二階から飛び降りた本郷の視界に入ってきたのは
人間ほどもある白い糸玉だった。
(なんだ、これは!?)
そして気づく。
絡み合う糸玉。
その隙間から、タキの目がのぞいていたのだ!
(タキ!)
怯んだ本郷を戦闘員が羽交い絞めにする!
「イー!」
そして糸玉の影から現れるクモ男!
その右手から放たれるクモネットが本郷の視界に広がる!
「
クモ男の呪われた発声と共に
ネットが! 戦闘員ごと本郷を!
包み込んでいく!
(
予測できない攻撃だった。
しかし本郷の意識下の「
とっさに回避行動を放ったのだ。
そして 後の先!
回避行動を攻撃に転じる!
「
クモ男はひらりと躱す。
(なにっ!)
驚くのはその後だった。
思わぬカウンター!
脇からのクモ腕がライダーの腹部に突き刺さる!
(そんな攻撃意思は感じなかった!)
想定外の結果に
かろうじて腕を抜き、
血を滴らせながら着地した本郷。
膝をついたまま顔をあげ
敵を観察する。
(パンチが当たらない)
(なぜだ!)
(敵を知り、己を知らば・・・)
気づけば簡単だった。
クモ男の周囲、実は細かな糸が見えた。
惑星を包む大気のように。
直撃の瞬間、そのネットが
パンチの軌道をそらしていたのだ。
本郷の分析を邪魔するかのように、
クモ男から、意識が流れ込んでくる。
「1号被験体よ。
1号被験体よ。
・・・
私と、そして組織と合意しよう。
さすれば、希望通り人間を超越するだろう。
現状では、中途半端ではないか?
人間か、改造人間か・・・
いずれ選択すべき時が来る。
決断は早いほうがいい・・・・」
「緑川博士!」
本郷は思わず叫んだ。
クモ男は無言のまま、本郷を見下ろす。
「そうだ・・・
私の意識は拡散した。
君の中にもあるはずだ。
怪人それぞれが、私の息子と言ってもいい。
息子よ。
決意せよ・・」
緑川博士の意識が流れ込むごとに
本郷の戦闘意思が弱くなっていく。
そう察した戦闘員が、
本郷をじわりじわりと取り囲んでいく。
視界も、ぐんぐんと狭くなっていく。
まるで眠りに誘われているような、
快適な夢心地さえ感じる・・・・
そのとき。
!?
(あれは・・?)
視界の端に、糸玉がもう一つ、
アジトから運び出されているのが見えた
(ルリ子さん!)
その瞬間、本郷は自身の生命が燃えるのを感じた。
意識下においても、全身でも。
「
これまで、仮面は単に接続されているだけであった。
"決意" し、一体化した そのとき、
真の力が発揮されるのだ!
仮面ライダーの動きは圧倒的だった!
立ち上がると同時に
風車の如く、流れ、切り裂くキックの連打!
真の改造人間にとって、
戦闘員など、ものの数ではないのだ!
・・・・
深夜の山間部。
・・・
赤く灯る仮面の複眼と
淡く光るクモ男の複眼。。。
そしてその2体の周囲は
血しぶきと、それが流れ出る源流、
つまり戦闘員が、すでに泡となっていた。
・・・
(ツギハ、オマエダ)
ゆっくりと、クモ男と視線が交差する。
本郷にできることは
仮面ライダーの呼吸を感じること、
それしかなかった。
戦闘パタンを静かに観察していたクモ男。
その6つの眼。
その眼がすべて赤く染まった。
「
ドン!
クモ男も能力を開放する!
そして8方向から挟撃する怪奇ネット!
それは白と紅のまだら模様!
その異様さに、本郷は戦慄を覚えた!
「
意識下のその警告に怯ぬな!本郷!
間一髪、躱した仮面ライダーの背後で
戦闘員がネットに串刺しになっている。
(ニゲル デキナイ)
さらに追撃が仮面ライダーを襲う!
ドシュ!
ドシュ!
ドシュ!
ドン!
躱すライダー。
スピードは互角!
しかし戦闘経験に開きがある!
まずい!殺られる!
(攻撃の糸口、
あるはずだ。
どこかに!)
仮面ライダーの肉体が疲弊している。
そんな中、本郷の分析能力を駆使すれば
回避に集中もままならない。
ガガ!
紅刃のネットが仮面をかすめた。
その一瞬、
仮面と本郷の接続が途切れた。
瞬間とはいえ、
まるで時間が停止したような感覚。
それは本郷自身の分析回路を起動するには十分だった。
(捕縛ではなく、打突用。
そして、回避は可能。
ならば・・・問題ない。
あとは・・・)
いつのまにか、その本郷の分析が
クモ男攻略として
仮面ライダーの
・・・
そして・・
実行のチャンスはたやすく訪れた。
2回。
ただそれだけ回避するだけで、
クモ男の懐に入り込めたのだ。
同時にクモ男の、
"クモ男自身の意識" が、流れ込んでくる。
「1号被験体よ。
流石の素早さ。
しかし我らが防御は完璧だ。
・・・
このままお前をとり込もう!」
クモ男の下顎が左右にバカっと割れ、
真蒼の糸が吐き出される!
「
(そうはさせん!)
仮面ライダーが近づいたのは
パンチを出すためではなかった!
「
ドン!!
クモ男と共に空中へジャンプ!
それは一瞬だった。
あまりの加速上昇!
クモ男をまとった糸も、
蒼いネットも置き去りのままである!
さらに追撃!
仮面ライダーは、宙空で後方回転し、
一直線に距離を取った!
なんと、クモ男の複眼ではその遠近感を!
捉えられない!
「
糸壁を出すクモ男!
しかしその最後の抵抗も容易に貫通した足刀は
彼の腹部に衝撃を伝える。
と、同時に足刀を通じて仮面ライダーの、
"本郷の意識"が流れ込んでくる。
「博士。
すみません。
どちらかが、生き残るしか。
他に手段はないんです。
ありがとう。
・・・
そして
あなたたちの消滅を希望する」
クモ男の意識が一気にあふれた。
その意識体、いや意識群と言おうか。
そう。
クモ男の被験体は一人ではなかった。
緑川の意識も、
そして犠牲になった名もなき被験体も。
腕の被験体、胴の被験体・・・
統合するには、緑川の意識が必要だった。
そこがクモ男の弱点でもあったのだ。
集合体は、本郷の希望に合意し
と同時に、クモ男の複眼が
意識下と同じ悲哀の
そして
一瞬、その身体が膨張し、
爆散するかに見えたクモ男。
しかし・・
膨張はすぐに停止し、
複眼の色が消えるとともに泡となり
消えゆく、彼らの素体。
その泡は塵となり、
ゆっくりと薄い澱を
地面に降り積もらせる。。。
それは戦い終えた二体の悲しみとともに
次第に。
自然と一体化していくのであった。。
ーーーー
肉体も精神も疲弊しきった本郷。
糸玉にあるはずのタキの肉体は、
すでに消滅していた。
もはや
彼の優先事項はただ1つしかなかった。
(ルリ子さんを探す)
別に走り回る必要はない。
感覚で探すのだ。
(彼女の意識は認識できるはず。)
(しかし、意識喪失していれば。。。)
そうなれば、もはやなす術はない。
しかし希望はある。
「・・・
・・・
・・・」
集中していたせいか、
その足音に先に気づいたのは意識下だった
「
「本郷くん。」
先に声をかけたのは、相手だった。
はっと顔をあげると
肩にルリ子を背負ったその人物。
それはタキだった。
「安心したまえ。
無事、救出完了だ。
君も大丈夫だね?」
「・・・」
本郷は無表情のまま二人を観察した。
その無反応さに、応答を待つのは無駄だ
と感じたタキは
任務に徹し、告げた。
「タカハシにはすでに一報してあるが、
私には、
この緊急任務の報告義務がある。
当然君たちにも、だ。
・・・
私の最優先事項は
君たちの護衛だが・・・、
報告書の代筆も可能だ。」
呼吸の浅いルリ子を本郷に預け、
タキはノートパソコンを開くのだった。。。