ある日の篠ノ之研究所(仮)。
束は椅子の背もたれに体を預けながらウンウンと唸っていた。
「はぁ~…お兄ちゃんの専用機…中々に良いアイデアが思いつかないな~…」
真尋がIS操縦者として非常に高い才能を秘めていると判明した時から、ずっと束は真尋の専用機を作ろうと四苦八苦していた。
別に作ること自体は、ISの生みの親である束には容易な事。
問題なのは『真尋にあったIS』を作ることにあった。
「前にお兄ちゃんは『バランスが良い機体が良い』って言ってた。けど、そーゆーのがある意味で一番難しいんだよなぁ~」
バランスが良いと言えば聞こえはいいが、逆を言えば『器用貧乏』と言うことにもなる。
それに、一言に『バランス型』と言っても千差万別。
それこそ言い出したらキリが無い。
「だめだぁ~…お兄ちゃんの好みが漠然としすぎて、逆に何にも思いつかない~」
いっそのこと、何かの性能に特化した機体ならば良かった。
それならば非常に作り易い。
例えば、千冬が現役時代に専用機としていた近接戦特化型の『暮桜』のように。
「…こうなったらもう、本人に直接聞いた方が早いか」
遂に考えるのを諦めた束。
背中を伸ばしながら立ち上がり、真尋の部屋へと向かう事に。
今は確か、クロエも一緒にいた筈。
「さーて…お兄ちゃんはどんな機体が欲しいのかな~っと。おにーちゃーん?」
テキトーにノックをしてからドアを開ける。
中から返事は無かったが、ノックをしたから良いだろう。
「はい完成~。うんうん。我ながら中々に良い出来だ」
「流石は真尋さま。お見事な出来栄えです」
どうやら、何かを作っていたようだ。
それが気になって机の上を覗きこんでみると、そこには幾つかのプラモデルがあった。
「あれ? お兄ちゃんってば、プラモを作ってたの?」
「おわっ…束か…ビックリした」
「ちゃんとノックはしたよ」
「マジか…普通に気が付かなかった」
それだけプラモ造りに夢中だったと言うことだろう。
増々、真尋が何を作っていたのかが気になる。
「で、何を作ってたの?」
「ガンプラ。水星の魔女の」
「へ?」
ガンプラは流石に知ってはいるけど、いきなり作品名を言われても普通に困惑する。
束はそこまでガンダムに詳しくは無い。
「最新作だよ。ついこの間、最終回を迎えたけど」
「へー」
としか言えない。
「んで、今造ってたのが、最終決戦で主人公であるスレッタが乗ってた最終機体である『ガンダム・キャリバーン』」
「最終機体? って事は、他にも色々と乗ってたってこと?」
「まぁな。気になるなら、関連機を見せてやろうか?」
「関連機?」
「そんなのがあるんですか? 私も気になります!」
束とは逆に、クロエは目をキラキラさせる。
真尋が好きなものはクロエも気になるようだ。
そんな視線を背中に浴びながら、真尋は飾り棚から三体のガンプラを取り出して机の上に乗せた。
「まずこれが、プロローグで登場した原点ともプロトタイプとも言うべき『ガンダム・ルブリス』」
「ふーん…ん? この盾…分解できる?」
「正解。こいつは『ガンビット』っていうビット兵器だ。合体して盾になったり、バックパックに装着された『ビットオンフォーム』になることで機体性能を向上させたり、この手持ち武器である『レシーバーガン』と合体して威力を上げたりも出来る」
「ビットを合体させる…!」
真尋の説明を聞き、束の目に輝きが宿る。
まさか、ビット同士を合体させたり、機体に装着させるという発想があるとは。
アニメ知識が殆ど無い束からしたら、まさに『目から鱗』だった。
「んで、こいつが本編の第一期で主に活躍した『ガンダム・エアリアル』だ」
「ふむふむ…見た目はさっきのルブリスって奴と似てるね。改修機かな?」
「そんな所だ。ルブリス自体は、本編からかなり昔に開発された機体だし」
「そうなんだ…」
束の脳が急速に動き始める。
もう既に頭の中では、様々なアイデアが生まれては消えていた。
「エアリアルも基本的にはルブリスと似たような感じなんだけど、ビットの数は増えてるんだよな」
「どれぐらいなんですか?」
「ルブリスは7基。エアリアルは11基ある」
「いや…常識的に考えても7基の時点でかなり多い方なんだけど…11基?」
たった一機で11ものビットを操るだなんて、余り信じられない。
しかも、ビットの形状は全く均一ではない。
対になっている物もあるが、基本的には全てが違っている。
「これもまた肩とか腰とかに合体して性能を向上させたり出来る。合体してシールドにもなるしな」
「だろうね…」
「因みに、エアリアルは劇中で『フライトユニット』っていう高機動装備に換装してたりする」
「ここから更に強化するんだ」
幾らなんでも過剰すぎでは?
そう思ってしまった束だが、まだまだエアリアルの進化は止まらない。
「そんでもって、こいつがそのエアリアルを改修した姿な。その名もズバリ『ガンダム・エアリアル改修型』だ」
「まんまじゃん」
「言うなって。それは皆が分かってる事だから」
分かっていても、敢えてツッコまないのがオタクマナー。
少なくとも真尋はそう思っている。
「フライトユニットが一体化して、更にビームライフルが変形してビットと合体することでガンビットライフルになって対艦級の威力にする事も可能なんよ」
「ライフルとビットが合体…」
盾になり、機体と合体したり、更にはライフルと合体する。
ビットを此処まで万能にすること自体が、今までの束には無い発想だった。
「そして、これがついさっき完成した最後の機体『ガンダム・キャリバーン』な」
「名前の由来は…聖剣伝説から?」
「それもあるし、シェイクスピアの戯曲『テンペスト』の中に登場する魔女シコラクスが魔物との間に産んだ島の怪物『キャリバン』とも言われてるらしい」
「何処で、そんな知識を身に付けたのやら」
「オタクを舐めんなよ?」
こーゆー時のオタクほど恐ろしい物は無い。
一体どこでどんな知識を得ているか分からないから。
「因みに、機体の見た目は『箒で大空を翔る魔女』らしいぞ」
「成る程ね…この長いライフルが『魔女の箒』を表現してるんだ」
「そゆこと。ま、本当に良いラストだったよ。マジで感動した。久々にアニメで泣いたわ。やっぱガンダムは最高だゼ」
「ガンダム…ね」
自分の大好きな兄が絶賛するガンダム。
今後の為にも自分も色々と調べて見たり、視聴してみようかと思い始めた。
「ちょっとだけ触っても良い?」
「別にいいけど…壊すなよ?」
「分かってるって」
許可を貰ってから、色々な部分を動かしてみる。
触ってからすぐに、現代のプラモデルの凄さに驚かされる事になった。
「ふぇ~…膝の関節がここまで動いて…こんなシンプルな構造で? 嘘でしょ…。うわぁ…なんじゃこりゃ。へぇ~…ここは差し替えで…なるへそ…」
慎重に、でも興味深そうに各ガンプラを触っていく束。
ちょっとした構造すらも見逃さず、じっくりと観察していった。
「…お兄ちゃんはさ、このガンダムたちが好きなの?」
「そうだな~…好きと言えば好きかな。全編通してビット兵器主体のガンダムとか珍しかったし。普通にカッコよかったしな」
「そ~なんだ~…」
その時、束の目がキラーンと光る。
そして思い付く。
変にこだわる必要なんて無いんじゃないか…と。
物事はもっとシンプルで良いのではないかと。
「うん。ありがと、お兄ちゃん。凄く良い参考になったよ」
「そ…そっか? それなら良かったけど…この間から何してるんだ?」
「新型機の開発。ちょっち難航してたんだけど…お兄ちゃんのお蔭で先に進めそうだよ」
「へー…」
ISの事なんて真尋にはサッパリなので、適当な返事しか出来ない。
それでも、兄らしく妹の手伝いが出来た事は地味に嬉しかった。
「んじゃ、お仕事に戻りますか」
「無理すんなよ~」
「分かってマ~ス」
適当に手を振りながら、束は真尋の部屋を後にした。
そんな束の後姿を見ながら、二人は顔を見合わせる。
「一体、何を思い付いたんだろうな? こいつ等を見て」
「さぁ…でも、束さまの事ですから、きっと凄いことに違いありません」
「だな~…」
凡人の自分には考えても分かる筈がないか。
そんな風に思いながら、真尋はキャリバーンに水転写式デカールを張っていく作業に移った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
いつものようにオレが自室でゲームをしていると、いきなり束からお呼びが掛かった。
「おにーちゃーん! ちょっと来てくれる~!?」
「わーったー」
アイツからオレを呼ぶとはまた珍しい。
もしかして、この間オレのガンプラを触った事と関係しているのか?
色々と怪しみながらも、オレは束の研究室に向かった。
「で、オレに何の用だ?」
「新型機開発のついでに、ちょっちシミュレーターの設定を弄ってみたから、お兄ちゃんに体験して貰いたくて」
「ふーん…? 分かった」
普通、設定を弄るってだけでも相当に大変な筈だが…それを『ついで』でやってしまう辺り、やっぱりこいつって天災なんだなぁ~って実感する。
「そういや、クロエちゃんは束が何をどう弄ったのか知ってるのか?」
「いえ…私は何も。何かをしていたのは存じていますが」
「そっかー」
クロエちゃんからヒントは得られない…か。
なら、実際に自分の目で確かめる他ないな。
しゃーない。いつものようにやってみますか。
つーわけで、久し振りにシミュレーション…ゴー!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「お?」
電脳世界内の仮初めの空に入ると、自分の身体に違和感を覚えた。
明らかに今までとは違う感覚。
これまでは『ISを纏った感覚』的なのがあったけど、今回はまるで『自分の全身が何かに包まれている感覚』になっていた。
『お? その反応…もしかして気が付いた?』
このタイミングで束からの通信。
もしや、これがさっき言ってた『設定変更』なのか?
『自分の姿をハイパーセンサーの俯瞰モードで確かめてみてくれる?』
「分かったー」
一体なんだって言うんだ……ふぇ?
「え…え…ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
オ…オレの身体が…エアリアルになってるっ!? なんでっ!?
『いやー…この間のお兄ちゃんの話を聞いて、ついやっちゃった♡』
「やっちゃたって…まさか、パーメットスコアとか、その辺も無駄に忠実に再現したりとか…」
『いやいやいや。流石の私もそこまではしないから。仮にそれっぽいパーツが装飾があっても、単なる飾りだから。そこら辺は大丈夫だよ』
「よ…よかった…」
オレなんかがデータストームの奔流に耐えられるワケがないからな。
それ以前に、再現出来たら普通に怖いわ。
「おー…ちゃんとガンビットが動かせるし…。意外と面白いなコレ。マジで思うように動かせるわ」
『えっ!? お兄ちゃん…もうビットを使いこなせてるの!?』
「もうって…こんなの普通だろ? 頭でビットが動くように念じればいいだけなんだし」
『だけなんだしって…。まさかとは思うけど、ビットを動かしながら自分も動けたりは…』
「動けるだろ。アムロもシャアもスレッタも出来てたんだし。ほれ」
目の前に浮遊してた複数の仮想ドローン目掛けてビットを動かして、そこから放たれるビームで撃破しつつ、自分の持つビームライフルでも一機撃墜した。
「ビットで牽制しながらビームサーベルで…えい!」
思い切り近づいてからズバっとな。
うん。武装の再現度が普通に凄い。
『…お兄ちゃん…今、自分がどれだけ凄いことをしてるか分かってる?』
「ふぇ?」
凄いことって…なんぞや?
こんなの、ニュータイプパイロットなら誰も彼もが普通に出来る芸当だろ?
オレは別にニュータイプじゃないけど。
『ま…真尋さま…凄すぎです…』
「そ…そう?」
なんかモニターの向こう側でクロエちゃんがめっちゃ感動してるんだが。
え? マジでそんな風に思われるような事だったの?
『これはまた…いい意味で予想外だよ…。単なるデータ採取目的で使用機体をエアリアルに変更したんだけど…まさか、お兄ちゃんの更なる才能を開花させる結果になるとは…』
ん~? なんか言ったか~?
オレは今、ビットとエアリアルを動かすのに夢中で忙しいですけど~?
「まさかとは思うけど…エリクトが人工知能的な形で搭載されたりしてないよな…?」
それはそれでまた別の意味で怖い。
ISのエアリアルは普通の機体であってほしい。
結局、全てのドローンを撃破するまでずっと驚きっぱなしだった束とクロエちゃんだった。
終わった後に束が興奮気味に『凄く良いデータが取れたよ! 本当にありがとう!』と叫びながら抱き着いてきた。
こいつ…腕力じゃ絶対にオレが勝てないって知っててやってるだろ…。
ちょっと強引だったけど…フラグは建てたぜ!
恐らく、次回辺りにまひろちゃんが遂に…!