掛かる。廊下の様子を顔だけ出して覗く。そこには地獄絵図が広がっていた。跋扈する数々のミラーモンスターたちが生徒や職員を襲う。血痕があちこちに飛び散り、断末魔と悲鳴が入り乱れる。戦いに慣れている真船でさえ、思わず目を伏せてしまう。
ふと、彼の内に、戦わなきゃ、という使命感が湧く。この感情は今日2度目。いいや違う。自分はマーチャンのために戦うんだと決めたはずではないか。そう気持ちを誤魔化そうとしても何度でも湧いてくる。
元来、彼の根は優しさで満ちている。チームを運営していたのだってその優しさが起源であるし、マーチャンに深く入れ込んだのだって元を辿ればマーチャンを忘れさせたくない、という願望と同居する親切の心だった。いつしかその親切は2人の願望と化し、忘れられていたが。
そんな真船だ。こうして命が無残に消されていく状況を目に前にし、それを打開できる力があるなら、迷わず力を振るう。それこそ、彼の性なのだ。
「マーチャン。ここからは正直僕がお荷物だ。だから君1人で全力で走って外に逃げる。いいね?」
「えっ?それじゃあトレーナーさんは…」
「職員としてやらなきゃいけない事がある」
覚悟を決め、マーチャンを先に逃がす決意を固める。ここで戦わなければ悔いが残る。そして何より、沢山の命が消える。それはマーチャンが消えてしまう事と同じ位嫌だった。
1番生存率が高い。そんな最もらしい理由を付け、思う存分戦える状況を作る。それがどれだけマーチャンにとって、辛い決断だと分かっていても。
「早く!」
駆り立てられたマーチャンは意を決して走り出す。真船もゼロガッシャーを取り出し、マーチャンにバレない様援護射撃をする。襲い掛かってくるミラーモンスターらを的確に狙撃し、マーチャンが逃げる道を作る。彼女はそこを縫うように通っていき、ついに廊下を渡り切り、階段へと消えていった。
「よし…変身!」
『Altair form』
マーチャンがいなくなると即座にカードを挿入し変身する。アーマーが形成されるや否や飛び出し、廊下を走る。廊下にはまだ20人程の生徒と、数名の職員が残っていた。時折耳に届くうめき声と絶叫がその凄惨さを物語る。こんな地獄を走らせてしまった、と己の所業を後悔してももう遅い。腹をくくり、今に集中する事にした。
電仮面が装着されると、余ったエネルギーが風となって放出される。風を浴びた者たちは一斉に彼を見た。
「仮面ライダー!」
「仮面ライダーだ!」
「助けてくれ、仮面ライダー!」
歓声が沸き立つ。仮面ライダーゼロノスを知っていなくとも、その風貌から仮面ライダーだと察し助けを呼びかける。生徒職員関係なくそれは同じだった。ゼロノスはその願いを平等に叶えていく。ミラーモンスターらの攻撃を捌きながら人々を引き連れ、廊下を進む。血生臭い廊下を進む集団はまるで花火の様に火花を散らし、突き進んだ。
爪、牙、剣、銃、槍、様々な武器を持って襲い掛かるモンスターらを1体1体正確に流し切り捨てる。倒されたモンスターは皆、細い針の様なものを出し、小爆発を起こしながら消えていった。後どれくらいで向こうまで辿り着くのだろうか。そんな疑問を抱く暇すらない猛攻が一行を襲う。
『Full charge』
埒の明かない状況に苛立ち、必殺技で一気にこじ開ける作戦に出た。剣先からA字の斬撃を飛ばす技、スプレンデッドエンドを繰り出す。目論見通りモンスターらは一斉に倒され消えていく。
「走れっ!」
後ろに控える大勢の人間に指示を飛ばす。逃げるならこの瞬間しかない。そう判断し向かわせた。炭酸の噴射のように一目散に逃げる彼らを見送り、ゼロノスは残っている人を探す事にした。
先程とは打って変わり、静かな廊下を小走りで見て回る。誰もいる気配がないな…。そう思い4階に上がろうとした瞬間、鋭い音がした。獲物を見つけた捕食者の様な獰猛で凶悪な声の主は…考えなくても分かる。ミラーモンスターだろう。慌てて声のした方に向かう。頼む。生きててくれ。そう願いながら。
グングンと風を切っていると声の主が近づいていくのが分かる。もう少しでその場所だろう。そして、声の主がいるであろう部屋に着いた。どうやらトレーナー室の様だ。ゼロガッシャーを構え突入する。中では大蜘蛛が生徒に襲い掛かっていた。
体長は5m半。姿はジョロウグモのシルエットをそのまま大きくしたもので、体はくすんだオレンジ色をしている。巨大な爪と口元に生える凶悪な牙が特徴的なミラーモンスター、ディスパイダーがそこにはいた。
「大丈夫か!?」
生徒とディスパイダーの間に入り爪を受け止めながら呼びかける。黒鹿毛で、右耳にレースと、紺と白の太めのボーダーの耳飾りを付けたウマ娘はそのヒスイの様な目を少し曇らせながら言った。
「トレーナーさんが…。トレーナーさんが…」
恐らくトレーナーは既にミラーワールドに引きづりこまれたのか…あるいは。最悪の光景を想像しかけるが諦めてはいけない。諦めは波及し、彼女をより絶望させてしまうからだ。
「君のトレーナーは絶対助ける。だから今は逃げるんだ!」
彼女のフラフラと力なく立ち上がり、壁伝いで逃げていく姿に不安を覚え、早めにディスパイダーを倒す事を決意する。
『Full charge』
「これで…くたばれっってんだぁ!!」
鋭く突きたてられた爪を足場に飛び上がり、一気に間合いを詰めながら、フルチャージを済ませる。膨大なエネルギーの動きを察知したディスパイダーは、その中心にいるゼロノスへの攻撃を激しくする。だが、それは見事受け流されてしまう。
「はあああ!」
流れる様に体勢を整える。今の彼の位置はディスパイダーの真上。そこから腹部目掛けてゼロガッシャーを突き立てる。重力の恩恵を受けつつ、速度が乗った光刃は肥大化しながら真っすぐ降ろされる。そして、ゼロガッシャーが突き刺さったディスパイダーの体は爆発四散するのだった。
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「クッソ…どうすりゃいいんだ?」
ディスパイダーを撃破した後、ゼロノスはミラーワールドの入り口を求めて校内を走り回っていた。そもそもゼロノスはミラーワールドの知識がない。彼が唯一知るのは、バクラーケンの件で学んだミラーモンスターらは鏡や窓から出入りする、という事だけだ。当然彼も同じ様に出入りできないか試しはいた。が、失敗に終わり、今こうしてアテも無く走り回っているというという訳だ。
バクラーケン出現から4分が経過した今。あっという間に校舎から人が消え、静寂の場と化していた。これ程までに迅速な避難が出来たのは、ゼロノスの活躍だけでなく、生徒たちの聡明さも相まっているのだろ。そして人間、静かな場所にいると妙に心が落ち着くのだ。現に今、焦って走っているゼロノスも、心のどこかでは物静かな校舎のせいで、どこか気を緩めていた。
その静寂を破る悲鳴が遠くで聞こえた。しかしそれはほんの一瞬で止む。だが決して気を緩めてはならない。悲鳴が一瞬しか聞こえなかったという事は、また誰かがミラーワールドに引きづり込まれたという事なのだ。
悲鳴のした方向に走っていると、突如、その方向で眩い光が放たれる。ゼロノスがそこへ向かうと、そこには1人のウマ娘が立っていた。無残に散らかされた教室の中で、ボロボロの制服を着た彼女の左手には平べったいカードケースが握られており、反対側に手には1枚のカードが携えられていた。
「パパ…ママ…私、戦う!」
持っているカードケースを前に突き出すと、どこからともなくベルトが彼女の腰に巻き付いた。銀色のシンプルなベルトの正面には、手に持っているカードケースが丁度収まるスロットが存在していた。
「変身!」
右手でガッツポーズを作りながら、腕を左側に動かす。胸の前で、右腕が描くV字を見せつけながら、仮面ライダーお決まりの口上を叫び、ケースをスロットに装填する。すると、ベルト正面上部にあるランプが黄色く点灯し、これまた、どこからともなく現れたスーツが彼女の身を包む。パズルのピースが合わさる様にピッタリとハマったスーツは、コウモリをモチーフにしした西洋騎士の鎧そのものであり、甲冑の奥には青い複眼が睨み付ける様に光っている。腰には、コウモリの羽の様な意匠が盛り込まれたレイピア、ダークバイザーが携えられてた。彼女の名は、仮面ライダーナイト。彼女の立ち姿はまさに
変身を遂げた直後、彼女は窓の中へと吸い込まれる様に消えてゆく。
「待って!」
ゼロノスも慌てて追いかける。ミラーワールドへ行く絶好のチャンス。これを逃してはいけない。そう本能が叫んだ。
ナイトが消え切る前に入口に近づくと、眩い光が彼を包む。強力な吸引機に吸い込まれているかの様な物凄い力がゼロノスにはたらき、彼をミラーワールドへ引きずり込まれた。
「うわああああ~~~!!!!」
鏡写しの世界へダイブしてゆく。深く、深く、落ちる様な錯覚が彼に襲い掛かる。周りを見渡すとそこには無数の自分がいる。その誰もが自分のはずなのに、変身していたり、変身していなかったりし、困惑を招く。やがてそれらは統一されていき、
皆さま、GW後の5月というさほど意義の感じられない期間をどうお過ごしでしょうか。僕は高校生活最後の文化祭で大変忙しい生活を送っています(投稿が遅い事の言い訳)
今回は正直お遊び要素をそれなりに含んでいます。例えばライダーでバイオリンと言ったらの彼とか、ディスパイダーに襲われる前作ヒロインとか。ここまで来るとただの自己満じゃねえか
ナイトに変身するポーズはうだうだ書いてますが、原作と同じと考えてください。やっぱり変身ポーズって言語化難しいね(ただの語彙力不足)
さて、何故ゼロノスがミラーワールドに行けるのでしょうか。なんででしょうね(考えてない)
日常描写500文字ちょいしかないやんけ。もっと書けや
それでは、ご拝読ありがとうございました。また次回もお楽しみください
追記(2026/02/07) 誤字修正
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次回予告
新たな仮面ライダー、仮面ライダーナイトと共にミラーモンスターたちの群れと戦うゼロノス一行
そんな彼らに多数のミラーモンスターが襲い掛かる。消えゆく命を救うため、愛する人を守るため
『Final vent』
「私の友達を…返せ!!」
彼らは戦う。
「その娘に、手を出すな!」
次回『竜巻注意報』