サキュバス・アンド・ワルキューレ   作:暗い部屋の管理人

1 / 5
プロローグ

 西暦2099年6月5日・金曜日

 高校一年生・釜崎七見(かまさきななみ)

 性別女性・種族淫魔(サキュバス)

 X県五月雨市・自宅自室・17時37分

 

 

 警察庁のホームページを開けば淫魔(サキュバス)について以下のような記述がある。

 

 『人に擬態し、人の生活に紛れ込む陰の生物たち。それが、淫魔(サキュバス)である。

 彼女らの生態についてわかっていることは次の通り。

 

 淫魔(サキュバス)は女性しかいない。

 淫魔(サキュバス)と性行為をした男性は精と魂を奪われ死を迎える。

 淫魔(サキュバス)は己の生命を維持するため一ヶ月に一度は性行為を必要とする。

 淫魔(サキュバス)に対して男性が抗う術は一切ない。

 淫魔(サキュバス)の子は淫魔(サキュバス)である。

 淫魔(サキュバス)は魔術と呼ばれる異能で武装している』

 

 インターネットの情報を流し読みしながら、溜息をつく。テレビのニュースでは、私たち淫魔(サキュバス)に、父を、兄弟を、息子を奪われたと主張する遺族たちが政府に淫魔(サキュバス)のさらなる殲滅を求めてデモ行進を行う様が報道されていた。

 

 違う。

 私たちのような穏やかな生活を望む淫魔(サキュバス)は生きたいと願う男性と性行為を行うことはほとんどない。

 

 狂ってしまった個体たちを除いて。

 

 彼らはただ人生にひたすら疲れ、最後に花に吸い寄せられる蝶のように自らの意思で淫魔(サキュバス)の下に訪れるのだ。

 私と一夜を共にし、旅立っていった多くの男性が最期に満たされた顔をしていた。

 

 ただ、思うのだ。淫魔(サキュバス)に生まれず、普通の少女であったなら、こんなにも死顔を見る必要も、警察に命を狙われることも無かったのに、と。

 淫魔(サキュバス)として生を受けた少女たちの大半が精神に異常をきたす。

 頻繁に他者の死を見送ることが日常と化し、警察の特務部隊に殺害されないよう身を隠す日々が少しずづ精神を蝕んでゆく。

 

 私たちは生まれながらにして淫魔(サキュバス)

 性行為を通じ、男性より精と命を奪わなければ生きてはいけない大罪の生物である。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 西暦2099年6月6日・土曜日

 戦乙女(ワルキューレ)部隊・第一小隊長・警部補

 亜科崎優(あかさきゆう)・19歳

 性別女性・種族人間

 00時06分

 

 

 ここは、警視庁警備部淫魔犯罪機動捜査隊第一中隊庁舎。

 通称『戦乙女(ワルキューレ)部隊本部』。

 

 淫魔の殲滅完遂のため、全国の少女たちから選抜された精鋭たちが日々訓練に勤しむ地獄の鳥籠。

 

 『第一小隊長、亜科崎警部補は速やかに中隊長執務室に出頭せよ』

 

 深夜に庁舎に響く館内放送に従い、私は中隊長執務室に出頭した。

 

 「亜科崎、入室します!」

 「うむ、休め」

 「はっ!」

 

 来馬中隊長は私が執務机の前に立っても、こちらに目を向けようともしない。

 ただ、安煙草の煙を燻らせ天井をぼんやりと見つめているだけだ。

 かつては、精鋭の戦乙女(ワルキューレ)隊員だったと聞くが今は職務に対し熱意を失っている。それでも最低限の仕事はしてくれるので、私が諫言する程でもない。 

 

 そんな中隊長より恐らく私の部隊に対し新たな指令が下るだろう。次の戦いで何人の部下が生きて帰ることができるのか。

 先週の任務で新人隊員が二人殉職した。

 私の手が届かない場所で部下の人生が何度も失われてゆく。

 

 「X県警察より淫魔(サキュバス)の犯行が疑われる事件について応援要請が入った。警察官にかなりの殉職者が出ているとのことだ。亜科崎警部補は隷下の部隊を連れ、至急X県警本部へ急行し、同県警本部長の指揮下に入れ」

 

 「はっ!」

 

 気が抜けた声の中隊長より命令を受領し、私は執務室から退室する。

 それから、深夜の誰もいない庁舎の廊下を靴音を響かせながら急いで自室に戻る。これより、部下たちを非常招集で叩き起こし現地へ向かわなければならない。

 

 寮の自室に戻っても相部屋のはずなのに、誰も私に『お帰り』と声を掛けてくれることはない。同室の子が殉職によって次々に入れ替わることにも、もう慣れてしまった。入居した頃は、喪失感と死の恐怖に耐え切れず何日も眠れない日々が続いたような気もするが、記憶も体と共に摩耗してあまり思いだせない。

 

 非常灯だけが灯った暗い部屋のベットに腰かけると目をつぶった。

 こんな、ゆっくりしている暇はないと理性は呼び掛けてくるが、摩耗した精神はなかなか動きだそうとしない。

 少しだけ休ませてくれ、私の理性よ。

 肉体が先に回復しても欠けた心はなかなかに修復しないものなんだ。

 

 両目を開けて自室を眺める。

 やはり、同居人がいない相部屋は私にとって虚しいほど広すぎる。

 次の同居人はせめて私より後に死んでくれれば助かるのだが。

 

 それから、なんとか気合を入れて立ち上がり必要な道具を背負って自室を後にする。

 

 

 

 淫魔(サキュバス)の少女たちと警察官の少女たちが殺しあうクソッタレな現状。

 

 もし、この世界を創り上げたヤツが存在するのなら、私は、

 

 

 自分の手でそいつを縊り殺したい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。