まひろん、ちょっとだけ片鱗を見せるの巻。
因みに、今回は束視点でお送りします。
これはこれは…意外だなぁ~…。
ぶっちゃけ、最初はワタワタして可愛らしい反応を見せてくれるかと思ってたけど…予想以上に上手に使いこなせてる。
少なくとも、ISに乗って開始数秒で全力ダッシュと急ブレーキは普通に無理。
初心者なら、あの場面はそのまま何かにぶつかるまで進み続けるのがオチだけど。
「…お兄ちゃん」
「どーした?」
「今度はあんまし速度を上げずに動く事って出来る?」
「うーん…どうだろ。やるだけやってみる」
「お願いね」
さっきのでもうある程度のコツは掴んでみせたのか、モニターの中で偽物の青空を飛んでいるお兄ちゃんは、そこそこのスピードでぎこちなくはあるけど、それなりに安定した飛行をしてみせていた。
「これはまた…お上手ですね…」
「うん。そうだね…」
お兄ちゃんは私とは違い、寧ろ感覚的には箒ちゃんに近い物を持っている。
『理論』よりも『感覚』。
『計算』よりも『経験』。
けど、お兄ちゃんの場合はそこに若干の無意識の『独自の計算』も交じっている。
「あー…成る程。こんな感じか。まだ少しフワつくけど、なんとなく分かってきたかも」
おぉぉ? んん~?
なんか飛行も安定し始めたんですけど?
まだ開始5分も経ってないよね?
もう完全にコツを掴んじゃったの?
「そっかそっか…こいつはあれだな。エースコンバット的な感覚でなんとかなるな。オレの場合は戦闘機じゃなくて生身だけど。でも、あれに近い気がするわ」
え? 戦闘機?
まぁ…確かに、ISにとって最も重要な要素は『イメージ』だけど。
まさか、お兄ちゃんが戦闘機のゲームもやっていたとは。
ゲームとはいえ『飛ぶ感覚』ってのを疑似的に体験していたから、覚えるのが早かったのかな?
「お兄ちゃん。空を飛ぶのって怖いって思ったりしてる?」
「…特に高所恐怖症ってわけじゃないけど…ここまで来ると関係なくなるよな…」
「じゃあ怖い?」
「…下さえ向かなきゃ…我慢できる…かも」
そりゃねぇ…人間は元来、体一つで空を飛ぶように出来てないから。
ここで『怖い』って思うのは、ある意味じゃ普通の事なんだよね。
うん…少しだけ安心した。
「あー…なんか前に、こんな風に空を飛ぶキャラを操作するレトロなアクションゲームをやったことあったな~…タイトル、なんだったっけか~…」
そんなゲームがあるんだ…知らなかった。
後で少し調べてみよう。
それからも、お兄ちゃんは疑似的とはいえ、普段では決して味わえない飛行体験をしていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
お兄ちゃんがシミュレーターを使い始めてから20分。
すっかり夢中になったのか、気が付けばもう熟練者のような動きで空を飛んでいた。
「覚えるのが早い…! 流石は束さまのお兄様…」
「そうだね…」
本当は、運動不足で外に出るのが苦手なお兄ちゃんに、少しでも楽しみながら体を動かして体力をつけさせる為に、このISシミュレーターを作ったんだけど、ここまで見事に使われたら、少しだけ科学者としての性が顔を出してしまう。
つまり、本当に今のお兄ちゃんがISを使った時のデータが欲しくなった。
「あー…お兄ちゃん?」
「どーした?」
「ここらで少しAI…じゃなくてCPUと対戦してみない?」
「そんな機能があるのかッ!?」
「うん。空を飛ぶだけじゃつまんないでしょ? それに、こっちの方がお兄ちゃんのモチベーションが上がると思って」
「上がる上がる!」
…うん。
まるで本当の幼女の様に興奮するお兄ちゃんが可愛過ぎて辛い。
「束さま。束さま。鼻から血が…」
「おっと。って、クーちゃんも出てるよ」
「あらいけない」
どうやら、お互いにお兄ちゃんの可愛さに負けてしまったみたいだね…。
お兄ちゃん…罪な美少女…♡
「そ…それで、どんな武器が欲しい? シミュレーションだし、どんなのでも用意できるよ?」
「マジ? そうだなぁ…」
さっきのお兄ちゃんの発言通りなら、ここはバランスのいい武装類を選択するはず。
さぁて…どうするのかな?
「…うん。決めた。ビームライフルにビームサーベル、それから左腕に装着する小型のシールドを一つ」
「シンプルだねェ~。これだけでいいの? バズーカとかミサイルランチャーとかいらない?」
「いらないよ。まだ初心者であるオレが変に色んな武器を持っても使いこなせるわけがないし。だったら、ここはシンプル・イズ・ベストってことで」
分かってるじゃん…流石はお兄ちゃん。
幾ら拡張領域があるとはいえ、最初から欲張って色んな武器を持っても、上手に使えずに宝の持ち腐れで終わる。
こーゆーのもゲームから得た知識なんだろうなぁ~。
「んじゃ、用意しますよーっと。ちょちょいのちょいっと」
「おぉ~?」
画面の中のお兄ちゃんの手にビームライフルとシールドが装着される。
ビームサーベルの柄は左腰に待機状態で取り付けられている。
因みに、ライフルとシールドの形は、お兄ちゃんの好きなRX-78-2ガンダムと同じにしておいた。
「…分かってるじゃないの。個人的にはゲルググのライフルも好きだけど」
「お次はー…エネミーの用意だね」
どんなのにするかなー…なんて。
実はもう決まってたりして。
(お兄ちゃんの力…試させて貰うね)
流石に最初から高難易度はあれだし、まずは『代表候補生クラス』からいきますか。
エネミーの形状は…適当でいいか。
割と敵っぽく、私が開発中の無人機『ゴーレム』のデザインを流用しよう。
「なんか出た! これが相手か?」
「そーだよー」
「真っ黒でゴツくて…見るからに『敵!』って感じだな!」
「そ…そうだね…」
割と頑張って考えたデザインなんだけどな…。
そこまで直球に言われると少しだけショック。
「束さま…あれはまさか…」
「そ。その『まさか』」
「大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だって信じるの。お兄ちゃん! 用意はいい~?」
「いいぞー」
んじゃ、戦闘プログラムをONにして…っと。
「試合を始めるよー。ラウンド1…レディー…ゴー!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
まずはゴーレムからの先制攻撃!
ブースター全開で高速移動し、一瞬でお兄ちゃんの背後に回り、斜め上の位置からのビーム砲を発射!
自分の作ったプログラムながら、中々に容赦がないな~。
「真尋さま! 危な…い?」
クーちゃんが思わず叫ぶが、画面の中のお兄ちゃんはニヤリと不敵な笑みを浮かべてから一瞬の迷いもなく体を捻りながら後ろを振り向き、ビームライフルをゴーレムの方に構えていた。
「そう来ると思ってたよ! ところがギッチョン!」
ついさっきまでお兄ちゃんの体があった場所にビームが発射され、虚しく通り過ぎていく。
それからほんの0.5秒後ぐらいにお兄ちゃんもライフルの引き金を引いた。
「まずは部位破壊からー…ってね! うん…モンハンしてる時の癖が出てるな」
お兄ちゃんが撃ったビームは見事にゴーレムの右腕に命中、貫通してから爆発した。
「すげー…リアルだなー…」
まさかのカウンター…しかも見事なクリティカル…。
一発でビーム砲の発射口付近を狙い撃ってる…。
「ねぇ…お兄ちゃん? 今の…狙って撃った?」
「ん? まぁな。バイオとかで培ったヘッドショット技術が役に立ったな! バイオの敵って基本的に脳天を撃ち抜かないと死んでくれないからな~」
バイオって…ここであの超有名ゲームの技術を使う辺り、なんともお兄ちゃんらしいよ…。
「開始数秒でもう相手の戦力を半減させた…凄いです…真尋さま…」
「えへへ…そうかな~?」
照れてるお兄ちゃんも鬼可愛いです。
異論は認めん。
(しっかし…今の回避と攻撃の同時行動…あれ、完全にゴーレムよりも先に動いてたよね…?)
お兄ちゃん…相手の動きを先読みとかしてた…?
まさか…ね。
「む? 片腕を壊されたことでヒット&アウェイ戦法に切り替えたな? いいだろう…FPSで鍛えた腕を見せてやる!」
ゴーレムは間合いを取りながらの射撃攻撃を繰り返す。
下手な戦法は自分の首を絞めるだけだと学習したんだろう。
そんなことはお兄ちゃんも御見通しみたいだったけど。
「ちょこまかちょこまかと…! それならこっちにも考えがある。一年戦争時のアムロの真似をして…
ビームを置く…? どういう意味?
なんてことを考えていると、いきなりお兄ちゃんが見当違いの方にビームライフルを撃った。
「真尋さま…?」
「ありゃありゃ…お兄ちゃん。相手の動きが速いからって自棄になって……え?」
次の瞬間、ゴーレムが自分からビームに当たりに行き、そのまま左肩に命中した。
え…? どゆこと…?
「ま…まさか…ゴーレムの行動を先読みして…そこに向けてビームを撃った…?」
相手を誘導したとかじゃなくて…相手の動きを予測した!?
そんなこと…可能なの…?
「お! なんか、やってみたら出来た! もしかしてオレってニュータイプ?」
そっか…やっと分かった。
お兄ちゃんは『動体視力』が凄いんだ…!
今思えば、昔からお兄ちゃんは『格闘ゲーム』や『アクションゲーム』や『シューティングゲーム』といった『瞬間的な状況判断力』が問われるゲームばかりをやって来ていた。
相手と自分の位置を常に把握し、相手の動きに合わせて、その時点での最善の行動を瞬時に導き出す。
そんな芸当、そう簡単に出来るもんじゃない。
しかも、お兄ちゃんは恐らく『KVA動体視力(前後方向の動きを認識する能力)』と『DVA動体視力(横方向の動きを識別する能力)』の両方が非常に優れている…!
ISを操縦するにあたって、こんなに重要な能力はそうない。
「ま…真尋さま…? 今のは一体…?」
「んー? 単なる『置き撃ち』だよ?」
「「置き撃ち…」」
『ビームを置く』って…そういうことだったの…?
今の芸当…とんでもなく凄いことだって自覚してる…?
「ここから一気にいくぞー!」
結局、このまま候補生レベルに設定したゴーレムは、お兄ちゃんに碌にダメージを与えられず、出来ても精々が掠る程度でお兄ちゃんに敗北した。
・・・・・
・・・・
・・・
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・
やっぱり、お兄ちゃんも『篠ノ之』だった。
もっと色んな検証が必要だけど、それでも一つだけ分かった事がある。
それは…。
(お兄ちゃんには『IS操縦者としての才能』がある!)
今まで遊んだ色んなゲームで得た知識や技術が、どういうわけかダイレクトにISの操縦に活かされてる!
まさか、このシミュレーターでこんな事が分かるだなんて…。
ただ一つ問題があるとすれば、それは……。
「つ~か~れ~た~…」
致命的なまでに体力が無い!
シミュレーターから出てきたお兄ちゃんは、それはもう全身汗だくで疲れ切っていて、この前のジョギングの時以上にバテバテとなっていた。
動いていた時は興奮状態で疲れを感じにくくなってたんだろうけど、それから解放されると一気に疲れが来たって感じ?
「真尋さま。お水です。どうぞ、お飲みください」
「ありがと~…クロエちゃ~ん…ごく…ごく…ごく…」
よっぽど喉が渇いてたんだね。
一気に飲み干しちゃった。
(ま…それもそっか。もう一時間近くが経過してるし)
でもまぁ…運動嫌いなお兄ちゃんにしては頑張った方じゃない?
お兄ちゃんの意外過ぎる才能も発見できたし。
結果的には大成功だね!
「でも…中々に楽しかったな…」
「そう? また、やってみたい?」
「そーだなー…ゲーマーとしては、是非とも極めてみたいって気持ちが大きいな。もっと難易度を上げて、いつかRTAとかにも挑戦してみたいかも」
あの…あのお兄ちゃんが…身体を動かす事に、こんなにも積極的に…!
よし…お兄ちゃんにISの才能があるのは敢えて黙っておこう。
あんまり調子づかせるのもアレだし、その方が却ってやる気を引き出せるだろう。
「でも、今日はもう無理ぃ~…」
「あはは…お疲れ様。お兄ちゃん…カッコよかったよ」
「そ…そうか…?」
照れてるお兄ちゃんの可愛さで『萌えパワー』もチャージできたし、このまま今のシミュレーションのデータ分析…頑張りますか!
篠ノ之の血は伊達じゃない!
アクシズは押し返せないけど。