初日から騒動の中心に巻き込まれた放課後。
オレはクロエちゃんや箒、一夏と一緒に束の研究室に来て、一連の出来事の事を話していた。
「ぷっ…くくく…あははははははははっ!」
いきなり笑われた。
予想していたけど、ここまで爆笑されると流石に傷つく。
「流石はお兄ちゃんだね! 入学初日から大変だね~!」
「他人事だと思いやがって~…!」
「だって他人事だもん」
「ぶ~…」
確かにそうかもだけどさ…だとしても、妹として何か言うことぐらいはあるんじゃないのか?
「申し訳ありません…真尋さま。ついムキになってしまい…」
「あ~…もう気にしてないよ。過ぎた事だし…ね?」
「はい…」
オレの事を推薦したのはクロエちゃんだけど、ここまで落ち込まれたら流石に責められない。
ここで追い打ちを掛けられる奴がいたら、そいつは間違いない鬼だな。
「って言うか、一応は俺も巻き込まれた側なんですけどッ!?」
「そういや、そうだったねー。いっくんも災難だったねー」
「全くですよ…」
…ん? よくよく考えたら、オレって一夏に巻き込まれた形になるのでは?
でもまぁ…その一夏だって、自分から立候補をしたわけじゃないしなー。
一概に誰を責めればいいって問題じゃない気がする。
「そう言えば、クラス代表の話の時にクロエが言っていたのですが、兄さんにIS操縦者としての才能があると言うのは本当なんですか?」
「本当も本当。マジでお兄ちゃんのIS操縦者としての才能は凄いよ~。この三年間で本格的に鍛えれば、ちーちゃんすらも超えるかもしれない」
「ち…千冬姉をも超える…!?」
いやいや。流石にそれは言い過ぎだから。
今は教師をやってはいるけど、仮にも元世界王者だよ?
そう簡単に超えられたら誰も苦労なんてしてないッつーの。
「やっぱ真尋さんは凄いんだなぁ…」
「ISの才能云々はよく束から言われてたけど、あんまし実感が湧かないんだよな~」
「無自覚な天才…それもまた、お兄ちゃんらしいね」
「オレらしいって何よ…」
いきなり意味不明な事を言わないでほしいんですけど。
「けど、試合に関しては割とマジでお兄ちゃんが圧勝すると思うよ」
「そうなのか?」
「うん。そのイギリスの子…名前は忘れたけど、その子の試合映像を検索して見てみたんだけど…」
「どうだった?」
「ぶっちゃけ、お兄ちゃんとは天と地ほどの差があった。そこらのド素人ならまだしも、お兄ちゃんの今の実力なら普通にワンサイドゲームになるんじゃない?」
「そこまで言うか…」
一体どんな映像を見たのやら。
少しだけ気になるかも。
「なんだったら、参考映像としてデータをあげようか? 後で寮の部屋で見てみると良いよ」
「さんきゅー。有り難く傾向と対策を考えさせて貰うよ」
束から映像データが入っているUSBメモリを受け取った。
このメモリ…ミッフィーちゃんが描かれてるし…。
束ってば昔からウサギモチーフのキャラが好きだったっけ。
前の誕生日にウサギのぬいぐるみをプレゼントしたら泣きながら大喜びして、その日の内に神棚に飾ってた。
「あのー…俺はー…」
「いっくん? いっくんはー……頑張って」
「ザ・適当!」
完全に投げやがったし。
哀れ一夏。
「まぁまぁ。今はまだ内緒なんだけど、いっくんにもまだ『勝つチャンス』はあるから」
「そ…そうなんですか?」
「うん。多分、明日辺りに、ちーちゃんから言ってくれるんじゃない?」
ある意味、オレ以上の素人である一夏が勝つ可能性か。
強力な専用機でも与えられるとか?
なんたって世界唯一の男性IS操縦者だもんな。
データ取得の為の特別な機体とか与えられても不思議じゃない。
「寮の部屋で思い出したけど、オレとクロエちゃんの部屋ってどうなってるんだ? 確か、IS学園の学生寮って基本的に相部屋なんだろ?」
「その事ね。えーっと…」
束が説明をしようとした時、研究室の扉が開いて我等が担任サマが入ってきた。
「教室にいないと思ったら、案の定ここにいたか」
「ちーちゃん。どったの?」
「いやなに。そこの四人に学生寮の部屋割りの話をしておこうと思ってな」
おーっと。
なんてタイムリー話題を持って来てくれた。
本当にナイスタイミング。
「まず一夏。お前は特別に一人部屋となった」
「マジで!?」
「あぁ。本来は箒と一緒の部屋になる予定だったが、真尋さんとクロエの二人が入学してきたからな。必然的に一人あぶれる形になるんだ。それならばいっそのこと、唯一の男子である一夏の一人にした方が本人も安心出来るんじゃないかとなったんだ」
「あ…危なかった…幾ら見知っている仲とは言え、女子と一緒の部屋ってのは色んな意味で凄く気を使うからな…」
幼馴染だから…なんて言い訳が通用するのは小学校低学年までだよな。
そこから先になると男の方が遠慮する立場になる。
中学、高校ともなれば尚更。
「最初は真尋さんと一緒の部屋に…なんて事も考えたのだが…」
「だが? どうかしたのか? 俺は別に真尋さんと一緒でも構わなかったけど…」
「もしもお前が真尋さんに『何か』をした場合、命の保証が出来かねるので却下した」
「それどういう意味っ!? はっ!?」
ひぃっ!?
なんか急に束と箒とクロエちゃんと千冬が怪しく目を光らせながら一夏の事を睨み付けてるっ!?
「ワ…ワカリマシタ…」
いつもは鈍感な一夏も、流石にこいつらのヤバさを肌で実感したか…。
「クロエも、最初はこの研究室で束と寝泊りする形にする予定でいたのだが…」
「折角だし、少しでも交友関係を広げて欲しいと思って、クーちゃんも他の子達と同じように寮に住まわせてほしいって私からお願いしたんだよー」
「そうだったんですね。私としても、皆さんと一緒に学生寮で寝泊まりしたいです」
初めての学園生活なのにアグレッシブだなー…。
儚そうに見えて、意外と行動力があるんだな…クロエちゃんは。
「因みに、クロエは布仏と同じ部屋になっている」
「本音さんがルームメイトですか。見知った相手なのは安心できますね」
本音ちゃんって、あのダボダボの制服を着た『のほほ~ん』って感じの女の子か。
あの子ならクロエちゃんも安心して過ごせるかもしれない。
「と言う事は、もしや私と真尋兄さんが…?」
「そうだ。真尋さんと同じ部屋になったのは箒…お前だ」
まさかの箒と相部屋。
幾ら兄妹とは言え、これはいいのだろうか?
いや、今は兄妹じゃなくて姉妹になるのか?
「別に問題はあるまい。今の真尋さんは立派な女性になっている。それに…久し振りに会った家族なんだ。兄妹…じゃなくて、姉妹水入らずで話す事もあるだろう」
「それは…そうですが…」
オレ個人としては凄く有り難いけどなー。
箒相手なら変に気を使わなくても済むし。
「こっちの事なら気にしなくても大丈夫だぞ箒。もう、この体で一年以上過ごしてるんだ。女にしか分からない事だってちゃんと把握してる」
「それなら…って、そうじゃなくてですね…」
んん~?
それじゃあ、一体何が気になってるんだろう?
「もう荷物は部屋に運び込んである。これが各々の部屋の番号だ」
そう言われて千冬から手渡されたメモに書かれてある部屋の番号は…1025室か。
…IS学園の学生寮って…もしかしなくても、めっちゃ部屋数があったりする?
寮の中で迷わないように気を付けないとな…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「おぉー…」」
オレと箒に割り当てられた学生寮の部屋に入っての第一声は驚きの声だった。
だって、めっちゃ豪華な部屋なんだもん。
これもう、どこぞの高級スイートルームだって言われても違和感が無いんですけど。
「す…凄いですね…これは…」
「うん…普通に驚いたわ…」
このベッドも超大きい。
オレが前使ってたベッドとは比較にならないぐらいのデカさだ。
両手足を思い切り広げて大の字になっても余裕があるんじゃなかろうか。
「今日からここで…兄さんと一緒に三年間過ごすんですよね…」
「そうなるなー」
図らずも、生き別れになった三人兄妹…いや、今は三姉妹か。
ともかく、篠ノ之家の子供がIS学園に勢揃いしたのか。
父さんや母さんが知ったら、なんて反応するだろう。
「む? あの段ボールは…」
「どうやら、オレ達の荷物っぽいな。ちゃっちゃと荷解きしちゃおう」
「そうですね」
オレの荷物。オレの荷物~…っと。
ちゃんと自分で持ってくるべきものは厳選してるんだよな~。
流石に同人誌やフィギュア系は省いたけど、それ以外の趣味に関する物は全部持ってきた。
「愛用のゲーミング&配信用のパソコン一式に、各種ゲーム機。昔懐かしのレトゲーも含む…っと。他には…私服とかか」
「あの…兄さん?」
「どったの?」
「兄さんはその…私服なども女性物を着ているのですか?」
「そりゃね。今のオレは女だし。男の時に着ていた服は殆どが着れなくなったし」
「ス…スカートを履いたりも…?」
「そうだなー。今じゃズボンよりもスカートを履く機会の方が多いかも」
なんつーか…オレもすっかり『女』が染み付いてますなー。
流石に心までは売り渡さないけど。
「で…では…下着なども…?」
「い…一応…ね。最初は抵抗あったけど、束やクロエちゃんに着せられるようになってから徐々に慣れていった感じ。この体じゃ流石に男物の下着は履けんでしょ」
「で…ですよね…。すいません…変な事を聞いてしまって」
き…気まずい…。
久し振りの妹との会話って、こんなにも息苦しかったっけ?
束の時はもっと楽だったような気が…。
(いや…そうか。束の時は、アイツが生粋の『陽キャ』だったから大丈夫だったんだ。けど、今回の場合はオレも箒も立派な『陰キャ』。マイナスとマイナスが一緒になったからと言って、決してプラスになるとは限らないって言ういい証拠だな)
家族である以上、これに関しては時間が解決してくれるとは思うが、問題はどれぐらいの時間がかかるかだな。
「ん? 箒、それって…」
「この竹刀ですか?」
「うん。剣道…頑張ってるんだな」
「それしか取り柄が無いですから」
こっちから言わせて貰えば、取り柄があるだけ十分に凄いことなんだよ。
箒は間違いなく、父さんの血を色濃く受け継いでるから。
オレは…父さんの血も母さんの血も受け継げなかったから。
「じゃあ、剣道部に入るつもりだったり?」
「そのつもりです」
「そっか…」
得意分野がハッキリしてると、それだけで自分の進むべき道の選択肢が見えてくるんだよな。
羨ましいよ…本当に。
「兄さんはどの部活に入るか決めてるんですか?」
「うんにゃ。まだ何も。どんな部活があるのかも、良く分かってないから」
オレの興味を引くような部活があればいいんだけど。
どうして『部活所属必須』なんて意味不明な校則があるんだよ…。
これはあれか? 世の陰キャ全員に喧嘩でも売ってる?
「あの…さ。箒」
「はい?」
「数年振りに会って、お互いに気まずいこともあるだろうけど…でも、一緒に頑張っていこうな。こんな姿になっても、お前の『お兄ちゃん』であることには違いないんだしさ…」
「兄さん…」
今はルームメイトでクラスメイトにもなってるけど、それでもオレが束と箒の兄である事は変わらない。
それならオレはオレなりのやり方で、全力でお兄ちゃんを遂行するだけだ。
…どこまで出来るかは全く分からないけど。