キヴォトスに赴任する殺せんせー 作:名無しの毛玉
Vo1『アビドス対策委員会』
「大将、大丈夫?」
アビドス砂漠でカイザーに動きあり、ヒナからその情報をもらって即アビドス砂漠へ…とはいかず。対策委員会は柴関の大将のお見舞いに行っていた
「おう、大丈夫だよセリカちゃん。…にしても、対策委員会に先生に便利屋と揃い踏みかい」
住人がいないから患者もいないアビドスの病院。患者が4人入れる病室は大将の貸し切り状態。10人の見舞客が入ってもまだスペースがあるくらい広かった
「ま、ちょっと擦りむいただけだ。骨折とかもしてねぇし、明日明後日辺りにゃ治るだろうよ」
「でも、大将お店が…」
「あぁ、バイト出来なくなっちまってごめんな、セリカちゃん」
「そういう問題じゃなくて…!」
「便利屋の嬢ちゃんたちも、悪いな。しばらく報酬は払えそうにない」
「…しばらく、ねぇ」
アルと大将が真っ直ぐ視線を合わせる
「…良かったわ、払ってくれる気はあるのね」
「あぁ、がんばるって決めたもんでな。これぐらいでへこたれやしねぇよ。客がいるなら柴関は続くさ」
「…私たちみたいな客がいて、大将がそこにいて、そこでラーメンが食べられるなら、どんな所だってそこは柴関よ。報酬もらった後も来るから、逃げるんじゃないわよ、大将?」
「…いやぁ、予約までもらっちまった。こりゃ、やめられそうにないな」
大将がニコニコと笑っている。アルは「決まった…!」と内心大興奮している。カッコイイ台詞言えた!とウッキウキだった。そんなアルを見てムツキはニヤニヤしているし、ハルカはキラキラしているし、カヨコは微笑んでいた
「むぅ…アルちゃんたち何かズルいですね…柴関の常連は私たちなのに…」
「ん…私たちだってまだまだ柴関のラーメンを食べたい」
「先生にもまだまだ奢ってもらいたいしねー」
「にゅやっ!?ホシノさんまだ先生から絞るつもりですか!?」
「もうバイト先に先輩たちが来るの慣れたけど…。はぁ…良かったぁ…柴関でまだ働けるんだ…」
「あはは…でも本当に良かったです。お店はまたあそこに再建を?」
「ん?そうだなぁ…。どのみち退去しろって言われてたし、屋台で再開でもするかぁ」
そんな大将の言葉を聞いた瞬間、対策委員会がピシリと固まる
「…あー、メガネっ娘ちゃんたち本当に知らなかったんだー」
「えっ!?知ってたんですか!?」
「店が吹き飛ぶちょっと前に聞いちゃったんだよねー。あ、聞いた上で手伝うって依頼受けてるから、ちゃんと助けるから安心してね?」
「あれってそういうことだったんですか!?」
驚くアヤネ。ムツキが「隙ありー!」とアヤネの眼鏡を奪ってアルに眼鏡を装備させた。「…見えるけど、度つよいわね…」とアヤネの視力をアルは心配していた。アヤネがおろおろして立っていたのでアルは直ぐに返した
アヤネがムツキの方を見ながらぷるぷるしているのを見て、殺せんせーがアヤネにハリセンを手渡した。とてもいい音が病室に響いた
「…アビドス自治区が、アビドス高校の物じゃない…?」
ホシノは、普段なら笑いながら見る光景が、目に映っていないように呆けていた。いったいいつからそうなのか。入学前なら、まだいい。何も良くないが、ただ手遅れだっただけだ。入学後だとしたら
(ホシノちゃん)
「…そんなはず、ないか」
そこで思考を止めた。何かが壊れそうだったから。何かを壊しそうだったから。それでも、何故土地の所有者がアビドスではないのか、なんとなく分かった
「…大将」
「なんだい?」
「土地の所有者は?」
「カイザーなんとかってとこだよ」
「…やっぱり返済目的かー」
「…土地を売って返済しようとした」
「そうなると…私たちの土地はどれくらい残ってるんでしょうか…」
「し、調べてみます!」
アヤネが病室でパソコンを開き、調べ物をはじめる。カヨコがその様子を後ろから見ている。しれっとアビドスの秘匿情報を仕入れようとしていた
「…借金もカイザー。土地の所有者もカイザー。ブラックマーケットでもカイザー。なんなら近場のコンビニもだいたいカイザー。…カイザーだらけで、いやになるね」
「あーもう!イライラするわね!ブラックマーケットの時みたいに全部カイザーが悪かったらぶっ飛ばせるのに!」
「…本当に、全部カイザーの仕業だったら?」
「シロコちゃん…?」
「元々、アビドスの土地が目的で、手に負えない量のお金を貸していたとしたら」
「…あー。発想が飛躍し過ぎじゃない?って思ったけど、ありうるか。…膨大な借金、利子すら返せない状態で、使い道のない砂漠でも売ったらどう?って感じだったのかな。最初は」
「…借金を返せないと判断されれば学校はカイザーが運営する銀行のもとに、借金を返そうと思って土地を売れば買手のカイザーに、そんなことしなくても返せると見れば妨害に。…ダメですね、最初からカイザーが糸を引いていたとしか思えなくなってきました」
「…でもこれを公的に証明する方法は無いんだよねー。多分数十年は前の事だし。それだけ時間が経ってれば怪しい部分の隠蔽くらいしてるでしょ」
「…今持ってる情報でカイザーに繋がる手掛かりはひとつ」
「アビドス砂漠、くらいだよねぇ」
アビドス砂漠へ向かう理由がひとつ増えた、そんな中でアヤネの調査が終わった
「…結論から言います。アビドスが所持している土地は、普段使っている校舎とその周辺の土地だけです」
「そこ以外全部カイザーかぁ…」
「…てことは大将とか他のバイトのみんなの家も…?」
「ん?あぁ…まぁ、そうだな。基本アビドスにいるのは土地をカイザーに握られて、それでも此処から離れたくねぇって居る奴らばかりだよ」
「…ごめんなさい。…大人も、大変だったんだ…」
「いや、此方こそごめんな。…お互いに、アイツラは助けてくれないからって理由で遠ざけてた訳か。…ま!これからは改めてお互い助け合っていこう、セリカちゃん。…カイザーに全部渡しちまうつもりはねぇんだろ?」
「…当たり前でしょ!学校も柴関も住宅街も砂漠も!全部うちの自治区なんだから!カイザーなんかに渡さないわ!」
セリカの堂々とした啖呵にパチパチパチパチと拍手が送られる。音にセリカが振り向く
満面の笑みで拍手をするノノミと
後方先輩面で「うんうん…セリカは良い子…」とドヤ顔をしているシロコと
「セリカちゃん…」と感極まって普通に泣きそうなアヤネと
「私の仕事仲間ならこのぐらい当然ね…」と悪役っぽい面をして全力の拍手を送っているアルと
アルにつられて拍手をするハルカと
なんとなく合わせて拍手するカヨコと
からかう気満々で拍手するムツキと
「うちのセリカちゃんが立派になって…」と子の成長を見た親のような寸劇をするホシノと殺せんせーがいた
セリカの耳がピンッと立ち、頬が、どころか顔全体が真っ赤に染まった
「な、な、なぁ!?なによ、この雰囲気!?私がまともな事言ったらおかしいわけ!?」
「いえいえまさかヌルフフフ…。ではまぁ、向かいますか。アビドス砂漠へ」
「おー!」と、異口同音に元気な声が病室に響いた
アビドス砂漠。砂漠化以前から砂漠として存在していた場所。観光名所だったのか、かろうじて手前までは列車で向かうことが出来る。対策委員会と殺せんせーは列車で行ける所まで行って、目的地まで歩いていた
なお便利屋は「調理器具でも残ってないか探すわ」と言って柴関跡地に戻り後片付けをしている。「大将の思い出の道具とかあったら見つけ出したい…」というのがアルの本音だった
対策委員会が砂漠を歩く。砂嵐、と呼ぶほどでは無いが、強い風が吹いている。耳に砂が入るのを鬱陶しく思いながら、セリカが口を開く
「…なーんにもないわね」
「昔はあったらしいけど、今はねー…。確かこの辺だったかな。アビドス砂祭り名物、船が浮かぶくらい大きなオアシス」
「…跡すら分からないくらい砂だらけ」
「まぁ何十年も前の事だしね。案外掘り起こせば出てくるのかもしれないけど、そんな暇ないし。ところでアヤネちゃん、周辺の様子はどう?なにかある?」
「えっと…いくつかの敵性反応、これは暴走するオートマタやドローンですね。所属不明の警備ロボットがいくつか、ロゴの類はなく識別コードも不明です。あとは…遠方に何か…巨大な施設のようなものがあります。すみません…砂埃でよく確認出来なくて…」
「…先生は?見える?」
「えぇ、見えてますよ。…有刺鉄線に囲まれた建物が」
「…ビンゴかな。…でもこの場所って…」
「…さて、ちょっと授業の時間です」
「先生…?」
殺せんせーがシッテムの箱を起動する
『…おはようございます、殺せんせー…。落ちちゃってすみません…』
「守ってくれたからいいんですよ」、と文字を打ち込む事で返事をして、周辺情報を読み込む
「問題として、今いるこの場所はカイザーという企業の私有地です。対策委員会だけでは見つかった時点で不法侵入の罪で捕まってしまうでしょう。逃げ切れたとしても対策委員会がいた、と認識された時点でアウト。言い掛かりの材料を与えてしまった時点で何かしらの行動に移るでしょう。金利を上げたり、正式な治安取締機関に逮捕を依頼したり。…さて、では誰にも見つからず情報を得る方法は?」
「…潜入する。監視カメラ、警備員の動線、施設の地図、全て把握する。…普段なら何日もかかる作業。…でも先生の指揮があれば、別」
「ヌルフフフ…。ブラックマーケットではみなさんにお任せしましたがちょっと先生もがんばってるところ見せたいのではりきっちゃいますよぉ?」
『情報収集完了です!』
アロナもはりきっている。普段なら敵の耐久力の情報であったり弱点の情報を送信するが今回は省略。敵のおおよその視界や動線予測、部屋の形状情報が送られてくる
「うーん、至れり尽くせり。ピクニック気分で工場見学出来そうですね」
「…改めて先生が味方で良かったよ」
「ん。かくれんぼじゃ絶対勝てない」
「鬼ごっこでも負ける気はありませんよ?では行きましょうか」
本当に遠足の先導をするようなノリで殺せんせーが歩き、対策委員会が後に続く。侵入直後はみな警戒していたが、殺せんせーが警備員の気を逸らしたり、監視カメラをハッキングしたり、扉の鍵をアナログデジタル問わず簡単に開け締めするのを見て「なんでもあり…?」とドン引きしていた。シロコとノノミの目は輝いていた
「わぁ…!先生、怪盗みたいでカッコいいです!」
「ヌルフフフ…今回は失敗が致命傷になりかねないので先生がやってますが、教わりたかったら教えますので気軽に聞きに来てくださいね?」
「ん!ん!」
「うぅん…。シロコちゃんの学習意欲の高さよ…」
そう言いつつもホシノは鍵開けを教えてもらおうと思っていた。ショットガンというマスターキーはあるもののバレずに開けられるならそれに越したことはない。それに武器無しで閉じ込められる機会があるかもしれないから扉を開ける方法は多めに知っておいたほうが良い。シロコの学習意欲の高さはホシノ譲りだった
「さて…着きましたよ。大量の作業員がいる現場を一望出来る場所です」
「…これって」
直径200mはあるだろう広さの、深さ不明の大穴、千を超えるオートマタ、砂を運び出すドローンの群れ、作業の邪魔になる岩を砲撃で消すゴリアテの軍団。血を流す存在のいない、効率を最優先した作業現場が対策委員会の眼の前に広がっていた
「パッと見た感じ発掘現場…ですよね?」
「…すごい数のオートマタ。正規も非正規も無差別に集められてる」
「でもこういう工事現場によくいる
「情報が外に出回らないようにしてるんですかね…」
「なにを掘ってるのかな…。オアシスとか…?」
「数十年もこんな事をする程、この発掘作業は利益が出るものなのでしょうか…?」
「石油などの地下資源はアビドスにはもう無いはずです。調査結果が残っていました」
「じゃあアビドスの借金がチャラになるくらいのお宝とか?」
「…つまりカイザーより先に私たちが掘り当てれば」
「いやぁー、これだけ作業員がいても数十年かかってるのにそれはちょっとねー」
「そっか…。…じゃあ発掘が終わったら盗む」
「こんな大きな穴開けるような探し物が私たちで持ち運べるサイズかも分からないのにー?」
「ん…じゃあ…」
「シロコちゃん?」
「………ん」
遠回しにやめとけと言われ続けるのでシロコはへこんだ。耳がシュン…と垂れる。そこまで悲しませるつもりはなかったのでホシノは急いでシロコを撫でた。割とすぐにシロコの機嫌は回復した。ご機嫌なシロコは現場で作業する複数のロボットに書かれた文字に気付く
「…カイザーPMCって書いてあるロボットが何人かいる」
「
「軍事…ということは戦いのプロですよね。…この兵力が全てアビドスに向かってきたら…」
「…まぁ、先生がいても厳しいかな」
「そうですね、正面から対策委員会だけで勝つのは難しいでしょう」
「…あは、絶対無理とは言わないんだ」
「それはもちろん。無理とは言いません、ですが無茶はすることになります。なのであまりオススメは出来ません」
「…だよねー。…敵はカイザーPMC、先生がいるから補給の面ですり潰される事は無いけど、正面から押し通られる可能性が高い。カイザーがやる気になったらその時点でおしまい。…どうしたもんかねー」
「…取り敢えず証拠探さない?なんか不正の証拠が見つかったりしてカイザー自体が倒産とかしたらアビドスの事も有耶無耶に…なったりしないかなぁ…」
連携も大して取れず、火力も低く、日が暮れたら家に帰るカタカタヘルメット団の襲撃。それを戦闘のプロで、最新の兵器を使って、撤退し換装すれば直ぐに再出撃可能な軍事ロボットを用いるカイザーPMCの襲撃に頭の中で置き換えてみたら段々辛くなってきたセリカが軽く現実逃避しながらそう呟いた
「そうですねぇ。手分けして探す訳にも行きませんから、何部屋か見学をして今回は帰りましょう。此処に来る機会はまだまだあります」
「ん。じゃあ先生、鍵を開ける時は言って。近くで見たい」
「折角だからおじさんにもよく見せて欲しいなぁー」
「ヌルフフフ…やる気満々で嬉しいですね。ではまずヘアピンによる鍵開け術をお見せしましょう」
「なんでそんなので軍が使うような施設の扉を開けられるのよ…」
その後、直前に見た圧倒的戦力差を一旦忘れて、和気藹々と、不法侵入した挙句いろんな部屋を勝手に見学して、それでも何も証拠になるようなものは見つからないまま、対策委員会は校舎に帰った
「ふぅ…。みんなおつかれー」
「ん…。おつかれさま」
「おつかれさまです…」
「おつかれー…」
「おつかれさまです。…ずっと砂漠を歩いてましたからみんな疲れてますね」
「少し急ぎ過ぎましたね…。次回からは日焼け止めと水分補給と塩分補給と砂避けと他にも色々と準備してから向かいましょう」
「呑気な事言ってる場合…?はぁ…。便利屋が手伝ってくれるとはいえ…どうしよう…。みんな退去命令出てるのよね…大将たちがPMCに狙われたら…。借金だってなんにも解決策なかったし…。あー!もう!どうしたらいいのよ!」
嫌な事ばかりが脳裏に浮かんでセリカは荒れていた
普段だったら荒れた空気を和ませようとするノノミも落ち込んだまま座っている
アヤネも、話し合う事を優先しようと今は何も作業をしていないが、時折目線がパソコンに向かっている。一人になったら血眼になって打てる手を探そうとするだろう
一見して普段通りなのはホシノとシロコと殺せんせーだけだった
「…んー。取り敢えず今日はみんな何もせずに寝よう」
「はぁ!?あんな光景見たのに!?ホシノ先輩正気!?」
「正気だよー。みんな今頭の中でぐるぐると悪ーい事ばかり考えてるでしょ?そういうの一旦忘れて頭スッキリさせたほうがいいよ。頭冷やして、ちゃんと良い事を考えられるようになってから、明日集合しよう。うへー、これ委員長命令だからねー」
「従わなかったらくすぐりの刑だよー」と手をワシャワシャしながらホシノが戯ける
「…はぁ。わかったわよ。こういうときのホシノ先輩本当にやるんだから…。アヤネちゃん、一緒に帰ろう?…言っとくけど、徹夜で作業とかさせないからね?」
「えっ…」
若干の抵抗の意思が入った声が漏れた。セリカはアヤネの頬を両方ひっぱった。アヤネはセリカの脇腹を掴んだ。アヤネは頬をひっぱられて「あうあう」言っているし、セリカはくすぐったそうにしているが離す気はなかった。軍配はセリカに上がった
「…はぁい。じゃあ、その、帰ったらお話しながら寝ませんか…?」
「りょーかい。じゃあ、ホシノ先輩、シロコ先輩、ノノミ先輩に殺せんせー。また明日」
「お先に失礼します、また明日」
セリカとアヤネが部屋を出た
ノノミは帰るかどうか迷っていた。ホシノとシロコの様子がどこかおかしいから。それでもホシノからの委員長命令を守る事を優先した。殺せんせーに目配せをして、ノノミが立ち上がる
「それじゃあ、私も帰ります。また明日会いましょう」
帰り際、殺せんせーの耳元で「ホシノ先輩の事、おねがいします」とだけ伝えて、ノノミは帰っていった
ホシノとシロコと殺せんせーは、立ち上がる様子は無い
「…なーにー?シロコちゃん、まだなにか用事でもある?」
「…先輩、私たちがゲヘナの風紀委員会と戦ってた時、何処にいたの?」
「…昼寝してたー、じゃダメなんだよね」
「………」
いざとなったら暴力も辞さない姿勢で、シロコはホシノを睨んでいた
「…いずれ話さないといけないことだとは思ってたからさ。明日、みんなの前で話すよ」
「…本当?」
「本当」
「…ん、ならいい」
「…ありがとね」
「…また明日」
シロコは、殺せんせーと目を合わせる。殺せんせーがその視線に頷きで返したのを見て、そのまま帰っていった
「…いつの間にアイコンタクトなんて出来るようになったの?」
「ヌルフフフ…さぁーいつでしょうね?」
「ほんと、侮れない大人だなー。…で、あの、その。なんでそんな近いの?」
殺せんせーの顔はホシノの顔と触れ合いそうな距離まで近付いていた
「逃げられないようにしようと思いましてね」
「うーん、実際触られてないのに鷲掴みされてる気分。…それで?なにかおじさんと話したいことでもあるの?」
「そうですね。…このあとホシノさんがやろうとしてることでも」
「…そんな分かりやすい?」
「過去に何回か、自分の身の安全を度外視した作戦を実行する生徒の目を見ていましてね。まぁ今回はシロコさんとノノミさんの様子がおかしかったから気付けたのですが」
「………あー、もう。しょうがないなぁ…。…話すから離れてもらっていい?流石にここまで面と向かっては…ちょっと」
「話してくれるならそうします。…いや本当に嫌だったらすみません!」
「急にセクハラに怯えないでよ…。だーいじょうぶだって。嫌いだったら話もしないし突き放してるって。…じゃあ、ちょっと歩こう?」
「あ、でしたらちょうどいいので見ていただきたいものが」
「うん?」
「掃除スキルは1年位かけて磨きに磨きましたからねぇ。ちょっと時間がかかるようになってしまいましたが、この通り!」
アビドス校舎とその別館。建物同士を繋ぐ1階の渡り廊下。普段は砂だらけで歩く度に砂埃が舞うようなその廊下は、今ではピカピカと輝いて、鏡のように月明かりを反射する床が全面に広がる場所に変わっていた
「………わぁー…!?」
嫌なこと全部が頭の中から吹き飛んで、月明かりに負けない位に輝く笑顔を浮かべて、ホシノは廊下を駆ける
「あはは!すごいじゃん殺せんせー!どうやったのこれ!?普段だったら掃除しても直ぐにどこかから砂が入ってくるのに!」
「風が通る場所は全て塞ぎましたからねぇ。換気用の場所にもミレニアム特製フィルターを設置しましたから、少なくともこの場所は砂の被害は出ない筈です。びっくりなことに1日でフィルターが力尽きてしまう砂の多さだったのでフィルター交換の手間はかかってしまいますが」
「んー。まぁそんくらいはねー。普段だったら掃いても掃いても終わらないんだから。フィルター変えるだけで終わるならそれが一番いいよー。…わぁ…床に触っても砂がつかない…はじめてだなーこんなの」
ホシノは床や窓をペタペタと触っている。はじめて見るものに触れる赤子のような無邪気さだった
「どうですかね、ホシノさん。先生、がんばってこれをアビドス校舎の全部の場所に設置しようと思ってるんですけど」
「えっ!?いいの!?…でも、これ、大変じゃない?」
「いえいえ。先生ががんばってる間、ホシノさんもがんばってましたからね」
「…あー、そっか。そうだよね。夜の時間位しか無いよねー、こういう事出来る時間はさー。そっかー…練習見られてたかー…。そして
ホシノはぷるぷる震えていた。本気で悔しそうだった
「ヌルフフフ…先生に勝てそうですかぁ?ホシノさぁん?」
「うわぁ…。めえぇっちゃくちゃ腹立つ顔ー…。それセリカちゃんに向けたら先生撃たれるよ?」
「ホシノさんは撃たなくていいんですか?」
「やだよー。避けられたら学校に傷付いちゃうじゃん。全部受け止めてくれるなら撃つけど?」
「うーん、生徒がしてくれることなら全部受け止めたいですが流石に今は死んでしまいますねぇ。もうしばらく待っててください。今、超体操服作ってるので」
「超?」
「前に担任してた生徒たちが着てたんですけどね。先生も着てみたかったんですよ。…着せてくれなくて…」
「…先生ってノノミちゃんよりは背高いけど、普通に同じ身長の子とかいそうなくらいだよね。いなかったの?」
「いませんでしたね…。あの頃は今よりだいぶ大きかったんですよ?」
「えーなにそれ。先生身長縮んじゃったの?かわいそー。いや、むしろ着れるもの増えたから良い事なのかな?んー、じゃあさ、それ出来たらやってもいいの?」
「えぇ。全部。全部受け止めますよ、ホシノさん」
殺せんせーはそれまでの談笑で出てきた、楽しさや余裕綽々の笑みとは違う、とても優しい笑みを浮かべてそう言った
「…うへー。弾以外もー?」
「えぇ、もちろん」
「…じゃ、あまり面白くはない話でもしようかな」
月に照らされる廊下で、ホシノは体育座りをして壁に寄りかかる。殺せんせーも隣に座った。ホシノは窓の外の月を見ている。殺せんせーも何も言わず、一緒に月を見ている
「…私にとっての高校生活ってさ、全部砂色なんだ。アビドスが砂に埋もれる前、大きく力のある学校だったらしいっていう記録はあったけど、そんな記憶も実感も、おじさんには無いんだよねー」
「最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校で、ここだって本校じゃなくてただの別館で、先輩なんて、私にはひとりしかいなくて。…でも、後輩はいっぱいできた。…あはは、やっぱり好きだなー、
「…提案があったんだ、2年前。…まぁ、もっと言うと入学直後からなんだけど。アビドスの借金の大半どうにかしてあげるからうちに来い、みたいなやつ。ゲヘナの風紀委員会が来た時、私がいなかった理由がこれ。…私が抜けちゃうとアビドスは終わっちゃうと思ってたからさ。毎回断ってたんだよね。…なんとなくわかるでしょ?」
「…そうですねぇ」
着実に国語と数学の成績を伸ばすものの、先日はウコンのマルチ商法に引っかかっていたセリカ
倉庫整理、壊れた機材の修理、直った機材のオークション販売、連日やることが多くて過労で倒れそうなアヤネ
銀行強盗は止められたのでやらないが、計画を立てることはやめず、最近30店目の計画書を書き終えたシロコ
止めないといくらでもゴールドカードで散財しそうなノノミ
ホシノがいないと本当にダメそうだった
「…条件としてはさ、破格なんだよ。私だけで9割返すってさ。流石にこれだけ減れば借金返済も現実味を帯びると思うんだよ。…奇跡みたいな、手の届かない夢のような方法じゃない。私がこの提案を受けるだけで、アビドスが、みんなが、助かるかもしれない。…そう思うとさ、これ以外の他の方法が思い浮かばないんだよね。…いじょー、つまんない話おわり!ごめんね殺せんせー、すごいことやってくれたのに聞かせる話がこんなので」
「…ホシノさん」
「なに?」
互いの視線は月を向いたまま。世間話でもするように、話は続く
「ブラックマーケットで先生に言ってくれたこと、覚えてますか?」
「…えっ?えっと…うちの子たちに任せてほしいなー、とは、言ったよ」
「その後に先生が言った言葉は?」
「…責任は、取ってくれるって」
「初めて会った日に言ったのは?」
「……………」
そこではじめて、視線が合う。あの日見た温かい瞳、変わらない瞳、全て見透かされているんじゃないかと思うような瞳が、じっと見ている
「…うへー、なんだっけ。おじさんこの歳になると記憶力も無くなっちゃってねー」
あの日、仕舞っておくと決めた言葉だった。だから、仮面は外せない
「…そうですか…残念です」
「ごめんねー。あぁ、でも、言いたかった言葉は思い出したよ」
立ち上がる
「…後の事はおねがい、先生。…じゃ!そういうことだから!…さよなら」
精一杯の笑顔でそう言って、殺せんせーに背を向ける。歩き出す
「…ホシノさん」
殺せんせーは、手を伸ばした
「…なに?先生。手なんか掴んで。珍しいね、普段は自分から触るのすごい躊躇するのに」
「まぁ必要だと思ったので。…おねがいされましたから、後の事は先生がどうにかします。ホシノさんがやりたいようにやってください」
「………」
「そして何か失敗してしまった時は…その時は安心して待っててください」
「………えっ?」
振り向いて、殺せんせーの顔を見る。殺せんせーは、変わらない、優しい笑顔を浮かべている。殺せんせーの瞳に映る
「ヌルフフフ…そっちは言葉にしてくれましたからねぇ、忘れたとは言わせませんよ?…先生の責任の取り方は単純です。何があっても生徒を助ける。ただそれだけです」
「………助けなんて求めてないのに?」
「それでも生徒に手を伸ばすのが先生の仕事で、私のやりたいことです」
「…先生は本当に、ほんとうにさぁ…」
しばらく、沈黙が続いた。手は繋いだまま。静かに、決断を待っていた
「…私は行くよ」
「…そうですか」
「…もー、落ち込まないでよ。そうじゃなくてさ。…いい加減、けじめをつけなきゃって思って。私がダメなら今度はシロコちゃんをーとかセリカちゃんをーとか言われたらたまんないし。…あいつらとの縁はここで断つ。そういう訳だからさ…先生」
「はい」
「待ってるね」
「…はい!…また明日、ホシノさん」
「…また明日!殺せんせー」
ホシノが学校を出ていく。殺せんせーはその姿を見送っている
「…明日は忙しくなりますね」
手放した空の手を見ながら、殺せんせーは呟いた
to be continued in 『小鳥遊ホシノ』
コハルの水着が実装されたので初投稿です(限定3つは石が死んじゃう…)
殺せんせーがいるので不法侵入イベントはキャンセル…!このタイミングでアレの発掘現場を目撃する感じに
借金9割。正直本編の半分でもだいぶだと思ったけど更にドン。割と色んなアビドス編の配信見てると半分でもケチって言う人いたから…
書いてから(展開これでええんか…!?)で自問自答し続けて投稿ボタン押せなかったのでコハルの謎の線の後押しを受けて予約投稿をポチーしたのが2023/7/23/20:31となります
前回から3ヶ月経ってるけどストックは無いので次回は未定…!