ホムラの日とホムラの未来とホムラを振り返る過去 作:早起き三文
シャア……
あの災厄の日の、完全な影響を辛うじて免れた、この茜色の学舎、教室。
「……」
「……」
強い夕陽を、割れた窓ガラスから受けている、この荒れた、すでに廃校が決まった教室の中で。
「……」
「……」
ひたすら、お互いに。
「……」
「……」
すでに、もはや更新はされない、絶対にされなくなった、ゲームを。
「……私の勝ち、小田切君」
「……う、うん、新宮さん」
あの日、僕が家族を失った日に見た彼女「新宮神楽」さんと。
「……ねえ?」
「ん?」
夕焼けの、眩しい明かりの中で。
「何、新宮さん?」
オレンジ色に染まった、この二人だけの教室で。
「……その、あの」
黙々と、動かす。
「あの一年前の日、それの」
「……?」
「半年後、だったわよね?」
「……!!」
「小田切君の」
――月の夜空に浮かぶ、焔の羽根の女の子――
その、この目の前の彼女を、家族を業火に叩き込んだ、その張本人だと思い。
「渾身のパンチ」
「あうっ!?」
「……あの時は」
「あ、あうあう……!!」
無謀にも、ただの「高校生」であった僕が。
――お前の、せいだ!!――
と、彼女に、憎しみを込めて、思いっきり、殴り掛かった時。
「……痛かったんだから」
「あうあう、あうあぁう!!」
「……女の子の顔を殴るなんて」
「ご、ごめごめごめ、ごめんなさい!!」
「最低」
「ひ、ヒィ!?」
世の中が「換わった」日からは一年、その前日に彼女がくれた「バレンタインチョコ」の。
「ごめんなさい、ごめんなさいィ、新宮さん!!」
「ゲス、最悪、最低、クズ男」
「……ホントウ二、ゴメンナサイ!!」
嫌な、実に不誠実な「お返し」を行った日からは、すでに半年。
――……ああ、もう――
そんな事があれば、当然彼女との距離は、より深く縮まる事は、それこそ。
――義理チョコから始まる、彼女彼氏なんて、期待出来ない、よなぁ――
という、失望と共に、僕の心の中で吐いた。
――……ハァ――
あきらめに満ちた、重い溜め息とは別に、少しだけ。
「あ、あの新宮さん!!」
「……」
もう少しだけ、勇気を出して、声を上げたが。
「……なによ、DV男?」
「……ひっ!?」
うわー!! もうだめだー!!
――おしまいだぁー!!――
でも、しかし、僕は!!
「こここ、これ!!」
「……」
往生際が、悪いのかもしれないが、会話をしたい!!
「見て、これを!!」
「……」
義理チョコから始まる、愛を信じたい!!
「見て見てよ、新宮さん!!」
と、まくし立てて、僕が携帯ゲームの画像に、映し出したのは。
――獅子王メガ・アレキサンダーEX――
このゲームに課金無しの僕が、このキャラを手に入れたのは、本当に幸運だったとしか、言いようがない。
「……決して、ランクの割には、最強ではないけど!!」
「……へえ」
あう、だめだ無反応だ!!
「……?」
だが、彼女はその無表情のまま、自分の細く、しなやかな指を。
――……最初から思ってたけど、ずいぶん手慣れた、指の動きだな?――
軽く、自分のゲーム画面にスライドさせた。
「……あっ!?」
その、彼女のゲーム画面のトップにいる、女性キャラ。
「きゅ、救世の花嫁!?」
「……これ、解るわよね?」
「も、もちろん!!」
正直、相当の課金、そして。
「……あの、いつからこのゲーム、やってるの?」
「……さあ?」
時間を掛けなければ手に入らない、最上級のキャラクターだ。
「……まあ他に、私は」
と、彼女は軽く、己の長い黒髪を、その手のひらで撫でつつ。
「お金を使う、事もなかったから」
と、事もなげに、言い放つ。
「……」
そして、僕が。
――……ウワァ――
僕が覗き見た、彼女のゲーム画面に表示される、その様々な「数値」
「焔の灰燼、灰課金の……」
「何か言った?」
「いやいやいや、いや!!」
正直、ここまでこのゲームをやりこんでいる人は、今まで見たことがなかった……
「……仕方が無い、ならば」
「獅子王では勝てないわよ?」
「……解ってるけど、救世の花嫁には、到底勝てないけど、しかし!!」
「セカンドキャラでも、相手出来るけど?」
「えっ、そう?」
「これ」
その、彼女がゲーム画面をスライドさせて、見せたセカンドキャラ。
――ギャー!!――
ま、まあいい、救世の花嫁よりはマシだ。
「……この獅子王では、新宮さんのセカンドとの勝率は、だいたい三割ほどか」
「ねえ、小田切君?」
ジャア、ン!!
あっ、いきなり獅子王がワンパンされ、大火力で燃え尽きた……
「獅子王、結構鍛えているみたいだけど」
「えっ、ああ……?」
なるほど、よく見ているな。
「小田切君の、このゲームの」
やはり、このゲームを知り尽くしているのか、彼女は……
「画面を見る限り、他にも良いキャラがいるみたいだけど?」
「まあ、単純な能力なら、確かにそうだけど……」
「……推し?」
「……うん」
獅子王。
「このね、この獅子王は、ね……!!」
このゲーム内の設定では、まさに覇王にして王者、僕の最大の推しキャラ。
「この、この獅子王はね!!」
自我共に認める、陰キャラである僕、その早口は嫌われるとは知っているけど。
「昔、古代に実在した!!」
せっかく僕に、少しは好意をもってくれている、はずの彼女だから、だからさ!!
「ある、実在の人物の……!!」
「……」
あれ?
「え、英雄王であって、あって……」
「……」
……やはり、少し色々な意味で、ガツガツし過ぎたかな?
「……それで、小田切君?」
――……ああ――
彼女の目が、教室の夕陽の暖かさを溶かすほど、冷たい……