キヴォトスに赴任する殺せんせー   作:名無しの毛玉

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小鳥遊ホシノ

 

 

 

Vo1『アビドス対策委員会』

 

 

 

「…あの、ヒナ委員長」

 

「なに?アコ」

 

「これ…いつまで書けば」

 

「あと822枚」

 

「いえ、あの、1000枚書くというのはそれくらい反省してますという比喩で…」

 

「いいから手を動かしなさい」

 

「…はい」

 

 

早朝のゲヘナ学園、風紀委員会の一室。ヒナは書類仕事を、アコは反省文を書いていた。各々の机の上には1000枚以上の紙が置かれている

 

 

「…そういえば。ヒナ委員長、アビドスのホシノという方はお知り合いですか?」

 

「…小鳥遊ホシノの事?…いえ、実際会ったのはあれが初めて」

 

「そうなんですか…?イオリたちに聞いた話だと、よく知っている方のように話されていた、と」

 

「…あの場でも、会った事は無いと言ったのだけど。…はぁ」

 

 

ヒナの仕事の手が止まる。アコの手も止まる。が、睨まれて直ぐに再開した

 

 

「…小鳥遊ホシノ。『天才』と称される程の本物のエリート。2年前の情報部による分析では、単騎でゲヘナの脅威になりうる存在としてリストアップされていた」

 

「なんと…。映像を見る限りだとかなりのほほんとした雰囲気に見えましたが…」

 

「…あれには確かに驚いた。元々は攻撃的戦術を得意とした、かなり好戦的なタイプで…荒っぽくて鋭い印象だったのだけど。…少なくとも、あれから弱くなっているとは思わないほうがいい。2年もあれば、相当強くなれる。…最悪、風紀委員の大半が戦闘不能になっていたかもしれない。アコ、あなたの早とちりでね」

 

「うっ…!…はい、申し訳ありません…」

 

「それに…あの場にはシャーレの先生もいた。…あの人は単騎でも強い。その上、指導者としても優秀に見えた。…大半どころじゃない。全滅すらありえた。それほど深刻な状況だった」

 

「…本当に申し訳ありませんでした…」

 

「……………はぁ。…今回は本当に肝を冷やしたから怒ってるけど。次からは気を付けるように。…シャーレの先生とは、きっと、長い付き合いになる」

 

「はい。…それにしても、2年前の情報が何故残っていないのでしょう。アビドスに向かう前に生徒名簿を見て、可能な限り調べた中には無かったのですが…」

 

「…ある日パッタリと活動報告が途切れたから、くらいじゃない?生徒数一桁の小さな学校だったし、途中からは脅威として報告する気が失せたのかも。…情報部で直接昔の資料を調べれば、なにか分かるかもね」

 

 

ヒナは窓の外を見る。後ろではカリカリとアコが反省文を書いている音がする

 

 

(…小鳥遊ホシノ。あなたは何故、アビドスを離れなかったの…?私なら…きっと…耐えられない。思い出から離れたくなる。…なのに、何故?)

 

 

ホシノについて、思いを馳せるヒナの目に、映り込む二人の姿。殺せんせーとイオリだった

 

 

(…何を話してるのか分からないけど、行ったほうがいいかな)

 

「アコ、少し外に出る。そのまま書いてなさい」

 

「はい。いってらっしゃいませ、ヒナ委員長」

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃーん!ホシノちゃん見て見てー!アビドス砂祭りの昔のポスター!やっと手に入れたよー!この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!』

 

 

■■先輩がホシノ(わたし)にポスターを手渡した。顔は、よく見えない。きっと笑顔だったと思う。…夢でくらい、活発に動くあの顔を見たいのに

 

 

『えへへ、すっごく素敵でしょー?もし何か奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人がたくさん集まって─』

 

「奇跡なんて起きっこないですよ、先輩。そんなもの、あるわけないじゃないですか」

 

 

ホシノ(わたし)がポスターを受け取って、鬱陶しそうにそれを見る。本当に、生意気な後輩だったと思う

 

 

「それよりも現実を見てください!」

 

『は、はう…』

 

「こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!?夢物語もいい加減にしてください!」

 

『うえぇ、だってホシノちゃーん…ご、ごめんね?』

 

「…っ!」

 

 

あぁ、キレた。あの頃は沸点が低かったな。お陰で今の私は恥ずかしい。そして悔しい。あの頃の私は、結局、何も出来なかった

 

 

「そうやってふわふわと、奇跡だの幸せだのなんだの…。もっとしっかりしてください!あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!?もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!」

 

 

そう言って、ホシノ(わたし)は手に持ったポスターを破った

 

いつもそこで目が覚める

 

 

「………」

 

 

この夢を見た時は、決まって視線がそこに向かう。あの後、なんとなく居た堪れなくなって、こっそり回収して、テープで貼り繋げたポスター。2年も経ってあの頃より更に色が褪せてきたそれを、そっと撫でる

 

 

「…おはよう、ユメ先輩」

 

 

本当に、こんなものをあの人は何処から仕入れたのやら。数十年も前の当時の砂祭りポスターなんて骨董品、ブラックマーケットでも中々出回らないだろうに

 

 

「…行くか」

 

 

手紙はもう、日も登ってない時間に置いてきた。今からあいつの所に向かえば、辿り着く頃にはみんな読んでいるだろう

 

玄関まで歩き、昨夜手渡された物を見つめて、ポスターに振り返る

 

 

「…ねぇ、ユメ先輩。奇跡…起きたかもしれないです」

 

 

かわいい後輩が4人も出来た。アビドスにも頼りにしていい大人はいた。たくさんの人では無いけれど、愉快な他校のお友達と、大切な人が来た

 

 

「…行ってきます」

 

 

だから大丈夫。私は此処に帰ってくる

 

 

 

 

 

 

 

『アビドス対策委員会のみんなへ。まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。みんなには、ずっと話してなかったことがあって。実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負ってる借金の大半を肩代わりする。そういう話でね。中々良い条件だと思わない?おじさんこう見えて、実は結構能力買われててさ。』

『借金のことは、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。結局、こんな方法しか思い浮かばなかった。アビドスからも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。勝手なことをしてごめんね。でもこれは全部、私が責任を取るべきこと。私は、アビドスの最後の生徒会だから。だから、ここでお別れ。じゃあね。』

『先生へ。分かってたと思うけど、私は大人が嫌いだった。信じてなんていなかった。先生の事だって、やばいやつが来たなって思ってたよ、最初は。でも、先生みたいな大人がいて、大将みたいな大人がいて、大人にも良い人はいるんだなって、最後に思えて良かった。私は■■■■照れ臭くなっちゃったからやめとく。』

『先生。最後に我がままを言って悪いんだけど、シロコちゃんをお願い。良い子なんだけど、支えてくれる人がいないとどうなっちゃうか分からない子で。悪い道に逸れないように、逸れたとしても健やかに過ごせるように、どうか支えてあげてほしい。先生なら、きっと大丈夫だと思うから。』

『シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。お願い、私たちの学校を守ってほしい。砂だらけのこんな場所だけど、私に残された、唯一意味がある場所だから。それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対するようになったら。その時は私のヘイローを壊して。よろしくね。』

『追伸 私は 色んな思い出があるアビドスが大好き 諦めてはいない この方法がダメなら次の方法を だから信じてるね これで伝わってくれたら嬉しい』

 

 

計6枚の手紙。横には空の封筒。表紙には退部・退会届と書かれている。それが、対策委員会の部屋の机に置かれていた。殺せんせーはこの場にいない。もとより今日は来れないとメールで連絡が来ていた

 

手紙を音読していたアヤネにお茶を渡して労って、セリカが口を開く

 

 

「…取り敢えず、ホシノ先輩の事をひっぱりたいと思うんだけど、何処をひっぱりたい?」

 

「ん。私はほっぺ」

 

「じゃあ左側でー♪」

 

「じゃあ私は右耳で…」

 

「私は左耳ね、りょーかい。…これ、多分だけど先生も知ってるわよね」

 

「…私が帰った後に何か話したんだと思う。6枚目だけ、字がかなり荒い」

 

「じゃあ先生の説得がなかったら5枚目までしかなかったかもなんですね。…おしおきの時間増やさないといけませんかねー?」

 

「許せませんね…柴関ラーメンを先生や便利屋のみなさんの分も含めて奢って貰わないと…」

 

 

文句を言いつつ、対策委員会は皆笑顔だった。何もかも不明瞭で、不安しかなかった昨日とは違う。やることは決まっていた

 

 

「じゃ、行きますかぁ!」

 

「勝手に出て行っちゃったホシノ先輩を、私たちで勝手に助けに行きましょう!ホシノ先輩にはなんにも文句は言わせませんよ♪」

 

「ん。…対策委員会は、ホシノ先輩も含めて、対策委員会だから」

 

「はい、必ず、ホシノ先輩を迎えに行きましょう。…おそらく今までで一番大きな戦いになるはずです。便利屋のみなさんに連絡をします」

 

 

 

 

 

 

 

「…社長。アヤネから連絡かかってきたよ」

 

「…なんで殺せんせーといいアヤネといい一回カヨコを挟むのかしら。まぁいいわ、繋げて?こっちも伝えなきゃいけないことが出来たし」

 

 

柴関跡地。瓦礫の類は既に撤去され、綺麗な更地になっている。昨日、便利屋が片付けに向かった時には既に傭兵(バイト)たちが大半を片付けていた。「…仕事だったし、やったことはやったことだけど。…先生には良くしてもらったし。タダ働きも、するよ」というのが、傭兵(バイト)の総意だった。瓦礫を選別し、大半が壊れて出てくる器具に涙しながら、いくつかは無事な物を見つけられたのが成果だった

 

今日、この場所は戦場になる。故に言える。誰が相手でも私たちが勝つ、と

 

 

「アヤネ、何か用?」

 

「はい。…ホシノ先輩を助けに行きます。一緒に来てくれますか?」

 

「…そう、ホシノはそうしたのね。…答えは決まってるけど、先に報告があるの。いいかしら?」

 

「えっと、はい。なんでしょうか」

 

「客が来てるわ。前のクライアントね。ゾロゾロと手下を従えて向かってきてる」

 

「カイザーが…!?直ぐに向います!」

 

 

返事も待たずに、アヤネは通信を切った

 

 

「…はぁー」

 

「どうしたの、社長」

 

「…なんでもないわ」

 

 

『本当にカイザーの相手することになっちゃった…』と今更ビビってる事など言えなかった。自信はある、それでも最悪を想定して怯えてしまうのは仕方ない事だった

 

震えそうな声はどうにか我慢して、信頼できる社員に通信を繋げる

 

 

「ムツキとハルカはどう?地雷の設置は順調?」

 

「あ、アルちゃん。順調に決まってるじゃーん。傭兵(バイト)にも手伝ってもらってるし。それにしても、傭兵(バイト)にすら裏切られるとか、人望ないねーカイザーって」

 

「こ、こっちの準備も出来てます…。住民の方にもご協力いただいて…壊してもいい場所にたくさんたくさん爆弾を詰めたので…。あとはこのボタンを押せば、きっと、木端微塵に片付けられます」

 

「…ふふ、やっぱりうちの社員は優秀ね」

 

「…部隊の進行ルートを確認。埋めといた爆弾で増援の遮断は可能なルートだね」

 

「良いわね。…じゃあ、元クライアントを迎えに行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

機械仕掛けの兵が、アビドスを行進する。自らゴリアテに乗り込み先頭を行く全身義体の巨体。便利屋の元クライアントの姿があった

 

 

「…本当に、長い、長い仕事だった。訳の分からないゲマトリア、発掘の邪魔をするデカグラマトン、何時まで経ってもいなくならない最後の生徒会。…やっと、厄介事のひとつが片付く。…我ながら非合理なことをしているものだ。だが、やはり最後の仕上げは私の手で。私が奴らを終わらせる。…小鳥遊ホシノのような存在になりうる者はここで、確実に、潰す」

 

 

疲れ切った声だった。誰に聞かせる訳でもない、それでも漏れ出た言葉だった

 

 

「来る日も来る日も、本当にあるのか分からない古代の遺産の発掘作業。とっとと手放せば良いものを、何時まで経っても居座り続けるアビドスの住民。刺客を用意する、決して少なくはない出費。…そして毎回撃退するアビドスの生徒。何度PMCを直接向かわせて捻り潰そうと思ったか。…最後の生徒会がいる限り。あの場所はアビドス高校という学区だった。…学区に企業が戦力を向ければ、学園都市そのものに宣戦布告するようなもの。アビドスとは比べ物にならない戦力を持つ学園全ての敵になる行為。…今はまだ、その時ではない」

 

『理事、間もなく残されたアビドス領地に入ります』

 

「あぁ、わかった。…誰にも出会さなかったな。結構。退去命令を守ってくれて何よりだ。弾薬もタダでは無いからな。…そして、ここまで来れば、やはり出てくるか」

 

 

見据える先には3人の生徒。シロコ、ノノミ、セリカがいた。アヤネのホログラムも投影されている

 

元クライアントのホログラムが投影され、その片腕が上がる。それを合図に軍靴は止んだ

 

 

「…アビドスの諸君。出迎えご苦労」

 

「…あなたがリーダー?」

 

「…あぁ、そうだった。我々は初対面だったな。では自己紹介をしよう。カイザーコーポレーション、カイザーローン、カイザーコンストラクション、理事。そしてカイザーPMC代表取締役。…君たちアビドス高校が借金をしている相手だよ」

 

「…!あんたがっ…!」

 

「心は未だ折れていないようだ。面倒な子供で困るな。…さて、要求はひとつだ。土地を渡してもらう」

 

「…その言葉を、はいそうですかと受け入れるとでも?それに、企業が街を攻撃するのは幾ら土地の所有者といえど明確な違反行為です。そのうえ、まだアビドスの土地である場所にこんな大勢の軍隊を連れてきて。連邦生徒会に通報しちゃいますよ?」

 

「ははは。連邦生徒会に?我々を?はっはっはっはっ!動くはずが無いだろう、あの腰の重い連中が。他所の治安維持機関に頼る方がまだ賢明だ。まぁ?ヴァルキューレは連邦生徒会の犬だ。動けんし、我々の敵になるほどの戦力でも無い。トリニティは規約を重んじる。正式な手続きをせねば軍に対応出来るほどの武力を他校の学区までは動かせん。ミレニアムにはアビドスを守る利益が無い。アビドスの案件は全てオフラインで管理している。あちらが動くような情報が抜き取られる事は無い。山海経なら金で動くが、アビドスが支払える金額ではない。レッドウィンターやゲヘナに頼ってみろ。政治家気取り共が、助けた、という弱味を利用して何を仕出かすやら。…なにより、負債まみれの信用出来ない学校を、わざわざ支援に来る暇な学園など無い。君たちを助ける者などいないのだよ」

 

「…ホシノ先輩は何処ですか」

 

「…ここまで言ってなおそれか。ホシノ、小鳥遊ホシノ。最後の生徒会。彼女がずっと邪魔だった。生徒数が一桁になるまで追い詰め、これでようやっと次の段階に進めると思えば、3年もアビドスを支え続けた。そんな彼女が、今日、退学した。…正式な生徒会役員が、全ていなくなった。であれば、君たちは何者でもない。公的な機関が何も残っていないアビドス高校は自立、存続が不可能と判断…。仕方がない。アビドス一帯の土地の所有者である我々カイザーが引き取ろう。これはそういう話だ。…あぁ、話が逸れたな。ホシノの居場所か。わざわざそれを教える理由が我々にあるか?無いだろう?だからもう諦めたまえ。このまま抵抗を続けたところで虚しいだけだ。君たちの借金が消える訳でも、土地が返ってくる訳でもない。せいぜい得られるのは、『私たちはがんばったから』と、諦める時に自分を慰める言い訳くらいだろう?」

 

「…御託はもういいから、かかってくれば?」

 

「…残念だ。この戦力差がわからないほどに目が曇っているとはな。では、その言葉に甘えるとしよう」

 

 

カイザー理事が上げていた手を振り下ろす

 

 

「諸君、蹂躙を開始しろ」

 

 

 

 

 

 

「…わざわざこんなの見せるとか。趣味が悪いね、黒服」

 

 

砂漠を黒い車が走る。運転席に人の姿はない。後部座席には、武器を奪われたホシノと、黒服が座っていた。車に備え付けられたテレビには、今まさにカイザーが対策委員会に軍を向ける光景が映っていた

 

 

「おや、思いの外冷静ですね。以前の貴女ならもう少し取り乱すと思っていたのですが」

 

「…勝手にそう思ってなよ。で?私は借金の大半を返してもらう契約で此処に居るわけだけど、だったらなんであいつはアビドスを襲いにきた訳?」

 

「えぇ、契約ですから。借金の大半は返します。それはそれとして、あなたはアビドスではなく我々が所有するモノになった。であればアビドスにはもう正式な生徒会メンバーが残っていない。それでは、学校は成り立たない」

 

「…やっぱ詐欺だった訳だ。あーあ、セリカちゃんをからかってる場合じゃないなー。…所で黒服。私にはお前が強くは見えてないんだけど。それ話して抵抗されるとは思わなかったの?」

 

「思いませんね。あなたにサインしてもらった契約書にもはっきりと記載があったはずです。あなたに関する全ての権利を我々に譲渡する事。…我々を害する権利はあなたには無いのです、ホシノさん」

 

「…ま、そんな感じはしてる。別に拘束されてないから蹴ってやろうかなーと思ってるのに、蹴ろうと思うと動かないし。普通に動かす分にはなんの問題もないのにどうなってんのこれ」

 

 

ホシノは足をバタバタさせている。時折黒服や車の扉を狙おうとする素振りを見せればピタリと止まる。害する行為は、出来そうになかった

 

 

「クックックッ…怖い怖い…。私もキヴォトスの外部の者です。ホシノさんのようなキヴォトス最高の神秘を持つ生徒に本気で攻撃されたら…さて、いったいどうなってしまうのでしょうね。それはそれで興味深い事ですが、今の私の興味はひとつ。質問をしても?」

 

「答えるとは限らな………あぁ…。権利ってのがあるから答えさせられるのか」

 

「あなたは何を信じているのですか?」

 

「みんなを。そして先生を」

 

「…なるほど」

 

「…私からもひとついい?」

 

「構いませんよ。先に質問をしたのはこちらです」

 

「私以外に手を出す気は?」

 

「…狼の神。失礼、砂狼シロコさん。彼女の事は貴女の次の実験相手として見ていました。…しかし、契約書を書く際に、あなたと約束をしてしまいましたからね。アビドス対策委員会に手は出さない、と」

 

「…言っといて正解だったみたいだね」

 

「タイミングも良かったですね。これまでであれば約束しなくても、此方には待つ時間があった。…しかし、今は先生がいる。ただ待つだけでは、貴女という宝を逃してしまうかもしれない。それを思えば、まぁ、必要経費でしたね、アレは」

 

「随分と先生の事を警戒してるけど。知り合い?」

 

「いいえ。しかし『先生』という存在がキヴォトスに於いて、決して侮ってはならない者、ということは知っています」

 

「あぁ、『先生』っていう役割を警戒してるんだ。じゃあ、あの人自身については知らない?」

 

「知りませんね。私としても知りたい所です。教導者は如何にしてキヴォトスに降臨したのか。何を成して見初められたのか。全てを手にする力を持っているのに、それを容易く手放せる理由は何なのか。クックックッ…興味が尽きません」

 

「…私、質問しまくってるけどさ。全部律儀に返すの、もしかして暇なの?」

 

「有り体に言えばそうなります。ただ黙して徒に時間を浪費する事は好みではありませんから。そろそろ此方から質問をしても?」

 

「…別に許可求めなくても、私の権利があるんでしょ?」

 

「そうですが、礼儀というものです。では、そうですね。貴女が先生を信じるに足ると判断した理由は?」

 

「信頼できる行動と信用したいと思える言葉をくれたから。私だけじゃなく、みんなの事も見てくれるから。なにより私たちの為に怒ってくれる姿が、嘘に思えなかったから。…あー、これ、ふーん。私こんな風に思ってたんだねー」

 

「わかってくれましたか?質問されることも、得難いモノを得られる時間足り得ると」

 

「…お前が怒る姿を見たことがないのが信用出来ない理由かなー、とも思ったよ。今ので。まぁ、今の私の手札じゃ、怒る理由が無いんだなってのも分かったけど」

 

「言葉遣い程度では怒る理由にはなりませんね。そんなものに憤る時間があるならもっと利のある時間にしたいものです。次の質問です。貴女から見た先生は、どのような方ですか?」

 

「私より強い人。弱さを教え甲斐のある点と見る人。生徒を見る目が優しい人。約束を守ってくれる、そう信じたい人。躊躇いを捨てられる人。………言ってて恥ずかしくなってきたんだけど」

 

「クックックッ…。随分と、絆されているようで。2年前の貴女が今の貴女を見たら何というんでしょうね?」

 

「誰だお前って言うと思うよ。…これも質問判定かー」

 

「本当に。2年前とは別人のようです。機能性さえあれば良いとでも言いたげな飾り気の無いあの頃とは違って、贈り物を身に着けるようになったようですし、ね」

 

「…質問の意図が読めない場合は、勝手に口が動くことは無いみたいだね」

 

「ではハッキリと。それは先生からの贈り物ですか?」

 

 

ホシノの耳に着けられた、黄色い球状のピアスを見ながら、黒服はそう言った。半月のようにニヤけた顔をしたそのアクセサリを、ホシノは指で突きながら、ほんの少しだけ笑って答える

 

 

「そうだよ」

 

「よく似合ってますね」

 

「うわ怖。…急に何?」

 

「普通に褒めただけです。それで、使い道は?」

 

「知らない。何も聞いてないから。何かあるんだろうな、とは思ってるから着けてる。あと普通にかわいいし」

 

「そうですか」

 

「…それだけ?」

 

「おや、質問の意図が読めませんね」

 

「…はぁ。…武器は奪ったのに、あからさまに怪しいコレは奪わないの?」

 

「武器には価値がありますから。キヴォトス最高の神秘が使い続けた品。それそのものに神秘は宿っているのか。それとも担い手が神秘を失えばただの鉄屑になってしまうのか。あの武器だけでも興味は尽きません」

 

「じゃあコレには価値は無いって?」

 

「ええ。少なくとも今の所は。彼の人は今はまだ無価値です。ソレに確かな価値がうまれた時、改めていただきましょう」

 

「…それがお前の信念?」

 

「…クックックッ。…どうなのでしょうね。…もう少し、話を続けたいのですが。楽しい時間は早く終わってしまうもので。到着です」

 

 

車のドアが開く。黒服と共にホシノが外に出て、直ぐに気が付く

 

 

「…目的地ってアビドス高校本館(ここ)だったんだ」

 

「えぇ。今となっては砂に埋もれてしまった、本来の校舎。貴女が、貴女たちが通う筈だった場所。此処に、我々ゲマトリアは実験室を作ることにしました」

 

「…趣味が悪いね、本当に」

 

「クックックッ…。貴女というアビドスの神秘の裏側を観測するには最適な場所だと思っただけです。…さて。実験には色々と準備が必要なので、地下で待っていて下さい」

 

「…あーあー、勝手に足が動くの嫌だなー。…黒服」

 

「はい?」

 

「世の中思い通りには動かない事ばかりだよ」

 

「…えぇ。私も貴女も、きっと誰しもがそうなのでしょう。だからこそ、探究し追究し研究するのです。この忘れられた箱庭(キヴォトス)で」

 

 

その言葉を最後に、互いに背を向け歩き出す。ホシノは地下の闇に、黒服は影に、それぞれ消えていった

 

 

「…うわぁ」

 

 

重厚な扉が開いていた。中に入れば今のホシノでは出ることが出来なくなるだろう。それでも足は勝手に動く。扉の先の部屋に足を踏み入れれば、誰にも触れられることなく、扉が閉じていく

 

 

「…昨日も今日も、明日明後日も。毎日毎日あの子たちと一緒にいられる。そんな当たり前が続きますように。…信じてるからね、殺せんせー」

 

 

その言葉を最後に、扉は完全に閉じた

 

 

 

to be continued in 『大人の戦い』

 

 

 




2023/7/29/19:00予約投稿ポチー

色々知った上でのアコちゃんの独断専行のヤバさよ(ヒナの気苦労は絶えず)

ホシノが着けてる殺せんせーピアスは穴開けないタイプのやつです(ノンホールピアス。流石に不可逆的な物を渡すのはちょっと…)

『キヴォトス最高の神秘との契約』っていうフレーズそのものに何かしらの力が宿ってそうなので拘束はしないけど自由な行動はできない感じに。部屋に入ってから赤い紐がヒュルヒュルと伸びてきて拘束する感じの方が癖なのもあってこういう描写に
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