月影の魔法使い〜The magic seeker of the moonlight shadow〜   作:よしだひろ

39 / 39
 教団本部から目を付けられているシュタイン。タエスは本部内にいるので何とかして本部内へ入らなければならない。
 ゼーレンに協力してもらい中に入るのだった。


神のみぞ知る

 ゼーレンはミカ、リグル、ザイルを連れて教団の入り口にやってきた。シュタインの姿はなかった。

「やあ、ゼーレン」

「こんにちは」

「今日は教団に来ない方がいい」

「何故ですか?」

「何故って……昨夜タエスがあんな形で……」

「タエスはタエスです」

「ふぅ、そこまで言うなら……で、後ろの方達は?」

「教団に興味がある方達です。案内しようと思いまして」

「そうかいそうかい」

 その男は入口の扉を開けた。ゼーレンが入って行ったのだがミカが立ち止まっている。その男が言った。

「どうしました、友よ。お入りください」

「もう良いですか?」

「ん? いいですよ」

 するとミカはゆっくり中に入って行った。リグルとザイルも後に続いた。

 中は相変わらず信者の姿が見えなかった。何もない所から声がした。

「『もう良いですか?』はないよ、ミカ」

「す、済みません」

 実はシュタインは透過の魔法で姿を消していた。皆んなに紛れて教団本部内に入ったのだった。

「さ、第一礼拝堂に行こう」

 人の姿が無いのを確認しつつ皆んなは二階に上がって行った。誰にも見られずに第一礼拝堂に入る事が出来た。

「ん? ベンチがない」

 礼拝堂の中はベンチが取り除かれておりガランとしていた。祭壇の前に簡易ベッドが置かれていてタエスが眠っていた。

「何故ベンチがないんだ?」

 するとタエスが目を覚ましてムクリと起き上がった。

「お前が来ると見越していたのさ」

 ゼーレンが叫んだ。

「タエス! 私達は騙されてたのよ!」

「騙してるのは今だよ」

 そう言うとタエスは指をスナップして鳴らした。するとタエスの右側にクベリウスが滲み出るように現れた。

「クベリウス⁉︎」

「ここにいるヴァンパイアを封印させるわけにはいかない」

「ミカ、リグル! タエスを抑えてくれ。決してクベリウスには関わるな! ザイル! ゼーレンを連れて逃げるんだ!」

「そうは行かない」

 タエスは跳躍した。常人ではあり得ない力だった。

(僕の姿は見えてない筈だ)

 シュタインはタエスの落下地点を計算してシュネーバルを薙いだ。タエスの足を切った。しかし深くはない。

(なんて硬いんだ)

 しかもその傷はジワジワと再生されていく。

「キャア!」

 タエスはゼーレンを捕まえようとしたがゼーレンは逃げ出した。

「何故だ! 何故逃げる?」

「タエス、あなたは騙されているのよ」

 シュタインはクベリウスと対峙した。クベリウスには見えていない。

(どうする? まともに渡り合えないぞ)

 シュタインは魔法陣を描くために飛翔の魔法を唱えたかった。その為には透過の魔法を解かなければならない。しかしそうすると姿が見えてしまう。

(どうせ見つかるんだ)

 仕方なくシュタインは透過の魔法を解いた。

「そこにいたか」

 するとクベリウスはシュタインを指差した。指先から高圧の水の線がシュタイン目掛けて飛んできた。シュタインは後ろに転がるように倒れてそれを避けつつ飛翔の呪文を唱えた。

「オブザード マ ザード 解き放て」

 シュタインは飛行しながらクベリウスの高圧の水を避けて行った。

 タエスは逃げるゼーレンを礼拝堂の隅に追い詰めていた。

「何故逃げるのだ?」

「私達は騙されていたのよ」

「騙されてなどいない」

 ミカは背後からタエスに切り掛かった。タエスは気配を感じて振り向き右腕を使って振り下ろされるミカの剣を受けた。

「か、硬い」

「お前は何者だ?」

 剣は一応振り抜いたものの傷は浅くやはりジワジワと再生した。

「ミカ様!」

 リグルが横からタエスに切り掛かった。しかしリグルが使っているのは何の変哲もない通常の剣だ。傷一つ負わす事が出来なかった。

「何て固いのだ」

「お前達も邪魔をするつもりか?」

 タエスはリグルに向かって両手を繋いで頭の上から殴りかかった。リグルは微妙に横にずれてそれをかわすと下から掬い上げるようにその腕を切りに行った。しかしやはり傷一つ負わせられなかった。

「化け物が!」

 ミカもその隙をついてタエスの脇腹を切った。血飛沫(ちしぶき)が舞う。しかし衣服は切れるが傷は浅い。そして例によってジワジワと再生していく。

「師匠! 致命傷を与えられません!」

 ミカは叫んだ。

「そいつは不老不死だ! 倒そうと思うな。身を守る事を考えるんだ!」

 シュタインは飛行しながら叫んだ。シュネーバルの先で礼拝堂の床を引きずっている。

「自分の心配をした方がいい」

 クベリウスは右手を水平に左から右へ薙いだ。すると手に沿って水が現れて飛んできた。水の刃のようだ。

 シュタインは慌てて飛行を止める。と、そこをクベリウスは指差した。高圧の水の線が飛んでくる。

「くそ!」

 シュタインは上に逃げた。水の線はシュタインの足の間を抜けて行った。

(早く魔法陣を完成させなければ)

 クベリウスは水の魔法でシュタインを翻弄する。水の壁や柱、矢のように降り注ぐ水滴など、シュタインは思うように飛び回れなかった。

「逃げてばかりだぞ、小僧」

「攻撃して欲しいのかい?」

「時には体も使わないとな」

 そう言うとクベリウスはシュタイン目掛けて突進してきた。手を伸ばしてシュタインを捕まえようとする。

 シュタインはすんでのところでそれを避けた。するとすかさず蹴りが襲ってきた。今度はそれを避ける事は出来なかった。

「クハッ」

 重い蹴りだった。シュタインは吹き飛ばされて礼拝堂の壁に激突した。左肩の傷が痛んだ。

(まだ魔法陣を描き終えていないと言うのに)

 シュタインは諦めずに飛行を続けるのだった。

 ミカ達はシュタインに言われたように身を守る事を第一に戦った。傷を負わすのではない。攻撃をかわすのだ。

 ゼーレンは礼拝堂の隅で震えながら事の成り行きを見守っていた。

 ミカはタエスの攻撃をかわしつつ反撃しているうちに集中力が高まって、タエスの動きが分かるようになっている事に気付いた。

(攻撃したら行けるかも)

 タエスが拳を振り上げそれをミカに振り下ろしてきた。ミカはサッとそれを避けた。そしてタエスの腕に切り掛かってみた。

「うおりゃああ!」

 するとローエ・ロートが炎に包まれた。タエスの腕深くに切り込めた。

「グホ!」

 タエスは堪らず腕を振りミカを突き飛ばした。リグルはそれをみてタエスに切り掛かった。

「この化け物が!」

 リグルはタエスに大振りに切り掛かった。しかしダメージを与える事は出来なかった。代わりにタエスの拳を受けて吹き飛ばされた。

 リグルはクベリウスの方へ飛ばされた。クベリウスは飛んでくるリグルの気配を察知してリグルの体を床に叩きつけた。

「グワッ!」

 リグルは口から血を吐いた。

「リグル!」

 ミカは思わず叫んだ。クベリウスは更にリグルの事を踏みつけた。

「死に急ぎたいようだな、人間」

 リグルは気を失いそうになるのを必死で堪えつつ弱々しく剣でクベリウスの足を切り付けるのだが、クベリウスには何の効果もない。

 その時、シュタインが魔法の詠唱に入った。魔法陣が描き終わり飛行をやめて床に立っていた。

「サヌラマナエル ゴルサワコエル ランサーヤ カルサーヤ マリマヌラ……」

「ぬ?」

 クベリウスはそれに気付いてシュタインの姿を探した。

「光の国より出よ サマリーノ モサバ!」

 すると天井の方から強い風が吹いてきた。それは徐々に強くなって行った。

「何だこの風は?」

 クベリウスは途端に苦しみ出した。

「グオオオ! な、何をした!」

 風はその吹き下ろす圧力をどんどん増して行った。ミカ達は勿論タエスも立っていられない程に強く吹き下ろす。クベリウスも床に伏せているが、クベリウスだけは苦しみもがいている。

 と、礼拝堂の扉が開かれた。ライスが現れた。手で風を防いでいるが立っているのがやっとのようだ。

「な、何事です!」

 シュタインは言った。

「神の息だ。クベリウス。お前には辛かろう」

 神の息。文字通り神の吐いた息だ。普通の生物には超高圧の風が吹き下ろし立っている事が出来ないものだが、魔界の生物には更にダメージが加わる。

「お、己。小賢しい真似を……」

 シュタイン以外その場にいる者は皆動く事が出来なかった。その隙にシュタインは改めて別の魔法陣を描いた。そしてマルトンの種をタエスの頭上に掲げた。

 シュタインが次の魔法を唱えようとした時、祭壇が光り始めた。

「なんだ?」

 ライスが言った。

「ガイス様が降臨なさる」

(ガイスが?)

 祭壇は光り輝き眩しいくらいになった。そして煙のような物が吹き出してきたかと思うとその一部が実体化して人の形になった。

「クベリウスよ。油断したな」

「ランパーギル様。申し訳ありません」

 それはランパーギルだった。魔界から物質界に実体化してきたのだった。

「神の息が吹き荒れる中では私も力が使えん。今回は口惜しいが立ち去るのだ」

「……分かりました」

 そう言うとクベリウスの体はスーッと消えた。ランパーギルはシュタインを指差して言った。

「そこの魔法探究者よ。今回は見逃してやるが我が野望が(つい)えた訳ではないぞ。覚えておくが良い。我が名はランパーギル。この世界を統べる者だ」

 そう言うとランパーギルも煙が霧散するように風と共に消えて行った。

 シュタインはホッとして呪文を唱えた。

「ラルナノコーガ ググナリリーノ マサマサ ビジガンデル 在りし日の盟約により実行せよ ガラルギ ラガルギ サノ マーシオ」

 するとタエスの体が直方体の結界に取り込まれた。その直方体はスーッと収縮して縮んで行き、タエスの体に密着して止まった。

「これでもうタエスは動かない。永遠に眠り続ける」

 神の息も力が弱まってきて、皆んな動けるようになった。ゼーレンは動かなくなったタエスに駆け寄り泣いた。ライスは呆然としていた。

     *

 教団はランパーギルに騙されていたのだった。ランパーギルはガイスと言う架空の神の名を使って教団を操ろうとしていたのだった。

「ヴァンパイアが世に放たれればやがて人間は居なくなる。そうなればこの世界を治めやすいとランパーギルは思ったのだろう」

 動かなくなったタエスの体に寄り添いながらゼーレンは聞いた。

「タエスはどうなるのですか?」

「タエスは今、魔封じ吸収結界に覆われている。この結界は中のものの霊力を吸収して地霊に返す結界だ。ヴァンパイア……タエスは霊力が弱まると眠りについて地霊を吸うようになる。結界により霊力が吸い取られ、それが地霊に返り、その地霊をタエスが吸い結界がタエスから霊力を吸収する。これが繰り返される結果、タエスは永遠に眠り続ける事になる」

「そんな……」

「残念だが今の技術ではヴァンパイアを元に戻す事は出来ない」

 ライスが言った。

「では我々がタエスを見守っていきましょう」

「教団はどうするんだ?」

「ガイス様……いや、ガイスが架空のものだった以上、教団は解体です。慈善団体として活動していきます」

「それが良い」

 シュタイン達は後の事はライスに任せる事にした。表裏の石を受け取って街を後にした。

     *

 帰り道、とある街の食堂で昼食を食べながらミカはシュタインに聞いてみた。

「どうやらローエ・ロートは集中力が高まると炎に包まれるようです」

「そうだね。魔法ってのは集中力が大事なんだ。ローエ・ロートは集中力が高まれば自然と発火するんだ」

「師匠は五百年生きてるだけあって何でも知ってますね」

「何でもじゃないけどね」

「それにしても……クリべウスを抑え込んだ神の息と言い、バオホを倒した天使の槍と言い、一体何の神を信仰すればそんなに強力な魔法が使えるようになるんですか?」

「それは神のみぞ知るだよ」




 タエスを無事封印しランパーギルの野望を阻止する事が出来た。しかしタエスが始祖になる前に説得できていればとシュタインは後悔するのだった。
 ミカはいつか自分も何かの神の力を借りられるような魔法探究者になりたいと思うのだった。

Ein Serenade des Vampirs編はここで終わります。
続編も執筆中です。

長い間ご拝読ありがとうございました。
新しい章も絶賛執筆中です。
またよろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。