キヴォトスに赴任する殺せんせー 作:名無しの毛玉
プロローグ─『赴任初日』
風が吹いている。というか爆風が吹き荒れている。不良たちが銃を乱射し何処からか迫撃砲が飛んでくる。ここはD.U.外郭地区。辺鄙ではあるが普通にビルとか建ってる人が暮らす都市である。そこは今まさに戦場であったし、殺せんせー達はそんな戦場のド真ん中にいた
「なんで私たちが不良と戦わないといけないの!私!学校では生徒会に所属しててそれなりの立場なんだけど!なんで私がっ!いったぁい!?」
ギャグみたいなノリで流れ弾が頭に直撃して悶絶しているユウカがそこにいた。殺せんせーは生徒になにかあってはいけない、と最初はものすごく警戒していたが不良同士の仲間割れで互いに銃弾を当てあってるのを見て気が抜けていた。不幸な事故だった
「あーっもうっ!あいつら弾ナニ使ってるの!…これ違法JHP弾じゃない!」
撃たれて当たって地面に落ちた弾を見て弾の種類を判別する頑丈なキヴォトス人がそこにいた。殺せんせーは、早瀬さんはツッコミの才能ありますね…と、のほほんとしていた。コメディの絵面だった
「そのまま伏せていてくださいユウカ。あと、ホローポイント弾は違法指定されてはいません」
「うちの学校ではこれから違法になるの!傷痕が残るでしょ!」
美容に気を遣う女の子がそこにいた。因みにホローポイント弾は当たると先端が破裂して貫通せずに体内に残ろうとする仕様なので普通の人間が当たると酷いことになる
ちゃんと当たると傷が出来る事を知って殺せんせーの目は覚めた。生徒に傷を残すわけにはいかない。ユウカに傷が残っていないのはシンプルにユウカがキヴォトス人の中でも頑丈な方だからである。キヴォトス人チュートリアルとしてこれ以上最適な生徒もいないだろう
「先生の身の安全を最優先で動きましょう。キヴォトスの外の方ですから」
「私達とは違って弾丸一つでも危険ですからね。その点ご注意を」
「分かってるわ」
先程までの雰囲気は何処へやら。戦闘のプロの表情を見せる生徒たちがいた。これぐらいの戦場なら慣れている、という顔だった
(思っていた以上に彼女たちの練度が高い。それ故に惜しい。学園が違うせいか連携が取れていない。個々の能力が高いが故にここまで談笑出来る程余裕を持った行軍が出来たもののここから先は彼女たちの雰囲気を見る限り危ない)
「皆さん。戦場のド真ん中で申し訳ないですが改めて自己紹介させていただいても?」
「へっ?」
声を上げるようなリアクションをとったのはユウカだけで他はみな首を傾げている
「私は殺せんせー。かつての教え子達からは殺せない先生であるが故に殺せんせーと呼ばれました。この程度の戦場なら先生死ぬことはないので安心して良いですよ。ヌルフフフ…」
「は、はぁ…」
「それよりも!」
と先程から周辺を警戒して黙ったままの銀髪の生徒に近付く。急に顔面ドアップを見せられた生徒の顔は少し赤い。
「お名前を聞いても?」
「あっ、すいません先生。ここまで自己紹介もなく…。
「なるほどなるほど。自警団。普段から巡回などをしている、と考えても?」
「そうです」
「道理で素晴らしい索敵をする。今だって先生とこうやっておしゃべりしつつも警戒を解かず、なんなら閃光弾による制圧までしている。普段の頑張りが目に見えるようです」
「あ…その…ありがとうございます。そんな事を言っていただけるとは思わず…」
「褒めるべき所は褒めます。先生ですから。伸ばせる長所を伸ばすにはなんだかんだ褒めることが大事ですからね。なんとなく今うずうずしてるのもわかります」
「…そんなにわかりやすいですか?」
「いいえ?でも普段だったらここまで大規模な騒ぎは走り回って頑張っているのだろうな、というのは伝わってきましたからね」
「…行ってきても?」
「どうぞ。あ、これ先生の連絡先です。報告は此方に」
「あ、はい。…先生と…連絡先を…交換…出来ちゃった。…行ってきます!」
「気を付けて行ってくるんですよー」
「はい!」
すごい速さで駆け出していくスズミ。少し経てばあちこちでピカピカと閃光弾が光っている。迅速な対応だった
「さて。では次です!」
と今度はとっても大きい医療バッグを持ったまま誰かに指示を出している生徒に近付く。先程の生徒より顔が赤い
「お名前は?」
「ひ、
「先程から見ていると、不良たちの鎮圧にあたっている生徒たちの指揮を取っているようですが、どういう形で?」
「風紀委員の方が此方を見ているので、私の銃でサインを出して大まかな指揮を」
「なるほど、統制がよく取れている。であれば火宮さん。あの辺りに人員を配置することは可能ですか?」
「あ、はい。今指示を。…出しました。…もしかして先程のスズミさんの影響を既に…?」
「ヌルフフフ…こちらが答えを言う前にそれを察せる辺り、やはりあなたは優秀だ。あなたにも連絡先を渡しておきます。守月さんとの連携を取りながら周辺の被害を抑えていきましょう」
「…私の権限だけだとそんなに応援を呼べなかったので助かります。では、指揮に戻ります。先生、流れ弾にはくれぐれもご注意を」
「ヌルフフフ…もちろんです。火宮さんもお気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
指揮に戻っていくチナツ。バッグから救援物資を取り出し、ドローンで送っているのが見える
「では!っとお!?」
次の生徒に近付こうと思えばもう既に向こうが近付いていた
「ヌルフフフ…流れがわかってきたようですねぇ。お名前は?」
「
「やはり守月さんとは同じ学園でしたか」
「はい、スズミさんとは…時折衝突することもありますが、同じ志を持ち、同じ学園に暮らす仲間として、良き付き合いが出来ていると思っています」
「武器はボルトアクションライフル。手入れの行き届いた良い武器ですね。先程から見事なヘッドショットと手際の良いリロードが見えていましたが、何かルーティーンがあるようで。自覚はお有りですか?」
「そうですね…敵が倒れた、と認識出来た瞬間は素早くリロードが出来ている…。と前にツルギ、いえ、委員長に言われたことはあります」
「それはそれは。仲間の事をよく見ている、良い友達に恵まれているようです」
「…そうですね。…ありがとうございます、先生。私の友達を、褒めてくれて」
「いえいえ。いつか、紹介してくださいね」
「えぇ、いずれ」
「所で羽川さん。戦車の構造は把握していますか?」
「…はい。先程から聞こえる砲音から私も知っている車種かと」
「弾薬庫は射抜けますか?」
「問題ありません」
「流石ですね。後ほど火宮さんにも伝えておきますがタイミングが来たらあそこのドラム缶を撃っていただけますか?」
指された物を見れば可燃性の何かが入っていることがわかるドラム缶があった。撃てばきっと爆発するだろう。その上には重そうなゴテゴテと飾られた看板。しかし
相当古いものなのか既に落ちそうだ
「…建造物で戦車を上から抑える」
「正解。優等生ですねぇ。花丸を差し上げます」
「ありがとうございます」
朗らかに笑い合う
「では羽川さんは直ぐ側で。このまま進んでいきましょう」
「はい。…あの」
「はい?」
「私にも連絡先を…」
「あぁ、失礼。いや、守月さんと火宮さんは離れることになるので無理矢理にでも押し付けましたが羽川さんは話せる距離なので、どうかな、と先生心配してたんですが。良かったんですね」
「…出来た。出来ました、先生。ありがとうございます。…今回の事が終わったら、連絡してシャーレにお伺いしますね」
「えぇ、待っていますよ」
礼をして、声の聞こえる程度の距離で狙撃を再開するハスミ。黒い大きな羽がバサバサしている
「おまたせしました。早瀬さん」
「へっ!?あ、はい!早瀬ユウカです!」
「そういえばもう自己紹介してた…」と小さく呟くユウカ。ここまで和やかに談笑していたが、ここは戦場のド真ん中。そんな中で流れ弾の類を全て防いでいた功労者である
「ユウカさんの周辺の膜のようなものは一体どういう技術なんでしょうか」
「これは電磁シールドです。大体の弾丸の軌道は計算し終えているので基本オートで弾が避けていくよう設定してるんですけど、味方がいる前提だと計算しなおさなきゃいけないので少し大変で。…さっきは、お見苦しいところを…その…忘れて…」
「いえ、その、先生こそ気付いていたのに注意が遅れてしまい申し訳ないです、はい。…お互い次からは気を付ける、ということにしましょうか」
「…はい」
「コホン。先程から見ていると片手で敵の撃破を、もう片方の手で電卓を用いて計算しているようですが。それは必須のものなんですか?」
「普段うっすら張られてる電磁シールドを強化する端末ですね。基本暗算でも完璧だと自負はしてるんですけど、本当にその解で大丈夫か、とかの確認は大事ですから」
「なるほど。仲間の事を最優先に考えられる。それでいてちゃんと自信にも満ち溢れてる。あなたも優等生ですねぇ」
「え、あ、ありがとうございます。…思ってたより嬉しいですね。褒められるって」
「あなたたちが積み上げてきた努力は銃の手入れ具合からも伝わってきますからね。褒めるところがいっぱいで先生嬉しいです。武器は二丁で?」
「あ、はい。基本は一つで充分なんですけど、確実に当てられる機会に最大火力をぶつけるためには、やはりこれかな、と。二丁の武器を扱う見本になる先輩もいるので」
「どこの学園も優秀な生徒が多そうですねぇ。楽しい先生ライフを送れそうです」
「…うーん。楽しい、かどうかは…ちょっと…。色々壊しちゃう子、
「…書類仕事自体はやれる自信ありますが
「…あとで
「お願いします」
何故か世知辛い感じに話が終わった。ユウカがチラチラと殺せんせーを見ている
「…ヌルフフフ。はい、こちら先生の連絡先です。いつでも相談に応じますよ」
「…!あ、ありがとうございます!」
小さく「やった…!」とガッツポーズするユウカ。張り切ってまた戦場の只中に走っていった
(火宮さんが戦場全体を俯瞰し、守月さんが敵の陣形を崩し、羽川さんがその隙を逃さず指揮官を狙撃し、早瀬さんは敵を此方に近付かせない。即席だというのによく出来たチームだ。誰かの為に動くことが出来る子達なのがよくわかる)
うんうん、と生徒たちを見て頷く
(…本当に手入れの必要なさそうな良い子たちばかりでちょっと寂しいですね。良いことなのですが)
そんな殺せんせー部隊を遠くから見る影が一つ
「あらあら…これでは
狐の面、袖には『百鬼夜行』の文字、至る所に花の意匠の入った制服、手に持つ得物は三八式小銃。狐の耳と尻尾を持つ黒髪の生徒
「連邦生徒会が大切にしているナニカ。さっさと壊して帰ってしまいましょう」
連邦矯正局から脱獄した『災厄の狐』が動き出す
「先生」
「おや、七神さん。準備は出来ましたか?」
「はい。鎮圧部隊の編成、完了しました。これから私も指揮を取りつつそちらに向かうので待っていてください」
「でも大体片付いてるわよ、代行」
「…まぁ、不良たちの連行部隊になってしまってるのは、否定できません。後片付けはおまかせください」
D.U.外郭地区。シャーレ前。暴れ回る不良の群れを鎮圧した殺せんせー部隊。そこでリンと通信を取っていた
「もうおおよそ終わっている中で言っても遅いかもしれませんが。今回の騒動の主犯格が判明しました。言っても?」
「どうぞ」
「では。『
「それはそれは。ヌルフフフ…手入れのしがいのある生徒ですねぇ」
「…本当に、頼もしい限りです」
「ところで七神さん」
「はい?」
「もう入っていいですかね。シャーレ」
殺せんせーの目はキラキラしていた
「…先生は構いませんが、他の方々は、少し…。先生は支給したスマホを翳せば普通に入れる筈ですが、他の皆さんは登録していないので」
「では入っても?」
「…どうぞ。侵入者の通知はありませんから、大丈夫な筈です」
「ヌルフフフ…ではみなさんお先に」
ワクワク、という文字が見えるくらいうっきうきで殺せんせーは建物に入っていった
新作ゲームが発表された時にモモイがよくする顔だな。とユウカは思った
新作の恋愛小説が買えた日のツルギの顔してますね。とハスミは思った
知らない場所を探索するのって楽しいですよね。とスズミは思った
先生って子供っぽいところたくさんありそうですね。とチナツは思った
私が一番乗り!と殺せんせーは思っていた
シャーレ。殺せんせーは一番乗りだと思っていたが先客がいた
「全部壊すのも芸が無いので、出来れば本当に大切なものを壊したいのですが…」
侵入者を通知するシステムを予め壊して、入れそうな場所を蹴破って入ったワカモである。シャーレのセキュリティは割としょぼい
「何がなんなのかまったくわかりませんね。これでは壊そうにも…」
とシャーレの地下の一室でワカモがキョロキョロしていると
「おはようございます!」
「きゃあっ!?」
殺せんせーがワカモの目の前にいた。本当に鼻と鼻が触れ合うくらいの距離に
「もうこんにちはですかね。はじめまして狐坂ワカモさん。私は殺せんせーです」
「は………。はじめまして…?殺せんせー…?」
か細い声でワカモは応えた。その顔は赤い
「それにしても良い仮面ですね。お気に入りなんですか?」
「そう、ですね。よく使う…。………?…!?」
ワカモが着けていた仮面は殺せんせーの手にあった
「外された事に…気付かなかった…?
「ヌルフフフ…手癖が悪くてすみませんね狐坂さん。生徒の顔はよく見ておきたかったので取ってしまいました。大切なものでしたら申し訳ない」
「あ、えっと、その。だ、大丈夫です。か、返していただけますか?」
ワカモの顔は真っ赤だった。耳も尻尾もピンッと逆立ったりへにゃへにゃになったりを繰り返している
「はい、どうぞ。毎日綺麗に手入れされているのがよくわかるお面でした」
「あ、ありがとうございます…」
仮面を受け取り直ぐに着けたワカモは俯いている
「えっと…」
「はい」
「その、ですね」
「はい…?」
「し…!」
「死…?」
「失礼いたしましたあぁー!!!」
「!?」
ワカモ は にげだした !
「…やりすぎましたかね?」
殺せんせーは困惑している。と誰かが歩いて、いや。走ってくる音がする
「お待たせしました」
リンだった。少し髪が乱れているが、息の乱れは無い
「…?何かありましたか?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「…そうですか。…少しお待ちください」
リンは慣れた手付きで棚の鍵を開けると、中の物を取り出した
「…幸い、傷一つなく無事ですね」
「それが?」
「…はい。連邦生徒会長が残した…。オーパーツ『シッテムの箱』です。受け取ってください」
to be continued in 『シッテムの箱』
ユウカにコメディさせたかった
生徒たちを褒めちぎりたかった
ワカモの仮面剥ぎ取りたかった
今話の欲望一覧です
殺せんせーの先生レベルが最初から高いので生徒のレベルキャップも最初から高め
先生が直接の指揮を取らなくても割となんとかなるが、取った方がより良い。そんな塩梅