キヴォトスに赴任する殺せんせー 作:名無しの毛玉
プロローグ─『赴任初日』
リンから殺せんせーに手渡されるそれは、何処からどう見ても普通のタブレット端末だった
「これが…?」
「はい。普通のタブレットに見えますが、正体のまるでわからない代物です。製造会社もOSも構造も。その全てが不明。連邦生徒会長は、これが先生の持つ物で、先生が持てばタワーの制御権を復活させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すら出来なかった物ですが…。その…起動、出来そうですか?」
「…少しお待ち下さい」
「…邪魔にならないよう、離れています」
リンが部屋から出ていく
(触っている限りでは本当にただのタブレット端末ですね…。いえ、しかし分解出来そうな継ぎ目が存在しない…。…素手で触れても指紋も残りませんね。汚れず、壊れず、解体も出来ず、解析も出来ない、と。確かにこれは
ボタンを押す。普通に、日常的に使うものみたいに。そして普通に、それは起動した
───Connecting to the
───システム接続パスワードを入力してください
(…パスワード)
目覚めた時の。いや、目覚める前に見た。生徒たちの卒業式を終えた後の、夢のような出来事を思い出し、入力する
………『我々は望む、七つの嘆きを』
………『我々は覚えている、ジェリコの古則を』
───接続パスワード承認
───現在の接続者情報は殺せんせー、確認できました
───シッテムの箱へようこそ、殺せんせー
───生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します
景色が一変する
青が広がっていた。何処までも広がる、海。窓辺からそれが見える。もっとも、窓のある壁は大半が吹き飛んでいる。覗き込めばその海は何処までも深く、しかし何故か教室の机や椅子が海から積み上がっているので底はあるらしい。床はぴちゃぴちゃと薄く浸水している。などなど。ツッコミどころはいっぱいあるが、確かにここは教室だ
「むにゃ…くうぅ…Zzzzz」
薄い水色の髪、青い制服、青い光輪、これまで会った生徒たちより小さな生徒。そんな生徒が、机にうつ伏せになって、居眠りをしている
「むにぃ…カステラにはぁ…いちごミルクより…バナナミルクのほうがぁ…うへへへぇ…くううぅぅ…Zzzzz」
(…これ相当深い眠りについてますね。…しかしいちごもバナナも美味しいですからね。悩みどころですが、しっかり好みが分かってるようでなによりです。…今日はカステラにしますか)
「えへっ…まだたぁくさんありますよぉ…」
(…私が起こさないとダメですかね。これ)
「へへへ…よく噛んでぇ…食べるんですよ…しっかり噛まないと…ダメですからね…」
(…起こしますか)
ツンツン。と、殺せんせーが頬をつく
「むにゃ…まだですよぉ…」
ツンツンツン
「あぅん…でもぉ…」
ツンツンツンツン
「…うぅん」
ガタッと机が音を立てる。生徒がむくりと起き上がる。若干ヨダレを垂らして寝ぼけ眼のまま、殺せんせーを見ている
「おはようございます」
「…?おはようございましゅ…?…ありゃ?」
「…?どうしました?」
「ありゃ?ありゃりゃ!?」
生徒の焦点がだんだん合ってくる
「あれ!?あれあれ??先生!?殺せんせー!?この空間に入ってきたってことはそうですよね!えっ!?もうこんな時間!?うわあぁーーー!?」
近距離ですごい音量で叫ばれた。頭を若干クラクラさせながら殺せんせーが生徒の肩を優しく抑える
「落ち着いて、まずは深呼吸しましょう。ね?」
「は、はい…。すー………はー………。はいっ!大丈夫です!落ち着い…てます!」
「よろしい。では…そうですねぇ」
「自己紹介から!ですよね?」
「おや…。…ええ、その通り。正解です。花丸をあげましょう」
「わーい!えっと、では!自己紹介をはじめます!
生徒は胸を張って話し出す
「私はアロナ!このシッテムの箱のシステム管理者でありメインOS!そしてこれから先生をサポートする秘書です!」
「そして私の生徒でもある」
「そうですね!よろしくおねがいします!」
二人で笑い合う。アロナはとても、とても嬉しそうに笑う
「ずっと待ってました!やっと会うことが出来ました!ここで私は、ずっと、ずーっと待ってました!」
「寝ていましたけどねー」
「あ、あうう…そりゃあ…たまに居眠りはしますけど…今回は、偶々です!本当に、偶々…はい」
「ヌルフフフ…冗談ですよ。改めて、よろしくおねがいしますね。アロナさん」
「はい!よろしくおねがいします!殺せんせー!ふふーん!これから先、どんどん先生のことをサポートしていきますからね!」
「それはそれは…頼りにしていますね」
「まかせてください!」
殺せんせーにアロナが近付く
「それでは最初のお仕事です。形式的なものですが、生体認証を行います♪ちょっと恥ずかしいですが、これも手続きなので…」
「おや…先生何をされてしまうんでしょうね…」
殺せんせーが自分の肩を抱いて身を護るように体をくねらせる
「きゃー!先生にえっちなことするつもりでしょう!?薄い本みたいに!」
「し、しません!しませんからね!もう!」
アロナは顔を真っ赤にしてポカポカ叩いてくる。殺せんせーはニコニコ笑いながら「ごめんなさい」と連呼している
「もー。恥ずかしさどっかいっちゃいました。はい、先生。指をこちらに。私の指に押し当ててください」
「わかりました」
殺せんせーが素直にアロナの人差し指に自分の人差し指を当てる
「えへへ。まるで指切りみたいでしょう?これで指紋認証するんです!直ぐに終わりますからね!」
そう言うとアロナは殺せんせーから離れて、自分の人差し指をじっと見つめ始めた
(…え、もしかして目視確認ですか)
「…よく見えない…」
(そうみたいですね…)
まぁ、これでいいですかね。と小さくアロナが呟いた。割と適当だった
「…最近の機械は指紋認証くらいは1秒ですよアロナさん」
「へぇっ!?わ、私にそんな最先端な機能はなくてですね!?べ、別にそんな能力なくても、アロナは役に立ちますからね!目だって私良いんですから!」
「えー?ほんとうですかー?」
「うっ…先生が、『信じられない』って思いが心なしか額に見える顔を。………うっ、うぅ!だったらその最先端ナントカさんの所に行ってしまったらどうですか!」
「わー!?泣かないでください!先生意地悪しすぎましたごめんなさい!」
いっぱい慰めることになった
「…なるほど。先生の事情は大体把握しました」
いつの間にか床にお互い正座して向き合っていた。殺せんせーは床に押し当て過ぎたのか額が少し赤い
「連邦生徒会長が行方不明。それに伴い、サンクトゥムタワーを制御する手段がなくなった」
「アロナさんは連邦生徒会長さんはご存知ですか?」
「私にはキヴォトスの多くの事がインプットされていますが、連邦生徒会長に関する記録はあまり…。彼女が何者で、何故いなくなったのか、動機も経緯もわかりません。お役に立てず、すみません…」
「いいえ。大丈夫ですよ。それで、サンクトゥムタワーの方はどうですか?なんとかできそうですか?」
「あ、はい!そちらは大丈夫です!シャーレからならサンクトゥムタワーの制御権の奪取くらいちょちょいのちょいです!」
少々お待ち下さい!とアロナが立ち上がる
───サンクトゥムタワーのadmin権限を取得
───完了
一瞬だった。アロナがまばたきをした。その一瞬。現時刻を持って、サンクトゥムタワーはアロナの手に、アロナの所有者である殺せんせーの物になった
「先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収出来ました。今サンクトゥムタワーは、私の制御下にあります。ふふーん♪今のキヴォトスは先生の支配下にあるも同然ですよ!」
「あの一瞬でそこまでの事ができたんですか。素晴らしいですねぇあなたも。でもアロナさんは手入れ出来そうな所もありそうで嬉しいです」
「う゛…。お手柔らかにおねがいします、先生…。で、では先生。サンクトゥムタワーは連邦生徒会に制御権を移管する、でいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「わかりました。ではこれより、サンクトゥムタワーの制御権は連邦生徒会に移管します。先生!」
「はい?なんでしょう」
「これから先、シッテムの箱の画面越しからでも私に会えますから、気軽に呼んでください!もちろん、ここに来てくれると一番嬉しいですが!」
「ヌルフフフ…わかりました。たくさんお話しましょうね。アロナさん」
「絶対ですよ!」
景色が一変する。身体はシッテムの箱を起動した瞬間から動いていない。だが時間は進んでいる。…会いに行くのは体を動かさないでいられる時が良さそうだ
「…はい、わかりました」と、外からリンの声がする。カチャ、と音を立てて扉を開けたリンが部屋に入ってくる
「先生。サンクトゥムタワーの制御権の確保を確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められます」
心底安心した、という表情を浮かべたリンが深々とおじぎをする
「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して、深く感謝いたします」
「ヌルフフフ…初仕事が成功して先生も安心してます。顔をあげても大丈夫ですよ七神さん」
「ありがとうございます、先生。…ここを攻撃した生徒たちの後片付けは、おまかせを。ここから先は私たちにまかせて、先生は休息を取ってください」
リンは部屋を出ていこうとする。が
「…あ、すみません。もう一つ、紹介すべきことがありました」
と言って直ぐに戻ってきた
「なんでしょう?」
「ここ、『シャーレ』の案内です」
「あぁ、そういえば、たしかに。先生どこで寝ればいいですかね」
「それも含めて、こちらに」
地下から階段を上がる。道中様々な部屋の説明をされつつ、一階。『空室、近々始業予定』と太めの文字で書かれた紙が扉にテープで留められた部屋の前
「ここが、シャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」
リンが扉を開け、殺せんせーを迎え入れる
「ここが、連邦捜査部『シャーレ』の部室。先生の仕事場です」
部屋は普通のオフィスだった。いや。壁に銃がかけられてたりするが、それ以外は普通の、綺麗で掃除の行き届いた部屋だった
「なるほどなるほど。幾らでもカスタマイズ出来そうな部屋ですねー。自由にしていいんですか?」
「お仕事に支障が無ければ、はい。好きにしてもらって構いません。…シャーレは権限はありますが、目標の無い組織なので、何かをやらねばならない、という強制はありません。つまり、先生がやりたいようにやっていい、ということです」
「なんでも?」
「なんでも、です」
リンが目を閉じる
「…何故、連邦生徒会長がこのような組織を作ったのかはわかりません。本人に聞こうにも行方不明のまま。捜索は連邦生徒会が担当しているのですが、この問題に力を注ぎ過ぎていて、他の問題が疎かになっています」
「それはいけない…。ですが…。連邦生徒会長は、よほど慕われていたんですね」
「…それは…。はい。少なくとも、何の理由も無しに消えていい方ではないと、私は思っています」
「…なんとなく話が読めてきました。私がやる仕事は捜索では無いのですね?」
「はい。…連邦生徒会に現在送られてきているあらゆる苦情。支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど…。申し訳ないのですが、先生には面倒極まりないこれらの仕事を解決していただきたいと、個人的には思っています」
「七神さん。本音出てます」
「…コホン。その辺りに関する書類の山が」
リンの視線を辿ると、本当に書類で『山』が出来ていた
「…あちらです。気が向いたらお読みください。全ては、先生の自由ですので」
「ヌルフフフ…おまかせください。慣れてます」
「…それでは、本日はお疲れ様でした。ごゆっくり。必要な時にはまた、ご連絡いたします」
「ええ。今日はありがとうございました。外まで送りますよ」
「…大丈夫、なのですが。…ありがとうございます」
外に出てみると、ユウカは白い髪の生徒に連絡を入れていた
「ええ、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻した事を確認したわ。…あと、今回の戦闘のデータを送っておくから、先に領収書作ってて貰える?ノア。領収先はシャーレで」
ハスミとチナツが話し合っている
「ワカモは自治区に逃げたそうです。恐らく百鬼夜行の方で捕まるとは思いますが…。もし、互いの自治区に来た際は………ええ。お互いに気をつけましょう」
「そうですね。条約までお互いピリピリしていると思いますが、頑張りましょう、ハスミさん」
「…」
「…?どうされました?」
「いえ、その。…私は、ゲヘナを少し、誤解していたかもしれません」
「…あー。…私が言うのも、その、どうかと思うのですが。私、が。例外側だと思うので。その。…そうですね。個人的な、助け合い、くらいは。出来そうですか?」
「それは…はい。もちろん」
「ありがとうございます」
和やかな会話だった。スズミはその会話を、微笑ましいものを見る目で眺めている。こんな平和な光景が、どこにでもある光景だったらいいなと思いながら
殺せんせーとリンの存在にユウカが気付くのはそんな時だった
「あっ、先生!ノア、そういうことだから、あとはおねがいね」
ユウカが通信を切ると殺せんせーに近付いていく
「先生、お疲れ様でした。先生の活躍は、キヴォトス全域に広がるでしょう。だって、SNSでもう大人気ですから!」
と言ってユウカがスマホの画面を見せてくる。そこには事件を解決する殺せんせー部隊が撮影された映像と「戦いやすかった!」とチナツに指揮されていたゲヘナ生徒の絶賛の声が多数書かれていた。既にクロノス報道部にニュースにされている
「おー…。照れると同時に怖いですねぇ…ネット社会の闇に簡単に触れてしまいそう…」
「あー…確かに。悪いところも一瞬で広がりますからね…」
「それはそれとして。みなさんお疲れ様でした。本当に今日は助けられました。ありがとうございます」
殺せんせーがそう、頭を下げる。生徒たちは「そんな下げなくていいですよ!?」と慌てている。でもみんな嬉しそうだし誇らしげだ
「今日はこれでお別れですが、近いうちにぜひ。トリニティ総合学園に立ち寄ってください。殺せんせー。ツルギとも、会ってほしいですから」
「私からも、おねがいします。と言っても…私は、自警団任務で不在なことも多いと思いますが。任務中に会ったなら、そうですね。護衛は任せてください。行き先までエスコートします」
「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった際は、ぜひ訪ねてください、殺せんせー。部隊の子も、直接お話したいと言っていたので」
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、また、お会いできる…かも?少なくともセミナーにご連絡くだされば、すぐに会いに行きます!では殺せんせー、また!」
「送っていただき、ありがとうございます。連邦生徒会へは…まぁ、ご連絡いただければ。すぐにお会いいたします。後日、またシャーレの設備に関しての説明と、先生にやっていただきたい仕事の受付を担当する生徒を二人、紹介しに来ますね」
「ヌルフフフ…みなさん、またお会いしましょう」
生徒たちは全員各々の学園に帰っていった。殺せんせーはシャーレの前でしばし佇んでいた
殺せんせーの目が覚めてから、はじめて意識する、一人の時間だった
(…目が覚めてから。青空が広がっていた空は夕陽を越えて夜の色に染まり始めている。これだけの時間が経ったというのに、明晰夢の様な感覚は無い。腕を握ると感じる圧迫感も、肌に感じる風も、目に映るこの光景も、今日飽きるほど聞いた銃声も、全てが現実だ)
シャーレのオフィスに戻る。途中に映る窓に反射する殺せんせーの姿は、黒髪の、人間の、男性のものだった。黄色い、タコのような、化物ではない
(…スペック的には実験に参加する前くらいですかね。殺しの技術の確認はからかいついでにやりましたが、この体は久しぶり過ぎてやはり鈍っている。弱りましたねぇ、ヌルフフフ…。心持ちはあの教室を卒業した頃で良かった。あの頃の私より、少なくとも今の私の方が強いでしょう。…今の、私の生徒たちを、守れそうな強さはあってよかった。
シャーレのオフィス、椅子に座って窓の外を見る。空に浮かび始めた月は、丸い
「…
(あなたたちなら、きっと大丈夫)
「ヌルフフフ…さてさて、大丈夫じゃない生徒たちの手入れを始めなければなりませんね」
机の上にどっさり置かれた書類の山
その他数々の問題の山
「全ての問題を
この日、キヴォトスに殺せんせーが赴任した
プロローグ─『赴任初日』─fin
to be continued in Vo1『アビドス対策委員会』
アロナと一緒に甘党な殺せんせー
アロナの深呼吸
殺せんせーの薄い本(先生がえっちな事になる)
額に考えてる事を書きたかった
ハスミとチナツの絡み
暗殺教室における月とキヴォトスにおける月
今話の欲望リストです
2万ですよ。プロローグっていうリセマラの間すっとばす物語だけで2万文字ですよ。Vo1書き始めたらどうなってしまうんでしょうね。Vo3なんか考えたくないですよ私。大人のカード使いたいので書きたいですけど
取り敢えずブルーアーカイブをやったことない方は私が書いてる間に速くダウンロードして実際にやってきてください。そして私みたいに脳を焼かれて書くのです
そして暗殺教室読んだことない人は読もう。先生の事が好きになれる人ならきっと殺せんせーの事も好きになれる