月影の魔法使い〜The magic seeker of the moonlight shadow〜 作:よしだひろ
シュタインはこの迷路に違和感を感じていた。塔に迷路を作る理由は単純だ。侵入者を追い返したい、もしくは殺害したいと思うからだ。しかしこの迷路はただ複雑なだけで何の妨害的施設も仕掛けもない。
「ミカ。今までマッピングした中で上に続く階段はいくつあった?」
「えっと……四つです」
「ふむ。この先に何か仕掛けがあるのかな?」
とある通路を進んでいくと袋小路になっていて、その突き当たりにドアがあった。
「何か怪しいドアだな……」
シュタインはそっとドアに近付いた。中の気配を探る。何か生き物がいるような気配がする。小声で兵士達に伝達した。
「どうやら中に生物がいるようだ。君達の力で制圧してほしい。必ずしも殺す必要はないが、必要なら容赦なくやってくれ」
すると兵士達はうなづいて答えた。
兵士達はゆっくりドアに近付いた。先頭の兵士が一度振り向き後ろの兵と目くばせする。すると一気にドアを開けて中になだれ込んでいった。
軽傷の兵士二人をそこに残してシュタインとミカも中に入る。中は広い部屋になっていてテーブルやイスなども置かれている。戦いは乱戦になっている。
「オークだ! 全員心してかかれ! 気を抜くな、手強いぞ!」
オークは凶暴で知能も高い。社会性も持っており統制の取れた亜人だ。しかも乱戦になっている。魔法によるサポートは難しい。
「とにかく単体攻撃でサポートするしかない。ミカは戦闘全体を見渡して仲間のピンチを見逃さないように」
シュタインは魔法の矢で敵の一体一体を攻撃していった。魔法の矢はターゲットに指定した者にしか当たらない。しかも必ず急所に当たる。
「シュタイン様! 数が多すぎます!」
「落ち着いて目の前の敵にだけ集中せよ。殺そうとするな。守りに徹するんだ。時を稼げばこちらが勝つ! こちらには魔法探究者がいる事を忘れるな!」
シュタインは魔法の矢を次々と放った。本当は魔力を消費したくはなかったが、致し方ない。
兵士達は魔法の矢が当たったオークの隙を突いて攻撃を繰り出した。オークは鎧らしい鎧を着ていない。剣が掠っただけでも傷を負うが、こちらは鎧で包まれ盾も持っている。オークの攻撃を防いでいればスタミナ切れになったオークに勝てるに違いないとシュタインは考えた。
その思惑通りオーク達は疲れて次々と倒れていった。そしてとうとう最後のオークにとどめを刺した。
「みんな大丈夫か。負傷した兵は何名か。報告せよ」
「オークは全滅。こちらは負傷して戦闘不能な者が五名。しかし軽傷です」
「傷ついた者には手当をしてやってくれ。ここで小休止する」
シュタインは外に残してきた兵士を呼びに行った。予想以上に魔法を使ってしまった。
「師匠。この部屋は一体……?」
「うん。どうやらオーク達はここで生活をしていたと思われる。ここは居室だよ」
恐らく隣りには寝室があるのだろうとシュタインは思った。しかしそれ以上に不自然さを感じていた。
シュタインは兵士達が休んでいる中、部屋の中を探索して回った。傍らにドアがありシュタインは聞き耳を立てると躊躇なくドアを開けた。
隣りも部屋になっていてベッドが並んでいた。そして正面にまた別のドアがあった。シュタインは構わずベッドの下などを探索して回った。
「師匠。何か気になっているのですか?」
「うーん。どうも不自然なんだよ」
シュタインはみんながいる部屋に戻って説明した。
「オークが生活していくには当然食べ物が必要になる。彼らはそれをどうやって調達していたんだと思う?」
「全く想像できません」
「迷路に迷い込んできた冒険者などを襲っていたのでは?」
「塔を降りていけばいいのではないですか?」
しかしシュタインは納得しなかった。迷い込んだ冒険者を襲っていたとするなら、そんな冒険者がくる事はとても稀に違いない。彼らが生きていける筈はない。また、その都度塔を降りていたら途中の罠に掛かったり、階下のモンスターと対決したりしていた筈だ。それもまた考えにくい事だった。
「僕がバオホで、こんな塔の上にオークの群れを置いておくとするなら、魔法陣を使って外の世界へ簡単にいけるようにするよ。オークは知能が高い。魔法陣の使い方は簡単に教えられる」
「魔法陣?」
シュタインは改めてオークの亡骸を調べてみた。するとどのオークも耳にピアスを、しかもエメラルドのピアスをしている事に気付いた。
「恐らくエメラルドを身に付けている者のみ通行可能な魔法陣が近くにある筈だ。今まで探索してきた中には無かった事、部屋の構造から考えて、寝室の先にあるのだろうな」
「……?」
兵士達は魔法陣が何なのか分からなかったが取り敢えず聞き流した。
シュタインはオーク達からピアスを取って回った。そしてそれをザックにしまった。
「さあ、みんなそろそろ行こうか」
軽傷を負った者は隊の中央に配し一列になって隣りの寝室に入る。この部屋に魔法陣はない。
シュタインは正面のドアに近付きドアを調べてからあっさりとドアを開けた。
そこも小さな部屋になっていた。正面にやはりドアがあり傍らに上に昇る階段がある。そして部屋の中央に小さな魔法陣が描かれていた。
「隣りの部屋だったか。そしてこの部屋に階段か」
オークに守らせた部屋の奥にある上り階段。恐らくここが道に違いなかった。
「ここを昇るのが近道のような気もするのだが……」
「ここを昇りますか?」
「奥のドアも気になるんだけど、もし外にオークが出てたらいつ戻ってくるかも分からないし、どうしたものかなぁ」
「外? このドアの向こうにオークがいると言う事ですか?」
「いや、そうじゃなくて、この魔法陣を使って塔の外に狩りに行ってるのかもしれないって事さ」
「外にオークがいるんですか?」
「いや、それは分からないんだけど、その可能性もあるかなぁと」
オークは知能が高い。狩りに出るとしても少人数で出かけているだろう。もし狩りに数名のオークが出向いていると仮定して、それらがいつ戻ってくるかは分からない。のんびり迷路内を探索してる暇はないのだ。
「しかし外にオークが出てないとも考えられるし……」
しかしシュタインは考えるのをやめた。のんびり迷路探索をしてる暇はないのだ。
「階段を昇ろう」
一行は階段を昇っていった。するとそこはやはり小さな部屋になっていた。部屋の四方にドアがあった。
「うーん。迷路は続いてるようだなぁ」
シュタインは適当にドアに近付いて調べてみた。鍵穴が付いていたので覗いてみる。
「罠が仕掛けられている。このドアを開けると毒針が飛び出すぞ」
取り敢えずそのドアは置いておいて、隣りのドアを調べる。やはり鍵穴が付いている。シュタインは鍵穴を覗き込む。
しかし今度はドアノブに手をやり回して見せた。しかしドアノブは回らない。
「鍵がかかっているよ」
次のドアを調べてみる。シュタインはドアの向こうに何か生物の気配を感じた。シューシューと息遣いとも鳴き声とも思える音がする。
「ここには何かいるね。恐らく蛇の類だが、相当な大きさだぞ」
最後のドアは静かで罠の類も無いようだった。
「さて諸君。どのドアに入る?」
兵士達は悩んだ。
「無音で無施錠のドアを行かれては?」
「そっちは罠のルートだろうな。五階や六階の二の舞だよ」
「では蛇の部屋ですか?」
「それも悪く無いが出来れば戦闘は避けたいな」
「ではシュタイン様はどのドアを行くのですか?」
「簡単さ。一番困難なドアを行くのさ」
もし自分が迷路を作るとしたら、正解の道を一番困難になるように作るだろう。
「この場合は毒針のドアだよ」
「え? でもどうやって罠を抜けるのですか?」
「地道に罠を外すしか無いだろうな」
と言うとシュタインはザックを下ろし中からピック類を取り出した。
「僕は
ブツブツと独り言を言いながらシュタインはドアの鍵穴にピックを何本も入れてガチャガチャやり始めた。
数分後、カチャリと音がしてドアが開いた。
「ささ、みんなドアを通ってくれ」
兵士達は恐る恐るドアをくぐり抜けた。全員扉を抜けるとシュタインは再びドアに向かい、慎重にピックを外していった。
隣りもやはり小さい部屋になっている。正面の壁にはドアが二つ付いている。
迷路に違和感を感じつつも先を急ぐシュタイン。
オークの群れを何とか片付けてそこに魔法陣を見付けた。
上のフロアに進むとまだ迷路は続いているようだった。
【主な登場人物】
●ミカ
シュタインの弟子。何も出来ないが勉強の為に連れてこられた。マッピングを担当している。
●シュタイン
魔法探究者(魔法使い)。予期せぬオークとの戦いで多くの魔力を使ってしまったり