『連邦生徒会を裏切り、惑星ごとキヴォトスを完全消滅させるRTA、続きいくよぉ~(ISHR先生)』   作:プリテンダー

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⑮ 星海基穢(アザーティ)の帰還

『ショア!(ヘブライ語) 召喚ほらいくどー! まずはヤマンソ、資料によっては外界での執拗なる待機者などの別名で呼ばれるものから! 召喚しようとしているもう片方の奴もそうなのですが、この炎の元素の邪神共はとてつもなく凶悪凶暴であり、それぞれがとんでもない理由であらゆる次元の生物を、そう、神話生物群を含めた全ての命を憎んでいます! 故にただ呼ばれた際の副次的効果で爆発的な熱量を撒き散らすだけのノーマルクトゥグアと異なり、召喚者も含めたその星の全てを滅ぼしてやろうと明確に企てて、こちらの世界へ現われま……あっモトエちょっと待って貰って』

 

繧?▲縺上j豁サ縺ュ(ゆっくり死ね)

 

 

 

 鋼糸を練り上げたが如き毛髪触手、怨敵覆滅の意志を硬めた槍と化したそれが空を裂く。

 だが白ハゲ先生に届く直前、セイアが初めて使ったとは思えない手付きで振るった青銅の刃が放つ風の刃、そして舞空術めいて浮くミサキが繰り出した回し蹴りと共に撒かれた紫の炎が、終焉を齎さんと志す魔手を払い焼く。

 

 

 

繧?▲縺上j豁サ縺ュ(ゆっくり死ね)繧?▲縺上j豁サ縺ュ(ゆっくり死ね)繧?▲縺上j豁サ縺ュ(ゆっくり死ね)繧?▲縺上j豁サ縺ュ(ゆっくり死ね)諱ィ繧薙〒繧?k(恨んでやる)諞弱s縺ァ繧?k(憎んでやる)蜻ェ縺」縺ヲ繧?k(呪ってやる)谿コ縺励※繧?k(殺してやる)縺ソ繧薙↑縺サ繧阪?繧(みんなほろびろ)縺薙→縺斐→縺上⊇繧阪∋(ことごとくほろべ)

 

「召喚と制御に必須じゃなければ講義は後にして」

 

『ふぁい(№12)』

 

 

 

 ミサキが眉を顰める。自分の生に未来という灯火をくれた人が成り果てたものが、虹の毒沼に沈む忌まわしきミツクリザメめいた半魚人共の残骸から自分達へ、再び注視対象を移して上目遣いを向けている。いつもの姿なら喜びも湧こうが、今は全く以て嬉しくない関心だ。なにより、先程まで感情を読み取れなかった間抜けな眼は傍目にも明らかなドス黒い意思を滾らせ、畝る髪触手の先端の蠢きは次第に激しくなり、それを彼女に向けられていると思うだけで胸が苦しくなる類の、悪しき感情を読み取れてしまう。

 まだ半魚人自体は殺戮し尽くされた訳ではなく、離れた所で宙に浮く美少女らへ向けて無我夢中で欲望の魔手を伸ばしている。もうちょっと超巨大生首へ近付けば、たちどころに注意を引いて無数の髪触手に囚われ、汚い肉汁と化すだろうに。小賢しくもゆっくりモトエの殺害対象にならないギリギリの範囲で飛び跳ねている。

 

 

 

『えぇと、これだけはきちんと認識しておく必要があるので説明しますが、特殊昇華術式はいずれの場合であっても、アフォーゴモンの鎖などの特定の物品を用いて専用の結界を造り出し、ちょっとお話をして対価を支払い、自分から結界内部に入って貰って存在を固定していて貰う形になります』

 

[対価? 確かに邪神なんて大仰なものが、供物も無しに願いを聞き届けてくれる訳もないか。だが、そんなものの興味を惹けるような物品なぞ、どこにも……]

 

 

 

 セイアが言葉を途切れさせ、ふと自分達目掛けて手を伸ばし跳ね回る半魚人の残党……別世界の’先生’の使い魔共を見る。そして自分を含めた女学生達の姿を見回し、何か嫌なものにでも思い当たったような雰囲気を醸し出しつつ白ハゲ先生へと視線を向ける。

 仮面状に変異した外皮の上からでも、ふしだらなものを見るような眼をしているのがありありと伝わっていった。

 

 

 

[まさか先生。私達に女学生らしいなにがしを提供しろ、或いは出てきた奴らにいかがわしい奉仕をしろなどと言い出すつもりではあるまいね]

 

『言いませんよ!? 端くれでしかないんだけれども私一応先生ですよ!? 先生を何だと思っているの!?』

 

そうだぞ! (縺昴≧縺?縺橸シ縲?)確かに先生は以前(遒コ縺九↓蜈育函縺ッ莉・蜑)ゲヘナの美食研究会の(繧イ繝倥リ縺ョ鄒朱」溽?皮ゥカ莨壹?)下着に顔を突っ込んで(荳狗捩縺ォ鬘斐r遯√▲霎シ繧薙〒)匂いを嗅いでいたと(蛹ゅ>繧貞羅縺?〒縺?◆縺ィ)噂されたりもしたが、(蝎ゅ&繧後◆繧翫b縺励◆縺後?)結局あの時も(邨仙ア?縺ゅ?譎ゅb)下着に染み付いた(荳狗捩縺ォ譟薙∩莉倥>縺)希少な茸の匂いを(蟶悟ー代↑闌ク縺ョ蛹ゅ>繧)嗅いでいただけだったし(蝸?>縺ァ縺?◆縺?縺代□縺」縺溘@)大丈夫だ!(螟ァ荳亥、ォ縺??)

 

「えっなにそれは」

 

[自分から信用を投げ捨てていくのか……たまげたなあ]

 

『サオリ? 逆効果だよ?』

 

私達の事は(遘?#縺ョ莠九?)

 

『アリウススクワッド、逆効果だから、後あれ前も説明したけどね、私は「そんな事しなくていいから(良心)」と拒否したのに、アカリが巫山戯て被せてきただけだから……大丈夫だって安心しろよ〜。ヘーキヘーキ、ヘーキだから。(GO)皆には何一つ損のない、そして邪神を怒らせる可能性もない計算通り完璧~(YUK)な生贄があります』

 

 

 

 生贄、という単語を耳にしたアリウス所属者達の顔が強張る。前の時間軸とこちらの時間軸で思い出させるものは異なるが、どちらにせよ血腥く、酸鼻極めた光景を想起させるものには変わりない。

 

 

 

『あ、いや、まあ生贄と言ってもそれらは殺されたりはしません(それ以上に酷い目に遭わされないとは言っていない)。ほんのちょっと、邪神達が飽きるまで特別な奉仕種族となり、虐待おじさんや平野店長がするようなお遊び(意味深)に付き合わされる事になるだけです』

 

 

 

 取り繕いながら、先生は体内より一枚のカードを取り出す……俗に言う、大人のカードを。

 サオリは生贄発言に続いて心を掻き乱す過去の何かを思い出したように苦しげに呻き、それぞれの学校において統治の側に属し一般生徒よりも様々な情報に触れる機会の多いセイアもミサキも眼を瞠る。もし未だ正気でないユウカも見ていたならば、セミナーらしい反応を示してくれたであろう。

 この世における大人のカードとは、基本的に手元に必要な分のクレジットが無い時の代替として使われる。単なる後払い決済の手段。生徒だけでなく、アビドスの十六夜ノノミなども持っているし、日常的に使ってもいる。

 だが大多数の人々が用いているそれの他に、恐ろしい機能を備えたカードが……或いは単なる大人のカードを媒体として、その禁忌じみた能力を発現させる者達がいる。

 奇跡の消費物化。現実と願望の力尽くでの混合。世界を捻じ曲げ、己の意思を押し通す、否応無き力。例えば契約を盾に生徒を奪おうとする者を、この世から亡き者にしたり。或いはその場にいるはずのない者達を、刹那の間に眼前へ招集したり。そういった事象を、無理矢理発生させる。

 無論、そちらの能力においても単純な金銭取引の場合と同じく支払完了性は強要され、起こした奇跡の代価は強制的に負わされる。何も考えず使い続ければ、本来の歴史、根源の青の世界、アプリ版世界においてゲマトリアの黒服が先生に忠告した通り、それはそれは忌まわしい結末を迎える事であろう。

 尤も、それは……さながら幽霊を物理的に殴りつけてもただただ空を切るのと同じく……この世の外側から到来した、不条理な者共の翳す慮外の理屈の前では、確実とはならない。

 例えば……この場にいる先生もどきが、前の時間軸で最悪の崖っぷちに追い込まれた時。機械で造られた自らの身体を捨ててこの本体を露とし、護るべき者達を庇い隠して逃げた際。世界の法則の抜け穴を悪用し、記憶や人格は削れようとも本体には何一つ傷を負わなかったように。

 

 

 

『それではご覧下さい(KBTIT)』

 

 

 

 謎の括弧付きの接尾。まるでマグロの呼吸に泳ぎが必要なのと同じように、自分にはこれが必須なのだとでも言わんばかりに付け足される。それともイースの偉大なる種族とやらの言語とキヴォトスの言語を摺り合わせると、そういうものになるのだろうか。

 どうにも妙な気分になる半人半魔2人と、既に彼の言語に慣れて疑問も抱かない魔物1体の前、大人のカードが異様な光の塊を幾つか放出。それらはまるで見えざる手に抓まれたように宙に浮いたまま、徐々に物質へと変貌してゆく。

 現われたものらは4つで、計3種類。あるものは喧しく騒ぎ立て、またあるものは困惑した様子を見せ、召喚の光景を見たものらから三者三様の反応を引き出した。

 下から見上げる巨大ゆっくりはその声を聞いた途端、悪感情を吐き散らしていた口を半開きにして白目を剥き。喋る津波の姿をした’先生’は”うわっ”とまるで引いたような声を上げ。半魚人達はテンションが駄々下がりし、その水掻きの付いた手で一斉に奇妙な印を結び、自分達の崇めるなにかへ加護を求める祈りを捧げるような姿勢を取った。

 そして吊られたままのユウカは更に身を守るように丸まった。

 

 

 

「第一の到着!? 私が持っていないもの!?」

 

「預言者の夢は、活発に行きます!?」

 

 

 

 矯正局に収監されているもの共だろうか。或いはまだカタコンベの奥地、どことも知れぬ領域で這い回っているもの共を呼びつけたのか。

 悪臭漂わせし穢れに満ちたもの共。豚鶏とでも表現するのが相応しい造形の、ベアトリーチェの落とし仔共。

 健常な生物にも相当な嫌悪感を催させるが、この世ならざる者達には一際醜穢な外見であると感じ取らせる奴原だ。

 

 

 

膨れ女になった(閹ィ繧悟・ウ縺ォ縺ェ縺」縺)マダムの産んだ、(繝槭ム繝?縺ョ逕」繧薙□縲)あの唾棄すべき(縺ゅ?蜚セ譽?☆縺ケ縺)ミニオン共に(繝溘ル繧ェ繝ウ蜈ア縺ォ)似ている……(莨シ縺ヲ縺?k窶ヲ窶ヲ)纏っている(郤上▲縺ヲ縺?k)瘴気も近しいものだ(逖エ豌励b霑代@縺?b縺ョ縺?)

 

 

 

 犬のマズルで顔の半分が隠れていても解るほどに、異形のサオリの顔色が悪くなる。醜さだけでなく、なんとなれば、それは前の時間軸で、彼女を完全な孤独に追い遣った……アリウス自治区が彼女以外のアリウス分校生や一般住民ら共々に跡形もなく滅び去った、最悪の総力戦を思い起こさせるものだったから。

 ゲマトリアの他3名、カイザーコーポレーション、自由に動けるビナーなど一部のデカグラマトンの予言者達、たまたま発生したペロロジラまでもが慄きと共にシャーレとの共闘を選択した、邪神化ベアトリーチェ窮極態とのラグナロクめいた血戦を。

 だが、ベアトリーチェ幼体と共に呼び出された別の存在達。ゲヘナの制服を着たキヴォトスの一般的な生徒が1人と……彼女が造り出す、料理であるにも関わらず命を持つという謎めいたパンケーキ状奇怪生命体。ある種、存在自体が不釣り合いなものらが放つ暢気な気配がただ陰鬱に沈みゆく心を疑問で引き留めた。

 

 

 

しかし、そっちの……(縺励°縺励?√◎縺」縺。縺ョ窶ヲ窶ヲ)ゲヘナの牛牧ジュリと、(繧イ繝倥リ縺ョ迚帷鴬繧ク繝・繝ェ縺ィ縲)紫色の触手の塊は……(邏ォ濶イ縺ョ隗ヲ謇九?蝪翫?窶ヲ窶ヲ)なんだ?(縺ェ繧薙□?)

 

「うーん、私、いつの間に外に出たんでしょう?」

 

「りーたいとびー、へれこめとへすん! ようぐそうとほうとふ! とれうんえんぶるあ! よばれたのか!」

 

 

 

 編成画面めいて見えざる手で摘まみ上げられたまま、暢気な気配を漂わせる少女、牛牧ジュリは小首を傾げる。その振動だけで彼女の豊満な胸は重々しく揺れた。

 状況が分かっていないらしく、しばらくの間きょろきょろと辺りを見回していたが、近くで彼女同様に摘ままれつつ古々しい声で謎の言葉を叫んでいるパンケーキ型生命体を、次いで見知った相手を発見し、顔が華やいだ。本来の歴史の時間軸においてはまず交友関係を結ぶ機会など無かった……というより、ゲヘナとの相互理解は不可能という教義により交わる可能性のなかった、アリウスに所属する知人を見つけて。その知人、ミサキの身に得体の知れない紫の炎が灯り浮遊している事は多少不思議そうであったが、根本的に異常であるとは感じていない様子だった。

 反して、こんなところにいるのが相応しくないであろう者が急に現われた事に対し、ミサキの方は困惑を禁じ得ない様子であったが。

 

 

 

「ジュリとパンちゃん? なんで……」

 

「いましのみさき! とうーずすくは! そうなのか!」

 

「ミサキさん! ここ、どこですか? さっきまでフウカ先輩とパンちゃんと一緒に食堂の片付けをしていたんですけど、何故か外に出ちゃったみたいで」

 

「出ちゃった、っていうか……あの……人? に呼び出されたっていうか……」

 

 

 

 ミサキの言葉の向く先に、ジュリとパンちゃんの視線が追従する。パンちゃんに眼球は存在していなかったが。

 そして二人に見られた彼もまた、想定外と思っているのがありありと伝わってくる表情で、二人を交互に見回していた。

 思わしげに頭を掻く先生の姿から、両者が現われたのは計算外であるとは判る。だがその想定されていない事態がどの程度なのか、判断しかねて彼に問う。

 

 

 

「ちょっと、先生、どういう事? パンちゃんはいいけど……パンちゃんが召喚されるのもおかしいんだけど。ジュリにも何かさせるの」

 

『うーん、2人の召喚自体完全に想定外。大人のカードのインベントリ機能で収納しておいた、アロナとモトエの食べ残しの【パンちゃんのカケラ】を取り出しただけのはずが……あれぇ? 丘people?』

 

「食べ残しって……なんでそんなもの保管してるの? ポケットなんとかの自動回復用アイテムじゃないんだから……」

 

 

 

 先生もまた眉間に皺を寄せ、首を傾げる。

 彼の想定では、かつてモトエの神秘強化の為に【妖神グルメ】のスキル持ちであるジュリに依頼したゲテモノ料理、否、【イカモノ料理】であるパンちゃん亜種の食べ残しが出てくるはずだったのだ。食べ残しとは言っても、パンちゃんの中に形成される炭酸カルシウムの殻……軟体動物でいう所の軟甲や、甲殻類の殻じみたキチン質構造体ばかりの、到底食用に適さない部位である。

 この世界にとっての異物や異次元の侵略的神格、暗黒の淵より這い出る神話生物共にとっての滋味となる料理。流石に妖神グルメの開祖たる【内原富手夫】のように、香りだけで神話生物や邪神を虜にするのは無理であったが、透き通るような世界観の中ですら異次元の料理型生命体を作りうるジュリの腕前は忌まわしきこの世のはぐれ者であるモトエの、そしてついでに呪われた悪神の化身であるアロナの神秘を強化するのに一役買っていた。

 その残飯をベアトリーチェ幼体共に食わせ、生贄という名の遊び相手として最適化させた後、ヤマンソとクトゥグア・フリグゥス召喚の触媒とするはずであったのだ。

 しかし食べ残しの代わりに、何故か完全体のパンちゃんが現れた……ゲヘナでまことしやかに語られる噂、「給食部員の幻の3人目」の正体であり、時折ジュリによって製造される食物生命体達の長である彼が。しかも彼だけでなく、作り手であるジュリまでもが呼び出されてしまっていた。

 これが邪神召喚に何らかの影響を与える事を考慮し、原因を探るべきか。それともモトエと’先生’一派が怯んでいるこの隙に、召喚を進めるべきか。

 僅かに逡巡したが、パンちゃんを視認して以降不自然なまでに黙りこくっていたセイアからかけられた固い声の内容に、別口の面倒であると察知しつつもこのまま事を進めるべきと結論付けた。

 

 

 

[先生、私の眼球の中のウインドウで、あのゲヘナの給食部員のパッシブスキルとやらが強調表示されているんだが……そのせいじゃないか? 【すひゅーぶないぐぎゅーれいとふの血縁 Type阿僧祇】とかいう奴だ]

 

『【すひゅーぶないぐぎゅーれいとふ(Shub-Niggurath)の血縁】で、阿僧祇……もしかしてジュリの名前の横に別な表示あったりする? 《怪神(コメダス・ダモニウム)》……妖怪の怪の字と神の字を組み合わせたのとか』

 

[妖怪の妖の字と、神の字を合わせたものなら映っているが]

 

『あっ、ふーん(察し)……でも今分かって僥倖と捉えるべきか……』

 

 

 

 先生の声音は機械音声じみているが故に軽く聞こえる。だがそれでも頭を掻く姿勢が一瞬だけ、唐突に現われた面倒事に対し頭を抱えたように見えたのは錯覚ではない。

 《深淵》という邪神が、VRゲームめいて没入した結果誕生した化身が人間と交わり産んだ半神の末裔。遙か昔、この星がまだ地球と呼ばれていた頃、キヴォトス外部の北海道という地で新興宗教を開き、人間の出生率の異様な上昇に貢献していた胡乱なる教祖……邪神狩りから逃げ延びていたらしいその女がジュリの母なのか、祖母なのか、曾祖母なのか、はたまた高祖母なのかそれとも更なる先代なのか、なによりまだ生きているのかどうなのか……それはさておく。ジュリが人の形を保ったまま《妖神(コクウス・ダモニウム)》に至っている事の方が問題なのだから。

 既に《妖神》であるため、《深淵(Shub-Niggurath)》の血筋を引いていても原発性精神乖離型身体変貌症を発症しない。後天的に邪神の血を入れられて、前の時間軸のヒナやマコトのように人間や神話生物を喰らって生きる《怪神》になった訳でもない。それは良い。だが、それはとりもなおさず、ジュリの遺伝子が邪神本体のものに近いという事なのだ。根源の青の世界ですらも【妖神グルメ】、或いは更なる謎の料理スキルを発動してしまっている点を鑑みると、牛牧ジュリという存在そのものに邪神の血筋の方が干渉、影響された可能性すら考えられる。

 今回ジュリが召喚されたのは、まず間違いなく、邪神関連の事案に神の遺伝子が引き寄せられたためだ。祖先たる阿僧祇が北海道で【光を超えるもの】などの外宇宙の神性と争っていたが故に、それが後々の厄介を招く可能性もある……というかほぼ確実に、そいつらがジュリの存在を嗅ぎつけ、どこかで突っかかってくるだろうが……今までキヴォトスにそれらの敵対神性が現われていなかった事が、作為的に思えるほどの幸運だと思っておくしかない。

 彼らのやりとりでジュリとパンちゃんの注視が移る。金属じみた質感の表皮に覆われた正体不明の人型実体に物珍しそうな目を向けたジュリに人型実体……セイア《強化》は呻き、その傍で蠢くパンちゃんから露骨に目を背ける。

 そしてパンちゃんが触手を畝らせ、何か挨拶でもしているかの如き挙動をすると、セイアは頭を振って仰け反りつつ異形のサオリを盾のように差し出し、彼との接触を拒否する言葉を発した。その背は総毛立つかの如く蠢き、ヤマアラシめいて無数の棘を生やしていた。

 

 

 

[ウワーッ……や、やめろ……私に近寄ろうとするんじゃない触手パンケーキ! 5年前の夏のあの件でパンケーキにはうんざりしているんだ! お前のその汁でべちゃべちゃにされた後、半年くらい臭い臭いって自治区中で影口叩かれて、誰一人近寄って来なくなったんだからな!? ちゃんと入浴しているのに「風呂に入ってから来い」とあらゆる店から追い出される事がどれほど屈辱的か、パンケーキには解るまいよ!?]

 

半年も臭いが(蜊雁ケエ繧り?縺?′)持続するのか……(謖∫カ壹☆繧九?縺銀?ヲ窶ヲ)凄いな(蜃?>縺ェ)

 

「えっ、あの時の!? ご、ごめんなさい!? でもあの時よりもパンちゃんはパワー・アップしてるんです! もうメープルシロップでべちゃべちゃになっても臭くありませんから!」

 

[そういう問題ではないんだがね!?]

 

「ゆりぞのせいあ! ふあすとうる! 進化しているのか!」

 

[なんで私の名前を把握しているんだお前! 私が進化しているかどうかは知らないが、お前の方は料理的に退化しているように見えるよ!]

 

「そんな事ありません! 進化したパンちゃんは美味しいって、ミサキさん達も言ってくれましたから!」

 

[君、食べたのか!? こんなのを!? この中の中で!?]

 

「この中の中ってのが何か分からないけど……まあ、うん。見た目は酷いけど」

 

ミサキ、(繝溘し繧ュ縲)食うに困ったとしても(鬟溘≧縺ォ蝗ー縺」縺溘→縺励※繧)流石にこれは(豬∫浹縺ォ縺薙l縺ッ)無いだろう(辟。縺?□繧阪≧)

 

「でもモトエとアロナさんの紹介だったし、立場的にも拒否するのはちょっとキツいでしょ」

 

[よりによってあの2人!? 連邦生徒会長と代行が揃ってゲテモノ食べて喜ぶ変態とかもう終わりだろうこのキヴォトス!?]

 

「ゲテモノじゃありません、イカモノ料理です!」

 

[大して変わらないじゃないか!]

 

 

 

 地に垂れ落ちるメープルシロップにビビリながらも激昂するセイアに珍奇な弁解をするジュリ、平然と過去の異食を答えるミサキに若干引く異形のサオリ。

 隙だらけだが、超巨大ゆっくりと自我持つ津波は襲ってこない。そこらへんを彷徨いている野良犬や野良猫が見知らぬものを恐れるのと同じように、醜穢な豚鶏達を警戒しているからだ。

 だが豚鶏らが邪神への捧げ物として最適化されれば、途端にそれまでの忌避や警戒を忘れて襲いかかってくるだろう。この姿の彼女らは、そこらへんの藪や水溜まりに湧いた変な虫と同等の記憶力しか持たないからだ。

 

 

 

『話に花を咲かせている所申し訳無い! これよりオリジナルパンちゃんの存在を加味した修正チャートで同時召喚を行います! ベアおばベイビーが最適化されたらモトエ達が一気に凶暴化するので、準備をお願いします! あ、アフォーゴモンの鎖は、装備判定にならないようにミサキの右腕に巻き付けて下さいね!』

 

 

 

 通達に応え、言い足りない事がありそうな表情を仮面状外皮の下に浮かべていた若干一名も含め、生徒達は行動に移る。

 ミサキの腕に巻かれた鎖は、左手をグローブのように包むドス黒い糸束同様、まるで彼女を主と認めでもしたかのように妙なフィット感を醸し出し、彼女に不気味さを覚えさせ。

 端から見ると最早敵なのか味方なのか分からない立ち位置の異形のサオリは、ミサキの腕に鎖を巻き付けた後で地に降ろされると虹の泥沼の淵に近付き、汚染・変質した自身の神秘に導かれて狼じみた遠吠えを上げ。

 不服を噛み殺し、融合している名無しのシマエナガの囁きに含まれる示唆に則ったセイアが、縮小された魔導書の内2冊……カルナマゴスの誓約と夜虞鑰匙祭文書をどこからともなく取り出して青銅の刃に重ねる。古本共はその内より不気味な含み笑いを響かせながら刃に溶け込み形を変貌させ、骨董品の剣をピストルソードめいた珍奇な武器に成り果てさせた。

 

 

 

『では行きます! パンちゃん、あなたのその触手を少しだけ、そこに浮いているベアおばベイビー達に食べさせてあげて下さい!』

 

「すひーろうびーようゆーいぃーえいふいぃーえいふいぃーえいふ、あいめいがいにーどりーみーる、なながみりん!」

 

 

 

 その言葉を了承したのか、奇異なパンケーキの体躯を捩らせつつ、訳の分からない叫びを上げて触手を振り回す。うっかり目の端で見てしまったセイアが身震いしながら甲高い悲鳴を上げ、祈りを捧げ続ける半魚人に勢い余って体当たりを喰らわせ、衝撃で爆発四散させた。

 

 

 

「ハァ? ディープ♂ダーク♂パングの、う゛お゛え゛え゛え゛え゛!」

 

「ヒエーッ、チェンジ! チェ、ごぼぼえ゛え゛え゛え゛え゛!」

 

 

 

 パンちゃんの触手がベアトリーチェ幼体の口内に突き込まれ、自切される。自律可動する自切触手は豚鶏達の喉の奥へと容赦なく突き進み、腹を歪に膨らませながら強引に中へと収まった。

 それらは邪神の下僕と哀れな元虐待児童の交雑の末に産まれた存在。普通ならば白目を剥いて痙攣する姿は哀れみを誘う。

 だがそれはまともな生き物であればこそ。供物として最適化しゆく豚鶏を見ていた神話生物達や邪神の血族の心中に激烈な不快感や嗜虐心が湧き立つ。邪神の血族は台所に湧くゴキブリにすら向けない不愉快そうな顔をして、余燼は炎噴く両腕を震わせながら舌打ちをし、飛び回り生きた津波の撹乱と半魚人の惨殺を試みる神話生物化装置装着者の仮面状外皮の下の目は絶対零度を帯び、神秘歪曲体は必要以上の威嚇の意思を堪えきれず遠吠えに乗せた。

 カラーズ・オブ・アウトスペース・インサーレ・サンライト・ドリーマーとティンダロスの邑は特に酷く、双方が内側から神話生物達にすら聞き取れないノイズだらけの騒音を発し、暴れ狂う。

 即座に先生は大人のカードの表面で指を滑らせ、そのまままるで電話をかけるかの如く側頭部に当て、この場にいないなにかと会話を始める。

 それは恐らく、先程言っていたヤマンソとやらと交信しているのだろう。ミサキの眼にいつの頃からか刻まれていた得体の知れない印が、仄かに輝きだしていた。

 

 

 

『アッ、ドーモドーモ、いつもお世話になっております! 私、コンシューマー版ブルーアーカイブ製造ロットFHUAGHUFURE114514と申します!』

 

 

 

 まるでスマホで通話しているかの如く頭を下げる先生。学校に何かを売り込みに来たどこぞの営業マンのようだ。怨敵の子供達の姿に苛立ちつつ、ミサキはついそんな風に考えてしまう。

 しばらくそんな風に畏まっていた彼だったが、突然怪訝そうに生返事をし、困ったようにちらちらとミサキを、そしてジュリを見やる。その様子は、正に営業先から無理難題を押し付けられている営業マンそのものだ。

 

 

 

『えー、ジュリ……さん』

 

「え……あっ、はい、えっと、せんせいさん? なんでしょう?」

 

『唐突なお願いで大変申し訳ない。今日から毎日あなたに邪神ヤマンソの供犠専用のお料理を1品……いや、クトゥグア・フリグゥスの方も含めて2品、奉納品として作って貰いたいんですが』

 

「ええっ!?」

 

 

 

 ジュリの表情の変化は大きい。豚鶏共への不快感から、困惑、驚愕、そして喜色へと。

 少なくともこの世界において、彼女が料理をしてくれと頼まれる機会は皆無に等しい。パンちゃんという第3の給食部員がいる為、アプリ版の世界よりもなお料理面において頼られる事は少なく、フウカすらもジュリには果物の盛り付けなどを任せる程度。

 アプリ世界のような毒物にはならないが、料理が気味の悪い怪異となって動き出すのは変わらないし、見た目も悲惨でゲヘナ生達にも不評だ。しかも妖神グルメは神話生物向けの味付けの為、まともな生徒達が食しても可もなく不可もない味で、わざわざ食べる意味が無いとしか感じられずその点も不評。

 そんなある種アプリ版世界以上に不憫な彼女が、料理について頼られる。元々の性格も相まって、まず断る選択は有り得なかった。

 毎日欠かさずという点が負担になりはしないかと先生的には気になったようだが、宙に浮いたまま器用に詰め寄られ、気圧されていた。

 

 

 

「私のお料理で良ければ、毎日幾らでも作ります!」

 

『えっ、いや、でも料理が趣味でも毎日は負担かもしれないし、多少は向こうも譲歩してくれそうだから毎日じゃなくても』

 

「どなたか知りませんけど、私のお料理を求めてくれているんです! 毎日でも作りたいんです!!」

 

『アッハイ……OKだそうです』

 

 

 

 歓喜に瞳を輝かせるジュリとは対照的に、ミサキの方はなんとも言えない表情で先生を見る。ヤマンソらとの通話に戻った彼が再びチラチラと彼女に向けるもまた、困ったようなものだったからだ。

 セイアとサオリが跳ね回り、モトエと’先生’の異形の咆哮が木霊する中、白ハゲ先生は通話を終え、ミサキに向き直ると。

 

 

 

『おめでとうミサキ。後方理解者面邪神おじさんが追加されました』

 

 

 

 特に要望してもいないパトロンの誕生を伝えてきた。

 

 

 

「えっちょっと、怖っ、何それ」

 

『これはミサキが余燼になった理由にも関わってくるのですが……両腕切断されて死にかけた時、アロナに変な薬をぶっかけられましたよね』

 

 

 

 思い返すだけでも背筋の凍る、だが彼女とアリウスの友らの人生に光を灯した出会いの瞬間でもある光影入り交じった光景。

 その中で今にも泣きそうな顔をした連邦生徒会長の手にしていたものの事を思い返す。クラフトチェンバーが造り出したという謎の薬物を。

 

 

 

「ハーバート・ウェスト印の生体活性化剤とかいう傷薬の事?」

 

『そう、あれを正に死ぬ瞬間、生と死の境目にいる時に使われたせいで、ミサキをミサキ《虚無(ヴォイド)》の神秘解放素材にしようとしていた《煙塵》から、逆に《虚無(ヴォイド)》の方を解放素材として奪取して吸収しちゃったらしくて』

 

「……何が何で何?」

 

『えぇとつまり、今のミサキは別世界のゾンビ化ミサキとこの世界の生きたミサキ、二人が融合してるそうです』

 

「気色悪っ!? ゾンビと融合!?」

 

『生体でありながら高位アンデッドでもあるお陰で、ヤマンソとクトゥグア・フリグゥスが生物を憎む条件から見事に外れ、お眼鏡にかなったそうです。で、ヤマンソの方は炎の神である《煙塵》繋がりのよしみでその時に加護を与えたと言っていましたが、今回はクトゥグア・フリグゥスの方が加護をくれるそうで』

 

 

 

 いつの間にか与えられていた加護に、更に妙なものが追加されるらしい。望んでもいないのに。

 だが、邪神に加護などという胡乱なものを与えられるのだ、例え一方的な通達であっても、確実に何かを代価に求められるのは間違いない。

 

 

 

「えっと、加護? って事は、助けてくれる……っていう意味なんですよね? 何かダメなんですか?」

 

「いや、邪悪な神だからヤバいって。一般的な神社とかで祀られてる神様とは違うから。先生も断ってよそんなの……勝手に恩着せて、私に何をさせようってのそいつら」

 

『正常な命を持つアンデッドというロックで歪んだ存在として、全力で生き抜いて下さい。それだけが彼らのひねくれた拘りを満足させてくれます』

 

 

 

 白ハゲ先生の言葉の直後、空間が2カ所罅割れ、大輪開かせる炎の花と青白く燃える凍気が姿を現す。

 豚鶏達はすぐさま自身の命運を理解し、チェンジチェンジと叫んでいたが炎と冷気それぞれの触手で包まれて絶叫し、意識を失った。

 膨大な熱とそれを無に帰す冷気で大気が激しく揺らぐ。その圧倒的な力に気圧されていたミサキだったが、右腕に巻き付く白鎖、そして左手を包む黒糸が勝手に動き出し……まるで自動的に複製されているが如く勝手に伸びていく事でそれらへの対応を余儀なくされる。

 

 

 

「ちょっ、なにこのっ、勝手に動くなっ、従えってっ」

 

 

 

 しかしそれは野放図に動いているわけではなく、何か設計図に基づいて増殖しているようであると感覚で理解出来た。

 混乱しながら先生を見やれば、彼もまた大人のカードを手に何かを念じている。

 ミサキが指示していないのにユウカを抱えたドローンが退避行動を採り、邪神の出現にあわあわしているジュリとなんかうにょうにょしているパンちゃんが空間に抓まれたまま移動している事を鑑みると、現在彼はそちらへ対応しつつ自分へ設計図を送っているようだ。

 であれば、こちらはミサキ自身でどうにかするしかない。覚悟を決めれば、人ならざるものの感覚器官が、勝手に伸びていく原因を伝えてきた。

 得体の知れない理屈でミサキを気に入った、あの理解し難き炎神共が力を送り込み、自分達を包ませようと身勝手な支援をしてくれやがっているのだ。

 ひねくれた厄介ファンおじさん同然に行動を伴う指示厨行為をする邪神達に内心だけで怒りを吐露すると、まるで心の声が聞こえたかの如く、耳元で2つの喜色に満ちた奇声が響いた。

 様々な要因で相当に苛ついていただけであろうか……いや、その邪神のものと思しき声に煽られたのだろう、ミサキの内で憤怒の炎が燃え猛り、自然と放たれたユールの火と共に鎖と糸の中へ染み渡ってゆく。

 

 

 

「馬鹿邪神共……っ! そんなにっ、私に使われたけりゃ! 幾らでも……使ってやるっ!」

 

 

 

 宣言の途端。鎖と糸はそれまで以上の速度で爆発的に増殖し、二重螺旋の悪魔じみた構造体を所々に描きながらそれぞれの巨腕を形成してゆく。

 その内側に包まれゆく邪神達は、まるで自分達に屈しないミサキの怒りや反発というツンケンした態度をこそ愉しんでいるように呵々大笑し、出来上がった結界内で爆発的な力を放出。特殊昇華術式の双撃を完成させる。

 渦動破壊神の右の義手(レプリ・レムリア・インパクト)黙示録の獣の左の鉤爪(ハイパーボリア・フェイク・ゼロドライブ)。邪神の力を以て邪神を払う、外法の業の極地。

 

 

 

「モトエっ、今度は、私が……っ!」

 

 

 

 そうして組み上げられた擬似的な腕は、命のままであり続ける高位アンデッドの意思に従い、ぽかんと口を開けた間抜けな超巨大ゆっくりと、言葉にならない雑音を発して逆巻く津波に向けて振り下ろされ。

 膨大な熱量で炎の塊となった焼きゆっくり饅頭と陸上に打ち上げられた擬似氷山を作り出し。

 そのまま両者を振り回し、お互いを全力で叩きつけ合わせて木っ端微塵に打ち砕き。

 それぞれの核であった星海モトエ、別時間軸の’先生’を。そして波の内に癒やされながら揺蕩っていた大量の生徒達、一応蘇生された外部人の変態共、ベコベコに凹んで痙攣する蓄音機頭。更には行方を眩ませていた連邦生徒会長の希望峰アロナを残し、大気へと溶け消えていった。

 異界の力を使い過ぎた反動による強烈な疲労感に冒され、地に降り立ち膝を折って息を荒げるミサキの耳元で、喜色に満ちた狂笑と、言質を取ったと言わんばかりの砂嵐の音に塗れた先の彼女自身の言葉……幾らでも使ってやる、その一言が響いた。

 瞳を閉じ、深呼吸し、開く。右目に刻まれたヤマンソの印は能力の発現をしていないにも関わらずくっきり形が分かるほど鮮明になり、左目には新たにクトゥグアの……いや、似て非なる、クトゥグア・フリグゥスの印が現われていた。

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