練習に夢中になり過ぎて、外はすっかり暗くなって夜に。
一人なら怖かったかもしれないけど、今のオレは一人じゃない。
「ふぅ~…今日も疲れたな~」
「お疲れ様です。真尋さま」
こうしてクロエちゃんから労って貰えると、明日も頑張れる気になりますな~。
誰かから励まして貰えるのっていいよね。
「いつ見ても、真尋さんのビット捌きは見事としか言いようが有りませんわ。何かコツなどはありますの?」
「コツって言われてもな~」
よくオルコットさんから多くのビット兵器を操るにはどうしたらいいか的な質問をされるんだけど、オレの場合は殆ど感覚でやってるんだよな~。
だから、答えたくても答えられない訳で。
「まひろんは、まるで自然な形でビットを操ってるよね~」
「確かに本音の言う通りだな。セシリアのように直線的じゃなくて、まるで流水のような動きをしている。ビット一つ一つに意志が宿っているかのように」
うぐ…本音ちゃんも箒も鋭いな…。
実際、MSのエアリアルのビットはそんな感じだったしな…。
流石にオレのルブリスにはそんなのは無いんだけど。
そもそもパーメットスコア自体が無いし。
「なんつーか、原作で対峙してた連中の気持ちが分かっちまうよなー。近づくだけでも一苦労だし」
「仮に近づかれても、普通にビームサーベルで対処するけど」
「ですよねー」
「あと、レシーバーガンからもサーベルは出るし。割と近接戦でも強い」
「隙が無いじゃねぇか…」
それがガンダム・ルブリスって機体なんだからしょうがないじゃないか。
こればっかりは『頑張れ』としか言いようがないよ一夏。
「しかも、真尋さんはビットと同時に動けますわ。これはかなりの強みでしてよ?」
「そうだった…。あの時も、近づいたからって油断をした結果、自分のエネルギー切れに気付かずに負けたんだった…」
あれは普通に驚いたよねー。
ここから盛り上がっていくぞー…って時にいきなり試合終了だもんね。
拍子抜けしちゃったよ。
まるで、ゲージが溜まって超必殺技を放とうとしたらタイムアップでラウンドが終わってしまった気分。
「そう言えば、今日って寮の食堂で何かするって言ってなかったっけ?」
「パーティーですわ。真尋さんがクラス代表に就任したお祝いに」
「えー?」
パーティーって…そんな大袈裟なことかなー?
他の学校で例えると『学級委員長就任パーティー』ってことでしょ?
下手したら、相当に娯楽に飢えてるって思われるよ?
「まぁまぁ…いいじゃあないですか。皆が真尋姉さんの事を祝ってくれるのですから」
「うーん…」
妹にそう言われたら、オレも『行きたくない』とは言えない。
人の多い所は苦手なんだけど、皆も一緒なら大丈夫…か?
「皆も待ってるだろうし、早く行こうぜ」
「さんせー!」
「そうですね。真尋さま、参りましょう」
「はーい」
ま…偶にはいいか。
これもまた社会復帰への第一歩になる…のかな?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
宵闇の中、一人の少女がその光景を見て立ち尽くしていた。
長いツインテールが夜風に靡くが、少女は微動だにしない。
「何よ…あれは…」
想い人の男の子が、あろうことか大勢の少女達と一緒に仲良さそうに談笑をしながら歩いていた。
少し遠くにいて、暗くてよく見えていなかったとはいえ、まるで自分の事なんて完全に忘れているかのように。
「…上等じゃない。なら、すぐにもでも思い出させてあげるわよ…! アタシのことを…!」
気落ちしたかと思ったら、すぐに立ち直った…と言うよりは、怒りで奮い立った少女は、そのまま力強い足取りで目的地まで歩いて行った。
その後に出会った事務員の人は、彼女の形相に普通にビビっていたらしい。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…と言う訳で、真尋ちゃんクラス代表就任おめでと~!」
「「「「おめでと~!」」」」
わー…ぱちぱちぱち…。
じゃなくて、なんかオレの想像の五倍は凄かったんですけど?
てっきり、少し規模の大きなパジャマパーティーぐらいのを想像してたのに、思ったよりも本格的なパーティーを開いてたんですが?
ちゃんと『篠ノ之真尋クラス代表就任パーティー』って書かれた紙も用意してあるし、テーブルの上には沢山の料理が並べてあるし、いつの間にかクラッカーやらなにやら準備してあるし。
いや…それだけならまだ百歩譲っていいとして…なんで明らかに他のクラスの子と思わしき子達もしれっと混ざってるのかな?
一組メンバーも特に気にしてないっぽいし。
これが現代の女子高生のおおらかさなのか…。
「なんか…すっごい賑やかなんだけど…」
「これが女子高生パワーってやつなんですかね…?」
「だとしたら、ほんの少しだけ女尊男卑になった理由が分かる気がする」
このエネルギッシュさは男子には無いわー。
そりゃ、オレ達も盛り上がる時は盛り上がるよ?
でも、そのテンションは長続きしない。
熱しやすく、冷めやすい。
けど、このテンションは…。
「いや~…これでクラス対抗戦も盛り上がること間違いなしだね~」
「真尋ちゃんみたいな、超強い美少女がクラス代表してくれたら最強でしょ」
「織斑君でも話題性抜群だったけど、真尋ちゃんも全く負けてないよね~!」
「試合の時と普段の時のギャップが良いよね~!」
「そんな真尋ちゃんが私は好き」
なんか最後に凄いことを言ってる子がいたんですがッ!?
「ふっ…どうやら、真尋姉さんの魅力に気が付いたか」
「今更ですね。ISに乗っていなくても真尋さまは充分に魅力的だと言うのに」
「全くですわね。真尋さん、こちらのお料理なんていかがかしら?」
「「抜け駆けッ!?」」
あっはっはー。
オレの両隣で箒とクロエちゃんとオルコットさんが賑やかだー。
この三人も、すっかりさっきまでの疲れが吹っ飛んでますなー。
「あ…ジュース無くなった」
「はい、まひろん。ジュースのおかわり」
「ありがと、布仏さん」
「どーいたましてー」
「「「抜け駆けッ!?」」」
どこがだよ。
彼女は普通に気を使ってくれただけでしょうが。
「はいはいはーい! いきなりでしつれーしまーす!」
おっと。
今度は何だ?
急にテンションが高い眼鏡女子が乱入してきたぞ?
「話題の新入生の織斑一夏君、それから篠ノ之真尋ちゃんにインタビューしに来ましたー!」
え? 一夏はともかく…オレも?
なんでぇ?
「インタビューの前にまずは自己紹介から。私は黛薫子。二年生で新聞部の副部長をやってまーす!」
新聞部とな。
その時点で嫌な予感しかしないぞ。
マスコミなんて碌なもんじゃないんだから。
「てなわけで、まずは織斑一夏君から!」
「なんスか?」
「IS学園に入学した感想を一言!」
「トレーニング器具が一杯あって楽しいですね。俺の上腕二頭筋と大胸筋が嬉しそうに笑ってます」
「じょ…上腕二頭筋? 大胸筋? え?」
久々に聞いたな…一夏の筋肉ネタ。
本人はこれ、ネタじゃなくて本気で言ってるんだけど。
「なんなら、俺のおすすめのプロテインでも紹介しましょうか? こっちのはフルーツミックス味でフルーティーだし、こっちのなんてココア味で飲み易くて…」
「あー…うん。分かった。織斑君はマッスル系男子なのね」
「マッスルじゃなくて筋肉系男子って呼んでください」
「変な拘りっ!?」
いつからだろう…一夏がツッコミじゃなくてボケになってしまったのは…。
今でも少しだけ後悔する時がある。
あの時、別のことを言っておけば一夏が筋肉馬鹿にならずに済んだのではないかと。
もう遅いけどね。
「そ…それじゃあ、次は噂の美少女である真尋ちゃんにお話を聞こうかなー?」
一夏から放たれる筋肉オーラに負けて、こっちに話題を振って来た。
「まずはー…クラス代表になった感想とかを聞かせてくれる?」
「うーん…正直、なんでこうなったのかは分からないけど、なってしまったからには自分なりに頑張ってみようかなー…なんて」
「実に当たり障りのない言葉だねー。でも、それがいい!」
そーですか。
割と適当に言ったんだけど、気に入って貰ったんなら何よりだよ。
「ところで、噂じゃ真尋ちゃんってビット兵器をまるで手足のように操ってみせたって聞いたんだけど、それって本当?」
「それはー…」
「本当ですわ!」
わっ!?
いきなり隣からオルコットさんが介入してきたッ!?
「真尋さんのビット捌きはもう素晴らしく…まるで
「うんうん。成る程ねー。これは面白い話が聞けそうだなー…ニヤリ」
おい、この先輩『ニヤリ』って口に出したぞ。
「一夏ー…この二人を止めてー…って?」
「ん? なんですか?」
もう普通にプロテインを飲んでるし。
そういや最近の一夏って、食事の度にプロテインを飲んでるよな…。
完全に食後の飲料水と化してるじゃん。
卒業する頃にはボディービルダーみたいな体になってたりして。
「…と言う訳で、入学前から真尋さまは束さまお手製のシミュレーターにて練習を繰り返していて…」
「あの篠ノ之博士が作ったシミュレーターでッ!? 成る程ねー…これは良い話を聞けたわ! 真尋ちゃんの強さの秘密はこれに違いないわね!」
少し目を離した隙にクロエちゃんも話に加わってるしッ!?
別に聞かれて困る事を話してないから良いけどさ…。
「いやー…真尋ちゃんの周りはネタの宝庫ね! これからもお世話になるかも!」
「勘弁してください」
おっと。
つい本音が出てしまった。
「呼んだー?」
「「「「「呼んでないよ」」」」」
はいはい。
お約束、お約束。
「良い話を沢山聞けたし、最後に写真とかいいかな? 出来れば、織斑君やオルコットさんも一緒に」
「まぁ…写真ぐらいなら」
ここまで来たらもう諦めの境地だわ。
写真でもなんでもいいから、とっとと終わらせてください。
「はい。三人共寄って寄ってー。それじゃあ…νガンダムはー?」
「「「「「伊達じゃない!!!」」」」」
パシャリ。
じゃねーよ。
なんで、よりにもよって掛け声がそれなのよ。
因みに、逆シャアは作者が一番好きなガンダム作品です。
「ちょ…ちょっとっ!? アナタ達ッ!?」
「一瞬で皆が寄ってきたな…」
気が付いた時にはもう、皆が再集合していて、箒とクロエちゃんに至ってはオレの両隣にてオレの腕に抱き着いてた。
一体どこから、その瞬発力が出てくるの?
「あははははは! 面白い写真が撮れて結果オーライだね! それじゃあ、私はここらで失礼して…引き続き、パーティーを楽しんでねー!」
あ…行ってしまった。
嵐のように現れて、嵐のように去って行ったな。
これが新聞部の行動力か。
結局、この後も賑やかな時間は続き、パーティーが終わったのは夜中の10時頃となった。
なんだろう…ISの練習よりも遥かに疲れたんだけど…。