甲斐のフロイトこと尋之徳兵衛について 作:示威P亭 茶亜斗
医療従事者としてや思想家としては優秀だった尋之徳兵衛。他人を救うことには類い希なるほど勇敢だったと言われています。ですが反面自身のことになると弱気で悲観的であり、何かあるとすぐに悪い状況になるのではないかと考え、年に何通も遺書を残したり、何かある毎に辞世の句を詠んでしまう悪癖があったとされています。
以下は彼が残した遺書や辞世の句の一部です。
「過ぎし日の 夢絶えにけり 夜半の月」
過ぎた昔の夢はもう終わってしまった、夜半の月のように静かに死にたいという意味の辞世の句です。
「今日の事を 言わぬよりも 言ってしまへば 明日の事は 悔やむべし」
今日あったことは明日後悔することになるかもしれないから、言わないよりも言ってしまった方がいいという遺書の一節です。
「私、生涯医道に従事しましたが、患者を救えなかったときの落胆は一生忘れられません。この世に医者にできない病気はたくさんあります。私が生涯かけていた研究はまだまだ足りません。医学の発展に尽力していくことが、後進の医師に託す唯一の望みです。」
尋之徳兵衛が亡くなる前に書いた遺書の一節で、医師としての使命感が感じられます。
「生まれたが故 人を救いたく 医道に勤む 行く手暗し それでも行かん」
生まれたからには医道に尽くし、人を救おうとするが、先が見えず不安だという意味が込められた辞世の句です。
「浅からぬ 神秘なることを 探りつつ 今宵の別れに 白髪くりかへす」
自分が探り続けた神秘的なものを思いながら、今夜は別れを迎えるという意味の辞世の句です。
これらの遺書や辞世の句からも、尋之徳兵衛が自身の人生に対して悲観的であったことが窺えます。一方で、医者としての責任や使命感も強く持ち合わせており、医学の発展に尽力することが彼の望みであったこともわかります。
尋之徳兵衛の悪癖に関して、彼が近淡海を船で渡った際の話があります。このエピソードは、尋之徳兵衛の悪癖に関するものの中でも特に有名で、彼の性格をよく表しているとされています。
尋之徳兵衛が近淡海を船で渡っていた時、別の船が沈んでしまいました。これを見た尋之徳兵衛は、自分の乗る船も沈むと考え、慌てて自身の着てた着物に遺書と辞世の句を書き留めました。そして、着物を脱いで船長に託し、「もしも私が死んでしまったら、この着物をきてください。それでお前が笑いものになるのなら、それでもよい」と言ったとされています。
このエピソードは、尋之徳兵衛の自虐的な性格が表れています。また、自分の遺言や辞世の句を書き留めることによって、死後のことまで考えてしまう彼の心情が伝わってきます。
他にも尋之徳兵衛は、自分が亡くなるときには必ず「赤い雲が現れる」と信じていたといいます。ある日、雲行きが怪しくなってきたと感じた尋之徳兵衛は、その予感を信じて遺書を書き始めました。しかし、その日はただの夕立ちであり、雲は赤くもなりませんでした。尋之徳兵衛は、その後も何度も同じようなことを繰り返し、周囲からは「またか」と呆れられていたそうです。
しかし、彼の悪癖にもかかわらず、彼が生涯をかけて人々を救い続けたことは、尊敬すべきことであり、彼の功績は今もなお称えられています。
「身長5尺8寸の大女!尋之徳兵衛の妻・おまさは男勝りの剛力の持ち主だった!」
尋之徳兵衛の妻である「おまさ」は、身長5尺8寸(約174cm)という大柄で立派な女性でした。その体躯から想像できる通り、彼女は非常に男勝りの性格であり、相撲が大好きでした。実際に、彼女は男達を何人も纏めて投げるほどの剛力の持ち主だったと伝えられています。
おまさは、本当なら嫁の貰い手も無いようなお転婆娘でしたが、彼女は尋之徳兵衛の恩師の姪っ子であり、恩師は彼女の事を目に入れても痛くないほど可愛がっていました。そして、その恩師の熱心な薦めに断り切れず、尋之徳兵衛は彼女と婚礼をあげることになったそうです。
おまさは、女性としては珍しく男性的な趣味や性格を持っていたことで知られており、多くの人々に愛されていました。彼女の存在は、尋之徳兵衛にとっても強い支えとなっていたことでしょう。
また、尋之徳兵衛とおまさの見合い話にはこのような面白いエピソードがあります。
尋之徳兵衛とおまさの見合いの前、尋之徳兵衛は恐怖に震えていました。彼は自分がその日に殺されてしまうのではないかと不安になり、遺書を書き始めました。
遺書には以下のような内容が書かれていました。
「この度、おまさとの見合いを経て、明日から私は生きていくことができません。おまさの剛力に振り回され、ついには命を落としてしまうのです。遺書を読む皆さん、私の死を嘆いてくれることはありません。おまさと戦った者だけが私の苦しみを理解してくれるでしょう。」
また、尋之徳兵衛は自身の辞世の句も考えていました。
「見合いの日 我が魂飛び去る 大女の力」
尋之徳兵衛は自分が見合いでおまさに負けて死んでしまうと信じていましたが、実際には見合いを経ておまさと結婚し、大きな家庭を持ちました。彼の悪癖である悲観的な考え方は、おまさの強さに勝ることができなかったようです。