サキュバス・アンド・ワルキューレ 作:暗い部屋の管理人
西暦2099年6月5日・金曜日
高校一年生・
性別女性・種族
X県五月雨市・自宅自室・17時37分
警察庁のホームページを開けば
『人に擬態し、人の生活に紛れ込む陰の生物たち。それが、
彼女らの生態についてわかっていることは次の通り。
インターネットの情報を流し読みしながら、溜息をつく。テレビのニュースでは、私たち
違う。
私たちのような穏やかな生活を望む
狂ってしまった個体たちを除いて。
彼らはただ人生にひたすら疲れ、最後に花に吸い寄せられる蝶のように自らの意思で
私と一夜を共にし、旅立っていった多くの男性が最期に満たされた顔をしていた。
ただ、思うのだ。
頻繁に他者の死を見送ることが日常と化し、警察の特務部隊に殺害されないよう身を隠す日々が少しずづ精神を蝕んでゆく。
私たちは生まれながらにして
性行為を通じ、男性より精と命を奪わなければ生きてはいけない大罪の生物である。
◇◆◇◆◇◆
西暦2099年6月6日・土曜日
性別女性・種族人間
00時06分
ここは、警視庁警備部淫魔犯罪機動捜査隊第一中隊庁舎。
通称『
淫魔の殲滅完遂のため、全国の少女たちから選抜された精鋭たちが日々訓練に勤しむ地獄の鳥籠。
『第一小隊長、亜科崎警部補は速やかに中隊長執務室に出頭せよ』
深夜に庁舎に響く館内放送に従い、私は中隊長執務室に出頭した。
「亜科崎、入室します!」
「うむ、休め」
「はっ!」
来馬中隊長は私が執務机の前に立っても、こちらに目を向けようともしない。
ただ、安煙草の煙を燻らせ天井をぼんやりと見つめているだけだ。
かつては、精鋭の
そんな中隊長より恐らく私の部隊に対し新たな指令が下るだろう。次の戦いで何人の部下が生きて帰ることができるのか。
先週の任務で新人隊員が二人殉職した。
私の手が届かない場所で部下の人生が何度も失われてゆく。
「X県警察より
「はっ!」
気が抜けた声の中隊長より命令を受領し、私は執務室から退室する。
それから、深夜の誰もいない庁舎の廊下を靴音を響かせながら急いで自室に戻る。これより、部下たちを非常招集で叩き起こし現地へ向かわなければならない。
寮の自室に戻っても相部屋のはずなのに、誰も私に『お帰り』と声を掛けてくれることはない。同室の子が殉職によって次々に入れ替わることにも、もう慣れてしまった。入居した頃は、喪失感と死の恐怖に耐え切れず何日も眠れない日々が続いたような気もするが、記憶も体と共に摩耗してあまり思いだせない。
非常灯だけが灯った暗い部屋のベットに腰かけると目をつぶった。
こんな、ゆっくりしている暇はないと理性は呼び掛けてくるが、摩耗した精神はなかなか動きだそうとしない。
少しだけ休ませてくれ、私の理性よ。
肉体が先に回復しても欠けた心はなかなかに修復しないものなんだ。
両目を開けて自室を眺める。
やはり、同居人がいない相部屋は私にとって虚しいほど広すぎる。
次の同居人はせめて私より後に死んでくれれば助かるのだが。
それから、なんとか気合を入れて立ち上がり必要な道具を背負って自室を後にする。
もし、この世界を創り上げたヤツが存在するのなら、私は、
自分の手でそいつを縊り殺したい。