サキュバス・アンド・ワルキューレ 作:暗い部屋の管理人
西暦2099年6月7日・日曜日
高校一年生・釜崎七見
性別女性・種族淫魔
11時16分 X県五月雨市
今日も昨日と同じく天気はどんよりとした曇り空だったので鞄にはお姉ちゃんの分と合わせて折り畳み傘を二つ入れてきた。
一般市民を装って商店街を散策して見たけど、一般の警察官の巡回が少し増えたかなと感じるくらいで特に
そもそも、
一応、警察官だから制服を着ているのかな?
動画投稿サイトには
今日のお姉ちゃんの吸精行為の開始時間は12時ちょうどから。何事も起きなければそれから一ヶ月前後はお姉ちゃんは人間と全く変わらない生活を続けることができる。私の吸精行為も5日前に済んでいる。だから、次の吸精衝動が来る前に警察には捜査を終わらせて欲しいと思う。
そうだ。今日を無事に乗り越えることができれば、これからも姉妹揃って平穏に暮らすことができるはず。
とりあえず、12時までは少し時間がある。
ずっと徘徊し続けても怪しく思われるし、書店で気になる新刊でもチェックしようかな。
五月雨市には珍しいことにまだ紙の本を扱う大型書店が一つ残っている。絶滅危惧種となった紙派の私にとってはそれだけでこの市に愛着が湧くし、私以外の紙派の人間にも聖地と化している。
軽く鼻歌を歌いながら書店に向かって商店街をゆっくり歩く。
商店街は近くで凄惨な事件が起きたせいか、いつもより人通りは少なく感じた。
書店に到着しても、聖地にしては客足はかなり疎らだった。
紙の本から漂うインクの匂いを胸一杯に吸い込みながら入店する。
「あっ、九護屋先生の新刊がもう置いてある!」
お気に入りの作家の新刊が入荷されていることに少し心躍らせながら本を手に取ろうとしたとき、私の左肩が軽く叩かれた。
「すみません。警察ですが少しお時間を頂けないでしょうか?」
振り返るとあまりにも若すぎる二人の女性警察官がじっと私を観察していた。
いつの間に私の後ろに?いや、彼女たちはもしかして……。
嫌な予感がして、私の背中から冷や汗が噴き出し始める。
「見たところ高校生くらいに見えるのですが、近辺で凄惨な事件が発生したことは御存じでしょうか?」
「あ、はい。その警察の方がたくさん亡くなった事件ですよね?」
「そうです。その事件で非常に狂暴な
ほっと、胸をなでおろす。どうやら、私が
事件が発生してすぐに東京を出発したのだろうか。想定外の早さだ。
すぐに帰宅すると嘘をついて、彼女たちと離れたらお姉ちゃんに連絡しなきゃ。
「すみません。自分は女性だから
「では、私たちがご自宅まで護衛しましょう」
「いえ、そこまでしなくても。家もすぐそこですし」
「すぐそこなら、むしろ遠慮しなくても大丈夫ですよ。市民の身を守るのが我々の職務ですから」
なんで家までついてこようとするの。やっぱり、
自分の顔がストレスで引きつりそうになるのを我慢し、2人の少女警官を引き連れながら書店を出る。
書店を出たところで警官に左右を挟まれる形になり、私の胃が緊張で痛みだした。
「実は私たちは東京から応援で駆け付けた警察官でして、このあたりの土地勘がないのです。地元の住民しか知らない
「い、いや知らないですねぇ……」
「そうですか……。学校の同級生でしばらく登校していない方などいませんか?」
「い、いないと思います」
歩きながら矢継ぎ早に話しかけてくる警官の質問に適当に答えつつ、どうやってお姉ちゃんに警告を飛ばそうか考えていた。
とにかく、今は少しでも早く帰宅して家の中から電話するしか方法はなさそう。
腕時計型端末を確認すると時刻は12時を少し過ぎていた。
大丈夫、自宅アパートはもう目の前だ。流石に家の中までは入ってこないよね?警察官といえども他人の家に入るには裁判官が作った書類が必要だってニュースで言っていた気がするし。
「あ、ここが私の家です。付き添いありがとうご『至急、至急!
『
二人の警察官にお礼を言って別れようとした瞬間、彼女たちの左肩に装着されていた無線機から悲鳴のような通信が入った。
同時に遠くの廃ホテルの方角から上がる黒煙と爆発音。
「どうやら
「なっ!貴様も
二人の警察官が現場に駆け付けようと私に背を向けた瞬間に右手に魔力を纏わせ背中から胸を貫く。
もう片方は私から少しでも距離をとろうと動いたけれど、私が振り払った左腕によって首を跳ね飛ばされた。
『こちら
道路に打ち付けられ少し壊れた無線機から、仲間を案じる悲痛な声が響く。
少ししか会話しなかったけれど、二人とも
でも、貴女たちをお姉ちゃんの下に向かわせるわけにはいかない。
急いで路地裏に入り、顔面に認識阻害の魔術をかけ、背中にカラスのような黒い大翼を顕現させると、私は空に向かって飛び立った。