お兄ちゃんはおしまい!in IS   作:とんこつラーメン

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第31話 まひろと鈴

 食堂に到着した途端、いきなり今朝会ったばかりの女の子に前を塞がれてしまった。

 色々と言いたい事はあるが、取り敢えず人として言わなければいけないと思い、勇気を振り絞って口を開こうとすると…。

 

「おい鈴」

「なによ一夏?」

「早くそこをどいてくれ。普通に邪魔。通行の妨げになってるぞ」

 

 隣にいた一夏が皆の意見を代弁してくれた。

 やるじゃあないか。

 少しだけ見直したよ。

 

「じゃ…邪魔って何よ! 邪魔って! アンタの事をずっと待ってたんでしょうが!」

「誰も『待っててくれ』とか言ってないし。つーか、別に待ち合わせもしてないだろ」

「う…うっさいわね! 一夏のくせに! ほら! これでいいんでしょ!」

 

 遂には逆ギレ。

 なんつーか…見てて凄く居た堪れない…。

 

「「はぁ…」」

 

 そして、こっちでは箒とオルコットさんが一緒に大きな溜息。

 いきなりどうした?

 

「何と言うか…」

「見ているだけで痛々しいですわね…」

「こらそこー!」

 

 すっごく渋い顔をしながら眉間に皺を寄せてる。

 これが若さか…。

 

「しののんとセッシーはどーしたのかなー?」

「色々と思う所があるのでしょう。今は放っておくのが一番ですよ、本音さん」

 

 こっちはこっちで仲良いね。

 それは純粋に嬉しい。

 

「腹減っちまったし、早く注文しようぜ。あ、真尋さん先にどうぞ」

「いいの? ありがとー」

 

 一夏に先を譲って貰って、オレが一番前に並ぶことに。

 と言っても、まだまだ前には列があるんだけどね。

 

「お。やっと私の番だ。何があるかな~?」

 

 良かった…。

 ちゃんとうどん系は全部生き残ってる。

 しかも、こっちの想像以上に種類が豊富だ。

 オーソドックスなメニューだけじゃなくて、『ざるうどん』や『ぶっかけうどん』、更には『かまたまうどん』や『釜揚げうどん』、果ては『おろし醤油うどん』とかいう麺の旨味を最大限に味わえるものまであった。

 こいつは…いい意味で予想外だゼ…。

 

「迷うなー…」

「そんなにですか?」

「そんなにです。だってほら」

「どれどれ…? うっわ…なんじゃこりゃ…。まるでうどん専門店のメニューじゃねぇか」

「でしょ?」

「確かにこれは迷いますね…」

 

 一体どれにすべきか…うーん…!

 お願い教えてシャア大佐ー!

 

『んなもん…これからも食べる機会は山ほどあるんだから、好きなもんを食べちゃうんだなぁこれが!』

 

 シャア大佐じゃなくてゾルタンの方が来ちゃったー!?

 別に嫌いじゃないからいいけど。

 シナンジュ・スタインかっこいいよね。

 オレは普通に大好き。

 

「迷った時は本能に従うべし。ってことで…これにしようっと」

 

 てなわけで、パッと目に入ったぶっかけうどんをポチッとな。

 

「次良いよー」

「どーもっす。俺は何にするかなー…」

 

 その後も、予想以上の種類に戸惑いながらも皆は昼のメニューを決めていった。

 早く選ばないと、後ろにいる人達に迷惑だからね。

 

「あれ? そういや鈴は?」

「ついさっき『先に席を取っておく』と言って、どこかに消えたぞ」

「あ…あそこにいますわ」

 

 オルコットさんの視線の先には、大人数でも余裕で座れる大きなテーブル席のど真ん中に堂々と座っている彼女の姿が。

 体は小さいのに迫力だけは一丁前だな。

 小さいのは今のオレも一緒か。

 

 なんて言ってたら、オレ達が食券を渡す番になった。

 

「おばちゃーん。これくださいなー」

「あら、真尋ちゃん。今日はうどんなのね?」

「うん。うどんな気分なのです」

「ここのはメニューも豊富だものねー。折角だし、少しサービスして量を増やしてあげようかしら?」

「いや…普通で結構です…」

「あらそう?」

 

 この体になってから、胃の大きさも変わってしまったのか、昔みたいにたくさん食べれないんだよなー。

 男の頃だったら余裕で大盛りとか注文してたんだけど…今は多くても普通盛りが限界。

 なんて悲しい我が体…しくしく。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「随分と遅かったじゃない。何してたのよ?」

「思いのほかメニューが豊富だったんだよ」

「ふーん?」

 

 案の定、皆がメニューを受け取って席に着いた頃には、もう既に凰さんは自分のラーメンを食べ始めていた。

 

「って、なんで皆してうどん?」

「真尋さんが『今日はうどんな気分』って言ったから」

「なんで、その子基準なのよ…」

「だって、真尋さんだし」

「意味分らないわよ」

 

 御尤も。

 別にオレに合わせる必要なんて無いんだけど、なんかその場の流れでこうなっちゃったんだよなー。

 楽しいから気にしないけど。

 

「じゃあ真尋さん。お願いします」

「うん。皆ー…両手を合わせてー」

 

 パチンと両手を合わせてからのー…?

 

「全ての食材に感謝を込めて…」

「「「「「いただきます」」」」」

「アンタ等はトリコの世界の住人か。いいことだけど」

 

 ツッコまれた。

 でも気にしない。

 

「あ…このうどん美味しい…」

「本当ですね。この麺のコシ…本場讃岐にも負けてませんね」

「これがジャパニーズうどん…不思議な触感のする麺類ですわね」

「ん~♡ おうどんおいし~!」

「はい。矢張り、うどんは魔性の食べ物ですね。また今度も…という気になってしまいます」

 

 因みに、一夏は『きつねうどん』で、箒が『とろろうどん』。

 本音ちゃんは『おろし醤油うどん』で、クロエちゃんが『掻き揚げうどん』。

 うどん初心者であるオルコットさんは『かけうどん』だったりする。

 

「なんか…アタシもうどんにすればよかったわね…」

「明日でも食べれば?」

「…そうするわ」

 

 誰かが食べてるのを見ていると、不思議と自分も食べたくなってくるよねー。

 実に不思議な人間の本能。

 

「それよりも一夏」

「なんだよ?」

「久し振りに会ったんだから、何か言う事は無いの?」

「言う事? うーん…」

 

 いや…言うことなら今朝の教室で存分に言ったんじゃ?

 

「久し振りだな。元気にしてたか? 確か、約一年振りぐらいだっけ?」

 

 なんてテンプレートな台詞。

 一夏も思考を放棄しましたな。

 

「げ…元気にはしてたわよ…」

 

 でも、こうかはバツグンだ!

 これでいいのか…。

 

「チョロいな」

「チョロいですわね」

「チョロいですね」

「チョロいね~」

「そこ! うっさいわよ!」

 

 箒とオルコットさんとクロエちゃんと本音ちゃんからの集中砲火。

 オレが言わなかったのは、単に口の中にうどんがあったから。

 

「つーか、アンタこそ偶には怪我とか病気とかしなさいよ」

「怪我? 病気? そんな事になってたら何も出来ないじゃあないか。今までもこれからも、俺は健康優良児を貫いていく所存だぞ」

「そ…そう…。アンタって、そんなに暑苦しいキャラだったっけ…?」

 

 悲しいけど、昔の一夏はもういないんだよ…。

 だけど、今はまだノーマルモードだから、凰さんの夢を壊さずに済んでる。

 頼むから、今だけは普通でいてくれよ一夏…。

 

「って言うか、一体いつの間に日本に戻って来てたんだ? 普通に驚いたぞ。しかも、代表候補生にまでなって」

「質問ばかりしないでよ。こっちだって聞きたい事は沢山あるんだから。アンタがISを動かした事とか」

 

 まぁ…最初はそれを聞くよな…。

 誰だってそうする。オレだってそうする。

 

「おい一夏。もうそろそろ、そいつとお前との関係性を教えてくれないか?」

「そうですわね。さっきから私達だけ話に入れず蚊帳の外状態ですわ」

「別に興味はありませんが、食事のBGM代わりに聞いてあげます」

「私も聞きた~い!」

「だってさ」

「なんか約一名だけ悪意が溢れてなかったッ!?」

 

 おっふ…凰さん…君はツッコミ役だったのか…。

 それなら一夏のマッスルモードを見ても平気かな?

 

「簡単に言うと、小学生の時に箒が転校していったのと入れ替わるような形で学校に転入してきた奴だよ」

「成る程…あの後にやって来ていたのか。それならば、私や姉さんが知らないのも道理か」

 

 オレ達が去った後にやって来たのかー。

 一夏だけが知ってて、オレ達が知らないのはそういうカラクリだったのね。

 

「姉さん? え? 誰が?」

「この人だ」

「この人って…さっきの真尋って子…?」

「そうだ。私は篠ノ之箒。姉さんとは二卵性双生児の双子なんだ」

「二卵性の双子…だから似てないのね」

 

 おいこらそこ。

 どこを見て『似てない』って言ってる?

 

「で、そこの金髪の子が…」

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。中国代表候補生の凰鈴音さん?」

「うん。知ってる。受付の人から軽く聞いたから。一夏と真尋って子に二連敗したんでしょ?」

「うぐ…! た…確かにそうですけど…真尋さんは本当にお強かったから仕方がないですわ!」

「一夏の場合は?」

「あれは普通に反則ですわ」

「なんで急に真顔っ!?」

 

 未だにオルコットさんの中じゃ、筋肉がトラウマになってるんだな…。

 無理も無いけどさ…。

 

「え? もしかして、これは私も自己紹介する流れですか?」

「そりゃそうでしょ」

「はぁ…仕方が有りませんね。私はクロエ・クロニクル。束さまの助手であり、真尋さまの伴侶です。コンゴトモヨロシク」

「束さまって…あの篠ノ之束っ!? その助手ですってっ!? しかも、真尋って子の伴侶ッ!?」

 

 ごほっごほっ!

 急に変な事を言うから麺が喉に引っかかった!

 急いで水を飲んで…!

 

「ふぅ…死ぬかと思った…」

「大丈夫ですか姉さん? おいクロエ。いきなり変な事を言うな。姉さんの伴侶は、この私だ」

「な…何を言ってますのッ!? 真尋さんは私のフィアンセですのよッ!?」

「残念ですが、これだけは譲れません」

 

 …これはどこからツッコんだらいいの?

 

「…心配は無さそうね」

「何が?」

「こっちの話よ」

 

 どうやら、あの凰さんは一夏に気があるみたい。

 なんて分かり易いんだろう。

 

「『篠ノ之』って名字を聞いて思ったんだけど、もしかして箒と真尋って、あの篠ノ之束博士の家族だったり?」

「というか、普通に姉さんだ」

「色々と破天荒だけどな…」

 

 オレも箒も、今までにどれだけ束に振り回されてきたか…。

 その果てが女の子になってからの女子高生生活だもんな…。

 

「私は布仏本音だよ~。よろしくね~リンリン~」

「リンリン言うなし。あたしゃパンダかッつーの。にしても…」

「ふぇ?」

「…アンタが、この中じゃ一番真面そうね…」

 

 それには激しく同感。

 と同時に、本音ちゃんは貴重な癒し枠だと思う。

 じゃないとオレのメンタルが持ちません。

 

「ライバルがいないのなら…今がチャンスか。ねぇ…一夏?」

「なんだ?」

「よかったら、アタシがISの操縦とか教えてあげようか…って、何を飲んでるの?」

「え? プロテインだけど? お前も飲むか?」

「飲まないわよ!」

 

 そうだった…。

 筋肉に目覚めてからこっち、一夏はずっと食後にプロテインを飲んでるんだった。

 今じゃ完全に一夏のデザートになってるし。

 

「体を鍛える事はISを操縦する上でも大事だって千冬姉も言ってたからな。今の俺は、1に筋肉、2に筋肉。3・4が筋肉で、5に筋肉だ」

「全部筋肉じゃない! いや…言ってる事は正しいし、間違っては無いけど…ないけどぉ~…」

 

 完全に出鼻を挫かれましたな。哀れ。

 

「それに、ISの操縦とかなら真尋さん達に教えて貰ってるから平気だぞ?」

「いやでも、アタシは代表候補生で…」

「セシリアも候補生だぞ?」

「ア…アタシは幼馴染でもあるのよ?」

「箒や真尋さんだって立派な幼馴染だぞ?」

「う…」

 

 まさかの一夏による完全論破。

 これはまた珍しい光景ですこと。

 

「ついでに言うと、真尋さんはマジでめっちゃ強い。この間の試合だって、全勝したのは真尋さんだけだったしな」

「じゃあ…アタシが真尋よりも強かったらいいのね…?」

「いや、それは無いだろ。普通にムリムリ」

「素で返さないでくれるッ!? ここは狼狽える場面じゃないッ!?」

「えー?」

 

 今の一夏に普通のリアクションは求めない方が良いって。

 というか、いつの間にかオレの事を呼び捨てにしてない?

 一体いつの間に好感度が上がった?

 

「いいわ…真尋!」

「な…なに?」

「今度のクラス対抗戦…アタシと勝負よ!」

「えぇー…?」

 

 なんか急に宣戦布告されたんですけどー?

 まひろん困るぅー。

 

「アンタもアタシもクラス代表…勝ち進んでいけば必ずどこかでぶつかる筈。それまで絶対に負けるんじゃないわよ! 約束だからね!」

「そこまで言って、実は一回戦でぶつかったりしたら笑えますね」

「そこはせめて『面白い』って言いなさいよ!」

 

 クロエちゃん…いつにも増して毒舌だな…。

 オレと本音ちゃんと束以外には、基本的にメスガキになるよな…この子。

 

「と…兎に角! 真尋とはちゃんと白黒つけるんだからね! 首を洗って待ってなさいよ!」

「あ……」

 

 そう叫ぶと、凰さんは空っぽになったラーメンどんぶりが乗ったトレーを持って、去って行ってしまった。

 いや、それは別にいいんだけどさ…。

 

「隣同士の組なんだから、嫌でも帰りとかに顔を合わせるだろうし、なんなら帰る場所は同じ一年生の寮なんだから、絶対にどこかで会うと思うんだけど…」

「姉さん。ここはアイツの事を思って、敢えて黙っておきましょう」

「だね…」

 

 あそこまで啖呵を切ったんだから、もし今日中に再会しても、知らない振りをしてあげよう…。

 それこそが優しさだとオレは信じる。

 じゃないとお互いにめっちゃ気まずいし。

 

 

 

 

 

 

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