月影の魔法使い〜The magic seeker of the moonlight shadow〜   作:よしだひろ

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盗賊団によって平穏な筈の買い物の旅がややこしいものになってしまったミカとリグル。
翌日はよろず屋月影に寄って帰る事になっていた。


月影

 朝になりミカは目を覚ました。まだ頭がはっきりしていない。着替えてリグルの部屋へ行ってみる。

 ドアをノックしてリグルを呼んだ。

「ミカ様ですか? 支度してまいります。朝食でしたら食堂で待ってて貰えますか? すぐに行きますゆえ」

 ミカが階下の食堂で待っていると、リグルは程なくして降りてきた。

「パンとサラダ、ハムエッグですかね」

「ミルクも貰って」

 朝食を注文して席に着く。

「昨夜は疲れちゃった。リグルはもっと疲れたでしょう」

「そうでもないですよ」

 リグルは小さな袋をテーブルの上に置いた。

「エメラルドですよ」

 ミカは驚いた。

「こ、こんな所で」

 ミカは周りをキョロキョロ見た。朝食を食べている屈強な男どもがチラホラ見えた。

 ミカは慌ててエメラルドが入った袋を自分の腰のベルトにくくりつけた。そこで腰に魔法の玉を結び付けている事を思い出した。

「き、今日は月影に寄って帰るのよね?」

「はい。魔法の玉を渡さなければなりません」

 二人はゆっくりと朝食を取った。一旦部屋に戻り一休みしてから再び食堂に集合する事にした。

 食堂の隣りのスペースには人だかりができていた。小さなカウンターがあって、その中に男が一人立っている。皆は男の方に向いて話を聞いている。

「次は荷物運びの仕事だよ。五人だ」

 どうやら口入れの最中のようだ。人々が求人に群がる。

「ミカ様お待たせしました」

 ミカが口入れの様子を見ているとリグルが降りてきた。

「口入れ屋ですか?」

「え、ええ。ただ見てただけよ」

「そうですか。行きますか」

 二人は宿の主人を呼んで宿泊費の精算をした。料金とチップを含めてカウンターにお金を置いた。

「馬を回してきますね。おおーい、スライダー! いるか?」

 店の主人は奥へと消えた。

「表で待ちましょうか」

 二人は店の外でウェザーとリーを待った。程なくして宿の使用人が二頭を連れてきた。

「ありがとう」

 二人は荷物を鞍にくくりつけてそれぞれの馬に乗った。

「では出発しましょう」

 通りは人々でごった返していた。ミカは人や荷車にぶつからないように、右へ左へ馬を誘導しながら歩いたのだが、実際は通行人の方がミカを避けてくれていた。

「リグル、月影はどこにあるの?」

「東地区のベラーニオ門の近くにダンネア広場があります。そこから近くです」

 と言われてもミカにはサッパリ分からなかった。ベラーニオ門は第二城壁に置かれている門だ。

 二人はトコトコとのんびり歩いて行った。街は大変賑わっている。時折小さな子供が駆け抜けて行く。

 フクロウの巣を出て日がだいぶ上がってきた頃、大通りから脇道に入った。二回三回と道の角を曲がると広場に出た。

 ダンネア広場だ。第二城壁の近くに作られている。

「もうすぐ着きますよ」

 広場から小道に入り暫く進み、名もない通りを入るとよろず屋"月影"があった。

 ウェザーから降り、手綱を結びながらリグルは言った。

「ここの店主バルモは無口で商売っ気はありませんが、働き者で何でもできます。信頼できる男です」

 二人が店に入ると奥から野太い声がした。

「いらっしゃい」

「やあ、バルモ。私だよ、リグルだよ」

 バルモは少し背が低く髭を蓄えている。ミカは気付かなかったが彼はドワーフだ。

「リグルさんかい。すると今日は?」

「今日は魔法の玉を届けに来ただけさ。それからこの人を引き合わせにね」

 と言ってミカを紹介する。

「初めましてこんにちは。私はミカ・シュバルツです」

「どうも、バルモ・モードラッツです。新しい使用人ですかな?」

 リグルは事情を説明した。

「それで魔法の玉を届けがてら紹介しに来たんだよ」

「あ、魔法の玉を渡しておきますね」

 ミカは腰から魔法の玉を取り出してバルモに渡した。

「それとこれは仕事料だよ」

 リグルはバルモに皮袋を渡した。仕事料と言う事は中身はコインか。

「バルモさんはよろず屋って事だけど、どんな仕事をしているの?」

 バルモはめんどくさそうに答えた。

「人探し、物探し、旅の共などですな。基本的に金に見合えば何でもやる。法に触れない限り」

「師匠はどんな仕事を依頼してるの?」

 その質問にはグリルが答えた。

「シュタイン様は薬草や鉱石など珍しい物品を所望されることが多いですね。そもそもプロトコルの手伝いをしてもらってますからね」

 シュタインに会見を希望する者はこの月影の店主バルモにその事を伝える。バルモは簡単な素行調査を行なって問題なさそうなら魔法の玉を叩き割る。するとシュタインの家の人形がそれを探知して不思議な歌を歌う。シュタインはそれで繋ぎがあった事を知り、折り返し使い魔を依頼人に送り込むと言う仕組みだ。

 この一連の手続きをプロトコル、もしくはアポイントプロトコルと呼んでいる。

「バルモには色々お世話になっているよ」

 バルモは戸棚から小さな箱を取り出して、受け取った魔法の玉をしまった。

「俺は何でも屋だから」

 バルモは魔法の玉を箱にしまうとその箱を再び棚にしまいながら言った。リグルはバルモの肩を叩いて言った。

「これからもよろしく頼むよ」

 ミカも続けて言った。

「よろしくお願いします」

 バルモは軽く頷くだけだった。

「シュタインの旦那は元気でやってるんですか?」

「ああ、相変わらずさ。俺には分からない事をやってるよ」

「それを言ったら俺には旦那の事は何も分からない。顔すらもな」

 ミカは驚いた。

「え? 顔も知らないって……」

「シュタイン様はバルモと直接会った事はないんですよ。代々月影の店主には信頼を置いているのでね」

「そうなの?」

「シュタインの旦那とは会った事はないけれどよくできたお人だよ。年齢からしてもな」

 そう言えば師匠は何歳なんだろう。気にもしなかった。

「師匠はおいくつなの?」

 リグルとバルモは顔を見合わせた。少し驚いたようだ。

「ご存じないんですか?」

「え、ええ」

「ま、見た目と実際の年齢はかなり違いますよ」

 リグルもバルモももったいぶって教えてはくれなかった。

「一体いくつなのよ」

 ミカは焦れてイライラしてきた。

「帰ったらご本人にご確認下さい」

「そうするわ」

 そろそろお昼になる。

「それじゃ俺たちは行くよ。またよろしくな」

「よろしくね」

「ああ。こちらこそよろしく」

 二人は店を後にした。ウェザーとリーに跨るとリグルが言った。

「昼飯はどうしますか?」

 街は相変わらず活気があった。昼ごはんを食べる店も混雑してそうだった。

「食堂は混んでそうね。市場で簡単なもの売ってないかしら」

「そうですね。露店でパンでも買って広場で食べますか」

 二人は適当な露店に顔を出してパンを買った。そして広場へ行ってみたが人々でごった返していて昼食を取れそうになかったので、そのまま街を出る事にした。

 街に来た時と同じスレイグル門にやってきた。相変わらず検問をしている。

「名前は?」

「私はリグル・ハーレン。こちらはミカ・シュバルツ様だ」

「この城下に住む者か?」

「いや」

「少し待っていろ」

 門番は詰所に戻って行った。その間別の門番が二人をじっと見ていた。何をしているのかイライラとし始めた頃、その門番は手に書類を持って戻ってきた。

「この書類にサインした者か?」

 門番はリグルが街に入る時サインした書類を見せて聞いた。リグルは軽く頷く。

「では、荷を改める」

 そう言うと、門番は二人の手荷物を広げて検査した。

「よろしい。行くがよい」

 二人はそのまま街を出た。辺りは畑が広がっている。

「昨日河原で昼食を取ったわね。同じ所に行きましょう」

 二人は暫く道を行くと、昨日昼食を取った河原に降りて行った。

 近くの枯れ木にウェザーとリーを繋ぎ自分たちは買ってきたパンを食べた。

「それにしてもリートはどこから私たちを見ているのかしら?」

「空からですかねぇ?」

 二人は空を見た。綿雲がゆっくりと流れている。すると近くで声がした。

「透過の魔法で姿を消しているのでございます。そして陸から空から様子を見ていました」

「わっ!」

 リグルは驚いて声を出した。

「リート。すぐ近くにいるの?」

「はい。姿を消していますのでお二人からは見えませんよ」

 それでも二人はキョロキョロと辺りを見回した。

「じゃあ見えなくても近くから見ていてくれてるのね?」

「左様でございます」

「なるほどね。それにしても師匠は何故最初から三人で行くように言わなかったのかしら」

「私のような精霊は普通の人々には好奇に写ります。場合によってはそれゆえに旅が困難になる事もございますれば。それに、私は万が一を考えて遣わされたのです。今回たまたま盗賊団が現れて私の力を使う事になりましたが、ミカ様とリグル殿だけで旅を成し遂げられれば自信に繋がりましょう。シュタイン様はそちらの方を望んでおりました」

「自信かぁ。仮に盗賊団が現れなかったとしても、私はリグルに任せっきりだったから自信などつかなかったわ」

「でも良い経験になられたかと思います。経験は宝でございますよ」

 それもそうだとミカは納得した。つまり師匠は自分に簡単なお使いをさせる事で色々な事を学ばせようとしたのだ。たまたま今回は盗賊団が現れて簡単な仕事にはならなかったのだが。

「では、私は再び身を隠します。しかし常に付かず離れずお二人に同行しておりますのでご安心ください」

「ありがとう」

 リグルはウェザーとリーを川辺に連れて行き水を飲ませた。

 少し休んでから二人はそれぞれの馬に跨り歩き始めた。

「もう少し行けば宿場ね。来た時と同じ宿に入るの?」

「そうですね。野宿をしても構いませんが、昨夜もゆっくり眠れませんでしたでしょうから、宿に泊まってゆっくり休んだ方が良いかと思いますよ」

 確かに昨夜は盗賊団のお陰でゆっくり眠れなかった。今夜はゆっくり休みたい。

「宿場までは目と鼻の先ですから、のんびり行きましょう」

 風がゆっくりと吹いている。城下から続いていた畑もいつのまにかなくなっていた。後ろを振り返るとお城が見えていたが生活の範囲からは抜け出ているようだ。

 そよ風は肌に心地よくミカは馬上でウトウトし始めた。睡眠不足が効いているようだ。しかし、ミカを乗せているリーはミカが眠って落馬してはいけないと思い、ヒヒーンといなないて見せた。するとミカはハッと目を覚ますのだが、暫くするとまたウトウトした。

ウトウトとヒヒーンを何回繰り返しただろうか。まだ日があるうちに宿場に着いた。

 ミカは半分寝ぼけながらリーから降りた。

「ミカ様、大丈夫ですか?」

「え、ええ。大丈夫よ」

「今夜は早めに夕食を取り早めに休みましょう」

「私は平気だけど、それが良いわね」

 その日二人は早めに夕食を取りすぐに眠りについた。




無事月影に立ち寄る事が出来た。それ以後も特に何の問題もなく王都を出る事が出来た。後はシュタインの屋敷に帰りエメラルドを届けるだけだ。

【主な登場人物】
●ミカ
魔法探究者シュタインの弟子。頼まれていたエメラルドを購入しよろず屋月影に挨拶にも行けた。馬での移動にもだいぶ慣れてきた。

●リグル
シュタインの屋敷で働いているレンジャー。意外とのんびりしたところもある。

●リート
シュタインの使い魔(精霊)。今回の旅ではミカ達に付かず離れずついて行っている。

●バルモ
よろず屋月影の現在の店主。ドワーフ族。器用に何でもやってのける事から何でも屋をやっている。

●ウェザーとリー
シュタインの屋敷で飼われている馬。人懐っこく穏やかで優しい性格をしている。頭も良い。
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