お兄ちゃんはおしまい!in IS   作:とんこつラーメン

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第16話 まひろとお嬢様

 束の臨時研究室にてオレ達の事情を全て話して、その後に千冬と一緒に教室に戻ってから普通に授業を受けた…までは良かったのだけど…。

 

「…………」

 

 チーン…。

 そんな擬音が聞こえてきそうな雰囲気を醸し出しながら、一夏は力なく机の上に突っ伏していた。

 まぁ…無理も無いけど。

 

 授業中、あろうことか一夏は皆の前で堂々と『殆ど分かりません』宣言をして教室中の全員を本気でドン引きさせて、その後に『参考書を電話帳と間違えて捨ててしまいました』宣言までぶちかました。

 流石のオレも、このコンボには普通に目が点になった。

 いやさ…確かにあの参考書は物凄く分厚かったけど…だからと言って電話帳と間違えて捨てるか?

 と言うか、仮に間違えても普通に電話帳も捨てるなよ。

 割と地味に必要不可欠だろうがアレ。

 

 当然、そんな事を二連続で言えば千冬の雷が炸裂し、一夏の頭上に出席簿という名のありがたーい指導が入る訳でして。

 その後もずっと肩身の狭い立場で授業を受け続ければ、まぁこうなるのは必然な訳でして。

 え? オレ?

 オレは割と授業にはついて来れたよ。

 束に言われて頑張って勉強をした甲斐はあったって事だな。

 基本五教科は全然平気だったから、IS関係のみを集中して勉強したお蔭か。

 

「おーい。だいじょーぶかー。しっかりしろー。傷は浅いぞー」

「うぅ…真尋さーん…」

 

 雨の日に段ボール箱に入っている捨て猫みたいな目でこっちを見るな。

 もちっとシャキっとせんかい。男の子。

 

「真尋さんは、さっきの授業は分かったんですか…?」

「ん? そりゃね。勉強はしてたし? ね、クロエちゃん」

「はい。真尋さまはそりゃもう頑張って勉学に励んでおられました。趣味のゲームも一日三時間に抑えるほどに」

「そこは一日一時間じゃないのか…」

 

 何を仰る。

 一日一時間じゃ全然足りないから。

 そんなんじゃオレの中にある『ゲーム脳』は満たされないんだよ。

 ゲーマー舐めんな?

 

「でも…流石は真尋さんだなぁ…。頭撫でても良いですか?」

「なんでそうなる? ちょ…やめ…ひゃっ!?」

「あ~…癒される~…」

 

 こっちの静止の声も聞かず、一夏がホコホコした顔でオレの頭を撫でてきた。

 見た目はアレだけど、中身はお前よりもずっと歳上なんだぞ~!

 そこんとこちゃんと分かってるのかコラ~!

 

「む~…! 勝手に真尋さまの頭をなでなでするなんて~…!」

 

 そして、クロエちゃんはどうしてほっぺをプクーと膨らましてるのかな?

 

「おい一夏」

「箒…?」

 

 ここで我が妹の登場。

 お前ならきっと一夏の事を止めてくれると、お兄ちゃん信じてるぞ!

 

「実の妹である私を差し置いて、勝手に真尋に…姉さんの頭を撫でるな。撫でていいのは、私や姉さんのような血縁者や、クロエのように親しい者だけだ。そうですよね、姉さん?」

「え? いきなりそう言われても…って? ふにゃっ!?」

 

 一夏の手を払いのけて、今度は箒がオレの頭を撫で始めただとっ!?

 妹に頭を撫でられる兄って…。

 

「わー…まひろんは人気者だねぇ~」

「本音ちゃん…」

 

 ここで更に本音ちゃんのご登場。

 この感じだと、止めてくれ無さそうだな…。

 

「私もまひろんの頭をなでなでする~♡」

「まさかの参戦!?」

 

 もう眩しいぐらいの笑顔で私の頭を撫でてくる本音ちゃん。

 この子には…勝てない…。

 

「な…ならば私も!」

「クロエちゃんもッ!?」

 

 結局、オレは何故か三人の女の子に頭を撫でられると言う意味不明な状況に陥ってしまった。

 誰でもいいから助けてください…。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「「「「「ん?」」」」」

 

 場が混沌になりつつある時、謎の乱入者がやってきた。

 肌が白くて綺麗な女の子で、まさかの金髪縦ロール。

 恐らくは海外から入学してきた子なんだろうけど…日本語上手だなー。

 

「えっと…もしかして、俺の事を呼んでる?」

「その通りですわ」

 

 用事があるのは一夏だけで、オレ達は部外者…と。

 それならとっとと席に戻りたいけど…現在進行形で頭を撫で続けている三人がそれを許してくれない。

 

「何の用だ? 別に君とはこれが初対面の筈なんだけど…」

「まぁ! なんて態度ですのッ!? この私のこうして話しかけられただけでも光栄極まりないことだと言うのに!」

「そう言われてもだな…」

 

 あー…成る程。そーゆーことか。

 この子は所謂『アレ』だ。

 ISが世間に浸透されると同時に急に蔓延し始めた『女尊男卑』思想の持ち主ってやつだ。

 はぁ…これ系の子って苦手なんだよなぁ…。

 束もコレに関しては本気で頭を悩ましてるし…。

 兄として、どうにかしてやりたいのは山々なんだけど、これはそう簡単な問題じゃないんだよなぁ~。

 

「俺、君の事なんて全く知らないし。真尋さん達は?」

「「「「知らない」」」」

「なっ…!?」

 

 思わず返事しちゃったけど、なんか悪いことでもしちゃった?

 凄い顔で絶句してるんですが。

 つーか、そこの三人娘はいい加減にオレの頭を撫でるのは止めい。

 

「し…知らない…? この私を…? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私をッ!?」

 

 ふーん…この子、代表候補生なのかー。

 スマホで検索したら出てくるかな?

 

「あ…出た。なんか、IS委員会の公式サイトっぽい所の代表候補生一覧みたいのがあって、そこに記載されてた」

「え? そんなのがあるんですか? 知らなかったー」

「私もだ。特に興味も無かったしな」

「私は知ってたよー。見たのは一回だけだけどー」

「本音さんと同じくです。存在は知っていましたが、それだけですね。どこの誰がどこの候補生だとか、そんなの本気でどうでもいいので」

 

 別に応援とかしてる訳でもないし、今の候補生に身内がいる訳でもないしなー。

 モンド・グロッソを見に行く予定も特には無いし。

 

「あ…貴女たちも私の事を知らないと仰るおつもり…?」

「「「「おつもり」」」」

 

 だって本当に知らんし。

 嘘はつきたくないし。

 

「あのー…真尋さん。ちょっちいいですか?」

「どした一夏?」

「『代表候補生』ってなんですか?」

「おっふ…」

 

 マジか…つかマジか…。

 流石にそれは擁護できないぞ…。

 

「あ…あなた!! それは本気で言ってますのッ!?」

「あぁ。だから真尋さんに聞いてるんじゃねぇか」

「なんで私に聞かないんですのっ!」

「いや…初対面の相手よりも、見知ってる人の方が尋ね易いし」

 

 それはそう。気持ちは分かる。

 きっと今、世界中のコミュ症の人々が一夏に向けて拍手喝采している事だろう。

 

「代表候補生ってのは、簡単に言えば『国家代表』の『候補生』のことだよ」

「まんまですね」

「世の中なんで、所詮はそんなもんだよ」

「そんなもんスか」

「そんなもんよ」

 

 名は体を表すってやつだな。

 物の名称なんてストレートな方が良いもんだ。

 分かり易いし、覚えやすいしな。

 

「どうやら、やっとお分かりになられたようね?」

「まぁな。要は『凄い奴』って事でOK?」

「そう! 私はエリートなのですわ!」

 

 誰も、そこまでは言ってない。

 

「本来ならば、この私と同じクラスになれたという幸運を噛み締めるべきではなくて?」

「いや…それなら一夏と同じクラスになれた方が遥かに幸運じゃない?」

「え?」

 

 おっと。思わず口を挟んでしまった。

 だって、この子が明らかにツッコミ待ちな事を言うんだもん。

 

「ど…どういう事かしら…?」

「だって、一夏は世界で唯一の男性IS操縦者。つまり、世界でたった一人しかいない。でも、代表候補生は別に世界で一人しかいないってわけじゃないでしょ?」

 

 もしかしたら、探せば他のクラスや上の学年とかにも代表候補生の生徒がいるかもしれないし。

 その可能性を考慮したら、別に幸運でもなんでもなくね?

 

「確かに真尋姉さんの言う通りだな。確かにエリートではあるのかもしれんが、世界で唯一の人間と比べたら、どっちが幸運なのかは比べるまでも無いだろう」

「というかー…四組にも代表候補生はいるよー?」

「ならば、その時点でこの方と同じクラスになれて幸運という理論は成立しなくなりますね」

 

 うわー…オレに便乗して、箒たちも一気に畳み掛けて来たしー…。

 つーか、四組にも候補生がいるんだな。

 もしかして、本音ちゃんの知り合い?

 

「う…ぐぐぐ…!」

 

 今にもハンカチを咥えて『キー!』ってしそうな顔になってる。

 …本当にしないよな?

 

「だ…大体あなた! ISについて何も知らない癖に、よくもまぁIS学園に入れましたわね! 世界で唯一の男性IS操縦者だと言うから、もう少し知的だと思っていましたけど…拍子抜けも良い所ですわね」

「いやいや…別に俺は自分から進んで入学したわけじゃないし。ここに来ないと色んな意味で大ピンチだったから、仕方なく保護って名目で入学したに過ぎないから。そっちの勝手で過度な期待をして、勝手に落胆されても普通に困るし」

 

 はい論破。

 これに関しては普通に一夏の言い分が正しい。

 寧ろ、一夏はこれからが大事なんだから、最初から大きな期待を持つのは完全にお門違いってもんでしょ。

 

「フ…フン! ま…まぁでも? 私は非常に優秀ですし? アナタのような庶民にも優しくしてあげてもよろしくてよ?」

 

 なんか必死に頑張ってるけど、もう精神はフラフラ状態になってると見た。

 強がってるのが良く分かるわ。

 

「もしISの事で分からない事があれば、まぁ…泣いて頼まれたりでもしたら、もしかしたら色々と教えてあげても良いですわよ?」

「いや、別にいい。分からない事があれば真尋さんに教えて貰うし」

「…なんですって?」

 

 おいこら一夏。

 そこで、どうしてオレの名前が出てくる。

 

「さっきも言ったけど、初対面の相手なんかよりも、ずっと昔から見知っている相手の方がずっと頼みやすいし、頼りになる。真尋さんに関しては人柄とかもよく知ってるから、特に緊張とかもし無さそうだし」

 

 そういや、一夏ってオレが女になったからと言って、特に態度とか変えてないよな…。

 急に頭を撫でてきた時には驚いたけど、本当にそれだけだったし…。

 こっちとしても、男の時と同じように接してくれるのは普通に嬉しい。

 

「だから、別に勉強とか教えてくれなくてもいいよ。ですよね真尋さん?」

「え? あぁ…私が教えられる範囲でなら教えてあげるけど…」

 

 オレが誰かに勉強を教えるかー…。

 そんなこと、今まで全く考えた事が無かったなー。

 

 因みに、学園にいる時などは基本的に一人称は『私』で統一するのでよろしく。

 

「おいこら一夏。真尋姉さんに勉強を教えて貰うのは私だぞ。妹としての特権だ」

「私も、まひろんにお勉強を教えて貰う~」

「わ…私も真尋さまと一緒に勉強したいです!」

 

 隙あらばツッコんでくるね君らは。

 あと箒、妹としての特権なんて無くても勉強ぐらいは普通に教えてあげるよ。

 

「さ…さっきから、ことあるごとに真尋さん、真尋さんと…彼女とアナタは一体どんな関係なんですのッ!?」

「どんな関係って言われても…」

「なんて言えばいいのかな…」

 

 流石に『小さい頃、よく遊んだお兄さん』とは言えないし…。

 

「…幼馴染?」

「それだ」

 

 その表現があったか。

 今のオレは『箒の双子の姉』って事になってるし、その箒は一夏の幼馴染。

 と言う事は、必然的にオレも幼馴染になる訳か。

 やるな一夏。考えたじゃないか。

 

「お…幼馴染…ですって…!?」

 

 またなんか戦慄してるけど、その間に休み時間終了と同時に次の授業開始の合図となるチャイムが鳴った。

 急いで席に戻らないと、千冬の出席簿が頭上に落ちてくるぞー。

 だから、そこの三人はいい加減にオレの頭を撫でるのを止めなさい。

 

「ま…また後で来ますわ! 逃げるんじゃありませんことよッ!? いいですわね!?」

 

 まるで特撮怪人の負け台詞みたいな事を言いながら席に戻って行った。

 それでいいのかお嬢様。

 

「逃げるって…なんで俺が逃げなくちゃいけないんだ?」

「「「「さぁ?」」」」

 

 今時の若者の考えている事は分からないな。

 え? 今のオレも立派な『今時の若者』だって?

 中身は大人だから良いの!

 

 

 

 

 

 

 

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