キヴォトスに赴任する殺せんせー 作:名無しの毛玉
連邦生徒会
プロローグ─『赴任初日』
………『我々は望む、七つの嘆きを』
………『我々は覚えている、ジェリコの古則を』
───接続パスワード承認
───シッテムの箱へようこそ、
生徒たちに見送られ、消え行く意識の中で、そんな声が聞こえた気がした
気が付けば。電車の中だった
(ここは一体…。私は、確かに、あの子達と卒業式を終えて…そのはずだというのに何故)
顔を上げると、対面には女性が座っている
(あなたは、一体)
女性は、いや少女は。何も答えない
(…聞こえていない?いや、そもそも声を出せていない。これは)
「…私のミスでした」
少女が語りだす
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」
「結局この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて…」
「…今更図々しいですが、お願いします」
「殺せんせー」
(…私を知っている?)
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから…」
「ですから…大事なのは経験ではなく、選択」
「あなたにしか出来ない選択の数々」
(わからない。わからないが、わかることがひとつ)
「責任を負う者について、話したことがありましたね」
「あの時の私にはわかりませんでしたが…。今なら理解できます」
「大人としての、責任と義務。その延長線上にあった、あなたの選択」
「それが意味する心延えも」
(あなたはきっと、私の生徒だ)
「ですから、先生」
「私が信じられる大人である、あなたになら」
「この捻れて歪んだ終着点とは、また別の結果を…」
「そこへ繫がる選択肢は…きっと見つかるはずです」
「だから先生、どうか…」
その言葉を最後に、意識は途切れる
「…い」
声がする。女性の声だ
「むにゃ…」
「…先生。起きてください」
「…あと5分待ってください…プリンが…
「殺せんせー!!」
そう呼ばれて飛び起きる
「…おはようございます?」
「…おはようございます。お疲れだったようですね。中々起きない程に熟睡されるとは」
目の前には、長い黒髪の、耳の尖った、頭の上に光輪を浮かべている、眼鏡をかけた女性が立っている
ふと濡れた感覚のする方へ目をやると、袖がヨダレで湿り、そこから人の、人間の手が見える。決して触手では無い
「…まだ、夢を見ているのでしょうか」
「…寝惚けてはいると思います。ちゃんと目を覚まして、集中してください」
コホン、と彼女が咳払いをして
「もう一度、改めて今の状況をお伝えします。よろしいですか?」
「よろしくおねがいします。本当に何もわかってないもので」
「…では。まず、私は
「…つまり私の生徒ということで、よろしいんですかね?」
「そうですね。私たちが呼び出した先生ですから。…そう、そのはずなのですが。私も、先生がここに来た経緯は詳しくは知りません」
「…呼び出した、のに知らないんですか?」
「はい。…混乱、されますよね。わかります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今は取り敢えず、私についてきてください。どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない仕事があります」
「早速仕事ですか。…今は、色々と細かいことは置いておきましょう。一体どんな仕事ですかね」
「…学園都市の命運をかけた大事なこと…ということにしておきましょう」
「それはそれは…ヌルフフフ…おっと、この笑い方、今だとどうなんでしょう。…まぁ、いいですかね」
「…?…取り敢えず、此方へ。エレベーターで一階に向かいます。見せたいものもありますから」
連れられるまま、エレベーターに乗る。ガラス張りのソレから、都市が見える
「キヴォトスへようこそ、先生」
「これは…素晴らしい景色ですね」
「…そう言っていただけると嬉しいですね。…ここ、キヴォトスは数千の学園が集まって出来ている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります」
「この規模の学園となると…ヌルフフフ。手入れのしがいがありそうですね。先生ワクワクしてきました」
「…きっと先生がいらっしゃったところとは色々と違っていて、慣れるのに苦労するだろう、と続けるつもりだったのですが。思いの外速く、慣れそうですね。あの連邦生徒会長がお選びになった方ですから、問題ないだろうとは思っていましたが」
「その連邦生徒会長は一体何処に?今、私たちが向かっている所にいるんでしょうか」
「…それは後でゆっくり説明することにして。着きましたよ。一階」
一階、レセプションルーム。訪問客を迎えるその場所は、多くの人が集まり、大きな喧騒を生んでいた
「…」
リンは隠しきれない苛立ちと共にその光景を見ている
「…いつもこうでは、ないんですよ、先生」
「ヌルフフフ…もう少し、肩の力を抜いたほうが良いですよ。七神さん。深呼吸からはじめましょう」
「…いえ、大丈夫です。行きましょう。目的地はまだまだ遠いので」
「そうですか?…ところで、ここに居る方々は皆が生徒、ということでいいのでしょうか」
「そうですね。この部屋にいる方々はそうです」
そう言って、スタスタ歩いていると
「ちょっと待って!」
一人が此方を、リンを見つけて近付いてくる。シンプルな丸い黒輪を頭の上に浮かべ、サブマシンガンを携行しているその生徒は、少し怒気を浮かべながら
「代行!見つけた!待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
と叫んだ
(…ここまで全て現実感が無くてスルーしていましたが、七神さんを含めて目に見える全員が武器を装備している。それも直ぐに発射する事が出来る状態で。一体どんな世界に迷い込んでしまったんでしょうね私は。これ、触手が生えてる私でも直ぐに馴染めたんじゃないですか?少なくとも獣耳とか羽とか角とか尻尾とか生えてる生徒は確認できますし。というかなんならロボットが見えますし。あそこまで滑らかに動ける程の技術力、
目が覚めてきたのか恣意が巡る。情報の整理は一瞬だった。色々な情報を目で確認していると、叫んでいた生徒と目が合った
「…うん?代行、隣の大人の方は?」
と尋ねて来るが、それに答えるより速く
「首席行政官。お待ちしておりました」
ボルトアクション式のスナイパーライフルを携えた、長い黒髪で黒い羽の生えた黒い制服の、色々と大きい生徒がそう言って近付いてきた。側には銀髪でサイドテールのような位置に羽の生えた生徒もいる。こちらも当然の様にアサルトライフルを持っている
そしてもう一人
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
とてつもなく重そうな医療バッグを携えた生徒がいた。人が一人入るくらいは余裕そうな大きさにパンパンに何かがつめこまれているそのバッグを軽々と持っている。拳銃を持ってはいるが医療バッグを振り回したほうが脅威になりそうだ
「あぁ…面倒な人たちに捕まってしまいましたね…」
とリンは溜息を吐いている。そして心底疲れた声で話し出す
「…こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった、生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ…大事な方々がここを訪れた理由は、よく分かっています。今学園都市に起きている混乱の責任を問うために…でしょう?」
「そこまでわかってるならなんとかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんかうちの学園の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
(…最初に話しかけてきた彼女が提げている証明書に書かれている『
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
(衛生兵と思われる彼女は随分視野が広いようだ。今も視線は七神さんの方に向けているが此方の様子も確認している。後方からの指揮を担当することが多いんでしょうね。武器にやはりロゴがある辺り、生産は学園毎に違うと見てほぼ間違いないでしょう。…市販品を買ったあとにカスタムしてるだけの可能性も普通にありましたね。危ない。カッコつけてたらダメだって
「スケバンのような不良たちが、登校中の生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
(生徒全員が武装しているのならそういったことはありうるとは思っていましたが、治安悪いですね
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
(増えすぎでは?…ともかくそういった事を記録するような公的組織であることはわかりました。いつ基準で増えた数値なのかがわかりませんが、以前から流通そのものは存在していて、それを記録として残すことのできる程には規模の大きい組織のようです。黒い制服に『
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」
(何週間もいない…あぁ、つまり仕事の内容は…)
「…連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
「…えっ!?」
「…!!」
「やはりあの噂は…」
「結論から言うと、サンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが…先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか?首席行政官」
「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
「この方が…?」
「ヌルフフフ…やっと自己紹介の時間をいただけそうですかね?」
「すみません、先生。お待たせしてしまい」
「キヴォトスではないところから来た方だとは思っていましたが…先生だったのですね」
(キヴォトスの外、という概念が明確にあるんですね…)
「では、自己紹介を。私は先生、かつての教え子達からは殺せない先生。略して殺せんせーと呼ばれていました。先生、割とこの呼ばれ方気に入ってるのでみなさんもそう呼んでいただけると嬉しいですね。ヌルフフフ…」
「殺せんせー…なんで殺せないって教え子たちに認識されてるのかすごく気になるけど今は置いておいて…。こ、こんにちは先生。私はミレニアムサイエンススクールの…い、いや、挨拶は今はどうでもよくて!」
「どうでもいい!?」
殺せんせーは結構落ち込んだ
「あっ!そのっ!違うんですよっそうじゃなくって!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続きをお話しますと」
「誰がうるさいって!?わ、私は
「はい、早瀬ユウカさん、ですね。よろしくおねがいします」
「よ、よろしくおねがいします!」
(なるほど。少し直情的な面が出やすい子のようだけど、優しい面もよく出るようだ。うーん。やっぱり手入れの出来る所が少なそうで寂しいですね。寧ろ私の方が手入れされてしまいそう。しっかり者っぽいですし)
「…続けます。先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問として此方に来ることになりました。連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘行為を行うことも可能です」
「大盤振る舞い過ぎませんか?」
「そうですね…。なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかはわかりませんが…。今は、先生をシャーレへ送り届けるという仕事を最優先事項としています」
「にゅや?何よりも大事なのは連邦生徒会長の捜索では…?」
(てっきり権限で普段立ち入ることのできない場所まで捜索に行く、とかが仕事だと思っていたのですが…。生徒の無事も早急に確認したいですし…)
殺せんせーがそう言うと、リンは目を伏せながら
「…連邦生徒会長の指示でシャーレの地下に『とあるモノ』を持ち込んでいます。それの機能があれば、現在の混乱をひとまず抑えられる。最優先事項としているのはその為です」
と小さく呟いた
「…すみません、一番探しに行きたいのは」
「どうか、そこまでに。…シャーレの部室はここから約30kmは離れた外郭地区にあります。時間も惜しいですしそろそろ向かわねば」
リンが誰かに通信を繋げる
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なのだけど」
通信がつながるとホログラムが映し出される。桃色の髪の少女はポテチを食べながら気怠げに話し出す
「シャーレの部室ー?…あぁ外郭地区の?そこ今大騒ぎだけど?」
「…大騒ぎ?」
オウム返しだった。だいぶ呆けた声だった
「矯正局を脱走した生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ」
「…うん?」
理解したくない事を聞いた。という声だった
「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?それでー、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの部室を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?」
「………」
もう絶句だった。目が据わりだしている
「まぁでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな…あ、リンせんぱーい。お昼ごはんのデリバリー来たからまた後で連絡するねー」
通信が切れた
「………」
リンはぷるぷると震えている
「…深呼吸…しましょうか…」
「………すぅー…はあぁぁー………。はい、大丈夫です。少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
リンが先程からずっと此方の話を聞いている生徒たちを見つめ始める
「な、何?どうして私達を見つめてるの?」
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「…え?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が、今切実に必要です。行きましょう」
「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!?」
to be continued in 『D.U.外郭地区-戦場』
2023/4/2
21:00
先生が殺せんせーなブルーアーカイブが見てぇ
2023/4/4
23:40
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私もびっくりだよ。取り敢えず私が見てぇと思ったイオリのとこと最終編のとあるシーンと今投稿してるプロローグだけは書いてある。あとはこの熱が持つかどうか
リンちゃんに深呼吸をさせたかった。それだけは伝えたかった
取り敢えず今回の予約投稿で送るのは今回含めて全3話です。本当は1話に収めようとしたんですが2万字になったので分けました