えー…このオレこと篠ノ之真尋は只今、ものすごーく戸惑っております。
と言うのも、実は…。
「真尋姉さん…うふふ…♡」
オレの背後で顔を赤くしながら微笑んでいる箒がいるから。
そもそもの話、昨夜の時点からちょっと様子がおかしかった。
いきなりオレのベッドに入り込んできたかと思ったら、頬を撫でたり、ジッと見つめてきたり、挙句の果てはギュッと抱きしめる始末。
妹だって分かっていながらも、すっごくドキドキしてしまった…。
ぶっちゃけ、理性を保つのに必死だったよ…。
でも、やっぱり人肌の温もりと言うのは想像以上の威力があるのか、いつの間にかオレは熟睡してしまっていた。
そこまではいい…そこまでは。
いや…本当は全然良くないけど。
問題は今朝になってから。
朝起きてから、ずーっとオレの事を変な目で追い駆けていた。
良く分からないけど、それでも一つだけ分かることがあった。
あの目は明らかに妹が兄(姉)に向ける目じゃない。
ギャルゲーなどに良くある『恋する乙女の瞳』だった。
あくまで予想だけど。
それは、こうして食堂に向かっている途中も続いている。
(箒の奴…本当にどうしちゃったんだ? 後で束に相談でもしてみるか…ん?)
前方に見覚えのある銀髪発見。
隣には、これまた見覚えのある人物が並んでいる。
あれは間違いない。
「おーい。クロエちゃーん。本音ちゃーん」
「あ…真尋さま。箒さま。おはようございます」
「まひろんとしののんだー。おはよー」
声を掛けると振り向きながら挨拶を返してくれた。
そういや、この二人がルームメイト同士だったんだよね?
「二人も朝ご飯?」
「そーだよー」
「二人で今日はパンかご飯か話し合っていました」
「個人的にはご飯だが…偶にはパンも良いかもしれないな…」
ふむふむ…本音ちゃんが絵に描いたような陽キャなのが功を奏しているのか、二人の仲は良いみたい。
うぅ…オレにも本音ちゃんのようなコミュ力があったら、今みたいな事にはなってなかっただろうなぁ…はぁ~…。
因みに、オレは朝はパンであることが多い。
理由は単純に、そっちの方が簡単だから。
その気になればオレでも出来るしね。
「あれ? 真尋さんと箒?」
「「「「ん?」」」」
このIS学園において、話しかけてくる若い男と言えばたった一人しかいない。
そう…我等が世界唯一の男性IS操縦者である一夏だ。
オレは厳密には違うからね。
だって、今は女だし。
…自分で言ってて虚しくなってきた。
「まさか、朝からこうして皆揃うなんてなー」
「ま、同じ寮に住んでるんだし、別に珍しくもないんじゃ?」
「それもそっか。で…どうして箒はさっきから俺の事を睨み付けてるんだ?」
「気を付けてください姉さん。一夏は偶然を装って女に対して破廉恥な事をしてくる男です。油断すれば、姉さんも変な目に遭わされるかもしれません」
「そんなことしねぇよっ!?」
そっかー…一夏はラッキースケベ体質の持ち主なのかー。
まるでラノベの主人公みたいだなー。
「だ…大丈夫ですからねッ!? 俺は絶対に真尋さんにそんな事はしませんから!」
「男に二言は無い?」
「無いです!」
「言ったなー? その言葉、覚えたからなー?」
「うっす!」
でもまぁ実際問題、オレが一夏にラッキースケベされたら、まず間違いなく箒と束と千冬の三人が黙ってないだろうなぁ…。
うん。オレの方もこれに関しては気を付けるように心掛けよう。
じゃないと最悪の場合、一夏が去勢される可能性がある。
流石にそれは可哀想だ。
特に束の場合、マジで何をするか分からないからなー…。
(けど、一夏の行動って読めそうで読めない所があるからなー…)
これは大変なことになりそうだ…。
因みに、今日の朝ご飯は箒に合わせて『焼き魚定食』にした。
偶には朝からご飯ってのも悪くは無いな…。
折角だし、寮生活の間は朝食はご飯メインにしてみようかな…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
皆で楽しく朝ご飯を食べ終え、今は二時間目の授業の真っ最中。
教壇には山田先生が立っていて、これまたIS関連の授業をやっていた。
(まさか…予習と復習が、ここまでダイレクトに効いてくるとは…)
正直、不安が無かったと言えば嘘にはなる。
だからこそ、学園に入るまでの時間を使って、物凄く久し振りに猛勉強をやった。
人生一回目の高校受験の時でも、あんなに勉強しなかったと思う。
それだけISの勉強はマジで大変だった。
束とクロエちゃんがいなかったら確実に心が折れてただろう。
(…で、肝心の一夏はというと…)
案の定と言うかなんというか…見事に頭から知恵熱の煙を出してた。
そうなるのも無理は無いよな…アイツに関して言えば、完全に事故でここにいるみたいなもんだし。
心の整理やら何やらで大変だっただろうし…精神的な意味で勉強する余裕なんて無かっただろうな。
(仕方がない奴め…)
ここはいっちょ、歳上らしく勉強でも教えてやるか?
今のオレなら、一夏に最低限の事を教えるぐらいは出来るだろう。
なんてことを考えていたら、何故か授業はブラジャーの話になっていた。
何がどうなったらISの授業が下着の話に発展するんだろうか。解せぬ。
途中で千冬から注意をされて軌道修正をしたけど。
もしも、それが無かったらこのままブラの話だけで一時間が終わっていたかもしれないと思うと恐ろしい。
キーンコーンカーンコーン…。
(あ…授業終わった)
結局、後半はブラの話しかしてねぇ…。
それでいいのかIS学園。
「つ…次の授業では、空中におけるISの基本制動についてしますからねー」
必死に取り繕っているのがバレバレだ。
これからの生活で山田先生の先生らしい姿は見れるのかな…?
授業終わりの挨拶をし、教師二人は職員室に戻っていく。
先生達がいなくなった瞬間、少しだけではあるけど生徒だけの時間が始まる。
「だーいじょーぶかー? いーちかー」
「真尋さん…」
あらら。見事にげっそりとしてりますがな。
これはちょっと哀れ。
オレが動いたのに合わせて、箒と本音ちゃん、クロエちゃん達も集まって来た。
「どうした一夏。情けないぞ」
「んなこと言われても…。よく、あんな難しい授業が分かるよな…。俺にはマジでサッパリだよ…」
そりゃまぁ…そうだよなぁ…。
「そういや、真尋さんは昨日も平気そうに授業を受けてましたけど、全部分かってるんですか?」
「そりゃそーだよ。オr…私だって、入学に際してちゃんと勉強してきたんだから。ね? クロエちゃん」
「はい。真尋さまは、それはそれは頑張っておられました」
「マジか…」
こーゆー時、証人がいるってのは頼もしいなー。
堂々と胸を張ってマウントが取れるからね。
「ほ…箒はどうなんだ?」
「私もお前の事は余り言えないが、だからと言って何もしていない訳ではない。ちゃんと自分なりに勉強はしていた」
「嘘だろ…」
必死に仲間探ししてるけど、それは無駄だと思うぞ一夏。
この学園にいる事は一部の例外を除いて、殆どが授業の内容ぐらい普通に理解出来る頭を持ってるのが前提なんだから。
「だったら…布仏さんは…」
「ちゃーんと分かってるよー?」
「デスヨネ…」
一夏。無事に完全敗北。
ご苦労様でした。
「よかったら、私が分かる範囲で勉強を教えてやろうか?」
「「えっ!?」」
一夏はともかく、どうして箒も驚く?
「い…いいんですかっ!?」
「勿論。困った時はお互い様だし、このままほっとくのも可哀想だしさ」
「うぅ…ま…真尋さぁ~ん…(泣)」
そこで泣くなし。
そんなにも追い詰められてたんかい。
「い…一夏が良いのならば、私にも勉強を教えてください! 出来ればマンツーマンで!」
「別にいいけど…なんでマンツーマン?」
部屋に変えれば嫌でもマンツーマンになるだろうに…。
「クッ…! 私も真尋さまにお勉強を教えて貰いたい…! けど、実際には私の方が教える立場だったし…!」
そーなのよね。
クロエちゃんにはマジで色んな事を教えて貰ってた。
年下の女の子にー…なんて最初は思っていたけど、すぐにそんな安いプライドなんて捨てなければいけないって理解した。
だって、オレよりもクロエちゃんの方がずっと頭が良いんだもん…。
「なら私も、まひろんに勉強を教えて貰うー」
「本音ちゃんも…?」
いや…多分だけど、君ってオレよりもずっと頭が良いよね?
寧ろ、こっちの方が勉強を教えて貰う立場だよね?
「はぁー…こんな事なら、せめて教科書を読むとかしておけばよかった…」
「読んでなかったの?」
「最初は興味本位でページを捲ってみたんですけど…すぐに意味不明な単語の羅列を見て閉じました」
その気持ち…すごーく良く分かる…!
きっと、誰もが一度は経験することだと思う。
親が読んでる本の内容が気になって、居ない時を見計らって試しに中を見てみると、内容が難しすぎて全く理解出来ず、結局はそのまま本を閉じてしまう。
オレもあったなー…子供の頃、親父が哲学書をよく読んでて、その姿が凄くカッコよく見えて、真似をしようとして本を見てみると…何が書いてあるのか微塵も理解出来ずに頭がグルグルなってしまった。
多分、あの本は今読んでも理解出来ないだろうなぁ…。
読んでたら、いつの間にか寝てる自信がある。
「けど、私が教えられる範囲も全てってわけじゃないからな? こっちもこっちで勉強はしなくちゃいけないし」
「それぐらいは分かってますって」
「ホントーかー…?」
こいつの場合、途中で調子に乗ってドンドン意味不明な事を尋ねてきそうな気がする。
割と単純な思考回路をしてるからなー。
「勿論、ちゃんとお礼もしますよ。何がいいですか?」
「んじゃ…昔作ってくれた『ふわとろ卵のオムライス』作って」
「それぐらいなら喜んで。昔よりも上達してますから」
「マジかー。それは楽しみだなー」
千冬が家事能力が壊滅的な代わりに、一夏の家事能力が凄いことになってる。
特に料理の腕は素晴らしく、昔からよく色んな料理を作って、オレが試食係をやってた。
うーん…懐かしいですなー。
一夏は、そこらの女の子よりも女子力が高いからなー。
素晴らしい主夫能力があるよなー。
…もし家庭科の授業とかあれば、まず間違いなくクラスの女子全員が女としてのプライドをボドボドにされて血の涙を流すだろうな…。
「お?」
ここで休み時間終了のチャイムが鳴った。
急いで席に着かないと、我等が織斑センセーがやって来るぞー。