オレと一夏が試合をして、お互いに全力を出して戦って、ここから更に盛り上がって…と思っていたら、なんかいきなりオレの勝ちで試合が終了していた。
何を言っているか分からないと思うが、オレも何が起きたのかサッパリ分からない。
手品とかトリックとか、そんなちゃちなもんじゃない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
「…………」
形はどうあれ、試合は終了したのでオレは大人しくピットへと戻って行った。
けど、オレの心にはモヤモヤとしたものが渦巻いている。
「ね…姉さん? どうしたのですか?」
「二連続…」
「え?」
「二連続でスッキリしない試合だった~! すっごい消化不良なんですけど~!」
ホントもうさ~…マジで一体なんなのよ!?
オルコットさんの時はー…まぁいいよ?
彼女は彼女なりに色々と考えた結果として降参したんだし。
でも、一夏の場合は何よあれっ!?
アイツの拳がいきなり白く光ったと思った瞬間、突然試合が終わってたんですけどッ!?
「そ…それでも真尋さんの勝ちですわよ?」
「そうではあるけどさ~…むぅ~…」
なんだかな~…納得いかないな~。
「真尋さま。取り敢えず、今は向こうのピットに戻りませんか? もしかしたら、束さまが何か知っているかもしれません」
「それもそっか。どっちみち、向こうには戻らないとだし…行きますか」
はぁ~…これがオレの人生初のISの試合だと思うと…何とも言えないな~。
確かにオレが勝ちはしたけどさー…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
溜息交じりに皆で向こうのピットに戻ると、案の定ってな感じで一夏が千冬に説教されていた。
「全く…お前と言う奴は。体を鍛えて少しはマシになったかと思っていたら、中身の方は相変わらずだな」
「うぅ…面目次第もございません…」
筋肉隆々な体が、なんだか小さく見えてしまう。
どれだけ鍛えても姉にだけは勝てないってか。
「おっすー。お姉ちゃんに叱られてるかー若者よー」
「いや…真尋さんも若者じゃないスか…」
そうでした。
「やったねーお姉ちゃ…じゃなくて真尋ちゃん。見事に二連勝だよー」
「そうだけどさー…」
「やっぱ、消化不良な感じ?」
「まーねー。やっぱ、ちゃんと決着は付けたいよねー」
すっごいもどかしいんだよなー。
例えるなら、RPGでラスボスへのトドメの一撃をNPCにされてしまう感じ?
これって凄くイラってしない?
「束さま。一夏さまがどうして自滅してしまったのか、お分かりになられますか?」
「んー…詳しく調べて見ないと何ともだけどー…想像はつくかなー」
「想像でもいいから教えて」
こいつの『想像』は限りなく当たりに近いからな。
そのせいで一体何冊の推理小説が駄目になったか。
「多分だけど、あの時に白式の拳に宿った白い光は、嘗てのちーちゃんの専用機『暮桜』の単一使用能力である『零落白夜』と同種の能力である可能性が高いと思う」
「なんだと?」
「れーらくびゃくや?」
束の言葉に千冬は露骨な反応をして、一夏の方はまるでレレレのおじさんみたいな顔になって首を傾げていた。
「成る程な…もしそうだとしたら、こいつが自爆したのも納得がいく」
「どういう事だってばよ?」
「『零落白夜』は、自機のSEを消費することでエネルギーを対消滅させる刃を生み出す能力だ。単純な攻撃力だけならば間違いなく最強と言えるが、発動中はリアルタイムでSEを消費し続けると言う制約がある以上、常時発動は絶対に不可能だし、SEを消費した試合後半で発動するのもご法度だ。基本的にアレは試合開始直後から発動し、短期決戦を挑む際に使うのが最も効果的だからな」
おぉ~…流石は元世界最強…。
思わず小さく手をパチパチパチとしてしまった。
「って事は俺の場合は…」
「白式のSEが真尋さんの攻撃によって少なくなっている所に、何も考えずに能力を発動した結果、攻撃が届く前にSEが無くなってしまった…ということだろう」
「マジかぁ~…。うっわ~…これは流石に恥ずかし~…」
お前は恥ずかしいだけでいいけど、こっちが物凄い消化不良状態なんですけど?
このもどかしさはどうすればいいの?
「まぁ…試合内容はどうされ、結果としては真尋さんが二勝し、織斑が一勝一敗。そしてオルコットが二敗と言う事になるな」
「うぐ…!」
なんか急にオルコットさんが大きな胸を押さえ込んで苦しそうにした。
その理由はなんとなく分かるけど、ここは人として黙っておくことにしよう。
「それじゃあ、真尋ちゃんが一組のクラス代表って事になるねー」
「そうなるな」
…………あ。
そういや、これってクラス代表を決定する為の試合だったじゃん。
本当なら絶対に勝っちゃダメな試合だったじゃん。
なのにオレってば普通に完勝しちゃったよ。
ど…どうしよう…。
「大丈夫ですよ真尋さん」
「ふぇ?」
「流石の私も、いきなり全て一人でやれとは言いません。織斑。オルコット」
「「はい?」」
「お前達は二人して真尋さんに負けた。ということで、クラス代表補佐として真尋さんの手伝いをしろ。いいな?」
クラス代表補佐とな?
手伝ってくれるのは普通に嬉しいけどさ、そんな役職を勝手に増やしてもいいの?
「はい! このセシリア・オルコット…喜んで真尋さんのお手伝いをさせて頂きますわ!」
「そう…だな。俺が不甲斐無いなかったせいで真尋さんにもどかしい思いをさせちまったし…うん。俺も喜んで手伝わせて貰うよ」
「二人とも~…」
うんうん…頼りになる知り合いがいるってのは良いもんだね~…。
今までの人生でクラス代表なんて一度もやった事なんて無かった…というか、それっぽい役職についた記憶すらない。
こうなる前のオレなんて、所詮は単なる背景の隅の方にいるモブキャラだったしねー。
「意外な形でライバルが増えたね。箒ちゃん。クーちゃん」
「ラ…ライバル? な…何を言っているのやら…ははは…。私は姉さんの事を一人の姉として敬愛しているだけであって、それ以上の事なんて…ごにょごにょ…」
「例え誰が相手であっても絶対に負けません。最後の最後の真尋さまの横に立つのは、この私です」
なんか箒は顔中に冷や汗を掻きながら顔を真っ赤にしてるし、クロエちゃんに至っては、なんか熱血漫画の主人公みたいな台詞を言ってる。
「それじゃあ、織斑君。篠ノ之さん。これをどうぞ」
「「い?」」
さっきまで黙っていた山田先生が、いきなり恐ろしく分厚い本を手渡してきた。
マッチョ男子な一夏は片手で軽々と持ち上げてるけど、オレは両手でも持っているだけで精一杯だった。
「な…なにこれ…? 六法全書の親戚?」
「この重さと分厚さ…上腕二頭筋を鍛えるのに丁度良さそうだな」
一夏。それは絶対に筋トレの道具じゃないから。
ちゃんと本として使ってあげなさい。
「これは、専用機を所持する際に必要な事が書かれている参考書です。出来るだけ早めに中に目を通しておいてくださいね」
「「はーい」」
…暇な時にでも見てみるか。
これ全部読み終えるのに、どれだけ時間が掛かるのか見当もつかないけど。
「大丈夫ですか姉さん。重いのなら、私が持ちますよ?」
「お願いできる? これさ…見た目以上に重たいんだよね…」
「任せてください。こう見えても鍛えてますから。うぐ?」
震える手で箒に手渡すと、いきなり変な声を出した。
「…確かに重いですね。これはもうちょっとした鈍器なのでは?」
「ISのパワーアシストを使って、この本の角とかで攻撃すれば凄いダメージが出そうな気がする」
分厚い参考書を持っているルブリスってのもシュールで面白いけど。
「もうそろそろ時間だな。では、一組のクラス代表を決める試合はこれにて終了とする。正式な発表は明日の朝のHRにて行う。では、解散」
はぁ~…。
や~っと部屋に帰れるよ~。
今はマジで何もする気が無~い…。
部屋に帰って、シャワーを浴びてスッキリしたら、夕飯まで仮眠をしよう…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
次の日。
千冬の宣言通り、朝のHRにて昨日の試合の結果発表がなされた。
「…と言う訳で、一年一組のクラス代表は篠ノ之真尋さんに、そのお手伝いという形でクラス代表補佐に織斑一夏くんとセシリア・オルコットさんに決定しました~」
はぁ~…これで遂にオレも矢面に立たされる立場か…。
考えただけで憂鬱になりそうだけど、一人じゃないだけマシと考えるべきか…。
「意外な結果になりましたな~」
「でも、真尋ちゃんって可愛いし、ISも強いってんなら文句は無くない?」
「だねー。あのISもカッコよかったし」
「見た目はロリっ子なのに、中身はIS強者…」
「だから気に入った」
おい。
なんか好き放題言われてるんだが?
最後の方にシレっと露伴先生が混じってたし。
「先生。クラス代表補佐って何をするんですか?」
「その名の通り、クラス代表の補佐をする役職です。これ自体は別に今に始まった訳じゃなくて、これまでにも存在はしていたんです。一人で出来る事にはどうしても限度がありますから。そんな時にクラス代表の手伝いをして貰います。時には、代表の代わりに委員会の会議などにも出席して貰うことにもなります」
うへ~…割とがっつりと手伝うんだな~。
てっきり、一緒に荷物持ちをするとか、その程度の事しか考えてなかった。
これって、オレがしっかりしないと一夏とオルコットさんに負担を掛けてしまうのでは?
オレが運動不足の元ニートとは言え、流石にそれは気が引けるな…。
不本意ではあるけど、これからはちゃんと頑張らないといけない…かな…。
「山田先生。少しよろしいですか?」
「篠ノ之さん? どうしました?」
分かりにくいかもだけど、手を挙げたのは箒。
いきなり、どした?
「クラス代表補佐…私もやらせて貰ってもよろしいでしょうか? 妹として、姉さんの手伝いをしたいのです」
「織斑先生…」
おぉ~?
まさかの箒が自ら立候補ですよ?
これはお姉ちゃんも驚きだ。
で、山田先生は困った顔で後ろに立っている千冬に視線を送る…と。
「やる気のある生徒を無下には出来ないだろう。そこまで言うのならば、やってみせろ」
「はい!」
いい返事ですこと。
昨夜からずっと何か考えてる風な感じだったけど、これを狙ってたのか。
「それならば、私もお手伝いさせて下さい」
「クロニクルさんも…ですか?」
うん。なんとなく予想はしてた。
箒が来るなら、クロエちゃんも来るだろうなーって。
「どうせ、止めても聞かないんだろう?」
「勿論です」
「真尋さんを補佐する人間は多ければ多い方が良いしな。なら、クロニクル。お前にもクラス代表補佐を命ずる。ちゃんとやってみせろ」
「お任せください。全力で真尋さまをお支えします」
なんだろう…気が付けばクラス代表補佐が四人になってたんだが。
いいのか…これ…。