月影の魔法使い〜The magic seeker of the moonlight shadow〜   作:よしだひろ

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 適度に運動をして心地よい眠りを貪っていたミカだが突然の轟音に眠りを邪魔された。咄嗟にローエ・ロートを持って外に飛び出してみると……。


夜襲

 その日の未明。ミカは大きな爆発音で目が醒めた。微かに悲鳴が聞こえるように感じた。ミカはローエ・ロートを手に取り部屋着のまま外に飛び出した。屋敷の庭に出るとリニエと村長、リグルとザイルも出て来ていた。シュタインの姿は無かった。

「あれを!」

 村長が指差した方を見ると家屋が燃えているのか空がオレンジ色に光っていた。

「行ってみよう」

 リグルはそう言いながら屋敷の門の通用口を潜った。

 現場に向かっている途中でも何度か爆発音が聞こえてその度に火の手が広がっているように見えた。

 爆発があったのは村の外れだ。現場に到着すると賊と思しき男達が五人程見えた。村人をロープで縛っている。

「ザイル! 村人を助けるぞ!」

「え? そんなこと言われても……」

 ザイルは頼りない事を言いながらもリグルに付いて行ってしまった。

「あ、あそこ!」

 リニエが村の境目になっている柵の外側に一人のローブを纏った人間を見つけた。

(あれが女魔法使い?)

 ミカはそう思った。そしてローエ・ロートを抜くとその人物に向かって走り出した。

 ミカが柵を飛び越えるとその人物はミカに気が付いた。

「何者だ?」

 それは男の声だった。女魔法使いではない。

「それはこっちの台詞よ。村を襲うのを辞めなさい」

「うるさい女だ!」

 そう言うとそのフードを被った男は呪文の詠唱に入った。

「ナンガル ベルワ……」

(ウィーザード?)

 しかしミカは考えるよりも早く間合いを詰めてその男に切り掛かった。呪文の詠唱に集中していた男だったが咄嗟に詠唱を辞めて自らの剣を抜いてミカの剣を受けた。

「あなた、ウィーザードね。魔法って言うのはもっと素早く唱えるものよ」

 この男が唱える呪文はシュタインやバオホに比べて遅かった。なのでミカは呪文を唱え終わる前に間合いに入れたのだった。

 魔法を使う者の呼称は普通は魔法使いと言う。魔法を研究している者達は自分達の事は魔法使いとは言わずに魔法探究者と呼ぶ。

 しかし世の中には魔法を研究するのではなく単に魔法を使う事を職業としている者も少なからずいる。こうした者達を魔法探究者は魔法使いと呼び、中でも切れ者や悪事を働く者をウィーザードと呼んでいる。

 ミカの攻撃を直前で受けたので男の手首は不自然な位置で曲がっていた。しかも受けたのは剣の裏だ。弾き返そうにも力が入らない。

 堪らず男はミカに足を入れてきた。ミカは左の太ももを蹴られて一瞬バランスを失った。その隙に男はミカの剣を弾き飛ばし自分の剣を構えた。

 ミカは戦闘経験が浅い。当然ミカは緊張した。

(しかも今は夜。相手の挙動もよく見えない)

「女如きに俺がやられると思ってるのか?」

「…………」

 男はジリジリと村を背にするように動いた。

 すると男は唐突に剣を上段に構えて降りかかってきた。村の家が燃えている。その炎を背にしているので体が影になってよく見えない。反対に相手は炎の明かりでミカがよく見えた。

 ミカは相手の剣をローエ・ロートを横にして上段で受けた。ふと、その打ち込みの軽さを感じた。

 リグルと模擬戦をする時も同じ状況になった事がある。しかしその時のリグルの一撃はもっと重かった。

 男は右膝をミカの腹に打ち込んだ。部屋着のままなのでモロにそれが腹に入った。

「ゴホッ!」

 男は後ろに飛び退くと魔法の呪文を唱え始めた。

「アビノア メタロア サチナーノ 我が手に宿れ ブラノール」

 ミカは聞いたことのある呪文だと思ったが何の魔法かは思い出せなかった。

 すると男の前に燃え盛る炎の球が出現した。そしてそこから炎に燃える鞭状の物が飛び出して来てミカの体に当たった。

 ミカは咄嗟に剣でその鞭を受けようとしたのだが、鞭は剣をすり抜けてミカの体に当たったのだった。

「ああっ!」

 余りの熱さにミカは目をつぶって後ろに転んでしまった。と、同時にその魔法が炎の鞭の魔法だったと、他人事のように思い出していた。

(倒れていたらやられる!)

 ミカは地面に寝たままの状態で首をもたげて男の方を見た。するとまさに今鞭が打ち込まれてくる所だった。

 ミカは転がって避けた。そしてローエ・ロートを杖代わりに素早く立ち上がる。

 そこを狙って更に炎の鞭が飛んでくる。ミカは身を捻ってそれを避けた。

 ミカが体勢を整えようとすると炎の鞭が飛んできてミカの体勢を崩す。その攻防が暫く続いた。

(一体どうしたらいいの?)

 その時ミカは以前剣術の訓練中にリグルに言われた事を思い出した。

『よく動き回り相手を翻弄する事で相手の冷静さを欠く事が出来ます』

 試しにミカは相手の周りをちょこまかと動いてみる事にした。ミカが動き回る事で炎の鞭は狙いを定める事が出来ずに、ミカがいない場所に打ち出された。

(効いてる)

 動き回る作戦は上手く行った。上手く行ったがその次はどうしたら良いのか?

 ミカが相手を翻弄している姿を遠くから見ている人物がいた。シュタインだ。

「全く……敵を翻弄してるのか自分が翻弄されているのか、これじゃ分からないな」

 シュタインもこの騒ぎで目を覚ましていた。しかし村の方にはリグルが向かったので安心して周囲の警戒をしてみたらミカが何者かと戦っていたのでその様子を見守っていたのだった。

 シュタインが出ていけば一瞬で方が付くだろう。しかしシュタインはミカに実戦の経験を積ませたかった。なので遠くから見ていたのだった。

 しかしシュタインはそんなにのんびりしていられない気配に気付いた。ミカと男が戦っている右側の奥の方に松明(たいまつ)の灯りのようなものを見つけたのだ。しかも一つや二つではない。

(後続の部隊か……?)

 シュタインは再びミカの方を見た。ミカは相手を翻弄した上で男に切り掛かり、それによって炎の鞭が飛び出す球を粉砕する事に成功していた。

(僕が出て行かずとも倒せるかな)

 シュタインはミカの方も気になったが遠くに見える松明(たいまつ)の正体を確認することの方が重要だと考えて急いでその方角に走って行った。

 ミカは肩で息をして改めて男に向き直り剣を構えた。

 この間合いでは呪文の詠唱に入った途端に剣で斬られる。男はそう思い魔法を使う事を諦め自分も剣を構えた。

 最初に打ち込んだのは男だった。ミカはそれを受けつつ体をずらし横から男の腹に切り込んだ。

 ミカと男の実力はほぼ拮抗しているものの、炎の鞭によるダメージなどでミカが少し押されていた。

 ローエ・ロートは魔法の剣だ。もしミカがこの剣の本当の力を引き出せれば違うのだろうが、ミカはまだこの剣の真の力を使えていない。

 疲れが出てきたせいもあり、男の剣がミカの体を掠めるようになってきた。今は鎧を着けていない、部屋着のままだ。ミカの柔肌から血が一筋の線となって滲み出た。

 男は自分が優勢である事を知っていた。

 その時遠くで竜巻が起こったように感じた。しかし男は気にしていなかった。気付いていなかったのかもしれない。

「どうした? 血が出ているぞ」

「…………」

 竜巻の風が微かに伝わってくる。

 不意に男はミカの腹に剣を突き刺しにきた。

 ミカは慌てて後ろに下がろうとした。しかし足がもつれて後ろに転びそうになった。足を後ろに出して転倒は免れたが重心が下がりその場にしゃがみ込んでしまった。しかしそのお陰で剣をかわす事が出来た。

 だが男は間髪入れず剣を上段に振り上げそれをそのまま振り下ろしてきた。

(やられる!)

 ミカはそう思った。と同時に再びリグルの言葉を思い出した。

『攻撃を繰り出す時は隙が出来ます。そこを狙われたら防ぎにくい』

(隙……)

 見ると男は大振りになって腹がガラ空きだった。しかしもう男の剣が目の前に迫っている。

「おおおりゃあぁぁ!」

 ミカは渾身の力を振り絞って一か八か男の腹に切り掛かった。

 その時遠くで雷鳴が轟いた。雷も落ちたようだ。しかし。

「!」

 男は--ミカも驚いたが、なんとローエ・ロートの刀身から炎が巻き上がりローエ・ロートは炎に包まれた。

 男の剣はミカの背中ギリギリのところを空振りした。ミカも炎に驚き少し太刀筋がぶれて、ミカの剣は男の右足の太ももを切った。

 傷は深かった。しかし肉を断つと同時に傷口は焼かれたので血は出なかった。

 男は堪らず地面に崩れ落ち剣を落として傷口を手で押さえた。

「そ、その剣はなんだ!」

「こ、これは……」

 ミカ自身驚いていた。ローエ・ロートは炎の魔剣だ。ミカは自分でも分からないまま、ローエ・ロートの力を引き出していたのだった。

 しかしミカは炎に包まれた剣を男の鼻先に突き出して言った。

「そんな事よりこの村から手を引きなさい。そうすれば命までは取らない」

「ははは、無駄な事さ。俺が死のうとも本隊はもう村の襲撃に入るだろう」

「本隊?」

「そうさ。俺は先遣隊だったのさ。もう本隊はそこまで来てる筈だ」

 ミカは辺りを見回した。本隊とやらは何処から来るのか。

 するとシュタインが一人の女魔法使いを連れてミカの前に現れた。女は両腕を縛られて体に巻き付けられている。

「やあミカ。こっちも終わったようだね」




 何とミカの持つローエ・ロートが炎を吹き出した。突然の事に驚いたのは賊だけではなかった。
 ギリギリで賊を倒す事が出来たミカ。しかしシュタインはミカの知らない所でなにやら活躍していたようだった。
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