「にゃはははは!」
放課後、いつものように皆(オルコットさんや本音ちゃんを除く)で束の研究室へ行くと、開口一番で爆笑された。
解せぬ。
「イギリスの子の次は中国の子? お兄ちゃんってばモテモテだね~!」
「笑い事じゃないんだッつーの」
向こうから勝手に宣戦布告される身にもなれよな…ったく…。
「しかも、その子っていっくんのもう一人の幼馴染の子なんだって?」
「はい。五年生の時に箒と入れ替わるように中国から転入してきたんです」
「成る程ね~。それなら私が知らないのも当然かー」
ほんと、凄いタイミングだよなー。
引っ越す時期が少しでも遅れていたら、普通に知り合っていた可能性があるんだからさ。
「その子とは、今度のクラス対抗戦で勝負するように言われたんでしょ?」
「お互いにクラス代表だから…そう言ってました」
「普通に考えれば、ぶつかるのは決勝戦だろうね~。お兄ちゃんが他の子に負ける姿なんで想像出来ないし」
「「確かに」」
こんな時だけ息が合ってるな、この幼馴染コンビは。
「問題は、あの鈴とか言う奴の実力だが…」
「う~ん…何とも言えないな~。昔から頭も良いし、運動神経も良かったけど…まさか、代表候補生になっているとは思わなかったし…」
「帰国する前までは、アイツはISには一切関わってないのか?」
「あぁ。それだけは間違いない。もしそれっぽいことがあれば、すぐに気が付く筈だし」
「と言う事は、ほんの一年足らずの時間で代表候補生にまで上り詰めたと言う事になるのか…」
それは普通に強敵なのでは?
オルコットさんから少しだけ聞いたけど、代表候補生になるのって物凄く大変なんでしょ?
仮に候補生になれたとしても、誰もが皆、専用機を受領できると言う訳ではないらしく、文字通り国から選ばれた者だけが専用機を持つ事を許可されるのだとか。
だから、前にオルコットさんが言ってた『選ばれたエリート』って言葉は決して自慢や誇張なんかじゃなかったって事になる。
それを僅か一年ぐらいでやってのけてるんだから、才能と努力の両方が無いと決して不可能な芸当だろう。
うわー…今から不安になってきたー…。
「心配は無用です、真尋さま」
「クロエちゃん?」
「真尋さまの実力は、ご自身が思っている以上です。この間のクラス代表決定戦の時のように軽く勝てるに決まっています」
簡単に言ってくれちゃって…。
オレを信じてくれるのは普通に嬉しいけどさ…勝負は時の運とも言うし…。
「ま、お兄ちゃんが勝つ…っていうか、優勝する可能性が非常に高い理由は他にもあるんだけどね」
「そうなのか?」
「うん。まず、ルブリスのISコアは、お兄ちゃんがずっと使っていたシミュレーターの物だってのは知ってるよね?」
「一応…」
「一年間もの間、コアにはずっとお兄ちゃんの稼働データが蓄積されていった。およそ考えうる極上のデータがね」
「極上って…」
オレは霜降り肉かっつーの。
「それに加え、実機を使った二機の専用機との試合。どうやら、それがとっておきのダメ押しになったみたい」
「それって…まさか…?」
「うん。その『まさか』」
マ…マジか…!
でもそっか…よくよく考えたら、オレのルブリスには実機として動く以前から一年間のアドバンテージがあるんだった。
そりゃ、そうなっても仕方がないことなのか。
「まさか…とは…なんなのですか、姉さん?」
「簡単に言うと、恐らく次のクラス対抗戦の時ぐらいには、お兄ちゃんのルブリスが『
「「せかんどしふと?」」
あ…そっか。
まだ授業じゃ、その辺の事は習ってないんだった。
この二人が小首を傾げるのも無理はないか。
「要するに、ISが進化するって事。ポケモンやデジモンみたいに」
「おぉ~…成る程! ん? ルブリスが進化って事は…次になるのは…」
「当然、正真正銘の主役機…『ガンダムエアリアル』だな」
「マジっすか! 遂にエアリアル登場っ!?」
ビットの数が7から4つも増えて、一気に11基にまでなるからな~。
シミュレーションじゃ普通に出来たけど、実機じゃ初めてだし…。
「姉さんが更に強くなるのか…これはもう勝ったも同然だな!」
「えぇ。ですので、今回もまた大船に乗った気でいましょう」
大船は大船でも、オレの場合はタイタニック号になる可能性もあるよ。
アークエンジェルやラーカイラムのような浮沈艦にはなれんのですたい。
「一応、念の為にその子の専用機の情報とか、試合映像とか検索してみようか? この間の時みたいに」
「うーん…お願いしようかなー…」
この手の試合ってのは、より多く相手の情報を持っていた者が有利なのは当たり前。
使えるものは何でも使う。
例え、それが身内であったとしても。
一見すると卑怯に見えるかもしれないが、本当に卑怯な奴はまずルールを無視する行為を平気でする。
けど、今度のトーナメントに『相手の情報収集をしてはいけません』なんてルールは存在しない。
って言うか、気になる対戦相手の情報収集とか現代じゃ誰もが普通にやってる事だしね。
「はい。任されましたー! んじゃ、ちょっと待っててね~」
自分のパソコンに向き合った束は、物凄い速度で指を動かして検索を掛けていく。
なんつーか…二重の意味で流石だな…。
あの速度でタイピングが出来る事と、それに普通に着いて行ける束特製のパソコンの性能…。
そういや、こいつに魔改造されたオレのパソコンの性能も凄いことになってたっけ…。
「はいキター! やっぱり束さんってば天才だねー!」
「「「「おぉ~」」」」
もうか…マジでめっちゃ早いな…。
「ふむふむ…成る程ねー」
「何が分かったんですか?」
「どうやら、その子の専用機は中~近距離が得意な機体みたいだね」
「俺の白式と同じ、接近戦が得意なISってことか…」
「パッと見はね。でもどうやら、それだけじゃないみたい」
「と言うと?」
「百聞は一見に如かず。まずはこれを見てー」
「「「「ん?」」」」
束がパソコンのディスプレイをこっちに向ける。
そこには、例の凰さんが刺々しい真紅のISに乗って試合をしている様子が映し出されていた。
「これが鈴の専用機か…」
「実にトゲトゲしてるな…」
まんまな感想、ありがとね箒。
「はい。ここから注目」
束の手で画面が拡大される。
それだけ重要ってことか。
「お?」
相手の選手が…いきなりぶっ飛ばされた?
何か射撃武器を持っているのか?
「姉さん…今のは一体…?」
「中国で開発された第三世代兵装…その名も『衝撃砲』」
「「「「衝撃砲…」」」」
なんか凄そうな名前だな…。
「空間自体に圧力をかけて砲身を形成して、その余剰にて生じる衝撃そのものを砲弾として撃ち出す武器だよ」
「空間って…それじゃあ、何も見えないんじゃ…」
「そうだよ、いっくん。それが衝撃砲最大の特徴なんだよ」
最大の特徴とな?
「砲身も砲弾も完全に不可視。全く見えない。しかも、砲身の斜角は360度ときてる」
「なんと…! それでは死角が無いじゃないか…!」
「と思いがちだけど、実は射程はそこまで長くない上に、威力もそれ程じゃないみたい。燃費は良いけどね」
そんな武器も一長一短ってことか。
そういやDIO様も言ってたっけ。
『長所と短所は表裏一体』だって。
「良くも悪くも使い手の力量が試される武器だろうねー」
「そんな物が搭載された機体を持っていると言う事は…」
「鈴には、その衝撃砲を扱いきれるだけの実力があるって認められたってことなのか…」
随分と癖が強そうな武器だなぁ~…。
でも、だからこそ意外となんとかなりそうな気もするのはオレだけでしょうか。
「どうやら、もう既にお兄ちゃんには衝撃砲の攻略法が見えたみたいだね?」
「「「えっ!?」」」
うぐ…束の奴め…余計な事を…。
「さ…流石は真尋さん…たったあれだけの映像で弱点を看破しちまったのかよ…」
「私達など、只々驚いていただけだったと言うのに…」
「素晴らしいです…真尋さま…♡」
あー…あっという間に三人から憧れの視線ががががががー…。
「となると、残る問題は近接戦での戦いになるが…」
「それこそ問題無いだろ。ビームサーベルを使った近接戦は寧ろ、真尋さんの得意分野だし」
「ですね。真尋さまと言えばビット兵器の扱いに長けている印象が強いですが、剣を使った戦闘でも素晴らしい実力をお持ちです」
そりゃまぁ…オレも一応は篠ノ之流を扱えるし…?
幾ら相手が代表候補生とは言え、束や箒、千冬以外の相手に剣で負けるわけにはいかんでしょー。
「ビームサーベルの攻撃力はお墨付き。ビット兵器との併用も可能…あれ? もう真尋さんが勝つビジョンしか浮かばねぇ…」
「奇遇だな一夏。私も真尋姉さんが勝つ姿しか想像できない」
「私の中ではもう既に、真尋さまが優勝トロフィーを持って壇上に上がっています」
「「「流石に気が早くないっ!?」」」
クロエちゃんの想像の中のオレは、どんだけ俊足で優勝しちゃってるのッ!?
「この様子なら大丈夫そうだね。ま、最初からお兄ちゃんが負けるとは思ってなかったけど」
「あのなぁ…オレだって負ける時は負けるぞ? 完璧超人じゃあるまいし…」
劇中でも、改修されたエアリアルは一度だけ負けてるし。
あの時はグエルの気合と周りのフォローもあったけど。
「明日から、念の為に練習量を増やしておくべきかな…」
ここまで期待されてる以上、ここで負けるような無様は晒したくはないしね…。
偶には長男…もとい長女らしい姿でも見せますか。
そうでもしないと、自分がこいつらの兄であり姉でもあると言う事を忘れてしまいそうだし。
(はぁ…一体いつから、オレはこんな熱血スポコン属性になったんだろうか…。ヒッキーだった真尋ちゃんはどこへ消えた…?)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。
留守状態となっている一夏の部屋では…。
「ちょっと! どうして一夏が部屋にいないのよっ!! 折角、一緒の部屋になろうと思ってきたのに~!」
完全予想外の展開になって、一人で騒いでいる鈴の姿があったとか。
勿論、誰もいない他人の部屋に勝手に入った挙句、無駄に騒いでいるせいで当然のように通りすがりの生徒から目撃をされ、その後に千冬が駆けつけてからの出席簿アタックを受け、頭を抱えながら悶絶をして自分の部屋に強制連行されるという末路を辿ったのだった。