オレの胸の中で泣きじゃくっていたかと思ったら、いきなりやって来た箒とクロエちゃんに詰め寄られてたセシリア(本人が、そう呼んでほしいと言ってきた)を宥めてから、再びルブリスを装着して、カタパルトに両足を固定する。
「んじゃ、私はそろそろ試合に行くから」
「真尋さん! 頑張ってくださいまし!」
「姉さんならきっと大丈夫です!」
「二連勝、期待しています」
「はいよー」
うーん…中々の重圧…。
でも、今のオレはプレッシャーに押しつぶされてゲロを吐くような真似はしない。
少し前までのオレだったら普通に有り得たかもだけど。
「ガンダム・ルブリス! 篠ノ之真尋! いきまーす!」
ガンダムと言えば、やっぱりコレですよなー。
発進する時の口上。
ぶっちゃけ、これを言えるってだけでもかなり興奮してます。
ガンダム好きで、このシチュエーションに憧れない奴はいないでしょ。
さっきと同じような感覚で飛んでいき、アリーナのステージまで行くと、そこには既に一夏が格闘戦特化に変化した白式を纏って待っていた。
「少し遅かったですね。なんかあったんですか?」
「うーん…なんて言ったらいいのやら…」
そのまんま言うのは良いけど、それはそれで恥ずかしい気もする。
ここは適当に誤魔化すが吉と見た。
「ま…色々とな。それよりも、早く始めよう。アリーナの使用時間も限られてるんだろ?」
「みたいですね。さっき千冬姉が言ってました。『あと一時間半ぐらいで使用時間が終わる』って」
「なんて微妙な残り時間…」
一時間半かー。
普通に試合をして、少し休憩をしてから帰るぐらいの時間はありそうだな。
「それじゃあ…こっちもソッチに合わせた姿になりますかね」
「お? と言うと…やっぱり?」
「勿論…ビットオンフォーム!」
別に叫ぶ必要はないんだけど、なんとなく雰囲気で叫んでみました。
すると、左腕に盾状態で装着されていたビットステイヴが分離して、それぞれにバックパックに装着されていく。
ちゃんと、レシーバーガンにも装着して『ガンビットライフル』にするのも忘れずに。
でも、このガンビットライフルもバックパックにマウントします。
「流石は束さんだな…! ちゃんとガンビットの全機能を完全再現じゃないすか!」
「それ、アイツに言ってやったら飛んで喜ぶと思う」
「分かるわー」
ああ見えてアイツ、実は人から褒められるのがめっちゃ好きだからな。
ISの開発理由だって、元を辿れば『そこ』に行きつくしね。
「でも、ライフルまで引っ込めたってことは、使う武器は…」
「当然、ビームサーベルだよ」
よくよく考えたら、初戦でこれ使えず仕舞いだったんだよな。
それに、相手は超接近戦仕様。
下手に距離を取って戦おうとしたら、近づかれた時が怖い。
だから、ここは敢えて自分も近接戦で対抗します。
「…そういや、こうして一夏と対決するのって初めてかもな」
「そうですね。真尋さんはよく格ゲーとかやってましたけど、一度も対戦した事は無かったですね」
オレがビームサーベルを構え、一夏もまた両拳を握りしめてからボクシングのような構えをした。
「「…………」」
数瞬の間。
風が吹き、お互いの体を撫でる。
「いくぞ!!」
「いきます!!」
オレと一夏は全速力で突撃し、中央でぶつかった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「真尋さんの機体のビットが本体とドッキングした…!?」
本来ならば誘導兵器として使用する筈のビットの違う使い方。
それを見たセシリアは目を丸くして驚いていた。
「あれこそが、ルブリスのビットステイヴのもう一つの使い方。その名も『ビットオンフォーム』です」
「ビット…オンフォーム…?」
クロエの説明を聞いても、余りよく分かっていない様子のセシリア。
仕方がないので、説明を続けることにした。
「ビットステイヴをバックパックに装着し、機動性能を飛躍的に向上させた形態です。スピードの特化だけでなく、あらゆる姿勢においてISの域を超えた加速と制動を示す事が出来るんです」
「ビット兵器に、そんな使い方があるだなんて…」
「あれはルブリスと真尋さまだからこそできる芸当です。他の機体、他の操縦者で同じ事はまず不可能でしょう」
淡々と説明をしながらも、何故か胸を張って自信満々にドヤ顔をするクロエ。
どうやら、今のルブリスと真尋を見て驚いているセシリアに愉悦を感じているようだ。
「ま…真尋さん…幾ら織斑さんの機体が近接特化だからと言って、ご自身もサーベルだけだなんて…大丈夫なんでしょうか…」
「フッ…愚問だぞ。セシリア」
「え?」
今度は箒がドヤ顔をする番。
妹としての面目躍如である。
「ウチの家は昔から剣道場を開いていてな。私や姉さんは勿論、一夏や千冬さんも良く一緒に通って竹刀を振っていたもんだ」
「あの方たちが…」
「無論、真尋姉さんも回数こそ少ないが、同じように剣道をやっていた時期がある。分かるか? 真尋姉さんの中にも剣士の血が流れていて、剣の心得もちゃんとあると言うことなんだ。寧ろ、剣を握った今こそが真尋姉さんの本領を発揮できると言っても過言ではない」
本当は過言なんだが、真尋大好きっ子な箒には分かっていない。
それだけ長女となってしまった真尋のことが好きな証拠なのだが。
「最初の試合の後、真尋姉さんがぼやいていたぞ? 『消化不良』だとな」
「うっ…それは…」
「真尋姉さんは、お前と本気で戦う事で『本気で戦うことの大切さ』を教えようとしていたのに…姉さんが準備運動代わりの攻めをして、ここからが本気モード…と言う所でお前が降参してしまった。試合には勝ったのに、姉さんは凄く不服そうだった」
「申し訳ありませんわね! でも、仕方がないじゃありませんの! 真尋さんの実力が私の想像の遥か上を行っていたんですから!」
「真尋姉さんが強いのは当然だ。よって、そんなのは言い訳にはならない」
「うぅ~!」
ここまで真尋を妄信していると、もうシスコンとかそんな領域を超えている気がする。
箒が禁断の恋に目覚めるのも時間の問題かもしれない。
「お二人とも。そんな事を言っている間にも試合は盛り上がってますよ?」
「「えっ!?」」
結局、最後は冷静に試合を見ていたクロエが勝った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
両腕部に付属しているブレードが、ルブリスのサーベルと鍔是り合う。
普通ならビームの剣とぶつかるなんて有り得ないんだけど、もしかしたら白式の両腕にだけビームコーティングでもされているのかもしれない。
「インドア派と見せかけて…凄い踏み込みをするじゃないスか…真尋さん…!」
「そっちこそ…! 幾らなんでも鍛えすぎなんだッつーの…!」
流石にパワーは向こうの方が上か…!
なら、こっちはスピードで翻弄する!
「ビームサーベルは一本だけじゃないんだぞ…っと!」
「おわっ!?」
ちっ!
バックパックからサーベルを抜刀しながらの一撃は躱されたか…。
でも、お蔭で一夏の方から距離を取ってくれた!
「どんどん攻めるぞー! どりゃー!」
「なんの! こっちだって負けないですよ! ふん!!」
ジグザグに動きながら接近して、一夏の目を翻弄してからの…急接近!
確か『
「正面ッ!? けど速い!? なら!」
オレの顔目掛けて白式の拳が迫って来るが、咄嗟に体を低くしてからそれを回避。
勿論、避けつつもちゃんとサーベルを振りかぶるのも忘れない。
「危なっ!?」
「げ」
なんと、オレのサーベル斬り上げを、上半身を逸らせることで避けられた。
そんな風に回避されるとは…ちょっと驚いた。
「さっきからずっと思ってたんですけど…」
「なに?」
「その踏み込み方といい、剣捌きといい…それってどう見ても『篠ノ之流剣術』ですよね? 俺の記憶が正しければ、真尋さんってあんまし剣道やって無かったような気が…」
「まぁな。妹二人が凄すぎたんで、すぐに挫折をして止めちゃったよ。でも…剣道をしなくなったからと言って、全く何もしてなかったわけじゃないんだぞ?」
そう…オレは父さんに認められたくて剣道を始めた。
けど、すぐに自分には剣道の才能は無く、その代わりに妹二人に剣道の才能があることが分かって、オレの心は簡単に折れた。
だと言うのに、オレは何故か諦めきれずに剣道場で練習をしている皆の事を影から見ていた。
目を凝らして動きを覚え、それを自分の部屋で密かに練習をした。
オレの篠ノ之流は、見様見真似の謂わば『自己流』なんだ。
お世辞にも褒められるような物じゃない。
ISの試合でもなければ、ずっと使う事は無かっただろうな。
「やっぱ…真尋さんは凄いな…。だからこそ、俺も今できる本気で挑みたい!」
一夏の気合いが更に増した…ような気がする。
本当に…お前は『主人公』だよ。
何もかもを諦めて引き篭もってニートになったオレとは大違いだよ…。
「でも! それでも!」
「こ…この距離の蹴りを避けられたぁッ!?」
今度は俺の胴体を狙ったローキックが飛んできたが、全身を右側に捻ることでそれを回避。
そのままの流れで、白式の胴体にサーベルの一撃が遂に入った!
「いっ…! 流石はビームサーベル…なんつー威力だよ…!」
「まだ終わりじゃないぞ!」
「なっ!?」
大きく後ろに振りかぶって勢いの付いた左腕のサーベルを全力で振り上げる!
遠心力が付いた分、同じビームサーベルでもこっちの方が威力は高い筈だ!
「やべ…! 今のはかなり効いた…!」
「ここから更にコンボを決める!」
今、俺の両腕は斬り上げた状態…つまり上を向いている。
ってことは、もうここからする事は一つだけだよな?
「ビームサーベル…×の字斬り!!」
「ここでまさかの戦神丸っ!? ぐおっ!?」
こ…これでどうだ…!
このコンビネーションはかなりのダメージになった筈…!
「流れるような三連撃で一気に大ピンチかよ…! でも、俺はまだ負けてないッスよ!! 真尋さん!!」
「だと思った!」
いきなり一夏の拳が眩しく光り出した。
あれはシャイニングフィンガーか?
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
見ただけで分かる。
あの一撃は絶対に避けなくちゃダメだやつだ。
回避一択。
そうと決まればすぐに後方へ退避…!
と思っていたら、急に白式の拳がピタッと止まった。
「…あれ?」
「ふぇ?」
拳に宿った光が急に消えて…一夏の目が点になってる。
いきなりの事でオレもポカンとなっちゃった。
【試合終了! 勝者…篠ノ之真尋!】
…………どゆこと?
普通に意味不明過ぎて状況が飲み込めないんですケド…。