サキュバス・アンド・ワルキューレ   作:暗い部屋の管理人

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私は未熟者

 西暦2099年6月7日・日曜日

 高校一年生・釜崎七見

 性別女性・種族淫魔

 12時29分 X県五月雨市

 

 眼下の市街地を眺めながら、お姉ちゃんの下に向かって高速で飛翔する。

 こうして淫魔(サキュバス)の翼を広げて全力で飛ぶのは久しぶりだ。

 体内で魔力がぐんぐん使用され減っている気がする。もし、この戦いで生き残ることができても、酷い吸精衝動によって自我を失い手当たり次第に男性を襲ってしまうんじゃないかと恐怖が湧いてくる。

 

 違う。今考えるべきことは姉妹で生き残ることだ。

 その後のことは、その時の自分を信じるしかない。

 

 その時、腕時計型端末から着信音が鳴った。

 相手はお姉ちゃんだ。

 

 「もしもし、お姉ちゃん!今どこにいるの!必ず助けにいくから!」

 

 『……ハァ……ハァ……こんな…時は、…自分、の……身、を…ハァ……守り…な、さい…って約束し、たじゃない……一人でも……多く…戦乙女(ワルキューレ)隊員を……道連れに…するか、ら』

 

 「生き残ることを諦めちゃダメだよ!お姉ちゃんが死んだ世界で一人生き残っても何の意味もないよ!」

 

 『生きる……意味ぐらい…自分で…見つけ……なさいよ。七見まで……死んだら…わた、し…無駄死にじゃない。…お願い…生きて……私の分まで……幸せになって……そうなれば、きっと……私の人生にも…意味があったって……思える、から』

 

 「お姉ちゃん!」

 

 通話先のお姉ちゃんの呼吸がどんどん浅くなっているのが嫌でもわかる。

 酷い流血でもしているの?

 残された時間はほとんどない!

 

 次の瞬間、高層ビルの陰から四つの人影が私に襲いかかってきた。

 機動警官鎧(オフィサーズスーツ)に身を包んだ少女たちの正体は。

 

 「こんな時に戦乙女(ワルキューレ)隊員か!」

 「淫魔(サキュバス)に近づくな!牽制射撃で魔力を削ってやれ!」

 「銃弾如きで淫魔(サキュバス)を殺せると思うな!」

 

 皮膚に薄く魔力を纏わせ防御層を作りあげる。

 この防御層を貫けるほど威力がある銃など滅多にない。

 でも、確かに私の魔力を消費させるという目的は達しているんだ。

 まともに相手にしていちゃ数的不利で押し負ける!

 

 ちらりと地上を見ると、警察官に避難誘導される市民の列が見えた。

 仕方ないか。

 

 一気に急降下して市民の列に突っ込むと周囲全ての男性に魅了の魔術を行使する。

 魅了中の男性たちは私の命令に絶対服従だ。

 

 「みんな、降りてきた戦乙女(ワルキューレ)隊員を拘束して!」

 

 私について地上に降りてきた戦乙女(ワルキューレ)隊員たちに男性たちが一気に群がる。

 魅了されているだけの一般市民に戦乙女(ワルキューレ)隊員が怪我を負わせるわけにはいかないでしょう?

 

 しかし、彼女たちが足止めを受けている間に離脱しようとした私の視界の端に、一人の戦乙女(ワルキューレ)隊員が滑らかに群衆を脱出する姿が映った。

 

 その戦乙女(ワルキューレ)隊員は一気に私との間合いを詰めると腰に装備した刀状の武装を抜き放つ。

 少しでも彼女から離れようとするけど、これは間に合わないと悟った。

 

 振り下ろされる刃が防御層を貫通して、袈裟懸けに切り裂かれる。

 痛みより先に傷口に物凄い熱さを感じ、視界が何度も点滅した。

 

 上半身の力が抜けてアスファルトの路面にうつ伏せに倒れこむ。

 大量の血液と共に魔力も失っている感じがした。

 

 「亜科崎隊長ほどの力量はなくとも、私も小隊副長として多くの淫魔(サキュバス)を葬ってきた自負がある。戦い慣れていない淫魔(サキュバス)一人に後れを取るわけにはいかない」

 

 横目で上を見ると独り言を吐いた戦乙女(ワルキューレ)隊員が、私に止めを刺そうと刀状の武装の切っ先をこちらに向けていた。

 

 私、ここで死ぬの?

 

 その瞬間、さっきのお姉ちゃんの言葉が脳に蘇る。

 

 そうだ、ここで死んでたまるか。

 

 「ああああああああああああ!」

 

 全力で力を振り絞って背中にある二枚の大翼をめちゃめちゃに振り回す。

 傍に在ったコンビニは四散し、道路のアスファルトは砕け散った。

 

 もうもうと立ち昇る土埃の中、私はよたよたと方向も定めず彷徨う。

 土埃の先にあったのは高層マンションが立ち並ぶエリアだった。

 

 大量の魔力を失い、傷を治そうとする淫魔(サキュバス)の肉体が男性の精と魂を欲してやまない。

 まずい。このままでは吸精衝動に飲み込まれて自我を失ってしまう。

 

 それは兎も角、まだ近くにいるはずの戦乙女(ワルキューレ)隊員から身を隠さないと。

 一番近くのマンション二階の部屋のドアノブを引っこ抜き勝手に侵入する。

 住民が留守ならありがたいのだけれど。

 

 「えっ、どうして淫魔(サキュバス)がうちにいるの!」

 

 でも、その部屋には突然の淫魔(サキュバス)の登場に驚き、そして怯えた様子の一人の男の子がいた。

 

 小柄で中性的な容姿のその子にどうも見覚えがある気がする。

 ぼんやりした意識の中、記憶を少しずつ辿る。

 

 ああ、思い出した。

 

 高校でクラスメイトになった大村君だ。

 

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