本当はIS学園に入った時に登場させようかと思ったのですが、どうしても今回のシチュエーションを描くに際して適任と言えるキャラを思い付きませんでした。
なので、原作開始より前に登場させることにしました。
とある休日の昼下がり。
オレは、ある一軒家の玄関先に立ってインターホンに手を伸ばしていた。
「はぁ…どうしてオレがこんな事をする羽目に…」
別にオレなんかじゃなくても、自分ですればいいだろ…?
初めて来る場所じゃないんだしさ。
まぁ、それに関してはオレもなんだけどさ。
「そういや…『この家』にこうして来るのって何年振りぐらいだ…?」
ずっと引き篭もっていたせいか、時間の感覚が曖昧になっている。
気が付いた時には夏になり、気が付いた時にはクリスマス。
いつの間にか大晦日になり、久し振りにカーテンを開くと年を越していた…なんてのはざらにあった。
束に話したら本気で引かれたけど。
「…感慨に耽っていても仕方ないか。ここまで来た以上、覚悟を決めよう」
どうせ、戻りたくても戻れないんだし。
だったら前に進むしかないじゃん?
うーん…我ながら前向き。
まひろちゃんエライ。
「よいしょ…っと」
どーしよ…この家のチャイムって、こんなに高い位置にあったっけ…?
届きはするけど、なんか妙に押しにくい。
それだけ今のオレの身体が縮んだってことなのか。
「…えい」
ピンポーン。
ごく普通のチャイムの音が鳴り、ドキドキしながら家主が出てくるのを待つ。
今日は日曜日だし家にいる筈…だよな?
(あ…なんか足音が聞こえてきた)
なんて反応するだろう…。
不審者扱いされるかな…。
それはそれでショックかもしれない…。
ガチャ
玄関扉が開くと、中からTシャツにジーパンとラフな格好をした黒髪の美女が出てきた。
そして、こっちの事を見つめると、ポツリと呟いた。
「…誰だ?」
デスヨネー。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
事の発端は昨日の夜にまで遡る。
風呂に入ってサッパリした後、オレは自分の部屋でのんびりとゲームをしながら毎度のように寛いでいた。
なんでか、その日は束やクロエちゃんも一緒だったけど。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「どーしたー?」
「明日さ…皆で遊びに行かない?」
「遊びにって…どこに?」
「ちーちゃん
「織斑家に?」
どうして、よりにもよってあの家なんだ?
もう何年も会ってないし、家にも行ってないのに。
「それは…束さまの御友人の…」
「そーだよー」
「またなんで、いきなり…」
「んー…なんとなく? 急に、ちーちゃんに会いたくなったから…じゃダメかな?」
「突然すぎるだろ…」
束の気紛れは今に始まった訳じゃないけど、だからと言っていきなり家に押しかけるのは流石にどうかと思う。
「それに、ちーちゃんにも一度、今のお兄ちゃんの姿を見せてあげたいしね」
「どう考えても、そっちの方が本命だろ」
「てへ♡」
誤魔化そうとしても無駄だから。
一体何年、お前の兄貴をやってると思ってるんだ。
「はぁ…どうせ、嫌だって言っても聞かないんだろ?」
「勿論♡」
「だと思った」
「大丈夫! 明日は日曜日だし、ちーちゃんもきっと家にいるよ!」
「そりゃそうだ」
寧ろ、日曜日に自宅にいないほうがおかしい。
「んふふ…明日が楽しみだな~♡」
「お前は、遠足の前の日にドキドキし過ぎて眠れなくなる小学生か」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…というわけなんだよ」
「それで私が納得すると思っているのか?」
あの後、近くにある電信柱に隠れていた束とクロエちゃんがやってきて事情を説明。
渋々ながらも千冬がオレたちを家の中へと入れてくれた…までは良かったけど…。
「しかし…未だに信じられん。本当に、この美少女があの真尋さんなのか?」
「そーだよー。すっごく可愛くなったでしょ?」
「確かに…」
確かに、じゃねーんだよ。
中に入った瞬間、千冬は非常に自然な動作でオレの事を抱き上げて、そのまま膝の上に乗せるようにしてソファに座った。
あの束すらも、余りの鮮やかさに一瞬だけ呆けてしまったほどだ。
「いやね…流石の私もさ、両親から頭を下げられて頼まれたら『イヤ』とは言えないし…」
「あの柳韻さんが、束に懇願する程なのか…」
おいこらそこ。
そんなダメ人間を見るような目で人を見ながら、しれっと髪の匂いを嗅ごうとするな。
因みに、柳韻ってのはオレたちの親父の名前ね。
千冬にとっては剣の師匠でもある。
「で、お前が束と一緒に暮らしているという…」
「クロエ・クロニクルと申します。以後、お見知りおきください」
「あ…あぁ…よろしくな」
クールビューティーな印象が強い千冬も、年下の女の子にここまで丁寧な挨拶をされたら戸惑うか。
「千冬。クロエちゃんを凝視してどした?」
「え? いや…なんでもない…です」
「…そっか」
なんか困惑しているような…そんな顔に見えた気がしたけど、オレの勘違いだったか。
「っていうか、よく束の言葉だけでオレが真尋だって信じたな。自分で言うのもアレだけど、俄かには信じられないだろ普通」
「確かに、普通ならば信じられません。だがしかし、束は普通じゃないので。こいつならば、人間を性転換させる薬ぐらい作っても違和感が無いと言うか…」
「ちーちゃん酷っ!?」
「「いや…事実だろ」」
あ。千冬とハモった。
「うわーん! クーちゃーん! ちーちゃんとお兄ちゃんが揃って束さんのことをイジめるよー!」
「申し訳ありません束さま…これに関しては弁護のしようがないと言うか…」
「クーちゃんにも見捨てられたっ!? 私に味方はいないのッ!?」
少なくとも、この場にはいないな。
「ところで、いっくんは家にはいないの? さっきから姿を見かけないけど」
「一夏なら、今日は友人の家の遊びに出かけている」
「そーなんだ。ざーんねん。折角、今のお兄ちゃんの姿を見て、顔を真っ赤にして狼狽えるいっくんを見たかったのに」
急に話を切り替えがやった。
しかも、その生贄が一夏だし。
「うーん…色々とお話をしていたら、少し小腹が空いたね。お兄ちゃん」
「どした?」
「クーちゃんと一緒に、何か小腹を満たせそうな物を買って来てくれない?」
「えー? オレがかー?」
「大丈夫だよ。この辺はお兄ちゃんも知らない土地じゃないんだし」
「それは…そうだけど…」
「ちょっとした散歩だと思って…ね?」
「はぁ…分かったよ」
「と言う訳だからクーちゃん、お兄ちゃんをよろしくね?」
「はい。お任せください。真尋さまは私が守ってみせます」
「あれ? オレがヨロシクされる側なの?」
「「「え?」」」
三人揃って、そんな目でこっちを見るな~!
うわ~ん! こうなったら、絶対にこの買い物ミッションをクリアしてやる~!
「はい、お金。千円もあれば足りるよね? お釣りはお小遣いにしていいから」
「やったー! クロエちゃん、早く行こう!」
「はい! 真尋さま!」
思わぬところで臨時収入とは…束も良いところがあるじゃあないか!
問題は、オレの記憶と今のこの近所がどれだけ整合しているかだな~。
出来るだけ変わってないと良いんだけど…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
真尋とクロエが外出するのを見届けてから、束は満足そうに頷いていた。
「うんうん。少しづつではあるけど、お兄ちゃんも外出に慣れてきたみたいだし、ちゃんと生活習慣も普通になりつつあるし…これは予想以上に社会復帰は早いかも?」
「そこまでなのか…」
「うん。少し前までは、外に出ること自体を嫌がってたぐらいだし」
とはいえ、まだまだ束の『お兄ちゃん矯正計画』は始まったばかり。
寧ろ、これからが本番とさえ言える。
「そして、このままの勢いで素敵なお婿さんを見つけて……って、流石にそれは無いか」
「見た目だけなら、確実に引く手数多だろうがな」
「何処に出しても恥ずかしくない、立派な美少女になってるからねぇ~」
正直な話、真尋の何気ない仕草に胸を貫かれたのは一回や二回では済まされない。
あざといと言えばそれまでだが、真尋の場合はそれを自然体でしてくるから心臓に悪い。
もしも世に出れば、色んな男を無自覚のままに魅了する『魔性の女』になるかもしれない。
「…それで? 真尋さん達を外に出して、一体何の話をする気だ?」
「バレてたか」
「当たり前だ。もう何年、お前との腐れ縁を続けてると思ってるんだ」
「あはは…ちーちゃんには敵わないなぁ~」
苦笑いを浮かべながら、束は徐にテーブルの上にタブレットを乗せた。
「これは?」
「実はね、運動不足のお兄ちゃんの為にISコアを内蔵したISシミュレーターを作ったんだよね。少しでも楽しく運動をして体力を付けさせようと思って。そう…最初は本当にそれが目的だったんだよ。性転換したお兄ちゃんでもISを動かせるのかっていう興味も少なからずあったけど、なんとなく動かせるって思ってたから。その辺は特に気にしてなかった。で、このタブレットには、その時のお兄ちゃんの映像が撮影されてる。シミュレーター上のお兄ちゃんの姿がね」
「成る程な…それを私に見て欲しいと…そういう訳か」
「うん。『餅は餅屋』ってね。私はあくまで『造る側』だから。『操縦者』としてなら、ちーちゃんの方が専門家でしょ?」
「それは…な…」
元日本代表で世界大会優勝経験もあり、ドイツにて教官を務め、今はIS学園にて教師をしている。
千冬以上に、ISの操縦に関する事で詳しい人間はいないだろう。
だからこそ束も、千冬を頼ることにした。
「んじゃ…映像を出すね」
「頼む」
スイッチを入れると、タブレットのディスプレイにISを纏った真尋の姿が映し出される。
空や背景などが僅かながらデジタルな感じがするので、見る者が見れば、これがすぐに現実の映像ではないと看破するだろう。
「纏っているのは…ラファールか」
「お兄ちゃんには、何かに特化したような機体よりも、汎用性が高い機体の方が良いと思って。本人も、ソレ系の機体が好きだって言ってたし」
画面の中では、真っ黒な仮想敵と真尋が交戦している。
最小限の動きで敵のビームを躱し、そのままの動きでビームライフルを発射。
その一撃は見事に敵の急所を貫き、撃破することに成功した。
「凄いな…。今のを躱すだけでなく、カウンターに近い形で倒すとは…」
「因みにこれ、敵AIのレベルは『代表候補生成りたて』ぐらいなんだよね」
「…真尋さんは、もう既に候補生クラスの実力があると言うことなのか…? いつからやり始めたんだ?」
「ついこの間だからー…一…二週間ぐらい前?」
「たった二週間でこれなのか…? とてもじゃないが信じられん…」
千冬から見ても、画面の中の真尋の動きは洗練されていた。
まるで、熟練の操縦者のように。
「ちーちゃん…忘れたの? あの人は…
「そう…だったな」
「お兄ちゃんも『篠ノ之』だったってこと。お兄ちゃんには『IS操縦者としての天才的な才能』があった」
「…真尋さんの『ランク』は調べたのか?」
「それはまだ。でも、なんとなく結果は分かる」
「私もだ…」
これ程の高い操縦技術。
幾ら、シミュレーターだからと言っても、これは普通に凄すぎる。
「最低でも『A』は確実か。もしかしたら…」
「『S』かもしれないね。ちーちゃんみたいに」
「かもしれんな…」
Sランク。
それは、世界でも数えるほどしかいないISランクの最高値。
もっともISと適合し、その能力を120%発揮できる選ばれし者。
真尋にも、その可能性が出て来てしまった。
「これを見ててさ…最終的には、お兄ちゃんに『IS学園』に入って貰うのも良いかもな~…なんて考えてるんだよね」
「本気か?」
「本気も本気。超本気。社会復帰をするのに学校以上に適切な場所は無いでしょ? それに、あそこならISの事も学べるし、ちーちゃんもいるしね」
「まぁ…いざと言う時はフォローも出来るかもしれないが…」
「その時が来たら、私とクーちゃんも学園に行く気満々なんだけどね」
「ちょっと待て。あのクロエと言う少女は良いとして、お前はどういう名目で学園に来る気だ? 流石に教員免許は持ってないだろう?」
「大丈夫。『IS全般に関するアドバイザー』的な感じで行くつもりだし」
「適任すぎるから文句も言えん…」
ISの開発者である束ならば、アドバイザーとして最も適している。
というか、彼女以上の適任者なんて、この世にはいないだろう。
「それにしても、あの真尋さんが女になってISを動かす…か。想像もしてなかったな…」
「私もだよ。でも、事実としてお兄ちゃんはIS操縦者としての才能を見事に開花させた。偶然とはいえ、これを腐らせるわけにはいかないよ。もしかしたら、お兄ちゃんの社会復帰の最大の一手になるかもしれないし」
「そうだな。折角見つけた才能を埋もれさせるのは惜しい。お前の後ろ盾があれば、真尋さんを好きには出来ないだろうしな」
「もしも、お兄ちゃんに何かをしようとしたら、その時はマジで『遠慮』とかしないかもね~」
「冗談に聞こえないからやめろ」
昔から身内には異常なまでの過保護な束。
特に、実兄である真尋に対する愛情は凄く、妹ながら本気で兄の事を溺愛していた。
束の行動原理の殆どが『兄の為』であり、兄に褒められたいが一心で色んな事をやって来た。
その努力が、却って真尋を苦しめているとも知らずに。
だが、それが巡り巡って今に至っているのだから、世の中と言うのは本当に分からない。
「そういや、お兄ちゃんたちはどこまで行ったんだろうねー」
「この辺では迷う事も無いだろうし…行ったとしても近所のスーパーかコンビニ辺りだろう。のんびりと待てばいいさ」
「そーだね」
それから二人は、昔話に花を咲かせながら真尋たちの事を待った。
何故か、話の話題の殆どは真尋だったが。
次回は、一方その頃の真尋&クロエ。
美少女二人の買い物珍道中?