永久に君を刻んで~スピンオフ~ 零れ落ちる砂   作:アテル

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英雄

「変身!」

「嘘…スーが…」

 

 世界の時が止まった感触を覚える。これは夢の光景だろうか。そんな現実逃避すら湧き出る。あの優しい友人がこの屈強そうな…戦士?冷たい黒さを放つスーツを纏い、鈍く光る装甲が顔を覆う。この娘は一体…この中でどんな表情をしているんだろう。

 

「黙っててごめんね、パマちん」

 

 そんなメジロパーマーをチラとだけ見て、ナイト(スパイラルウインド)は走り出す。彼女の思考は既に戦いでいっぱいだった。

 

「マーちゃんたちのとこに居て!私が守るから」

 

 普段の優しさと笑顔が一切ない声が耳に届く。声色が否応なしにパーマーへ理解させる。友はもう、戦士であると。パーマーは走り出した。

 

「ハァッ!」

 

 ナイトがシンムグルンに切りかかる。しかしそれはひらりと躱されカウンターの蹴りが彼女の腹部に叩きこまれた。大きく吹き飛んだナイトを他所にシンムグルンはクラックを展開、中から十数体の初級インベス凶暴態が出現した。

 

『trickvent』

 

 分が悪いとナイトは判断。デッキから1枚カードを抜き取りバイザーで読み取る。無機質な機械音声がカードを読み上げた次の瞬間、ナイトの体が分裂し3人に増える。増えたナイトたちはそれぞれインベスに攻撃を仕掛けていく。

 あっという間にインベスを撃退し、再びシンムグルンへ攻撃を仕掛ける。これだけ早い撃破なのは真船との稽古の賜物だろう。

 

「はぁぁぁ!」

 

 3人のナイトは一斉にシンムグルンへ向かう。

 

「はっ!」

 

 お互いの隙間を埋め、一瞬の隙も許さない連撃をシンムグルンへしかけるも、それをものともしないシンムグルンは斧を一振りする。

 

「キャッ!」

 

 強力な衝撃波が生まれ、3人のナイトは数mも吹き飛ばされてしまう。さらにその衝撃で2人の分身が消え、1人に戻ってしまった。

 それでも諦めず、ナイトは再び立ち向かう。だが、勢いよく突撃をしかけるもしゃらくさいとシンムグルンは一蹴。走ってくるナイトの眼前にクラックを開き、彼女をヘルヘイムの森へと追放してしまった。

 

「ここは…」

 

 クラックの中には異質な森が広がっていた。木々は所々捻じれ、未知の植物が大量に生えている。そんな異質な空間には先程大量に討伐した、初級インベスが生息しており木に生っている果実を美味しそうに食べていた。辺りの空気は異様で、少し靄がかかっていた。

 ナイトは警戒心を最大まで高めつつ、その未知の木に背をかける。これで少なくとも背後から攻撃される心配はあるまい。

 その時、彼女の頭上でクラックが開く音がした。咄嗟に臨戦態勢を取るがもう遅い。頭上から斧を大きく振りかぶったシンムグルンが降って来たのだ。

 

「フウンッ!」

 

 大きな掛け声と共にマスクから縦一閃に切り裂かれる。幸いスーツの頑丈さで耐え忍ぶもマスクには大きな亀裂が出来てしまった。

 

「くっああああああああ!」

 

 悲痛な叫びが響き渡る。だが彼女も戦士の端くれ。いつまでも痛みを引きずらずに叫びながらも反撃をする。だがそれはブンブンと得物を振るうだけの乱暴なモノだった。

 そんな攻撃、当然通用しない。ナイトの健闘虚しくシンムグルンは再び現実世界へ戻っていった。

 その後もクラックが開いては攻撃されまたクラックの中へ逃げられるという展開を何回も繰り返していた。隙を狙って反撃しようとしても、斧での一撃一撃が大ダメージになり堪えるのに精一杯だ。

 ジリ貧、そんな状況を前にしてナイトの額に汗がにじむ。

 

「くっ!」

 

 このままではダメだ。焦る気持ちが彼女の脳を活性化させある作戦をはじき出す。当然、多少のリスクは承知の上だ。作戦に従い、ナイトはデッキからある1枚のカードを抜き取った。

 背後からクラックの開く音がする。シンムグルンが出てくる。愛斧が振り下ろされる。今しかない。

 

『Finalvent』

 

 振り下ろされた斬撃に合わせ必殺のカードを使用。まずは攻撃を肩で受け止め敵の斧をしっかりと捕まえる。

 

「ぐっ!?」

 

 動揺している隙を付き腹部をウイングランサーで一突き。完全にシンムグルンを捕えた。だがそう簡単ではない。何せずっと斧を肩で支え続けているのだ。その間ずっと乗り続けるシンムグルンの重さ。肩の装甲は既にボロボロになり、スーツ内のスパイラルウインドの生身までダメージが及んでいた。

 痛い痛い痛い。心が叫び続けるが体が堪える。待つこと数秒、待っていた存在が来た。クラックの外より、相棒のダークウイングが来てくれたのだ。

 

「はぁっ!」

 

 ダークウイングの到着を確認するとナイトは攻撃へ完全にシフトチェンジ。突き刺していたウイングランサーを引き抜き今度は大きく打ち上げる様にシンムグルンを切り裂いた。油断か動揺か、シンムグルンはその巨体を僅かに浮かせた。

 

「この世界はアナタたちの居場所じゃない!」

 

 一瞬の隙を突きナイトは体勢を変える。両肩の装甲と融合しマントとなったダークウイングの力を借り必殺技、飛翔斬を発動。シンムグルンを突き上げながら自身の体をクラックの中へとねじ込んだのだった。

 

「たぁあぁぁああっぁ!」

 

 現実世界に戻ってきても飛翔斬の勢いは変わらない。ドリルの如き回転を維持したままビルへ突っ込んでいった。衝突と同時にビルのガラス窓が粉々に砕け大きな爆発音が響き、ビルの外観が大きく歪んだ。

 間違いなく倒した。煙が舞い、一寸先もまともに見えない状態。だがピクリとも動かない剣先から勝ちを感じ取っていた。そんな彼女の油断は一瞬で消し去った。

 

「ぬるいわ!」

「えっ?!キャァアアアアアア!!」

 

 飛翔斬を受けビルに叩きつけられて尚、シンムグルンはピンピンしていた。彼は愛斧で一打。ナイトは20m以上の高所から地面へと叩きつけられてしまった。

 飛翔斬の為に合体していたダークウイングは分離、ミラーワールドへ帰っていく。

 スーツのアチコチに傷が入り、かすれた汚れを付けている。

 そしてデッキがベルトから滑り落ちた。幸い、デッキ自体に傷はなくただ変身解除されるだけではあった。しかし彼女は既に満身創痍。呼吸は大きく、肩を上下させて必死に息を吸う。

 

「少しはやるな。だがもうこれで終わりだ。猿。貴様の無力さ故に、この世界は我々のフロンティアになるのだ」

 

 そう言うとシンムグルンが無数のクラックを開く。中からは大量のインベスが降り注ぎ、渋谷の街を埋めて尽くしていく。

 好戦的なインベスはすぐさま破壊活動を開始。各地で爆発音が聞こえ出した。

 

「かっ…あぁ…っ…」

 

 今にも消えそうなか細い声を上げ地べたを這いつくばるスパイラルウインド。それでも彼女は、再び立ち上がり戦おうとデッキケースに手を伸ばす。そんな彼女にシンムグルンがにじり寄る。斧をずり、火花を散らしながらやって来る様はまさに死神。もうここまでなのか…。

 諦めかけた瞬間だった。

 

「グジャジャ」

「ジャグソッ」

 

 けたたましいエンジン音とインベスの悲鳴が耳に届いた。スパイラルウインドも、シンムグルンも、その音の方へ振り向く。エンジン音が近づいてくるのが分かる。エンジン音が近づくにつれ、インベスの悲鳴も近くで発せられているのが分かる。

 インベスをなぎ倒しながらやって来るその音の正体…。それは彼女の視線上にいるインベスすべてがなぎ倒された瞬間、対面した。黒いベースの上に金色のヘッドを乗せたバイク。それを操る男はクワガタを模した刺繡が施された紅いスカジャンを纏っている。

 

「ハァツ!」

 

 バイクのライトが照らす黄色い道、その道にいるすべてを薙ぎ払いながら進んできた。勇敢で、逞しい勇ましい歩みはまるで英雄の凱旋。不思議とスパイラルウインドへ、安心をもたらした。

 彼はそのままスパイラルウインドの方へ進む。ある程度近づいた時、大きくバイクジャンプを披露する。時速80㎞近く出ているバイクへは迂闊に近づけない。それはオーバーロードとて同じなようで、シンムグルンも思わず後退する。

 バイクをターンさせながら停車。甲高いブレーキ音から、それとなく焦りの感情が読み取れた。

 青年はバイクから降りるとシンムグルンの前に立ちはだかる。

 

「危ないから…逃げて…」

 

 スーの弱弱しい叱責を無視し、彼はヘルメットを脱ぎ捨てる。初めて見るその顔。歳は20過ぎほどだろうか。まだまだ若さを感じられる風格にも関わらず、張り付いた険しさが感じられる表情をしている。

 

「貴様…何のつもりだ?」

 

 これが答えだ。

 そう言うが如く、彼は腰に勢いよく手をかざした。すると彼が纏っているエネルギーが腰へと収束。一本のベルトへと変わっていく。

 銀色のベルト。ベルト中央で赤く輝く霊石。その霊石のエネルギーを全身へと伝える管の機構。2000年の時を経て現代へもたらされた神秘のアイテム、アークルだ。

 

「ふっ…」

 

 短く息を吐くと同時に右手を斜め前へ突き出し左手をベルトの霊石部の上へと優しく乗せる。そして両手を動かし左手をベルト側面のボタンの上へ、右手を最初の一から水平に動かした右胸の前へと持っていく。

 

「変身!」

 

 大声で叫ぶと同時に右手を動かす。勢いよく左手のあるボタンの位置まで。素早く、かつ乱暴に動かした右手は左手を叩きボタンを押下する。

 すると霊石が反応。石の持つエネルギーを最大限稼働させ青年の肉体をより強固で暴力的なフォルムへと変化させていく。全身は強化皮膚に変わり、膝や肘はプロテクターが生成。さらに腰から上の上半身には赤い硬化装甲が生え厚い防御壁となる。そして最大の変化は頭部。ヒトのそれとは大きくかけ離れたクワガタらしき顔面へ変化。深紅の複眼をギラつかせ、金色の二本角を立派に見せつける。

 

「!?…クウガ」

 

 スパイラルウインドが言葉を零す。そう、彼の名はクウガ…仮面ライダークウガ。5年前、長野県を襲った世紀の大事件。何万人もが死んだ未曽有の怪人災害。その地獄の1年を戦い抜いた伝説の英雄だ。

 

「ハアッ!」

 

 クウガがシンムグルンへ殴りかかっていく。仮面ライダーVSオーバーロードの第二回戦が始まったのだ。




絶対に2回目の実戦で相手するべきでない存在だと思う。可哀そうに(他人事)

当初考えていた奴から話の濃さは変わらないのに文字数が増えて話数ばかり伸びていく不思議。まだまだ半分過ぎてない辺りです。

追記(2026/02/08) 誤字修正

次回予告

「お前…何のために戦ってるんだ」

「…力が欲しいか?」

「欲しい!皆だけじゃない!アタシ自身も守れる力が!」

『Survive』

次回『覚醒』
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