なぜ人間は、人間を超越したいのか
死への恐怖。
恐怖への抵抗。
克服したいのだ。
恐怖を。
生命を。
寿命を。
超えたいのだ。
他人を。
自分を。
人間を。
さらなる能力を!
深層意識。
(死、それは当然、生命的な死を意味する。。)
(もしくは、精神的な死。)
(自身の希望や、理想に絶望する精神の死。)
(これらもまた、同様に死なのだ。)
(死への恐怖は、永遠の命への憧れに変わる。)
(自分が死んでも、人々の記憶に残ればいい。)
(そんな考えもあろう。)
(記憶に残り、歴々と語り継がれれば、永遠となろう。)
(であれば、どうやって記憶に残る。残せばいい?)
(勝てばいい。)
(誰よりも勝てばいい。)。
(昨日の自分にすら、負ければ死。)
(明日の自分は、今の自分よりも超えた存在でなければならないのだ。)
意識の底で俺は、
俺自身に言い聞かせていた。
緩やかな、非常に緩やかな思考。
聞こえる。
感じる。
俺は、寝ている。
動けない。
聞こえるーーー
ーーーーー
まず"外科手術"からだ。
皮膚、筋膜を切開したまえ。
骨が見えるかね?
骨格を形成するリン酸カルシウム、
この格子構造に界面活性剤様にしたチタンーセラミック複合材を塗布することで
骨構造に吸収され、らせん結合し、剛性が増すのだ。
(特願平6-326247の要素改良)
並行して"遺伝子注入"を執り行う。
これは各部ごとに、いわば、遺伝子の接ぎ木を行うのだ。
従来の接ぎ木は1点ないし1断面にて行うが
基盤となるタンパク質ポリマーを接合層とし、
そこに蒸着させた遺伝子が3次元フラクタル層を形成している。
この遺伝子層が被験者生体と絡み合い、結合するバイオフィルムなのである。
(特願平7-315708と特許5860453の複合改良)
そして最後に、"脳神経手術"。
まずはあらかじめ保護薬を投与する。
しかる後、既存の神経網に加え、
指向性ナノ光波神経網を、
先のバイオフィルムに沿って育成させる。
フィルムが透明から黒、虹色、透明と変われば・・
うむ。
手術は成功だ。。きっと気に入ってくれるはずだ。
(特開2014-148493および特開2007-004514の複合改良)
いいかね。1号被験体の場合は、
入念に、素体各部の相性確認、
それと何よりも本人の意思確認が必要だ。
自らの意思で、
最終手術である「
「
改造人間として完成するのだ。
深層意識下においての合意が必要なのだ・・
ーーーーー
本郷は一人、白い部屋で横たわっていた。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
・
・
(寝すぎた。)
そう思った瞬間、頭脳が情報を収集する。
視覚と聴覚の情報が一気に流れ込んでくる。
しかし、ここはただの真っ白い部屋に過ぎないことは
すぐにわかる。
静けさも。
しかしその静寂で無味な環境でさえも
俺の頭痛を引き起こすには十分だ。
頭痛の波を感じると同時に体を起こそうとするが、
上半身に力がうまく入らない。
扉の外から足音が擦れているのが聞こえた。
近づいてくる。
この足音は「
感覚がそう告げていた。
ポ。ポ。スー。
柔らかな電子音とともに、白い壁の一部がスライドし、
人影が見えた。
(そうか、そこは扉だったのか)
白衣の医者。部屋に入ってきたのは、彼一人。
当然、歩いてきたのも彼一人だ。
しかし、本郷の感覚は、その視覚とは違う認識を告げていた。
(他にもいる。
いや、最初から"居た"。
彼らは「
おそらく部屋の外、廊下だろうか。
そこに並んでいる。その息遣いを耳で感じる。
「・・・」
「・・・」
無言のまま視線を合わせる本郷、そして医者。
医者は少し首をかしげながら、ゆっくり手のひらを見せ、くちを開いた。
「やぁ。おはよう。」
「・・・」
本郷は、なおも無言のまま見つめる。
(彼は私とは無関係に思える。が。。)
医者はうん、うん、と軽くうなづきながら続けた。
「うまく体が動かないだろう。
痺れもあるやもしれん。
当然だ。
しかし気に病む必要などないよ。
手術は成功し、神経回復も順調だ。
ただ、慣れてないだけなんだよ」
「・・・・こ こ は ?」
本郷は3文字、発声した。
「あぁ、すまない。
私は緑川。安心したまえ。
君は本郷猛くん。
知っているよ。
自己紹介は以前済んでいるんだ。
つまり、知り合いなんだよ、私たちは。
・・・
ただし、
脳神経が記憶域と接続するまで、
君は忘れた、という感覚なはずだ。」
(知り合い、忘れた、記憶喪失?)
「・・・記 お く そ ぉ し つ 。」
「記憶喪失、か。
そう。そんなところだ。
なにぶん、身体機能が安定するまで、ゆっくりするといい。
すでに体は回復・成長シーケンスに入っている。
君の、自分自身のカルテを見てみるかい?」
「・・・・」
頭がうまく回らない。
いや、回りすぎている。
考える速度が、身体を動かす速度と連動していないのだ。
さらに、驚くのは
目の前の緑川博士が喋る内容、
その最初の一言を聞いた瞬間、最後まで予測してしまい、
あたかもすべて聞いた感覚になっているのだ。
状況は理解した。
ならば、対応できよう。
本郷猛、俺はそうやって生きてきた。
「ね ん ん の た め 、置 い て お い て 欲 し 。い。
・ ・ ・
目 が 少ぉし おか し ぃんだ。」
一旦、唾を飲み込んで、頭脳のギアを落とす。
再度発声を試みる。
「・・・
うん。
視力 の リ ハビリ の ために、
うん。
文字を、読みたいんだよ。」
発声した、いや、喋っている。
スピードを調節さえすれば、俺は喋れる。
緑川は、再度うなづきながら笑顔に変わっていく。
「うむ、良かろう。好きにしたまえ。
順調そうだ。
これならば予定を早めても良さそうだ。」
本郷は気づかなかったが、
緑川の背後にいた女性が、すっと現れた。
「うむ。さて本郷くん。
彼女の紹介が必要だね。
術後経過を見る間、彼女が君の世話係だ。
話すことは、脳神経の修復になるし、
なによりも気晴らしになるじゃろう。」
緑川が言い終わるや否や、
彼女が語尾を継ぐ。
「よろしく。
コールはいつでもどうぞ。
緑川ルリ子です。
思い出した?」
そう言うと、ルリ子は不愛想な笑顔を
これまた無表情な本郷に近づけてきたのだった。