登場怪人:シンムグルン
トレセンミラーモンスター襲撃事件から早1ヶ月、学園は既に以前の様相を取り戻しつつあった。
しかし完全に元の状態へ戻ることはない。生徒56名、職員29名という数の行方不明者は文面以上の遺恨をもたらし、今なお帰りを待つ者もいる。
仮面ライダーでさえその実態を完全に掴めていない怪物、ミラーモンスター。当然、一般人である生徒らは何も知らないのだからその存在の噂は尾ひれがついて広まっていく。実はあれは人を食べるタイプの神様だ、なんてスピリチュアルに傾倒したデマは可愛い方だ。中には日本のウマ娘弱体化を図った外国の攻撃だ、なんて陰謀論さえも飛び交っていた。
そんな多くのトラウマをもたらす結果となった今回の事件だったが、その中でもある種いい方面での変化を遂げた者がいた。
「ふんふーん♪」
前回に引き続き登場のこの娘、スパイラルウインドだ。
彼女は先の一件で仮面ライダーの力を手にし、戦いの道へ身を投じることになった。その道はレースの道以上に茨の道であり、当然友人らから多くの心配の声が寄せられた。しかし、スパイラルウインドにその道を示すきっかけの一部でもある為あまり強い声で引き留められずにいた。
「こんっちゃー!」
彼女が向かうはとあるトレーナー室。中に入れば部屋の主とご対面だ。勢いよく扉を開け放ち快活な挨拶を飛ばす。
だが部屋の主がいつもいる作業机に人の影は存在せず、その代わりにワークチェアを前後に揺らしていたのは唯一のチームメイトにして我がチーム『スパイチャン』の看板、アストンマーチャンだった。
「あれ?マーちゃんか。…真船Tは?」
「スパちゃん…。トレーナーさんはまたいません。マーちゃんを置いてどこかに行くなんて、ぷんぷんです」
「あ~…またか」
スパイラルウインドは現在、真船の下で指導を受けている。とは言ってもまだ所属して1ヶ月、それも学園の修復にそれなりの時間がかかったため実際の指導期間は2週間といったところだろうか。脚質などのデータがようやく定かになって来た時期だ。
そんな短期間で真船は既に3回、今日を含めれば4回は姿を消している。理由は勿論、怪人退治だろう。
「(まーた私たち放っておいて人助けしてる…)」
彼の行いは当然褒められるべきものなのは間違いない。だが、少々おこがましい気もするが放置されている身としてはあまりいい印象は受けない。マーチャンの様子を見る限り、彼女は真船の事情を知らないのだから猶更だろう。
スパイラルウインドだって彼のことが心配だ。せっかくできた仮面ライダー仲間にして自分のトレーナー。そんな彼が仲間である自分を置き去りにして、傷を作って帰ってくるのだ。心配しない方がおかしい。
「(私はトレーナーにたま~に稽古は付けて貰ってるけど実戦経験はあれ以来1回もないからなぁ…。ダークウイングもお腹すかして怒ってる)」
つい最近寮の鏡を割って出てこようとし、生徒に手を出そうとした時があった。その時、初めて彼女は自分が交わした契約の重みを知ったのだ。
平和が1番なのは間違いないが、過度な平和が逆に危険を生むことになる。非常に難しいバランスである。
「マーちゃんはなんでトレーナーがいなくなるか知ってる?」
問い詰める事はなかったのだろうか。少し不思議に思い聞いてみることにした。
「分かりません。前にも1度聞いたのですが…答えてくれませんでした」
「そっか~」
なんでそこ隠したんだろ。疑問を抱くも、自身もマーチャンに仮面ライダーの件を話していないことを思い出し何となく彼の気持ちを察した。…巻き込みたくないのだろう。
にしても手持ち無沙汰になってしまった。今日はチーム皆でお出かけだというのに、どうしたものか。
なので
『うぇ~い!スーちゃん☆バイブス上がってる~?』
電話口から快活な声が飛んでくる。底抜けな明るさを感じさせる声の主、それはトレセンの太陽ことダイタクヘリオスだった。
「もち~!バイブスフルマックスオーバーよ!でさ!今ヘリピッピ暇?」
『パマちんと一緒にいるよ。どしたん?』
「いや~今日うちんとこのトレーナーいなくってさ~ちょっと萎え萎えなんよね~。でさ、今からチームの子連れて渋谷行くっけどヘリピッピたちも来る?」
ガタッとした音がする。通話の内容が聞こえたマーチャンが驚いて立ち上がったのだ。
『もち!パマちんとちょっこーすっから待ってて!』
「り!」
僅か30秒程度の会話の高速キャッチボールを終えると、スパイラルウインドはマーチャンの手を取る。この後の予定はないとはいえ勝手に予定を決められて混乱しているマーチャンは、あれよあれよと連れ去られてしまった。
「てなわけで行くよ~!!」
放課後の生徒の波を掻き分け、2人は街へと繰り出していくのであった。
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スパイラルウインドがマーチャンを引っ張っていくこと20分。府中から電車に揺られ、2人はあっという間に渋谷に到着していた。
入り込んで頭がこんがらがりそうな駅を出てご存じハチ公の方へ歩みを進めていると前方に2人のウマ娘が見えてきた。
「ヘリちゃんパマちんおっ待た~!」
大声で叫ぶと、向こうの2人がこちらの方を見た。そしてすぐさま大きな笑みを浮かべて駆け寄ってくる。紺碧のメッシュをなびかせる太陽神、ダイタクヘリオスと稲妻の如き流星を走らせる名家の異端、メジロパーマーだ。
「っしゃー!スーち来たしシブセンれっつらごーすっか!」
「ねぇ、スー。その娘は?」
「あ、この娘は「あなたの記憶の片隅に、アストンマーチャンです。スパちゃんとは同じチーム、『スパイチャン!』なのです。お二方ぜひぜひマーちゃんのこと覚えていってくださいね~」
どこからともなくマーチャン人形を取り出し、その手を可愛らしく振りながら自己紹介をする。儚く、実に可憐なサマであった。
トレセンから連れ出されていた時は急展開にオロオロしていたものの、持ち前の胆力と適応力を存分に発揮し、いつの間にか場に馴染む所か場の空気を作り出していた。アストンマーチャン…なんて恐ろしい…。
「OK~アストンマーチャンね。よろしく」
「スーつがさっき言ってた娘か!よろ!」
「よろよろなのです~」
パーマー、ヘリオスが掲げるメロイックサインを真似して返す。瞬時に友達になるコミュニケーション能力を双方が見せる事での友情構築。ものの1分足らずで、3人の友達+1人の連れという構図は4人の友達のお出かけという構図へと変わっていった。
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渋谷の一角に位置するアパレルショップ。普段からそれなりに繁盛し賑わっている店内だが、今日は一段と盛況していた。
「これが良さそうじゃない?」
「んや、マーちゃんにはこっちじゃない?」
「こっちのがフィットしてね?」
パーマー、スー、ヘリオスの3人が盛り上がる話題、それは…
「「「ねぇ、マーちゃんはどれがいい?」」」
アストンマーチャンのコーデだった。
「むむむ…ひじょーに選び難いクエスチョンなのです。どのお洋服さんがマーちゃんのラブリーさをより引き出してくれるのでしょうか…」
3人がそれぞれ提案するコーデを見て妙に神妙な面持ちをしながら顎を摘まむ。今を時めく乙女に取って服とは鎧。一切の妥協をしてはならない。
当然、一気に全て買ってしまえば済む話だ。しかしマーちゃんとて中学生。セットコーデを何着も買えるようなお小遣いの量ではない。泣く泣く1着を選び抜くしかないのだ。
「試着なさいますか?」
その時店員から声がかかる。彼女の意見通り、ここで唸っているよりも実際に着てみる方がベターだろう。画して、アストンマーチャンプリティーコンテストが始まった。
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『エントリーNo.1 地雷系マーチャン』
まず出てきたのは若者に流行している地雷系。黒を基調としたゴシック風の服装だ。細部にフリルを付け華やかさを演出すると共に奥に潜んだ幼児性を醸し出す。
「ほほ~これまた」
試着室から出てきたマーチャンは自身の恰好をくるくると回りながら眺める。彼女自身が女子中学生な事も相まって、街で見かける地雷系女子よりも数段あどけなく映る。
「ケッコー似合ってんじゃね?」
「確かにこれはアリ…かも。やるね、スー」
「ダテにマーちゃんと一緒のチームじゃないからね」
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『エントリーNo.2 ギャルマーチャン』
次はヘリオスコーディネートのギャルコスチューム。1月である今の時期に合わせて温かさを保ちつつギャルっぽさを忘れないよう、トップスの量を増やす。彼女の紅い王冠と同じ色のモコモコ素材の上着を少しはだけさせセクシーさを醸し出す。黒いパンツはかなりショートにし露出度を高めるスタイルになっていた。
「セクシーマーチャンなのです」
体をくねらせ、自身の肢体を見せつける様に試着室から出てくる。女子中学生なのに不思議と大人びたボディ故に周囲の人間たちも思わずマーチャンに目を奪われる。
「わはー!マーちゃんめっちゃ似合ってる~!ウチやる~!」
「マーちゃんって何でも着れるんだ…ギャル行けるのはびっくりだわ」
「すっご…アタシもそっち系にすればよかったなぁ」
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『エントリーNo.3 清楚マーチャン』
最後はパーマーコーディネートの清楚系ワンピース。黄色交じりの白、すなわちクリーム色のワンピースと、その上に羽織る同じ色の上着のセットだ。これまでの2つと比べて落ち着いたデザインであるが、彼女の王冠も相まって礼儀正しく威厳を感じさせる。最も、その性格は異なるが。
「…これは」
プリティーとは少し異なる姿に困惑を見せながらもどこか満足げな表情を浮かべる。どこかの高貴なお嬢様な雰囲気を感じさせるコーデは、アストンマーチャンの新たな可能性を見せていた。
「どうかな。結構アリじゃない?」
「…やっぱなんでも似合うのずるいわ。うし、アタシもっかい選んで来よ」
「ウチもウチも~!」
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その後も気が済むまでマーチャンの着せ替え会もといアストンマーチャンプリティーコンテストは続き、なんとか気に入る1着を購入したのだった。大きな紙袋をぶら下げながら渋谷の街を歩いてゆく。若者がごった返し様々な表情が行き通うこの街。光があるとすれば影もあるのだ。
「〇×◇△」
この世の、少なくともこの星の言葉でない言語が小さく囁かれる。
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東京という街は交通手段が多いようで限られている。密集した建物群を小回り効く様に動ける手段は、そう多くない。田舎の学生は自転車必須と言われるが、都会はどんな人も自転車必須なのだ。
人が多くなれば比例して自転車も多くなる。自転車から降りて行動する必要がある時、それはどこかに停車しなくてはならない。
「あちゃ~…こりゃ派手に…」
自転車の満員電車である駐輪場は、その密度が故に時折小さな事件を起こす。ギリギリのバランスで成り立っているその区域に起きた小さな歪が大きな事変に発展するのだ。
4人の眼前には駐輪場内で数十台の自転車が倒れていた。倒れた時に相当な音がしたであろう。しかしその原因を作った人物は影も形もない。見て見ぬふり…だろうか。面倒ごとからそそくさと逃げているのだ。
「みんなごめん…。時間貰っても…いい?」
「いいよ。いつもの『一日一善』でしょ?」
スパイラルウインドが胸の前で手を合わせながら話す。それにメジロパーマーが応じた。
「ありがとう!」
元気よく礼を述べるとスーは倒れていた自転車の1台に手を掛ける。そしてゆっくりと自転車を起こしだした。1台を起こすと、それに寄りかかっていた他の何台かも一緒に起き上がりだし彼女の腕に負荷をかけていく。
「ふ~ん!!」
ウマ娘パワーを遺憾なく発揮し起こしていくがそれでも限界がある。20台弱を持ち上げたところで拮抗状態になってしまった。
「はぁあああ!」
そこにメジロパーマーの手助けが入る。横から支える様に差し出された手は、斜めで拮抗していた自転車の波をさらに押し上げあるべき形へ戻していく。
パーマーに続きヘリオス、マーチャンも加わって自転車の波はグングン高さを持ち始める。
「「「「ふうううう!」」」」
大雑把な神業で自転車なだれは無事、修復された。
「へへっ、ありがとみんなっ」
一仕事終え、皆で成功を分かち合おうとしたその瞬間だった。遠く、しかしそこまで離れていない距離で爆音が響く。ガラスが砕け散りコンクリートが破壊された頭を打ち付けるような音を聞き、4人は思わず耳を塞ぐ。
「「「「きゃっ」」」」
次に混乱が心に押し寄せてくるが、それを一番最初に払い退けたのはスパイラルウインドだった。少し頭を振るい、戦いに向けて意識を切り替える。それは師からの教えか、両親からの血筋か、はたまた彼女生来のモノなのか、分からなかった。
直ちに切り替えたスパイラルウインドは音の方へ走り出す。この世界の秩序を乱す悪と対峙するために。
「!?」
駐輪場から大通りに出た彼女の目に飛び込んできた光景は、端的にこの事態が大事件だと分からせる。
悲鳴を上げ、逃げ惑う人々。よく見れば何人かは腕から血を垂らしている。そしてその奥には大きく穴が開いたビル。クレーターが出来、中心部には何やら武器が見える。コンクリートがひび割れ白い粉を巻き上げパラパラと降り注ぐ。その中には鋭く光るガラス片。もし人に当たってしまえば…。想像に難くない。
「嘘…」
思わず言葉を失う。先月のミラーモンスターとの戦いも大規模だった。しかしそれはミラーワールドに隠れて行われる陰湿で分かりにくい攻撃。それに対しこれは大規模な攻撃、いわば侵略だ。
「立ち去れ!貴様ら猿に変わり、この地は我らオーバーロードが支配する!」
悲鳴の奥から一体の怪人が姿を見せる。ミドリガメを彷彿とさせる深緑色の体色を巨大な甲羅と鎧で守り一振りの戦斧を備えた
シンムグルンは配下のインベスをクラックから自在に呼び寄せ、その場にいる人々を手当たり次第に傷つけていく。一方的な虐殺。彼の通り道は屍で舗装されていた。
戦わなきゃ。スパイラルウインドの心に意志が湧き上がる。デッキケースを握り締め、シンムグルンの前に走り出そうとしたその時だった。
「ハァッ!」
シンムグルンが愛斧を放る。斧は真っすぐ飛んでいき、スパイラルウインドがいる場所よりもずっと奥のビルへと突き刺さった。崩壊したビルは斧が直撃した部分から折れ、ビルが倒れ込む。折れたビルが地面に衝突すると大きな地響きが鳴った。
息を飲む。たった一撃で大規模な被害をもたらすこの厄災相手に自分は勝てるのか。微かにデッキケースを握る手が震えた。
「スー!何してるの?!」
瞬間手に衝撃が伝わる。メジロパーマーがスーの手を取ったのだ。気が付けばシンムグルンは2人の10数メートル前まで迫っていた。恐怖ですくんでいた自分を恥じると、スパイラルウインドの顔つきが変わる。
チラと自身がいた方を見れば奥に紅い王冠を連れて走る蒼いメッシュが見えた。
「パマちん早く逃げて!」
パーマーを一括し彼女の手を振りほどき一歩前に出る。
「スー!何言ってるの!?」
激昂するパーマーを他所にデッキケースを突き出す。するとどこからともなくVバックルが腰に巻き付かれた。
「ふんっ!」
スーたちを認識したシンムグルンが斧を放る。
「変身!」
変身ポーズを取り、デッキをバックルに挿入する。瞬時にスーツが装着され仮面ライダーナイトに変身完了、腰に生成されたダークバイザーを引き抜く。
「はっ!」
投げられた戦斧を弾き返す。重くのしかかる一撃にも関わらず楽々跳ね返せたのは、真船との特訓の成果だろう。シンムグルンの奥にいる有象無象のインベスたちへ着弾し大量に死滅した。
侵略者と相対する壮絶な戦いの火蓋が今、切って落とされた。
お久しぶりです。受験が無事終わったため活動を再開しました。
活動再開に当たってもう一度設定などを練り込んでたら投稿遅れてしまいましたね。すみません。何はともあれ、今後ともよろしくお願いします。
さて、今回はまずオリキャラのスパイラルウインドちゃんのスペック紹介をしましょう。
追記(2026/02/08) 誤字修正
<スパイラルウインド>
キャッチコピー:みんなを巻き込む笑顔の竜巻!
自己紹介:何でもみんなでやってハッピーな笑顔のハリケーン!それが私、スパイラルウインド!
学部:高等部
身長:154㎝
体重:(笑顔)
誕生日:2月15日
得意なこと:ていくピクチャー☆
苦手なこと:勉強!
耳のこと:どんな笑い声も聞き逃さない!
尻尾のこと:夏場は扇風機に変身!
靴のサイズ:22.5㎝
家族のこと:両親2人とも医師として世界各地の紛争地帯を渡り歩いている
マイルール:どんな時でも笑っている事!
スマホ壁紙:チームみんなで撮った集合写真
出走前は…:マーちゃんとツーショット☆
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予告
渋谷に強敵を前にナイト、絶体絶命のピンチ!
危機を前にして新たな仮面ライダーがやってくる!
「この世界はアナタたちの居場所じゃない!」
次回、『英雄』