お兄ちゃんはおしまい!in IS   作:とんこつラーメン

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第38話 まひろと勝者と敗者

 はーい。

 今回も前回から引き続いて、真尋ちゃん視点で試合の様子をお送りしますよ~。

 それじゃあ…ゆっくりしていってね!

 

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「はぁ…叫び声だけは一丁前。だけど…」

 

 こめかみに血管を浮かび上がらせた凰さんが、残った一本の青龍刀で我武者羅に突撃して斬りかかるけど、そんな攻撃が通用するぐらいならば、とっくの昔にどうにかなってるわけで…。

 

「そんな猪みたいな動きじゃ雑魚も釣れないよ」

「なに…がぁっ!?」

 

 ほんの少しだけ体を横にずらしただけで斬撃を回避した更識さん。

 しかも、彼女の勢いを利用して、薙刀の柄を使ってのカウンター。

 あれは流石に痛そうだなぁ~…。

 

「あと、攻撃をする時に叫ぶなんて論外。それが通用するのは漫画やアニメの世界だけだから。現実でそんなことをすれば『今から攻撃しますよ』って言ってるようなものだから」

「うっ…さい…!」

 

 うっわー…なんて冷たい目…。

 一方の凰さんは、お腹を押さえながら涙と涎を流して、それでも目だけは彼女を睨みつけている。

 

「で、もう終わり?」

「んなわけ…ないでしょうが!!」

「あ」

 

 目を大きくカッと見開いた凰さんは、その両手で更識さんの打鉄の肩部シールドを掴んでゼロ距離で睨み合う。

 その際に、手に持っていたもう一本の青龍刀は地面に放り投げている。

 

「どうよ…幾ら見えてても、この状態なら龍砲は避けられないでしょ!!」

「ハァ…」

「なによ? もしかして、負けを確信しての諦めの溜息?」

「違う。この程度の愚策で私に勝てると思った、あなたの頭を心配してるの」

「なんですって!? この状況で、まだ減らず口を…!」

 

 確かに…普通に考えれば万事休すな状況かもしれない。

 けどさ…自分が今、掴んでいる物をちゃんと分かってるのかな?

 もし掴んでいるのが腕とかだったら話は別だけど…ソレは…。

 

「残念だけど…アナタは掴むべき場所を致命的に間違えた」

「どういう意味…」

()()()()()()

 

 自由に動く状態の左手を使って投影型コンソールを呼び出し軽く操作。

 すると、あら不思議。

 更識さんの打鉄の肩部シールドが簡単にパージされたではありませんか。

 

「なっ…!?」

「ま、仮に腕とかを掴まれても同じようにしたけどね」

 

 何の意味も無くなったシールドを両手に持ったまま呆然となった凰さん。

 そんな隙だらけな彼女に対して何もしない程、今の更識さんは甘くなかった。

 

「私なら、使い物にならなくなった衝撃砲なんて、とっととパージして、潔く近接戦闘に以降してたけどね。幾ら何でも衝撃砲に固執しすぎ」

「う…うっさい!! まだ龍砲の射程距離内よ!!」

「知ってる。けど…」

 

 発射状態のままだった衝撃砲が、今回の試合で始めて発射された。

 けど、更識さんの言った通り、周囲の土煙を巻き込んでしまった結果、本来ならば無色透明だった筈の衝撃砲の砲弾は土色に染まって丸見えになっていた。

 

「先言ったことをもう忘れたの? 見えてれば避けるのなんて簡単だって」

「う…そ…でしょ…!?」

 

 にゃんと、更識さんは必要最小限の動きだけで砲弾を華麗に回避。

 しかも、避けながらしれッと前に進み続けている。

 まるで、ア・バオア・クーでの最終決戦にて、ジオングの過剰なまでのビーム攻撃を真正面から搔い潜って懐に潜り込もうとするガンダムのように。

 

「それと、幾ら仕方が無かったとはいえ、自分から最後の手持ち武器を放り投げるとか有り得ないから」

「し…しまった!?」

 

 あっと言う間に懐まで入られた凰さんは防御をする暇もなく、すれ違いざまに両肩部にある衝撃砲発射パーツを薙刀で斬り落とされた。

 

「ま…まだまだ! 甲龍には、腕部にも小型の龍砲が…」

「知ってる。私が攻撃したのが肩部だけだと思ったの?」

「え…?」

 

 よく見たら、薙刀の刃はちゃんと甲龍の腕部にも届いていて、小型の龍砲発射装置もちゃんとピンポイントで破壊していた。

 なんて速い斬撃…オレじゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「い…いつの間に…!?」

「あなたの目がトロくさいだけ。あの人なら…この程度は簡単に見切ってる」

「あの人…?」

 

 ん? 今の『あの人』ってのは誰の事じゃろほい?

 憧れの人でもいるのかな?

 

「で…どうする? もう何も出来ないでしょ」

「う…くっ…!」

 

 薙刀の切っ先を眼前に突き付けられて完全に詰み状態。

 あんなことを言ってるけど、要は『早く降参してね』ってことだよね。

 けど、あのプライドの高い凰さんが、そう簡単に降参なんてするかなぁ~…。

 

「ま…まだ…少しだけだけど…甲龍のSEは残ってる…」

「だから?」

 

 本当にあと少しだけどね。

 アリーナ内に設置してある巨大なモニターには、両者のISの残りSEの量が表示されていて、更識さんのISは全くの無傷で、消費したのは自身の攻撃で使った分だけ。

 一方の凰さんのISのSEは完全に風前の灯火状態。

 この状態での逆転勝利はかなり厳しいと思う。

 やろうと思えば出来なくはないけど…今の凰さんの精神状態じゃ流石に不可能かなぁ…。

 ここから見ていてもハッキリと分かるもん。

 自分のISと培ってきたであろう技術が全て通用せず、彼女のプライドは粉々寸前。

 ついでに思考回路もショート寸前かも。

 別に今すぐ会いたいわけじゃないけど。

 

「武器が無いなら…この拳でぶん殴ってやるわよ!!」

「ここまで無駄にプライドが高いと、もういっそ清々しいね。じゃあ、特別に私も…」

 

 ん? 更識さんが薙刀を拡張領域に収納した?

 

「そっちの流儀に合わせてあげる。えい」

「か…はぁ…!?」

 

 おっわぁ~…。

 これはまた見事なカウンターの掌底。

 剥き出しのお腹に直撃ですか…。

 

「確かに私は典型的なインドア派の人間だけど、家の関係で武術とかもちゃんと嗜んでるんだよね。少なくとも、候補生成り立ての人間の拳程度に負けるような、軟な鍛え方はしてないつもり。それでも、まだやる?」

「当然…じゃ…ない…!」

「あっそ。でも…そっちのISはもう限界みたいだけどね」

「え…?」

 

 凰さんの頭目掛けてデコピンの姿勢?

 あ…これは…。

 

「えい」

「あう…」

 

 彼女のおでこにかる~くペチってした瞬間、凰さんのISが強制解除された。

 それはつまり、甲龍のSEが完全に無くなった証拠でもある。

 

「はい。終わり」

「あ…あたしが…ま…負け…た…? 訓練機相手に…手も…足も出ないで…最後はデコピンで…?」

 

 焦点の合わない目で虚空を見つめ、力なく四肢をだらんとした状態で更識さんに抱えられている。

 流石にISが無い状態での空中は危険だしね。

 

「ピットまで運んであげる。私ってば優しいでしょ」

「…………」

 

 返事は無し…っと。

 完全にプライドが粉々になったな…。

 見事なまでの実力差で決着か…。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 はぁ~…なんつーか…見ていて手に汗握る戦いだったな…。

 何もしてない筈なのに無駄に疲れた気がする…。

 

「す…凄かったな…」

「圧倒的…でしたわね…」

「あの鈴が完全に赤子扱いか…やるな…」

「機体の性能差を見事に実力で逆転させた良い例ですね」

「流石はかんちゃんだよ~!」

 

 箒は彼女の武芸者としての実力の高さに、オルコットさんは同じ代表候補生として、思い切り戦慄して冷や汗を掻いていた。

 一夏は感心したように腕組をして何度も頷いてる。

 んで、クロエちゃんは至って冷静に結果を言っている。

 布仏さんに至っては、更識さんが勝ったことが嬉しいのか、興奮しながらポップコーンを食べまくってるし。

 そんなに食べたら夕飯が食べられないよ?

 

「これで、決勝で真尋姉さんと対戦する相手が決まったわけか…」

「正直、決勝にはほぼ確実に鈴さんが来ると思ってましたから、これは完全に予想外でしたわね…」

「ですが、これはこれでいいと思います。相手は変な小細工などしない機体。故に真っ向勝負となる。例え、どのような相手でも真尋様が負けるとは微塵も思ってませんが、これならば今みたいな試合にだけは絶対にならないかと」

「かんちゃんとまひろん…どっちを応援すればいいんだろ~?」

「別にどっちでもいいんじゃないか?」

 

 皆が色々と言ってるけど、それよりもこっちとしては遂に自分の出番が来たことに緊張してるんですが。

 だ…大丈夫だろうなオレ…?

 

「どうやら、小休止の後に決勝戦をするみたいだな」

「では、その間に真尋さんも決勝のご準備をなさるのですわね」

「多分ね…。んじゃ、行ってくる…」

 

 心の準備はたっぷりと出来た…と思う。

 後は平常心で試合に臨むだけだ。

 うん…大丈夫…大丈夫…!

 

「いってらっしゃいませ。真尋様」

「頑張ってください、真尋さん!」

「妹として全力で応援させて貰います! 姉さん!」

「私も応援してますわ! 真尋さん!」

「まひろ~ん。がんば~」

 

 皆…そこまで言われたら…頑張らないわけにはいかないじゃん!

 よ…よーし…決勝前にちゃんと掌に『人』の字を何度も書いて飲み込んでおこう。

 い…行くぞ…!

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「お…およ?」

 

 ISスーツに着替える為に更衣室に来ると、部屋の電気が消えて真っ暗だった。

 これじゃロッカーまで行けないよ…。

 電気のスイッチはー…ここかな?

 

「あ…ついた」

 

 さて…とっとと着替えますかなー…って?

 よく見たら、部屋の奥にあるベンチに見覚えのある後ろ姿の女の子が顔を伏せながら…泣いてる…?

 すっごい何度も体を震わせてるし…。

 

「ひっく…ひっく…」

 

 あー…うん。絶対に泣いてるね。

 普通に『ひっく』って言ってるし。

 今は同性とはいえ、流石に女の子に見られながら着替えるのは勘弁願いたいなー…。

 はぁ…仕方がない…。

 

「あ…あのー…?」

「……あによ。あ…」

 

 振り向きざまに睨まれたし…。

 オレだって気が付いた途端に元の表情に戻ったけど。

 

「…何よ…訓練機相手に何も出来ずに負けたあたしを馬鹿にしに来たの?」

「いや…普通に次の決勝に備えて着替えに来ただけなんだけど…」

「着替えですって…? 少しは慰めてくれてもいいじゃないのよ! この薄情者!」

「薄情者とな!?」

 

 ここで下手に慰めの言葉を言っても逆効果な気がするんだけど…。

 それ以前に、なんて言って慰めればいいのか全く分からない…。

 

「もういいわよ…どーせ…あたしは代表候補生になったばかりの初心者ですよー…」

(いじけちゃったし…)

 

 どうやら、更識さんの言葉は想像以上に凰さんの心を深く抉ってたみたいだな…。

 なんで、彼女があそこまで徹底的に凰さんをボコボコにしたのかは謎だけど。

 

「はぁー…マジで情けない…。あそこまで啖呵切っておきながら…準決勝で負けるだなんて…」

「そればかりは仕方が無いんじゃ…。試合である以上、どっちかが勝って、どっちかが負けるのは当然なんだから…」

「そんなのは分かってるわよ! でも仕方ないじゃない! 悔しいんだから!!」

「それは…まぁ…」

 

 負けて悔しいのは分かるけど…だからと言ってオレに八つ当たりはしないでほしいな…。

 

「と言うか、マジで早く着替えたいから出てほしいんだけど…」

「別にいいじゃない! 女同士なんだから!」

「女同士でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだけどな…」

「だったら後ろ向いてる! それでいいでしょ!!」

「ハイ…もうそれでいいです…」

 

 これはもうあれだな。

 梃でもここを動かないつもりだな…。

 なら、せめて凰さんの視界に入らない場所のロッカーを使わせて貰おう。

 

「ねぇ…」

「な…何?」

「アンタはさ…さっきのあいつに勝てる自信はあるの?」

「ん~…どうだろ。やってみないと分からないとしか…」

「…強いんじゃないの?」

「他の皆はそう言ってるけどね…」

「自分ではそうは思ってないって?」

「まぁね。だって、私もISに関わってまだ一年ぐらいだし」

「え…? アンタも…?」

 

 も? ってことは、もしかして凰さんも?

 そういや、一夏の幼馴染で中国から日本に来たけど、中学の時に家庭の事情でまた祖国に戻った的なことを言ってたような気が…?

 

「…どうして」

「ん?」

「どうして…同じ『一年』なのに…アンタはシード枠で…あたしは一般扱いなのよ…。あたしは代表候補生なのよ…」

「そんなことを言われたって…」

 

 それ言ったら、同じ候補生のオルコットさんはどうなるんだって話なんだけど。

 彼女は彼女で、ちゃんと敗北を受け入れた上で自己研鑽を怠らずに頑張ってるけど…。

 

「負けるって…そんなに悪い事かなぁ…」

「どういう意味よ…」

「別に死ぬわけじゃないんだしさ…一回負けても、また頑張って、次勝てばいいんじゃない?」

「簡単に言うんじゃないわよ…」

「簡単だなんて思ってないよ」

「え…?」

 

 オレは…篠ノ之家の落ち零れだ。

 束みたいな超天才的な頭脳なんて持ってないし、箒みたいな剣の才能も無い。

 そんな自分が本当に嫌で嫌で…ずっと自分の殻に引き籠ってた…あの日までは。

 女の子になって…ISに出会って…自分の中の世界が一変した。

 自分の知らない才能を知り、妹たちの秘めた気持ちを知り…オレは思い知った。

 オレは単に『何も知ろうとしなかった』だけなのだと。

 家族と、現実と、自分自身とちゃんと向き合う。

 簡単だけど、同時に最も難しいこと。

 それをする機会をくれた束には…実はマジで感謝してたりする…。

 この体になったお陰で、新しい出会いも沢山増えたから。

 本人に言ったら絶対に調子に乗りまくるから言わないけど。

 

「『負けを知るのだ。お前はもっと強くなれる』」

「何よそれ」

「とある超有名漫画のキャラのセリフ。ゲームでの…だけど」

 

 人は、人間は負けを知って初めて自分と向き合える。

 自己解釈だけど、少なくともオレはそう思ってる。

 

「この世に一度も負けたことのない人間なんて、どこにも存在しない。違う?」

「違わない…けど…でも…」

「いい機会だし、一度じっくりと考えてみたらいいんじゃない? どうして自分が代表候補生になろうと思ったのか。自分がISに乗る意味…理由ってやつをさ」

「あたしがISに乗る理由…」

「自分自身を振り返ることで見えてくるものもあるんじゃない? 多分だけど」

「何よそれ…多分って…」

 

 あ…少しだけ笑った?

 ちょっとだけでも元気を取り戻せたようで何より。

 というわけで、お着換え終了っと。

 

「んじゃ、そろそろ行くね」

「って、話ながらもしれッと着替えてたのね…」

「そりゃまぁ…」

 

 そうしないと遅刻しそうだったし。

 

「…真尋」

「なに?」

「…勝ちなさいよ。絶対に」

「最初から負けるつもりで勝負に挑む人なんていないよ」

「…言うじゃない。じゃあ…ここでその実力ってのを見させて貰うから」

 

 いや、ここから出ないんかい。

 まぁ…いいんだけどさ。

 

(さて…遂にオレの人生初の公式戦か…)

 

 人生で初めての公式戦が決勝ってのもオレだけなんじゃ?

 そう思うと、なんか変な気持ちになってくるな…。

 緊張と高揚感が交じり合ったような…そんな感じ。

 凰さんにあそこまで言った以上、自分なりに必死に頑張るけどさ。

 

 更識簪…か。

 強敵ではあるけど…それはオレが負けていい理由にはならないよな。

 頼むぞ…ガンダムルブリス…!

 

 

 

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