キヴォトスに赴任する殺せんせー   作:名無しの毛玉

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ゲヘナ風紀委員会

 

 

 

Vo1『アビドス対策委員会』

 

 

 

ドドドドカーーーーーン!!!

 

本日二度目となる爆発音だった。練度が高いのだろう。ゲヘナ風紀委員会の50mm迫撃砲は便利屋のみを狙い撃ちにした

 

 

「さ、流石に2回は無理…」

 

「くっ…この音…風紀委員の…」

 

「あー…もう…ちょっとダメそー…」

 

 

アルとカヨコとムツキが倒れる。ハルカも攻撃を受けていたが、まだ立っていた。倒れるアルを見つめて、不気味な程、静かだった

 

拡声器越しの声がする

 

 

「ゲヘナ風紀委員、銀鏡(しろみ)イオリだ!規則違反者を拘束しに来た!民間人は直ちに離れるように!妨害する場合、即座に敵とみなす!」

 

「…先に攻撃しといてそれ言う?」

 

 

セリカは眼の前でアルが爆撃されるという衝撃的な光景を目の当たりにして、うっすらキレていた。バイト先が吹き飛んだ原因が鎮圧済みだったので暴れられなかった事、自分が拐われた時に似たシチュエーションであった事もあり、既に臨戦態勢だった

 

 

「そこで倒れてる便利屋を渡してくれれば、直ぐに帰る」

 

「…ここは私たちの自治区です。他の学園の自治区で、これだけの規模の戦力による戦術的行動を取った事。…こんな暴挙を目の当たりにして、はいそうですかで終わらせることは出来ません」

 

 

アヤネも戦うつもりだった。セリカと同じく目の前でムツキが爆撃されて、出来上がった爆撃跡からセリカが誘拐された時を連想していた。片手には拳銃が握られている。後ろ手にホシノに通信を繋げているが、返信は無い

 

 

「たかが4人で一個中隊に勝てるとでも?」

 

「…」

 

 

シロコとノノミは無言で銃を構えた

 

 

「…仕方ない。風紀委員、総員…」

 

 

イオリは心底面倒そうに溜息を吐きながら銃を構えた。直後だった

 

ドドドドドカーーーーーン!!!

 

と、イオリの背後で何かが爆発した

 

 

「…!?」

 

 

イオリが振り向く。爆煙でよく見えないが、連れてきた歩兵が複数倒れている。

 

 

(誰がやった…?聞き慣れないタイプの爆発音…手榴弾の同時起爆か?だが投擲された気配は…投擲じゃなく設置…?この手口…倒れてた便利屋は…ひとり足りない…あいつ(ハルカ)か!?)

 

「許せない」

 

 

気が付けば、ハルカがイオリの背後にいた

 

 

「ちぃっ…!」

 

「許せない」

 

 

ハルカは、振り向くイオリの側頭部に銃床を叩きつけるとそのまま押し倒し馬乗りになる

 

 

「クソッ!離せっ!!」

 

「許せない」

 

 

馬乗りのまま、ハルカはイオリの背中にショットガンの銃口を押し付け、連射した

 

 

「許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!」

 

 

銃声と共にイオリの苦悶の声が聞こえる。やがてイオリのヘイローがチカチカと明滅を繰り返し、プツリと消えた

 

イオリの気絶を確認したハルカは、息を荒げながら戻ってくる。爆煙でイオリと分断された歩兵隊の追撃は無い。ハルカは一度、倒れているアルを見つめ、息を整えた

 

 

「…頭を潰せば他の風紀委員は大した事ありません。今の戦力でも、勝てると思います」

 

「なんというか…慣れてる?」

 

 

ハルカはニッコリと、少し歪んだ笑みを浮かべている

 

シロコは手榴弾を貸した後のハルカの淀みない動きに感心しながら殺せんせーに視線を向けた

 

 

「…ん。先生。指揮をおねがい」

 

「…その前に、話をする時間があってもいいと思いますよ。ねぇ?火宮さん」

 

 

殺せんせーの視線の先には、走ってきたであろうチナツの姿があった

 

 

「…止めていただき、ありがとうございます、先生」

 

「こちらこそ、連絡を取ってくれて助かりました」

 

「…ちなみにですが先生は便利屋を引き渡すことに関しては?」

 

「反対ですねぇ。こちらにも色々と事情がありまして」

 

「…でしょうね。…今回の件に関しては私からではなく、アコ行政官からお話があります」

 

 

チナツが通信端末を取り出し、ホログラムが投影される

 

 

「…はじめまして、シャーレの先生。私はゲヘナ学園、風紀委員会所属、天雨(あまう)アコと申します」

 

 

ニコッと、温和に微笑む生徒。青い髪のその生徒を見て流石の殺せんせーもツッコミを入れたくなった

 

 

(その横乳の出るファッションは一体…。イリーナ先生でもあそこまでのファッションは…していたかもしれません)

 

 

色々な状況をほっぽりだして其処に目がいった。これまでにもハスミのスカートのスリットなど、セクシーな服装はあった。が、あれは銃を撃つ際に素早くしゃがんだりする等の機能的な理由があった。…これはなんだろう?

 

 

(…本人に聞く訳にもいきませんしねぇ)

 

 

これまでの生徒が女性ばかりなのもあって殺せんせーはセクハラに対して過敏になっていた

 

 

「はじめまして、天雨さん。私の事は火宮さんから?」

 

 

そんな事を思っているとは感じさせない声で返事をする

 

 

「ええ。昨日」

 

(…報告書、だいぶ前に提出したんですけどね)

 

 

チナツは溜息を吐きたくなったが我慢した。そのままイオリに近付いていき、鞄から注射器を取り出し、刺した。とても慣れた治療だった

 

 

「そちらのアビドスの方々は生徒会ということで、あっていますか?」

 

「…生徒会、ではなく対策委員会です」

 

「あら、ではこの場に生徒会はいないと。…確か、奥空さん…でしたよね?生徒会の方を交えた話し合いをしたいと思っていたのですが、お呼びいただく事は可能ですか?」

 

「…生徒会はもう解散しています。事実上、私たちが生徒会を代理しています。用件は私たちがお聞きします」

 

「…では最初に。先程までの愚行は私から謝罪を。私たちゲヘナの風紀委員はあくまで、便利屋68という校則違反者を逮捕するために来ただけです。此方でも中々手を焼く面倒な生徒たちで…やむを得なかった、ということでご理解いただきますと幸いです。風紀委員としての活動にご協力いただきたいのですが…お願いできませんか?」

 

「…そもそも他学園の自治区での戦闘行為は自治権の観点から明確な違法です。何処の学園でも恐らくそうでしょう。例え便利屋のみなさんが私たちの学園で違反行為をしたとしても、それを対処するのは私たちの仕事です。処遇も私たちが決めます。なにより、今回便利屋のみなさんは、私たちアビドス対策委員会の、客人…のようなものですから。勝手な事をされては困ります」

 

「…なるほど。…他のみなさんも同じ考えのようですね」

 

 

アコが便利屋の治療をしている対策委員会を見る

 

シロコはハルカを、セリカはアルを、ノノミはカヨコを、アヤネのドローンがムツキを、それぞれ救援物資で治療している

 

唯一ハッキリ意識のあるハルカは「わ、私なんかにそんな事をしていただかなくても、へ、平気ですから、あの、その」と、アワアワしている

 

殺せんせーは傭兵(バイト)の面々に解散の指示を出していた。傭兵(バイト)たちは心配そうに帰っていった

 

 

「…あの傭兵(バイト)の方々は戦力ではないのですか?」

 

「そうですね。私たちの戦力ではありません」

 

「…この兵力を前にして、少しでも戦力を増やそうとするのが普通でしょうに。…全く怯む様子はなく、むしろ自信に満ちている。…あなたの手腕ですか?先生?」

 

「ヌルフフフ…さて、どうでしょう」

 

「…先生、あなたも、対策委員会と同じご意見で?」

 

「そうですねぇ。便利屋のみなさんを連れて行かれてしまうと、先生困ってしまいますね」

 

「…どうしたものですかね。イオリは寝ていますし。チナツさんも先生とは戦いたくないと言いますし。…仕方ありませんね。みなさん、準備を」

 

 

アコがそう合図を出すと、軍靴の音が聞こえはじめた

 

 

「…これだけの兵力があれば、シャーレの先生といえど、すり潰す事も可能でしょう?」

 

 

音は四方から。全て中隊規模。統率の取れた軍隊が包囲網を敷いていた

 

 

「…何故こんなことを?先生はまだキヴォトス(ここ)の常識をまだ覚えきれていませんが、これだけの規模の戦力を他学園の自治区に投入する行為を無許可で行うのはダメなのでは?」

 

「…それだけの価値があなたにはありますから、シャーレの先生。…だってどう考えても怪しいじゃないですか。条約の締結に忙しい時期に突然現れた前歴不明の大人が、超法規的措置を行える権限を持つ組織を率いて、ひとつの学園を支援し始める。その上、初日に既に正義実現委員会と繋がりを持ち、先日はティーパーティーとも繋がりを持ったそうで」

 

(ヒフミさんがティーパーティーにブラックマーケットの報告を出した時にシャーレの情報がゲヘナに伝わった…と。…相当仲が悪いみたいですね、トリニティとゲヘナ)

 

「余りにも不確定すぎるシャーレという変数が、条約にどのような影響をもたらすのかまるで分からない。ただでさえ忙しいのに、あちこち動き回るであろう先生の様子を監視する余裕はない。なので…シャーレにトリニティや他学園からの戦力が増える前に、我々の手に負えなくなる前に、此方で先生を確保しておこうかと。手元にいてくれたほうが楽ですから」

 

「…つまるところ、便利屋のみなさんはついでで、先生を連れて行く事が本来の目的だった。…そういうことですか?」

 

「まぁ、そうですね。それが必要な事だと判断しました。此方に遠慮する気はありません。そちらは?」

 

 

そう問われた殺せんせーは対策委員会の面々を見る。全員、やる気満々で頷いている

 

 

「…ひとつ聞いておきたいのですが、よろしいですか?」

 

「…?はい、なんでしょう」

 

「私の身柄は生死問わずですか?それとも生け捕り?」

 

「…先生はキヴォトスの外から来た方ですよね」

 

「そうですね」

 

「では、怪我にはお気を付けて。対策委員会のみなさんを制圧した後で、安全に確保して差し上げます」

 

「…ヌルフフフ」

 

 

殺せんせーが風紀委員会の歩兵部隊に近付いていく

 

 

「あら、降伏ですか?先生」

 

「昔話になりますが」

 

「…?」

 

 

殺せんせーが風紀委員会の歩兵部隊のひとりに近付く

 

 

「キヴォトスに来る前でも先生をしていましてね。そこでは殺せない先生、ということで殺せんせーと呼ばれていました」

 

「…生徒に命でも狙われてたんですか?」

 

「実際その通りでしてね」

 

「………はぁ…?」

 

 

殺せんせーが徐ろに黄色い縄を取り出した。なんかぷるぷるしている

 

 

「なのでまぁ安心してください」

 

 

一瞬だった。「なんでこの人こんな至近距離まで近付いて…?」と理解が追い付かずにぽーっとしていた歩兵の生徒は銃を縄で絡め取られそのまま腕も後ろ手に拘束され更にぐるぐると巻かれた

 

殺せんせーは弧を描くように口角を上げた笑みを浮かべている

 

 

「流れ弾くらいなら先生には当たりませんから、気にせず戦ってくださいね?」

 

 

それが開戦の合図だった

 

 

「前に」

 

「い、行きます!」

 

 

シロコとハルカが突貫する。銃で牽制し手榴弾でまとめて敵を撃破していく。シロコはこの場にいないホシノと目の前のハルカを見本にして前衛としての戦い方を学びながら戦っていた

 

一方の後衛。セリカは近付いてくる歩兵部隊はシロコたちに任せて、防衛に専念していた

 

 

「こっちには近付かせないわよ!」

 

 

時折降ってくる擲弾兵からの攻撃を、セリカは迎撃する。飛んでくる弾を耳で聞き分け、味方に当たりそうなものを素早く撃つ。「いつか戦車の弾だって撃ち落としてやるわ!」と、あの日誘拐された時から練習していた攻撃的な防衛方法。神秘(怒り)によって銃弾の速さが変わる、着弾前に攻撃出来る、セリカだけの戦法だった

 

 

「ふふふ♪セリカちゃん、頼りにしてますね♪それじゃー、ノノミーいきまーす!」

 

 

ノノミが銃で敵を薙ぎ払う。シロコとハルカと殺せんせーもいる戦場に向けて、誤射なく敵を撃ち抜いていく。シッテムの箱がダウンして、耐久力の情報や敵味方の識別マーカーなどの情報が無くても、ノノミがやることは変わらない。倒れるまで急所に当てる。繊細かつ豪快な戦い方で、敵の数を減らしていく

 

 

「うーん!ノノミさんのマシンガン、結構スレスレ飛んでいってヒヤヒヤしますね!絶対に当たらないと確信してるのでむしろ警戒出来なくて先生怖い!」

 

 

情けない声を出しながら殺せんせーは次々と敵を捕縛している。「撃ってもいいのかな…!?」と生身で突っ込んでくる殺せんせーを見ながら狼狽える敵を、持っている銃の手入れ具合を褒めながら無力化していく

 

殺せんせーが使っている縄。鞭のような扱いをしても、もっちりぷにっと安心安全な、偶然クラフトチェンバーから出てきた触手のような縄。殺せんせーは最初「これアカンやつでは…?」と思っていた。ミレニアムサイエンススクール(ユウカがいる学校)に調査を依頼したところ「危険性は無い」と返ってきた。モモフレンズのウェーブキャットというマスコットの人形などにも使われている素材らしい。「ぷにぷにマスコット枠は先生のものなのに…!」と、殺せんせーはモモフレンズをライバル視していた

 

 

「…ふふふ。やってくれるじゃない」

 

「…ヒナはいないし。やれるよ、社長」

 

 

少し時間が経ち、動きがまだぎこちないものの便利屋も復帰した。カヨコの愛銃(デモンズロア)の銃声に慣れていない対策委員会が戦場にいるため、敵の動きを止めることは出来ないが、それでもアルの腕は確かだった。カヨコが核になりうる撃つべき敵を見極め、アルが確実に撃破する

 

 

「くふふ、メガネっ娘ちゃん大変そうだねー?」

 

「いえ!これくらい先生が来るまではいつもの事でしたから!…所で何をやってるんですか!?」

 

 

アヤネはドローンを操作していた。シッテムの箱は殺せんせーを守ってダウンしているため、アヤネが戦場の情報収集をし、味方に伝達している。シロコやハルカへの補給も、セリカへの擲弾兵の攻撃タイミングの伝達も、ホシノへの連絡も、アヤネがひとりでやっていた

 

 

「声からしていっぱいいっぱいだけどねー?で、これ?爆弾は全部誘爆しちゃったからさー。ちょっとその辺に倒れてる子から弾薬借りて即席で作ったの」

 

 

ムツキが何かを地面に設置する。材料は弾薬の火薬と崩れた柴関の瓦礫。目が覚めてからの短時間、ありあわせの材料、ぶっつけ本番。ムツキは楽しそうに笑っている。獰猛な獣の様に、餌となる敵を見ながら笑っている

 

 

「あはっ♪ちょっと色が単調なのが残念だけどー、たーくさん作ったからー、よーく味わってね?いっくよー!ムツキちゃん特製花火ー!」

 

 

火が着けられる。瓦礫で出来たロケット花火は何故かホーミングしながら敵に着弾していく。ノノミに並ぶ程の被害を敵に与えながら、ムツキは次の花火を楽しそうに用意していた

 

 

 

 

 

風紀委員の被害が増えていく

 

 

「…なるほど」

 

 

先行部隊、捕縛

第一中隊、全滅

第二中隊、全滅

第三中隊、弾薬枯渇

第四中隊、壊滅間近

 

 

シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ、殺せんせー、アル、ムツキ、カヨコ、ハルカ。僅か9人に対処される異常事態

 

 

「怪我をさせないように、と最初に指示したのが仇になりましたね」

 

 

銃で撃たれても普通は死なないキヴォトスの生徒にとって、銃弾一発で死ぬかもしれない殺せんせーが生身で戦場に出ている事は恐怖でしかなかった。たった一発撃っただけで、人殺しになってしまうかもしれないという恐怖が、引き金を重くした

 

 

「…疲労は溜まっている筈です。このまま人海戦術で押し潰していけば…ふふ。これ以上は流石に大目玉ですね…」

 

 

第四中隊も全滅した。対策委員会と便利屋が合流しはじめる中で、アコは殺せんせーに通信を繋げる

 

 

「…お見事です。もう少し慎重に進めるべきでしたね」

 

「ヌルフフフ…いえいえ。今回は先生ちょっとズルをしましたからね。あまり自分の身を顧みない戦い方を見せるのは教育上良くないですし。…あとでメンタルケアをしにゲヘナに立ち寄らせてもらいますね」

 

「え?…あぁ、はい。わかりました。予定に加えておきます。…こうやって戦ったというのに随分気安いんですね?」

 

「まぁみなさんも生徒ですから。それに先生、ゲヘナには問題児が多いと聞いてちょっとワクワクしてるんですよね」

 

「変わってますね…」

 

「ところで天雨さん。まだ続ける気ですか?」

 

「そうですね。…まだ奥空さんが警戒を解いてないので、もうバレてると思ってますから言いますが、はい。少なくとも第八中隊までこの場に残っていますから」

 

「ヌルフフフ…そうですか。まだまだ我々は余裕ですよ?」

 

 

殺せんせーはニヤニヤと笑っている。ノノミとムツキも楽しそうに笑っている。シロコとセリカはまだまだ戦う気でいるし、アルは強がっているし、ハルカは目が据わっているし、アヤネとカヨコはアコのホログラムをじっと見つめている

 

 

「…だからといって諦められるほど、あなたのことが信用できないんですよ。先生」

 

「にゅやっ!?か、悲しい…。直球で信用出来ないって生徒に…」

 

「えぇ…。今日一番ダメージ受けてませんか…?…言葉攻めすれば、或いは?」

 

「ん、その度に先生を褒めればバランスは取れる」

 

「シロコ先輩ちょっとこっちに」

 

 

シロコがアヤネに口を塞がれた。特に抵抗することもなく大人しくしている

 

 

「…ですので、これが私の答えです」

 

 

再び軍靴が聞こえてくる。四方から再び中隊が迫る中で、イオリの目が覚める

 

 

「…あー。背中痛い」

 

「丁度いい時に起きましたねイオリ」

 

「アコちゃん…?おはよう…。………そうだ便利屋!?」

 

「反省文のテンプレートはいつもの所にありますからね、イオリ」

 

「うっ…。…あー!もう!絶対に許さないからな陸八魔アル!」

 

「なんで私!?」

 

「社長なんだろ!?部下のやったことの責任は取ってもらうからな!」

 

「くっ…!確かに…!」

 

「いや納得するんじゃないわよ…」

 

「…イオリがいると面倒だよ、社長。万全でもハルカ以外耐えられないのに」

 

「わ、私が囮になりましょうか!?なります!」

 

「はいはいハルカちゃんステイステイ」

 

 

イオリとハルカが睨み合っている。お互い合図が出たら即座に動き出せる構えで指示を待っている

 

チナツは全滅した第四中隊までの風紀委員をワンオペで治療している。医療鞄からどんどん注射器が取り出されているが減っているように見えない

 

アコが手を上げて指示を出そうとしている

 

 

「さて…三度目の正直です。ゲヘナ風紀委員会、総員…!」

 

「アコ」

 

「はい!なんでしょうヒナ委員長!…ヒナ委員長?………えっ!?」

 

 

ホログラムが増える。ホシノと近しい小柄な体躯。とても長くふわふわもこもことした白い髪。これまで殺せんせーが出会った生徒の中でも特に大きい、巨大と言っていいヘイロー。銃はMG42

 

ホログラム越しに。…いや、直接目と目が合った。未だ遠く、殺せんせー以外は気付いていないものの、既に現地にヒナはいた

 

ヒナは目が合った事に周りからは分からない程度に目を丸くして、何事もなかったように通信を再開した

 

 

「…今どこにいるの。仕事が終わったから必要なら応援に、と思ったのだけど」

 

「えっと。げ、ゲヘナ市内のパトロールを他のみなさんと」

 

「…ふぅん?」

 

 

ゆっくりと歩いてくる。中隊の間を、チナツの横を、イオリとハルカの睨み合いの隣を、歩いている

 

 

「あの、その、そう!迅速に処理いたしますので後程またご連絡いたします!今立て込んでまして!」

 

「パトロールで立て込む。…珍しい。アコが立て込むような事案なら、私、必要じゃない?こんな規模のメンバーを動かさないといけないような事なら尚更」

 

「…え?」

 

 

ヒナの姿がホログラムに並ぶ。殺せんせーの前に、ヒナは立っていた

 

 

「…えっ?」

 

「委員長!?一体いつから!?」

 

「さっき。…はじめまして、先生。ゲヘナ学園、風紀委員会、委員長、空崎(そらさき)ヒナ。…最悪の初対面でごめんなさい」

 

「いえいえ。今の歩き方だけでも、今迄のがんばりが伝わってきましたから。はじめまして、空崎さん。私は先生、殺せんせーです。よろしくおねがいしますね」

 

「…これが出来ないと、普段歩くだけでも絡まれて面倒だから。…よろしく、シャーレの先生。…アコ」

 

「は、はい…」

 

「事情は…別にいい。ゲヘナにとっての不安要素の排除。それを風紀委員会が行う範疇でやってくれれば、何も言わない。…今回のは別。ティーパーティーやシャーレや連邦生徒会。そういう政治が絡む活動は万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)のたぬきたちにでも任せておけばいい。…少し頭を冷やしていなさい、アコ。詳しいことは帰ってから聞くから」

 

「………はい」

 

 

ものすごくシュンと落ち込んで、アコは通信を切った

 

 

「…あの、委員長」

 

「イオリ、大人しくしてて。チナツは…うん。がんばって」

 

 

この場に救護活動専門の生徒はチナツしかいなかった

 

ヒナは便利屋に視線を向ける。ムツキとカヨコとハルカは心配そうにアルを見ている。アルは余裕の笑みを浮かべていたが内心では(ヒナが来ちゃったー!ど、どうしよう!?今からでも逃げた方が!?でも対策委員会(仲間)を置いて逃げるのはかっこ悪いし…!?)と慌てていた

 

次に対策委員会に視線を向ける。シロコとノノミとセリカは武器を構えて立っている。アヤネは(ゲヘナの風紀委員長の強さはアビドスにも伝わる程…この戦力で勝てる気はあまり…ホシノ先輩…今は何処に…)と焦っていた

 

次に改めて殺せんせーを見る。何故かとても楽しそうに生徒たちを見ている。ヒナの視線に気付くと小さく手を振った。ヒナは控えめに振り返した

 

 

「…この場に交渉を担当する生徒は?」

 

「…私です。アビドス対策委員会所属、奥空アヤネ。…何か、聞きたい事でも」

 

「…ひとつ」

 

「…はい、なんでしょうか」

 

「小鳥遊ホシノはどこ?」

 

「…へっ?ホシノ先輩ですか…?ホシノ先輩は休日で…呼んでも来なくて…。あの…お知り合いですか?」

 

「そういうわけじゃない。在校生名簿を来る前に確認したら、いたから。…そう、今はいないの」

 

「いえ、来てますよ、ホシノさん」

 

 

殺せんせーが視線を向ける。直前まで走って来ていたが、殺せんせーに見られている事に気付いて普段通りのゆったりさで歩いてきているホシノがいた

 

ヒナはホシノを視認すると、奇妙なものを見た、とでも言いたげに目を丸くしていた

 

 

「うへー…遅刻しちゃったー?ごめんねー。お昼寝が気持ちよくてさー」

 

「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!?」

 

「ん。でも大体片付いてる」

 

「これから大変になりそうですが…」

 

「…そうみたいだねー。制服からしてゲヘナの風紀委員会でしょ?アルちゃんたちでも追ってきたの?」

 

「…………」

 

 

ヒナは返事をせずにホシノを観察している。ホシノもヒナを観察している。互いの視線が合う

 

 

「…なんでもいいけどさー。対策委員会はこれで勢揃いだけど。やり合う?ゲヘナの風紀委員長ちゃん」

 

「…1年生の時とは随分変わった」

 

「ありゃ、会ったことあったっけ」

 

「いいえ。…ただ、ゲヘナでは調べ物をすることが多かったから。…アビドスの事件も知ってる」

 

「………」

 

「あの事件の後、アビドスを去ったと思っていたのだけど」

 

 

ホシノは笑顔を崩さない。それでもヒナはその姿を見て、何かを納得していた

 

 

「やり合いはしない。戦う為に来た訳じゃないから」

 

「うへー、よかったー。おじさんこの歳になると体動かすの辛いからさー」

 

「…同い年でしょ?…イオリ」

 

「は、はい…」

 

「撤収準備。帰るよ」

 

「…えっ!?目の前に便利屋いるのに!?」

 

「…聞こえなかった?」

 

「あ、う…はい…。…撤収するぞ!」

 

 

イオリが大きな声で撤収作業を始める。「なんでこんな解けないんだこの縄!」とキレながら言葉の強さに反して気遣いを感じる優しい手付きで捕縛された風紀委員の縄を解いていた

 

 

「…アビドス対策委員会、代表はあなた?小鳥遊ホシノ」

 

「まーそうだねー。年齢的に一番上だし?」

 

「…なら、あなたに」

 

 

ヒナは、大きく頭を下げた

 

 

「えっ?」

 

「…事前通達無しでの無断兵力運用。他校の自治区で騒ぎを起こした事。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナ風紀委員会の委員長として、アビドス対策委員会に対して公式に謝罪する。今後、ゲヘナの風紀委員会が無断で侵入することは無いと、約束する。…どうか許してほしい」

 

「…私は今回何も出来なかったからなー。アヤネちゃんどう?」

 

「わ、私ですか!?…だ、大丈夫です。痕が残るような被害は出ていませんし、はい。ゆ、許します。頭を上げてください」

 

「…ありがとう」

 

 

ヒナは頭を上げると、そのまま帰ろうとして、何かを思い出してもう一度向き直った

 

 

「…これがあなたたちにとって、有益かそうでないかが分からないけど。情報をひとつ」

 

「なにかな?」

 

「アビドス砂漠。そこでカイザーコーポレーションに不審な動きあり。…余りにも内容が不透明過ぎて、情報として上には伝わってないけど、一応伝えておく」

 

「…りょーかい。ありがとねー風紀委員長ちゃん」

 

 

風紀委員会が撤収していく。縄も殺せんせーに返却され、倒れていた風紀委員は治療され、空薬莢の清掃も終わらせて、風のように去っていった

 

 

「…分からない事だらけだねー。風紀委員長ちゃんがアビドスに来た理由も、アビドス砂漠でカイザーが何をやってるのかも」

 

「あとホシノ先輩がどこで昼寝してたのかもね…」

 

「…セリカちゃん?その手は何かなー…おじさんちょっと用事思い出したから帰りたいんだけど」

 

「逃しませんよ」

 

「アヤネちゃんまで!?」

 

 

このあとホシノは怒れる1年生たちによってもみくちゃにされた

 

 

 

to be continued in 『アビドス砂漠』

 

 

 




2023/4/21/19:05予約投稿ぽちー

ってする予定がミスった


近況報告
マグロナ様のブルアカ配信はいいぞ(RoK推し活参加者)
暗殺教室を紙の本で買ってきた


殺せんせー戦わせるかすげぇ迷ったけど今回の件は殺せんせー本人が狙われてるから戦わせた。普段は生徒を見守る方針
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