とうとうやって来た決勝戦。
それは即ち、オレの初舞台でもあるわけで。
(う…うっわぁ~…こうしてカタパルトにいると、想像以上に観客がいて草生えて青い彼岸花なんですけど…)
つーか、本当に本当に今更なんだけどさ、初めての公式戦がトーナメントの決勝戦ってどうなのよ?
どう考えてもおかしいでしょうがよ。
今回のトーナメント表を考えた奴は一体何を考えているのやら。
(なーんて…考えても仕方がないか…)
ここまで来た以上、もう戻ることなんて出来ないだろうし…。
箒や一夏、オルコットさんや布仏さんたちも見てるんだし、恐らくは束や千冬たちもどこかでモニタリングしているのだろう。
つまり、オレにはもう退路が無いってことなわけで。
「行くしかない…かぁ~…」
覚悟…決めますか…。
はぁ…気が重いなぁ~…。
「…ルブリス」
オレが呟くと、それに応えるようにルブリスが待機形態からIS形態となって全身を覆い尽くしていく。
ふぅ…この瞬間だけは、どういうわけか緊張から解放されるんだよなぁ。
前に束に聞いても『分からない』って言われちゃったし。
あれかな?
他のISとは違ってルブリスは所謂『
こう…他者からの視線を直接的に感じないから、ゲーミング感覚でいられている…的な?
「レシーバーガン…ビームサーベル…ビットも全基問題無し…と」
軽くチェックをしてからオールグリーンを確認。
これならいつでも飛び出せますよっと。
(一応…もう行った方が良いかな…)
ご…五分前行動って大事だもんね!
別に、少しでも緊張に慣れておこうとか、そんなことは考えてないもんね!
「カタパルトにルブリスの足を固定して…っと。よし」
いつものように腰を低くして、自分のタイミングで…。
「篠ノ之真尋。ガンダム・ルブリス…いっきまーす!」
あ~…もう!
こうなりゃ自棄じゃ~い!!
誰が相手だろうが、やぁ~ってやるぜ!!
けど、この時のオレは知らなかった。
このピットにはオレ以外にも、もう一人…誰かがいたことを。
その人物はずっと、オレの事を物陰から注視し続けていたことを。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ルブリスが飛び去って行くのを見届けてから、その人物は物陰から姿を現す。
と言っても、胸から上の部分が未だに影に隠れて全容は把握出来ないが。
「そう…あの子が噂に聞く真尋ちゃん…」
その手に持つ機械的なデザインの扇子が開き、そこに『疑問』の二文字が。
「まだ、彼女の試合をこの目で直接見た訳ではないけど…入学早々に候補生に圧勝しているという事実は見逃せない。流石は、あの篠ノ之束博士の妹…と言った所かしら。でも…」
彼女の視線が試合のステージへと向き、急に威圧感が霧散、普通の少女のような目に変わる。
「簪ちゃんには…勝てるかしらね…?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ステージに出ると、そこにはもう既に決勝戦の対戦相手である更識さんが待ち構えていた。
「…………」
うっ…大人しそうな顔に似合わない鋭い視線…。
さっきまでの試合で、インテリ眼鏡っ子風の女の子だからって油断は禁物ってことは嫌ッてほど分かったし、オレも気は抜けないな…。
「ガンダム・ルブリス…ISとはいえ、まさか実物が動く姿をこの目で見ることが出来るだなんて…」
「え?」
こ…この子…もしかしてガンダムを知ってる?
いや…もしかしなくても、彼女も『こっち側』の住人だったりするのか?
「篠ノ之真尋さん…ですよね」
「あ…う…うん…」
なんでオレの名前を…って、トーナメント表に名前がバッチリ記載されとるやないかーい。
危うく、お約束のボケをかますところだった…。
「そして…『ガンダム・バトルオペレーション2』の数少ないトッププレイヤーの一人…『まひろん』さんでもある…」
「うえぇ!? どうして、その名前をっ!?」
別に隠しているわけではないんだけど、それでも知られていることにめっちゃ驚き。
オレがバトオペ2の古参プレイヤーだって知ってるってことは、この子も…?
「実は私もバトオペ2をやってるんです」
「そ…そうなんだ…」
「ゲーム内で、私は何度もアナタと会っています。時には敵として、時には味方として」
「まぁ…そういうゲームだしね…」
ぜ…全然知らなかった…。
それが普通の事ではあるんだけど。
「違うチーム同士で敵対した時は、貴女には手も足も出ずに何度も敗北してた。こっちが高コストの強機体を使っていても、まひろんさんは低コストの量産機を使って圧倒する」
「量産機が好きだからね…」
そういや一時期、自己流の魔改造をしたザクⅡやジムとかを自分オリジナルカラーにして、エースパイロットごっこして遊んでたことがあったっけ…。
その頃に彼女と出会ってたのかな…ゲームの中で。
「そして、味方の時は何度も何度も助けられた。絶体絶命の危機に陥った時、アナタはどこからともなくすぐに駆け付けて、私を攻撃していた敵機を簡単に瞬殺していた」
「ピンチの味方の救援に向かうのは当然と言いますか…」
例えゲームの中とは言え、味方を見捨てるような真似だけは絶対にしたくはないしね~。
だって、絶対に後で後悔とかしそうだし。
「あなたの名前を聞いて、イギリスの代表候補生との試合を見て…確信した。アナタこそが、画面の中でずっと私を導いてくれていた『まひろん』さんだって」
「そ…そっか~…」
別に導いていた覚えは微塵も無いんだけど…ここでそれを言うのは流石に空気詠み人知らず過ぎるので飲み込んだのは偉いと思う真尋ちゃんなのでした。
「でも、それはそれ。これはこれ。私は…4組のクラス代表として、日本の代表候補生として、更識家の娘として、今からあなたと戦います」
「う…うん。分かった」
空気が変わった。
彼女がマジモードになったんだ。
それはそれとして、『更識家』とはなんぞや?
もしかして、彼女ってすんごいお嬢様だったりする?
オルコットさんに引き続き、第2のお嬢様の登場かー。
次はなんだ? お姫様か?
「篠ノ之真尋さん…いざ尋常に…勝負!」
更識さんが拡張領域からヒートナギナタを出して構えた。
それに対し、オレはバックパックからレシーバーガンをパージして右手に握り締めながらビームブレードを展開。
ビット達は合体させてコンポガンビットシールド状態で左手に装着している。
「「…………」」
睨み合うオレと彼女。
その空気を察してか、会場の喧騒も一気に静まり返り、まるでシーンという擬音が見えそうなほどな無音状態に。
(…………来る!)
更識さんは、凄まじい速度での突貫をし、赤熱したナギナタの刃をオレ目掛けて振り下ろしてきた!
これは…
「………!」
「くっ…! 今の一撃でどうこう出来るとは言わないまでも、せめてファーストアタックを成功させて流れを掴もうと思ってたのに…流石はまひろんさん…そう簡単にはいかないか…!」
あ…あっぶなー…!
咄嗟にレシーバーガンのビームブレードで防御出来て良かったぁ~…。
(普通なら、ここでビットを展開して手数を増やし圧倒するのがセオリーなんだろうけど…)
オレの中のゴースト…じゃなくて勘が言っている。
ここでビットを使うのは確実に悪手だと。
展開したが最後、ビットが撃墜されるのが目に見えると。
「…それなら!」
「はっ!?」
力を込めてか~ら~の~…ふんってな!
思いっきり右腕を振って更識さんの体を弾き飛ばす!
「くっ…! でも、まだ!」
「知ってる。だから…こうする!」
後退する更識さんを追撃しながらガンビットシールドを展開、バックパックとレシーバーガンに装着して起動力アップ!
「ビットオンフォーム!? ビットステイヴによるオールレンジ攻撃を捨てて、敢えて機体性能の向上を選ぶなんて…! まさか…!」
「対策…してたんでしょ? 私のビットに対して。散弾入りのバズーカや、着弾地点で拡散するミサイルとか。ビット兵器最大の弱点の一つとして、耐久力の低さを突いた『広範囲攻撃』があるからね」
「やっぱり…読まれてた…!」
にゃ~はっはっ。
伊達に長年に渡ってガンダム作品を履修してないのですよ、お嬢さん。
昔こそ、ビット兵器は非常に強力な存在だったけど、時代が進むにつれて徐々にビット兵器の研究が進んでいき、今では量産機ですら普通に対ビット兵器用の対策が容易に出来るようになっている。
ビット初見の相手ならばいざ知らず、自分と同じようにガンダムが好きな相手に安易にビットを展開するような真似は流石にしないよ。
「そして!」
「は…速い!? まさか…まひろんさんも!?」
今度はこっちが
同時に、バックパックからビームサーベルを引き抜きながらの~…ズバっとな!
「わ…私の薙刀が…!?」
むぅ…咄嗟にヒートナギナタで防御して、流石に直撃は避けたか…。
これでも思いっきり懐に潜り込んだつもりだったんだけど、目測を誤ったか。
もう半歩ぐらい踏み込むべきだったかな。
でも、彼女の主武装であるヒートナギナタを真っ二つに出来たのは大きい。
「妹達ほどじゃないけど…これでも一応、私も『篠ノ之流剣術』の使い手ではあるんだよね」
「やられた…! まさか、ルブリスで自分から接近戦を挑んでくるだなんて…!」
「機体特性に引っ張られての先入観は自分の視野を狭めるよ。狙撃戦特化のガンダムデュナメスだって、時にはビームサーベルで戦うことがある」
「確かに…その通り…!」
あ…拡張領域から予備のヒートナギナタを取り出した。
そりゃ、そうだよね。
それぐらいの対策はしてて当然か。
にしても、すんごい久し振りに使ったな…篠ノ之流抜刀術。
腰につけてる鞘からじゃなくて、バックパックにあるサーベルラックからの抜刀っていう変則染みた技になったけど。
それでも、ちゃんと出来て安心した。
「そう言えば…今更ながら思い出した」
「何を?」
「前に一度だけ、まひろんさんが『スサノオ』を使った時…圧倒的な強さで完全無双状態になってたことを」
「…ソンナコトモアリマシタネ」
だって…仕方ないじゃん!!
偶には剣を使って思い切り暴れたくなるんだもん!!
篠ノ之の血のせいかは知らないけどさ、オレの本来の戦闘スタイルとスサノオの機体性能の相性が抜群すぎたんだよ!!
アドレナリン出まくりで、めーっちゃ楽しかったんだもん!!
「つまり、今の『この距離』こそが、まひろんさんの『本来の距離』ってことになる…」
「だったら…どうする?」
「どうもしません。自分流のやり方で全力で戦って…そして勝つ。それだけです」
「だよね。じゃあ…続きをやろうか」
「はい!」
いいねー…やる気満々って感じ?
さっきまでの緊張はどこへやら、こっちもやる気が出てきたよ~?
それはそれとして…いつまでオレに対して敬語使ってるの?
確かに実年齢はずっと上だけどさ…書類上は同い年なんですけど?
何も事情を知らない同級生に敬語を使われるってのは地味にキツい…。
え? オルコットさん?
お嬢様キャラは例外でしょ~。
あれは特殊例だよ。特殊例。
だから気にしないの。