サキュバス・アンド・ワルキューレ   作:暗い部屋の管理人

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プロローグ2

 西暦2099年6月6日・土曜日

 高校一年生・釜崎七見(かまさきななみ)

 性別女性・種族淫魔(サキュバス)

 06時00分 X県五月雨市・自宅自室

 

 

 チ、チ、チ、チチチチチチ……

 

 目覚まし時計の電子音によって私の意識は無理やり浅い眠りから引き上げられる。しまったなぁ、今日は土曜日なのに早起きする必要はなかった。うっかり、目覚まし時計の設定を平日のままにしてしまったようだ。二度寝はしたいが得意ではない。私は二度寝すると何故か酷い頭痛に襲われる体質だ。しょうがないので、ノロノロと上半身を起こしカーテンをゆっくりと開ける。

 窓から見える今日の空模様はどんよりとした曇りで今にも雨が降りそうだった。私はよく晴れた朝が好きなので早くも一日のやる気を失いそうになる。

 

 寝ぼけ眼のまま部屋を出てリビングに向かうとお姉ちゃんが食い入るようにテレビを見ていた。

 

 『昨夜、県警独身寮において24名の若手男性警察官の変死体が発見されました。遺体に外傷はなく、また司法解剖の結果、毒物は検出されませんでした。警察は今回の事件を淫魔(サキュバス)の犯行とみて捜査を開始しており、市民には夜間の外出を自粛するよう要請を……』

 

 ニュースのとんでもない内容に眠気は一気に吹っ飛んだ。

 

 誰だ!こんな馬鹿みたいに派手に事件を起こした同胞は!

 

 「ねえ、お姉ちゃん。ここの市内に住んでる淫魔(サキュバス)は私たち姉妹だけって仲介屋さんは言っていたよね?と言うことは……」

 「うん、多分、仲介屋に頼らない野良淫魔(サキュバス)が市外から流れ込んで来て事件を起こしたんだと思う。しかも、必要以上に吸精をしているから相当狂っているかも」

 「これもしかして東京から戦乙女(ワルキューレ)部隊が派遣されてくるんじゃ……」

 「……」

 

 お姉ちゃんは頭に右手を当てて黙りこんでしまった。今日まで私たち姉妹は仲介屋から紹介される自殺志願者だけに吸精行為をしてきたから周辺は警察からノーマークだったのに、ここまで派手な事件が起きてしまったら捜査員がたくさん集まってくるに違いない。それで今回の事件を起こした淫魔(サキュバス)が討伐されても自業自得だと思うけど運悪く私たちが巻き込まれる確率だってすごく上がっている。

 

 「ねえ、お姉ちゃん。しばらく、市外で暮らすことはできないかな?数か月後、ほとぼりが冷めた頃にまた戻れば」

 「無理よ。別の地区には仲介屋に割り当てられた同胞がいるもの。私たちだってここが空くまで大変だったでしょう?」

 

 その一言で野良淫魔(サキュバス)時代の記憶が蘇り、酷く手が震え出したのを感じた。

 お母さんを戦乙女(ワルキューレ)隊員に討伐され、行く当てもなくお姉ちゃんに守られながら各地を彷徨い、そして仲介屋に拾われてようやく安住の地を見つけるまでの日々を。

 

 あんな思いはもう絶対にしたくない。

 

 「警察が市内に侵入した同胞を早期に討伐することを祈るしかないわ。助けたい気持ちはあるけど、みんな自分のことで精一杯だもの。あるいは、こんな大規模な事件を起こさなければ私たちのように仲介屋に拾ってもらえたかもしれないのに」

 

 お姉ちゃんはそう言って、テレビに向かって憂いを帯びた瞳を向けた。

 

 正気を保てず、狂気に飲まれた淫魔(サキュバス)の未来はただ一つ。

 

 数に勝る警察に討ち取られ、その短い生涯を終えるのだ。

 

 

 「ねえ、市外に出ていけないのは分かったけど吸精衝動はどうするの?お姉ちゃん、そろそろじゃない?」

 「そう、仲介屋に指定された日付は明日だわ。どのみち、先延ばしにしても自我を失うだけだから戦乙女(ワルキューレ)部隊が到着する前に終わらせなきゃいけないのだけど」

 「場所はいつも通り廃ホテルだよね?なら、明日はお姉ちゃんの周りは私が警戒するよ」

 「そんな、危ない事を……」

 「大丈夫って!それにいつも私の時はお姉ちゃんが周辺を警戒してくれているでしょう?互いの残された最後の家族なんだから助け合わなくちゃ!」

 

 私の言葉を聞いてもお姉ちゃんは少し困った表情を浮かべて思案していた。

 

 「なら絶対約束して。私がどんな危機に陥っても自分の命を最優先にするって。私に警告を飛ばしたらその後は自分の身を守ることだけを考えるの」

 「え、それはその……」

 「約束して!」

 「は、はいぃ……」

 

 お姉ちゃんが出す迫力の凄さに思わず返答してしまったけど、実際にお姉ちゃんが警察に追い詰められたら、私は約束を破って駆け付けると思う。

 

 もう、二度と肉親を失う体験などしたくない。

 

 その為なら戦乙女(ワルキューレ)隊員だって真っ二つにしてやる。

 

 

 

 

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