Princess between princes   作:よしだひろ

2 / 3
テスト投稿の為すぐ消します


酔って酔われて

「おはよう、ミッキー!」

 また山田だ。なんか最近は私をエントランスで待ち構えているような気がしてならない。

「ミッキーなんて呼ばないでよ!」

「下の名前で呼ぶの嫌がるからあだ名を付けたんだろ。な、ミッキー」

 エレベーターホールにはたくさんの人がエレベーターを待ってる。ミッキーなんて呼ばれてるの聞かれたくないのに。

「なんだかんだ言っても同期っていいよな、ミッキー」

 そこへ人事の飯田さんが現れた。私が入社した時教育を担当してくれた人だ。

「なんだ、朝から騒がしいと思ったら伊藤か。ミッキーって呼ばれてるのか」

「違いますよ。こやつが勝手にそう呼んでるだけです」

「意外と覚えられやすくて良いんじゃないのか?」

「ダメですよ! 飯田さん。ミッキーと呼んで良いのは俺だけですからね」

「あんたも呼んだら殺すわよ……それより飯田さん。この前の資料目を通しました。後でメールしますね」

 四月も中旬に入り、人事から打診のあった新入社員研修の講師をやる日が近付いている。もう教育計画は出来てて人事に提出済みだ。細かい点を飯田さんと話し合っている。

 にしても、私が講師だなんて本当に出来るのかしら。まあ講師と言っても三日間だけだから頑張ろう。

     *

 経理の仕事を片付けながら飯田さんと新入社員研修について詰めていく。あっという間に時間は過ぎ去った。

 そしてとうとう経理部門の新入社員研修が始まった。

 飯田さんに紹介されて一言挨拶をした。

「……なので、皆さんも早く会社に慣れてバリバリ仕事をこなせる社員になって下さい」

「はい! 頑張ります!」

 おっと! いきなりテンション高めの男の子。さっきからずっと見られてるような気がしてたんだよなあ。

 飯田さんがその男の子に注意した。

「藤村! 元気な返事はいい事だが、今はそのタイミングじゃない」

 みんながクスクス笑った。二十三人とは言えこの人数の前ってのも緊張するなあ。

 私は事前に準備していた資料などを使って会社の組織の事やその組織内の経理の位置などを説明して行った。

 藤村はその間視線をプリントやノートに落とす事なくジッと私の事を見ていた。なんだなんだ? 私何か付いてるのか?

 講習は何の滞りもなく進んでいった。中には居眠りしてる新入社員もいたが、そんな時はさりげなく飯田さんがサポートに入って休憩を挟んだりうんちく話などをして気を紛らわせてくれた。

「はい。と、ここまでで今日の予定は終わりです。時間が余ってしまいましたが何か質問とかありますか?」

「はい!」

 む、あやつか。藤村。ずーっと私を見ていた。

「では、藤村」

「はい。経理部に所属したいのですがどうしたら良いですか?」

(え? 今日の講習の中から質問してよ)

 飯田さんがすかさずサポートしてくれた。

「配属についてはなるべく皆さんの希望も聞いて決めたいのですが、適材適所の言葉通り皆さんの能力に応じてある程度人事部で方向性を決める事になっています……」

 流石人事部。話し方も話す内容も的確だなあ。

 他にも二、三質問があった。私なりに丁寧に答えたつもりだ。突っ込んだ質問とかはなくその日の就業時間が終わった。

「飯田さん。ありがとうございます」

「初日だし緊張しただろ。これだけの人数を前にするとな」

 そこへ例の藤村が現れた。

「僕は藤村誠と言います。伊藤先輩。不躾ですが今夜飲みに行きませんか?」

 私は飯田さんと顔を見合わせた。

「お前今日はやけに元気だったな。元気が有り余ってるのか?」

「伊藤先輩みたいな出来る社員の方と親睦を深めたくて」

「出来る社員じゃないよ」

 しかし飯田さんは言った。

「それなら四人位でミニ懇親会でもやるか。藤村、誰かもう一人誘えないか?」

「え? 四人って……僕と伊藤先輩と飯田先輩とですか?」

「後誰か一人な」

 藤村は少し不満気に見えた。しかし後ろを振り向くと藤村の隣りに座っていた女子社員を見つけ声を掛けた。

「今野、今夜飲みに行かないか?」

 今野は急に呼ばれて驚いていた。藤村の隣りにいる私と飯田さんを見て一気に緊張したようだ。

「わ、私で良ければ!」

 そんな訳でその四人で近くの飲み屋さんに行く事になった。

     *

「え? 飯田先輩、烏龍茶ですか?」

 飯田さんが答えるよりも早く私が答えた。

「飯田さんはお酒飲まないのよ」

「酒が飲めない訳じゃないんだぞ。一人で家飲みする事だってある」

「じゃあ何で?」

「まあ、良いじゃないか。今日は俺の奢りだ。好きなのを飲め」

 お酒が運ばれて来て乾杯を済ますと、藤村はやたらと私に話しかけて来た。犬派か猫派かだとか、お好み焼きと言ったら大阪か広島かとか、どうでも良いことばかり。

「伊藤先輩は占い好きですか? 俺、占い出来るんですよ。俺と伊藤先輩の相性とか占いませんか?」

「藤村。やたらと上機嫌だなー」

「今野。お前は対照的に少し大人しいな」

「はい。私は余り前に出るタイプじゃなくて」

「あんまりこう言う場は嫌いだったか? だとしたら無理に誘って済まなかったな」

 今野は首を振って否定した。

「別に苦手ではないです。むしろ楽しいから好きなんですが、私自身は前に出るタイプじゃなくて……済みません」

「いやいやいや。謝る事じゃないのよ。楽しんでくれてるならそれで良いの」

「そんな事より伊藤先輩、手相見せて下さいよー」

 藤村が私の手を取ろうとするので露骨に嫌がって手を庇って見せた。

「もう先輩。照れちゃってるんですねー」

 そんなんじゃないって。

 そんな感じで藤村はやたらと私に懐いてきた。それを見かねたのか今野がちょいちょい会話を遮るようにフォローしてくれた。ナイスだ、今野。

 飯田さんはまるで正月に親戚が集まった際、従兄弟同士が戯れあったり喧嘩したりするのを見て、子供の成長は早いもんだなぁ、と言う目で私達を見ていた。

「もう。藤村! お酒が入って来たら前にも増して私に絡むわね。シャキッとなさい!」

「はーい」

(何だその返事は)

「もういいわ。ちょっとトイレに行ってくる」

 私がトイレを済ませて出てくるとそこに飯田さんがいた。

「何か今日の藤村は様子がおかしい。お前の事やけに気に入ってるじゃないか」

「何か逆に鬱陶しいです」

「藤村は今はまだ入社したてで勉強中の身。付き合い方には十分注意してくれよ」

「付き合い方って……私は彼の事何とも思ってないですよ」

 その時私達のテーブルの方から声が上がった。トイレに掛けてある暖簾を退けて見てみる。すると一人の酔っ払いが今野に絡んでいるところだった。

「辞めてください」

「いいじゃん、君可愛いから一緒に飲もうよ」

 あちゃー。変な酔っ払いに絡まれちゃってるなあ。しかし藤村が素早く割って入った。

「酔っ払いおじさん。あなた水難の相がみえますよ。もっと詳しく占ってあげますよ」

「うるへえな。俺はこっちのお姉ちゃんと飲みたいんだよ」

 しかし藤村は構わずに酔っ払いの手を取って手相を見始めた。

「どれどれ……」

 酔っ払いも素直に見られるのね。

「あ、これは! 水難だけじゃ済まされないぞ。今すぐ帰った方が身のためですよ!」

「けっ! 何が水難だよ、ひっく」

 酔っ払いは勢いよく手を払い退けた。その手がたまたま横を通っていたバイトのお姉さんのお盆を下から掬い上げるように吹っ飛ばした。お盆に乗っていたお水やら煮物の残りやらが空中に舞ったかと思うと、そのまま酔っ払いの頭に降りかかった。

「あ! 済みません、お客様」

 しかし男は藤村の方を睨んでる。

「きさま、よくも」

「え? 僕は何もしてないんですけど」

 その時厨房の方で物が落ちてくるような大きな音が鳴った。見ると鍋が棚の上から落ちて来てキッチンの調理台に置いてあった長ネギに直撃、長ネギは反動でくるくるくると周りながら空中を飛んだ。そして煮えたぎる寸胴のお湯の中にじゃぶんと飛び込んだ。

 その飛沫が見習いコックの顔にかかるとコックは悲鳴と共に持っていた生卵を放り投げた。

(これは、もしや)

 その生卵はくるくるくると勢いよく周り弧を描きながら酔っ払いの頭の上にぐしゃ!

(あちゃー)

「わあ、たいへんだ」

(藤村、棒読みだぞ)

 藤村はバイトのお姉さんが床を拭いてるダスターを拝借して酔っ払いの顔を拭き拭きし始めた。

「何しやがる!」

「だから水難だけじゃ済まないっていったでしょ」

「もう頭にきた」

 その酔っ払いは藤村に掴みかかった。

 しかし藤村はその酔っ払いの手をがっちりと両手で掴んだ。酔っ払いがいくら藤村を倒そうとしても微動だにしない。

「そうそう。僕占いだけじゃなくて柔道も有段者なんですよ」

 と言うと藤村は酔っ払いの腕を持ったまま酔っ払いに対してクルッと背を向けて、綺麗な一本背負いを決めた。

「僕の占いを信じてればこんな事にならなかったのにねえ」

 飯田さんは慌ててトイレから飛び出した。

「おいおい、いくらなんでもやり過ぎだぞ」

 酔っ払いはすっかり伸びてしまっている。お店の人が出てきた。

「いやあ、逆に助かりましたよ。このお客さんいつも他のお客さんに絡んで困ってたんです。良い薬ですよ」

「そう言って頂けると。とにかく私達は帰りますのでお会計お願いします」

「後の事は任せといて下さい」

 飯田さんは恐縮しきってお会計して早々に店を出た。

「いやあ、緊急時とは言えちょっとやり過ぎだぞ、藤村」

「済みません。酔ってて加減が分からなくて……」

「でも藤村君。危ない所を助けてくれてありがとう。凄い技だったね」

「それ程でもー。もっと褒めて伊藤先輩にアピールして」

「アピールになるかは分からないけど確かに凄いわね」

「伊藤先輩、僕に惚れちゃいました?」

「そんな訳ないでしょ!」

     *

 あっという間に三日間の講習は最終日かあ。私自身もこれで何か成長できた気がする。

「と、言うわけで経理としての会社内での仕事についてはこれで終わりです。この数日間、研修よく頑張りましたね。お疲れ様でした」

 ふう。これで終わりっと。

「はい。これで今日は終了。来週は総務部が担当するからな。それから藤村。お前はどうも子供っぽくていかん。社会人なのだからきちんと大人らしく振る舞いなさい」

「な、何も皆んなの前で注意しなくても……」

「その方が効果的だからな。さ、解散」

 新入社員達はすぐには帰らず少し雑談し始めた。金曜日だし色々あるよね。

 すると藤村が駆け寄ってきた。

「伊藤先輩。皆んなの前で怒られましたー。慰めて下さい」

「そう言う所を注意されたんでしょうが」

 飯田さんがそれを聞いてて更に言ってきた。

「藤村。伊藤はまだ入社三年目なのに新人研修を任される程になってるんだぞ。お前もしっかり頑張って早く大人の社会人になれよ」

「また怒られたー。伊藤先輩。飲みに行って慰めて下さいー」

 すると突然横から今野が顔を出した。

「何々? 飲みに行くなら私も」

「え、いや。別に飲みに行くとは……」

「良いじゃないですかー。慰めて下さいよー」

「藤村、落ち込んでるの? なら私が慰めてあげるよ」

 藤村はチラッと今野の方を見た。そして再び私の方を見た。

「伊藤先輩がいいー」

「何でじゃ!」

 ああ、もう。何だこのじゃれ合いは。

「はいはい、分かった分かった。飯田さんも一緒ならいいよ」

「何で俺に振る? まあいいか。伊藤もこの数日頑張ったしミニミニ慰労会でもやるか」

 何だか申し訳ない気持ちになった。飯田さん巻き込んじゃって済みません。

 そんな訳で四人は先日の店へ。

 お店に入ると店員さんがあの時の騒動の事を覚えててくれて、気を遣ってくれた。

「また何か騒ぎになるといけないから個室の座敷にしますか?」

「そうだな。その方がゆっくり飲めるな」

 四人は座敷に通された。それぞれお酒を頼むと私の正面に座った藤村が話しかけてくる。

「伊藤先輩。手相見せて下さいよ」

「手相ならこの前みたでしょ」

「伊藤先輩の手に触れたいんですよー」

 すると今野が不機嫌そうに言った。

「私の手相も見てよ!」

「え、俺は伊藤先輩の手を……」

「いいから見て」

 そう言って手を突き出した。最近の若人は分かりやすいと言うか。

「あれ? 今野、お前恋愛運上昇してるぞ」

「え? ホント⁉︎」

「今の内に好きな人と距離縮めた方が良い」

(てか、今野は恋人とかいるのかな?)

 飯田さんがこの前のように親戚の子供を見るような目で見ながら言った。

「やはり若者は恋バナが好きなんだなあ」

 飯田さんは新入社員に教育的な話をするでもなく、何となく自分の若い頃の話や学生だった頃の話などして場を盛り上げた。私もそれに釣られて自分が学生だった頃の失敗談などを話したりした。

 新入社員の二人はまだお酒の飲み方を分かっていないようでだいぶペースが早かった。酔いが回っているようだ。

「ねえねえ、藤村。さっきの手相の話、本当なの?」

「ああ、恋愛面で大きな動きがあるぞ。人生に影響のある人に巡り会えるかもしれん。いや、もう出逢ってるかも」

「本当に!」

「案外この四人の中にいたりしてね」

「て事は藤村か飯田先輩って事?」

「異性とは限らんだろ? 人生に影響を与える人なんだから」

 飯田さんは恋愛的な意味だけではないんじゃないのかと主張した。

「飯田先輩。こう言う時は恋愛方面に考えないと」

「そ、そうなのか?」

 そう言ってウーロン茶を一口啜る。

「飯田先輩はどんな人が好みなんですか?」

「恋愛的な話か? そうだなぁ、仕事が出来る人が良いかな」

 飯田さんはどこまでも真面目なタイプなのね。

「外見とかはどうなんですか? 顔の好みとか?」

「うーん……」

「身近な人で言ったら誰が好みですか?」

「伊藤みたいな仕事も出来てハキハキしてる女性は良いな」

(え? 私? まああくまでも身近な人でって意味よね)

 しかし藤村はキッパリと言った。

「伊藤先輩を取っちゃダメです!」

「何でダメなんだか……まあ、何だ。藤村も今野も早く仕事を覚えて伊藤みたいに出来る社員になるんだな」

(さすが締める所は締めますなあ)

 藤村と今野は今日はやけにペースが早かった。ほろ酔いを通り越している。

「それにしても伊藤も成長したな。新入社員の頃は良く半べそかいてたのにな」

「最初は誰でも分からない事だらけですよ」

「伊藤先輩のリクルートスーツ見たかったなあ」

(それは半分セクハラだぞ、藤村)

 今野が対抗意識を燃やしてくる。

「私のリクルートスーツはどうなのよ!」

 若者二人はかなり上機嫌だ。自分を見失うほどに飲んでる。

「飯田先輩。この二人かなり酔ってるますし時間的にもそろそろお開きにした方が」

「そうだな」

 前回は飯田先輩に奢ってもらってしまったので、今回はきっちり割り勘ということになった。

 すっかり千鳥足の二人。藤村は飯田先輩に支えられて、今野は私が支えて駅まで向かった。

「え? 運休?」

 駅の改札の前に看板が出てて駅員が立っていた。変電所の異常により停電になって全区間運休になってるようだ。

「再会の見込みは立っておりません」

 この時間で運休となればタクシーで帰るしかないけど、高くて帰りたくない。

「どうします?」

「この二人もだいぶ酔ってて危ないしなあ」

「酔ってないっすよぉ〜」

(酔っ払いの酔ってないが一番危ないんだよ)

「俺はバスで帰れるから良いけどお前達はビジネスホテルにでも泊まったらどうだ?」

 タクシーは長蛇の列だしこの二人を送っていくのも骨が折れる。何よりお金が掛かる。ならばビジネスホテルに泊まるのが良いのかな。

「そうですね。ビジネスホテルに行ってみます」

「じゃあ、俺はバスあっちだからここで。気を付けてな」

「はい。お疲れ様です」

 ビジネスホテルでは似たような考えの人が多いのか、部屋は満室、ツインの部屋一部屋しか空いてなかった。

「エクストラベッドを置けば三名様ご宿泊出来ますが?」

(うーん、背に腹はかえられぬ)

 そのツインの部屋に泊まる事にした。

 酔った二人は部屋に着くなりベッドに傾れ込んだ。

(飯田先輩家近くて良いなあ)

 二人には家に電話させなければ。

「ほら、二人とも起きて。一旦家に電話して」

 この作業がまた一苦労。二人は夏休みに入ってる子供が朝のラジオ体操に行くように渋々親に連絡していた。

「これじゃお風呂は無理ね」

「伊藤先輩、好きですー」

「何言ってるの、早く寝なさい」

「伊藤先輩、藤村君を取らないで」

「今野まで。良いから寝て」

(てかこの二人はスーツのまま寝るのか? それよりも何よりも私がエクストラベッド⁉︎)

「うーん、伊藤先輩好きです、ムニャムニャ」

 その時スマホのメールが鳴った。誰からかと思い画面を見ると、元彼の河村優斗だった。

 優斗とは別れてもう三ヶ月になる。このタイミングで何だと言うのだ。

"いつか会えないか?"

(もう終わってるのに何だと言うんだろう)

 取り敢えずスルーしておこう。私にはもう未練はない。

 アラームを設定すると用意してある浴衣に着替えてエクストラベッドに横になった。

     *

 翌日は遅めに起きた。藤村も今野も寝ている。

「ほら、二人とも起きて」

「うー、気持ち悪い」

「頭がガンガンします」

(全く。二日酔いバリバリ。今日が土曜日で本当良かったわ)

「二人とも社会人になったんだからお酒の飲み方も覚えないとね」

「昨日の事覚えてないですよー」

 なんか家に帰るのが億劫な気持ちになった。これでは今日一日が潰れるなと思った。

 その時メールの着信音が鳴った。元彼の優斗からだ。

"読んでるんだろ? やり直したいんだ。会って話できないか?"

 私にはやり直したいと言う気持ちは無かった。なのでそのままスルーした。

 しかし藤村が言ってきた。

「伊藤先輩、メールですか? そうだ。メアド交換しましょうよ」

「メールなら会社のがあるでしょ」

「プライベートでも連絡したいんです!」

 今野もそれに釣られて言った。

「じゃあ私も藤村とメアド交換する!」

「じゃ、じゃあ藤村と今野で交換してみたら?」

 藤村は不服そうに言った。

「伊藤先輩と交換したいんですよー」

「どうせだから私達三人でメアド交換しませんか?」

(二日酔いだと言うのに元気だな)

 結局押し切られるような形で三人でメアドを交換したのだった。

 二人には家に連絡させてそれぞれ家に帰した。私ものんびり朝食を取り昼前に家に着いた。

 その時飯田さんから電話がかかってきた。

「二人とも昨夜はベロベロで大変でしたよ。朝は二日酔いでヨタヨタ帰っていきました」

「そうか。で、伊藤自身は大丈夫だったのか?」

「お陰様でエクストラベッドの寝心地は最悪でした」

「エクストラベッド? シングルしか取れなかったのか?」

「ツイン一部屋しか無かったんですよ」

 すると飯田さんはあからさまに驚いて聞いてきた。

「ツイン一部屋に三人で寝たのか⁉︎」

 急に声のトーンが変わったので驚いた。

「何もされなかっただろうな!」

「されるもされないも、二人とも酔っ払って身動きできずにいましたよ」

「本当なんだな?」

「本当ですよ。変な心配はご無用です」

「良かった。お前の身に何かあったらと思ったら不安になったよ」

(何かいつもの飯田さんじゃないな)

「安心してください」

 いつもの飯田さんと違ってなんだか慌ててたな。何なんだろう。

     *

 翌週の月曜になった。

(今日からまた経理の仕事。頑張らなきゃ)

「よっ、ミッキー」

 でたな、山田孝。

「新人研修お疲れ様。慰労会でもしない? 二人で」

「しないしない」

「もう俺達そう言う仲だろ?」

「違うでしょ!」

(相変わらず馴れ馴れしい奴め)

 久しぶりに経理に帰ると森さんが労いの言葉をかけてくれた。

「研修頑張ったな。お疲れさん。人事からも上出来だったと連絡があったよ」

「何とかやり遂げたって感じです」

「また今日から経理でよろしく頼むな」

「はい」

 たった三日間とは言え久々だ。仕事はその分溜まっている。午前中はその残務に忙殺された。

 昼休み、藤村からメールが届いた。

"先週は醜態晒してしまい申し訳ありません。つきましてはお詫びとして近々飲みに行きませんか?"

(こやつは……先日の失態を理由にまた飲みに誘う気か)

"だから、二人きりでは行きません"

"えー、何でですか?"

"行くなら三人以上ね"

 藤村は暫し考えてるようでメールの返信が途絶えた。そして暫く経ってから返信が来た。

"飯田先輩が付き合ってくれると言うから三人で行きましょう"

(え? また飯田さんに迷惑かけちゃったなぁ)

"まあ、それならば良いわよ。因みにお詫びって事はあなたの奢りって事だけど大丈夫なのね?"

"え? そうなんですか?"

"冗談よ。あなたにそんなお金ないの分かってるし期待してないから"

 金曜日。仕事終わりにエントランスで待ち合わせることになっていた。

 仕事を終えてエントランスに行くと飯田さんと藤村、そして何故か今野が来ていた。

「今野。どうして?」

「藤村が飲みに行くって言うから付いてきたんです!」

(何か気合い入ってるな)

 例のお店に入って適当に席に着く。飯田さんは相変わらず烏龍茶だ。

 それを見て藤村が聞いた。

「飯田さんはお酒が飲めないんですか?」

「いや、飲めない事はないがめちゃくちゃ弱いんだよ。だから飲む時は家だ」

「でも薄いお酒なら飲めるんじゃないですか?」

「どうかなぁ、試した事ないからなぁ」

 すると藤村はお店の人を呼んでウーロンハイを薄めにして注文した。

「試しに飲んでみましょうよ」

 飯田さんも興味があるようで、それならばと意気込んだ。

 運ばれてきた薄めのウーロンハイを一口飲んでみる。

「うん。あんまりアルコールを感じないな」

「行けそうですか?」

「多分これなら飲めるだろうな」

 飯田さんはお酒が飲めるのが嬉しいようで、結構なペースで飲み始めた。藤村も調子に乗って一緒に飲み始めた。

 お酒が弱い人と言うのは根本的にお酒を薄めようが飲めばすぐに酔う。数時間後、案の定飯田さんはへべれけになってしまった。

 酔うと明るくなるタイプのようで妙にはしゃいでいる。こんな飯田さん見るのは初めてだ。

「あ、そう言えば藤村。お前前の飲み会の後伊藤とビジネスホテルに泊まったんだったな」

 今野が割り込む。

「私も一緒でしたよ」

 しかし飯田さんはそれを無視してフラフラしながら言った。

「伊藤に手を出したらこの俺が許さんぞ」

「ちょ、ちょっと飯田さん。酔いすぎじゃないですか?」

 飯田さんは机に突っ伏してゴニョゴニョ言い始めた。

「俺ぁな、伊藤の事が好きなんだよ。だから他の男にウロチョロして欲しくない」

「え! いきなり何を言い出すんですか、飯田さん」

 藤村も負けじと言った。

「それを言うなら僕だって伊藤先輩の事好きです!」

 更に今野が言う。

「藤村は私と付き合うの! 伊藤先輩の事は諦めて!」

(なんじゃ、このカオスは)

「ちょっとみんな。一旦落ち着こうか」

 飯田さんがむくりと頭を上げて言う。

「俺は冷静だ。冷静に本当の事を言っている。伊藤の事が好きだ」

「僕だって!」

「私もです!」

 これは収拾つかない状況だぞ。三人でわいのわいの話始めてる。

「とにかく酒だ! 酒持って来い!」

「そうだ、飲むぞ! 飲み比べで勝った方が伊藤先輩と付き合うって事で」

(わあ、もうどうにでもなれ!)

 結局終電ギリギリまであーでもないこーでもない話していて、私以外の三人は酔い潰れてしまった。

「ほら、みんな。電車行っちゃうから帰るわよ」

「伊藤、俺はバスがあるから先に帰れ。俺は少し休んでいく」

 このまま帰したらどこ行っちゃうか分からないし休めるなら休んだ方が良いだろうな。

 藤村と今野もフラフラしながら立ち上がった。

「うえ! 飲みすぎた」

「藤村、もう一軒行くよ」

 今野はまだ飲めるみたいだ。しかしこれ以上は危ない。

「ダメよ、もう帰るの!」

 今野はまだ飲むと言い張ったが無理やり店の外に連れ出した。

「飯田さん、気を付けて帰って下さいね」

「おお! お前らもな」

 何かいつもこのメンバーで飲むとなんやかんや面倒見てる気がする。

 今野はもう一軒、もう一軒と言い張って飲屋街に行こうとする。

「ほら、駅に着いたよ。ちゃんと帰るのよ」

「はーい」

「しょうがない。帰ります」

 やっとで帰れるか。はぁ、疲れた。

     *

 次の日の昼休み、飯田さんからメールが届いた。

"昨日は深酒してしまったようで後半の記憶が全くない。俺はどうやって帰ったんだろう"

(酔って告白して覚えてないという最悪パターンやんか!)

"酔い醒ましてから帰るって言ってたのでそのまま別れたんですよ"

"そうか……何か変な事しなかったか?"

(変な事言った!)

"だいぶ羽目外してましたけど、大丈夫でしたよ"

"そうか。普段大量にお酒飲まないから飲む量や飲み方が分からなくてな。済まなかったな"

(ああ、私、一体今後どうすれば良いのだろうか?)




読んで頂けてたら嬉しいです
ありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。