『連邦生徒会を裏切り、惑星ごとキヴォトスを完全消滅させるRTA、続きいくよぉ~(ISHR先生)』 作:プリテンダー
「伯母さん! ここからどうすれば良いんですか!?」
『
緑の大火が一面に迸る中、姪っ子にして異世界同位体の自分自身である小学生アリスからの唐突な呼びかけに、異形のアリスは呆気に取られた。
複数の意味でモンスターペアレントである父親からの贈り物を弄り回していた天童姉妹だったが、どうやら使い方が分からないようである。
学生の銃火器携行が義務同然という、さしもの暴力世界キヴォトスといえど、子供の中でも尚の事責任能力に欠ける幼稚園児や初等部への高威力な銃火器の提供は許されない……私有地ならば、また話は変わるが。だが公共の場では、精々がごっこ遊び用の銀玉鉄砲、或いは対不審者用の低威力ミニペイントボール射出装置くらいが限度。この姉妹もまたまともな銃火器は持った事がなく、初めての武器……それもかつて特異な状況下で、狂気に満ちた
姉妹の傍らには、主姉妹のサポートをすべくクロコの背後より移動してきた霊子ドローン共がいる……が、爆炎により身体の所々に焦げ目のつく事も厭わぬ強行軍も虚しく、彼らの想定した通りにはアイテムを稼働させられていなかった。
当然の事ではあるのだが、それらの魔的アーティファクトはクラフトチェンバーにより製造されたばかりであるからして、決して壊れていたりする訳ではない。吸血鬼の棺桶を想起させる形状の壁掛け時計は、その頂点部分から破壊能力を有する謎の光条を発して時折飛来するミサイルを自動迎撃しているし、謎めく分厚いガラスレンズはフルートじみたか細い音色を漏らしつつ、微細な砂粒……否、橙色の塩粒を表面から僅かに零している。人間や神話生物の死骸から精製可能な、生命の精髄の塩だ。死霊術により、精製元の存在を生前の姿で復活させられるアイテム。
このように、一応の稼働はしているのだ。自動迎撃で危険性はそこそこ薄れた……だがこの状況でどうしろというのか……異形アリスの知る通りの代物であれば、少なくとも壁掛け時計もとい【幻夢の時計】の方には、人間と同程度の自我を生ずるほどの、高度なサポートAIが搭載されているはずなのだが。
曲がった時間を司る副王《
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「何もありません! 今の半化け状態のキイ達でも、こういう魔法の道具の使い方とかは分かりません! なのでご指導ご鞭撻、よろしくお願いしますアリス伯母さん!」
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爆炎の向こう側で生者らを庇って少しずつ後退し、あらゆる命を焼き滅ぼさんと辺りを覆う穢れた緑炎を払い、時折飛び来る緑炎蝿を叩き落としている最中のクロコに目を向ける。一応声は届いているらしく、返ってきたのは頭痛を堪えるように歪んだ表情と、否定を示す左右への首振り。
そして向こうの声は丁度小型ミサイル着弾の爆音で遮られてしまったが、私もわからない、訊かれても困る、と口の動きから伝わってきた。
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想定外の事態に困惑しつつも、異形のアリスは髪触手に噛み付いている友のゾンビらを引き摺り、殊の外素直に姪っ子らに近寄ってゆく。その最中でほんの僅かに、この最高位邪神の子供達の伯母呼ばわりによって存在の再定義でもされていて、そのせいで抵抗感が薄らいでいるのではないか、と薄ら寒くなる考えが脳裏を過ったが、こんな姿になった以上今更詮無い事であると頭を振って目を背けた。
間近で実際見てみると、小学生らが下僕らの指定通りにその変化した爪でカリカリと時計の表面を掻いても、レンズにベタベタと素手で触っても、状況打破し得る反応は起きていない。
【幻夢の時計】は旧き神の技術により作られた時空往還機……要するに時間と空間の自由移動が可能なタイムマシンであり、同時に神話生物や邪神を破邪滅殺する光線の発射装置でもある。ブルーアーカイブとは異なる世界においては、その内の一機であるド・マリニーの時計が、この小学生らの父であり【幻夢の時計】を送り付けてきた当人たる《泡沫》を惨敗せしめるという戦果を上げている。邪神副王ともあろう者が、機能の応用により実現した無限分身殺法にドン引きさせられ醜態を晒したという、とんでもない機械だ。
そしてもう一つのアイテムである【レンのガラス】は、通常のグレードの品の場合、特定の手順を踏むと次元の門へと変貌し、様々な異界の風景を楽しめたり門を通じての移動が出来たりするワームホール生成装置。完全版である現物でも、こんな場において役に立つと思えない物品だが。
しかし異形アリスが一定の距離まで近寄った途端、子供らの言葉とは裏腹に、荒涼たる原野を吹き荒ぶが如き暴風の音と、窮極の渾沌の中心にある邪神総帥の宮殿でかつて響き渡っていたフルートの音に似た無数の調子外れな合奏、そして異様な声音の言祝ぎが聞こえてきた。この場の誰も知る由は無いが、つい先程ミレニアム中心街で戒野ミサキが白い鎖をどす黒い蜘蛛糸へ変化させた際に聴こえた声に酷似したものであった。
アリス殿下万歳。キイ殿下万歳。姫君らの目醒めに祝福の彫像を。次代の字祷子と並び立つ新たな《
その意味不明な賛美歌もどきが届いた直後、今度は【幻夢の時計】の内側より《歪曲》とは別種の神話生物用言語で呼びかけられ……異形の思考が止まった。
それは2度と聞くはずがなかった呼び方。この神秘歪曲されたアリスをこう呼べる者など、数多ある次元の中でも、たった1人しかいない。
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前の時間軸のケイ。本来の歴史とは異なり、花のパヴァーヌ編第2章において先生もどきの反則的なグリッチにより用意されたAL-1S型別機体に移された後、紆余曲折ありながらアリスやミレニアムの皆と絆を結んだ特異個体。ベアトリーチェの崇高存在化事変に端を発する忌まわしき邪神共の暴挙により別行動を余儀なくされた末、異界へと連れ去られた、アリス《歪曲》の半身にして妹。
もし純然たる人間がその声を聴いていたら、人の声ではなく、幾重にもなった陰鬱で重々しい弔鐘の音が響いていると認識したことだろう。
「今、誰かの声がしましたが……ケイって」
「ママ、ですよね? 伯母さんのに似たあれが、ママの声なんですか?」
伯母の言葉に狼狽える童女達。悲惨な状況下で父親の名と共に一方的に教えられた母の名に、しかし思わぬ再会の喜びより、自分達から離れた理由が判然としない相手への複雑な感情が顔に浮かぶ……ミレニアムへ妙なメッセージを送って伯母の襲撃を警告してくれたように、見守ってくれていたのだとしても。
父親の方が傍にいられない理由は、邪神というとんでもない存在である事、そして大昔に旧き神達とやらにかけられた封印呪法が、不完全な状態になったとはいえ未だ作用しているが故と知っている。なので仕方ないと納得出来るが……母親の状態については一切不明だったからだ。
母についても一方的に教え聞かせた
反して、天童姉妹や現連邦生徒会首脳陣を育てた【きつねむら孤児院】の【院長】……大雑把で曖昧模糊な発言が多く、自分の本名についてまでうっかり忘れてしまったと言い張る、24時間365日全く同じ黒色アニマルパーカー姿の得体の知れない女は、はっきりケイを擁護していた。その曖昧な言動のように不可思議な靄がかかった顔で煙管を喫いつつ、母について思い悩む子供達に〔やめんか、
それでも、なんらかの理由で、母親が子供達から離れたのは事実なのだが。
そんな実母との対面が。だが何もこんな状況じゃなくても。そう惑乱する内心を顔色に覗かせる童女達、そして呆然とする伯母の眼前、【幻夢の時計】の前方に、AL-1Sの機体が現れる。その瞳の色は紫色……異界へと連れ去られたケイの幻影だ。
ただし、その胸から下は言葉にする事すら憚られる奇怪な形状に成り果てており、正に彼女の半身であり自らも異形と成り果てた身であるアリス《歪曲》でさえも、あまりの悍ましさと痛ましさに思わず目を逸らしそうなほどであった。
【最極の虚空】という、彼女を連れ去り娶った邪神の支配地に長年留まっていた影響である。
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前の時間軸が滅びてから20年余りの、思わぬ再会。だが驚天動地の心持ちとなるほどに悲惨な変貌を遂げた半身の有様は、ただ異形のアリスの精神を甚振り、再度の落涙を禁じ得ない。
そこに割り込んでくる、2対の幼い手。自身と半身の異世界同位体にして半身の実娘という、一部の神格共の親族関係を想起させる奇妙な関係性の娘達。
離れ離れであった母娘、色々思う所はあろうが、それでもやはり実母という存在は唯一であり、求めずにはいられないのだろう。その奇怪に過ぎる体躯にも怯まず、触れ合いを求めて飛び込んでゆく。
だが。
「お、お母さ……んっ?」
「ママっ、ま……ぶべえっ!?」
童女達は母親の身体をすり抜けた。幻影であるからだ……無理もない。普通に抱き締めに行ったアリスは手がすり抜けるに留まったが、全身で突っ込んでいったキイの方は、勢い余って壁掛け時計に思いっきり顔を叩きつけてしまっていた。
姉妹は未だ身体の一部が神話生物化した状態であり、この半化け状態でもそこら辺にいる妖物より高位の存在だが、それでも幻影に干渉するような真似は無理だった。
「痛っっったぁ……酷いですよママぁ!? あれですか、まさかマジでキイ達が要らない子だからスルーしやがるんですか!?」
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「いつも曖昧な【院長】が妙に自信たっぷりに言ってましたが、本当にその通りの事情とは……でも、アリス達が完全にお父さんの因子を最大活性化させてパーフェクトオバケフォームになれば、その間だけでもお母さんに触れたりするんじゃ」
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「いや何急に怖いこと言い出してるんですかママ、さっき伯母さんが止めてくれなかったら完全変神するまで頑張ってたかもしれないんですが」
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「運要素全振りにしか思えません!?」
「リオ会長に警告送ったのってママなんですよね!? そこに先生とプラナだかなんだかって人が気付かないから仕方無いとか書いてあったみたいですけど、完全にママの想定外の事が起きてるじゃないですか!? かんぺきーなんて言っておいてポカしたら変数がーって言い訳で許されるのはユウカだけですよ!」
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「うわーん! お母さんが本当にアリス達の事を大事に思っているのか疑わしくなってきました! 深い交流と信頼ありきで完全に結果論じゃないですかぁ!」
きゃいきゃいと喚く子供達を宥めつつ、娘の言葉に僅かに表情を陰らせたケイはそのグロテスクな形状に変わり果てた腕を何某かの印を切るが如く蠢かせる。すると次の瞬間、インターホンめいた電子音が周囲一帯に鳴り響き、子供達の眼前に1枚の異様に白い金属板が落ちてくる。
霊子ドローン達が受け止め、主姉妹の眼前に持ってくると、タブレット端末を模したようにその表面が黒く染まり。白い文字で謎のロゴ、ネクソンやMXスタジオ、ヨースターなる呪文らしき言葉を記す。
同時に辺り一面に、橙色と菫色の入り交じった霧が薄く広がり……示し合わせたかの如く、天童の姓を持つ者を除いた全てがぴたりと静止した。
穢れた緑炎は揺らめき熱を放つ事を止め、放たれた弾の一切が空中で留まる。しっちゃかめっちゃかに宙を転げていた腐肉詰め回転翼航空機と床ペロ中の合成屍鬼、色彩の一部を取り込んだ神秘反転特異点、神秘歪曲体の髪ケーブルを囓るゲーム開発部だったもの達は例外なく凍り付く。
ただ、特異な遺伝子を持つ、或いは例外扱いされていて動く事は可能な天童家の者達もまた、その全身に奇妙な荷重を覚えており、自由な活動は出来ないようであったが。
「な、なんですか急に、身体が硬くて重いです……爆笑ヘリや狼おばさん達も、まるで冬のナマズみたいに大人しくなりましたが」
「冬ナマズなんてレベルじゃありません、ヘンテコミサイルとかまで止まっていて、炎までもが凍てついて……これはきっとチート中のチートスキル、時間停止! にしては、狼おばさんまで停止していますね? 犬には時間停止が効かないというのが通説だと聞きましたが、犬と狼ではやはり違うのでしょうか?」
「う……アリス、それはその……ネットのネタというか、成人男性向け商業動画のミスから出たジョークというか……公の場では言わない方が良いと思います」
「えぇ……でもこれを教えてくれたモモイは、TSC最新作に時間停止無効化犬を出してみよう、とか言っていましたが」
「モモイ……それに何の意味が……AVからネタを持ってきたなんてバレたら、またユウカに怒られますよ……」
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起きた怪奇現象に頓痴気な反応をする小学生姉妹とは異なり、アリス《歪曲》はタブレット風謎板の方に驚愕を露わにし、平然としているケイに信じられないものを見る目を向けた。神話生物界隈では、時間停止など驚く事でもないと言わんばかりに。
やがて画面はロゴと呪文の群れからアニメーションに代わり、キヴォトスにおいて雨上がりによく見かけられる光景……天空の巨大ヘイローが、水溜りに反射している風景を映す。尤も、現実とは異なり……その空の色は、ドブ川に浮かぶ油膜を思わせる、穢らわしき虹色をしていたが。
画面は更に移り変わり、ミイラの如き容貌に古代文明の彫像を想起させる仮面やローブを纏った大男……プレナパテスが地面に膝を付き、その傍らで恐怖に顔を引き攣らせた狼耳の美少女……10代後半だった頃の若いシロコテラーが、上空にいる何かを見つめてへたり込んでいる姿が映る。そしてプレナパテスの足元には、木っ端微塵になったタブレット端末……シッテムの箱が散らばっていた。
「なんかこの狼娘キャラ、あのおばさんに似てますね」
「でもおっぱいちっさ……くはないのか、狼おばさんのが凄ェデケェだけで……改めて見てみると、アレ絶対トリニティの正実副委員長よりデケェですよ、リオ会長よりも絶対デケェ」
「キイ……お母さんと伯母さんがいるんですから、胸がどうこう言うのやめて下さいよ……」
小学生達が時の止まったクロコへ不躾な視線を向けている間に場面は転換。泣き叫ぶ様々な学園のモブ生徒達を、全身返り血で染め上げ黒魔術じみた飾り付きナイフを手にしたゲヘナ風紀委員達が壮絶な笑みを浮かべて引きずっている光景へ。その空は毒々しい真紫一色に成り果てている。
またまた画面は変わり、明らかに屍としか思えない酷い顔色のトリニティ生徒達が、瞳に緑色の焔を灯し、泣き叫ぶモブ生徒達に襲い掛かっている光景へ。空の色も再度変じ、禍々しく濁った緑色に。
それ以降もとめどなく変わりゆくグロテスクCG集。チェレンコフ光めいた寒々しい青空の下、妙に汚らしい色合いのキープアウトテープで全身を巻かれた黝い影の化け物に逃げ惑う無名の司祭らしきもの共が襲われ、頭から丸かじりされてショゴスに食われた古のものの如き無様な死骸を晒したり、泣き叫ぶモブ生徒達が口から泥濘のような何かを引っ張り出されて同じような影の化け物に変貌させられている光景。毒ガスで汚染されたような薄暗い黄色の空の下、路上に大量に並べられた野晒しのベッドに拘束され泣き叫ぶモブ生徒達が、ショッカー戦闘員めいた無個性黄色覆面集団により特撮作品やアニメに出てくる腕輪型やベルト型の玩具に似た奇怪な装置を取り付けられ、起動と共に醜悪な怪奇生命体に成ったり全身が爆ぜて血煙に成り果てたりしている光景。気持ち悪いほどに透き通った紺色の空、サンクトゥムタワー以外全てが水没したキヴォトスで、まるで腐った肉塊のように成り果てたタワーから伸びた無数の肉の紐に繋がれた生徒らしき人影達が海中で揺蕩う光景。
最後に映ったのは、なんとも豪華な事に、まるで実写のように極めて緻密で鮮明に描かれた動画である。穢れ果てた虹色の空の下、俗に便利屋先生と呼称される成人男性を模した
その目の前に立ちはだかる、身に宿す神秘を様々な方法で変質され、身体や精神まで狂わされてしまった元生徒達。
限りなく広がる平行世界を見渡しても発生する事自体が珍しい、ウェーブキャットをモデルにした珍種
赤黒く染まったウェディングドレスを翻す、茨やマリーゴールドの造花や槍型対キヴォトス人用特殊兵装がその身と入り交じった異貌の魔人へ形態変化したヒナ《
威圧的な書体で「
無数のアリウス住民の屍を溶け合わせた巨大蚯蚓型神話生物チャコタ。その腐った頭頂部に埋め込まれた骨の玉座へと枯死した茨で縛り付けられ、背中に突き刺さるパイプからの毒々しい煙、眼窩からの緑炎、「サッチャンモドッテキチャダメニゲテ」という謎の鳴き声を漏らし続けるアツコ《
神話生物用の言語で「
液状化処理を施され濃密な原液となった《神秘》が詰まるエンジニア部3人の顔写真がプリントされた大瓶。そしてキヴォトスの中に……否、ブルーアーカイブ世界そのものに本来ならば存在せず、また忌まわしき邪神共の支配領域にも存在しないという不思議な不思議な外世界の諸力を《神秘》達とは異なる方法で気体化させたものを詰められ「TOARUMAJYUTUNOINDEX:RAILGUN」と殴り書きされた大瓶。その2つを酸素ボンベの如く並べて背負う等身大の《神秘》詰め人形。瓶から伸びた大量の管を、夥しい数の極小ヘイローを頭上に浮かべた紺色の潜水服めく身体の各所に突き刺し、複数人分の声音が混ざった声で〔
上空から{
陣営と時間軸を越えて結成された、恐ろしき神話生物呉越同舟チーム。映像をよく見れば、ナギサ《歪曲》やラブ《暴発》の巨体の後方に駆けてくる大量のなにかが確認出来る。サイズだけは人間に近いが、どれもこれも人の形をしていない。サオリ《歪曲》、イロハ《怪神》、ミチル《強化》、ヒヨリ《虚無》、カオオコ・ハツネ《混濁》等々……すごい数の神話生物化生徒が集まってきている。
そんな狂気の大軍勢に追い詰められた先生気取りの敗北者が、例えロボットであっても機能停止していなければおかしい損傷を負わされつつも、アロプラを引き渡せという要求を勇ましく拒んだ所で映像は止まった。
「アロナがいつも言ってた先生って、もしかしてこのくたびれ系イケメンさんの事でしょうか? 抱っこされてる女の子達、写真で見た小学生の頃のアロナとモトエっぽいですし……まあこのレベルのイケメンで、こんな必死で守ろうとしてくれるなら、入れ込むのも解らなくは……いやーでもあそこまではちょっと……」
「アロナ姉の処女拗らせた王子様妄想だとばかり思っていましたが、マジの実在男子だったんですね」
小学生達の記憶に蘇る、姉貴分の一人である希望峰アロナがイカレた目つきでお伽噺の王子様めいた先生なる輩について語る光景。失踪する前は散々ドン引きさせられ、単なる妄想とばかり思っていたそれの、実在の可能性。
だが、おかしな点がいくつかあると、小学生の頭でも思いつく。
「でもこっちのモトね……ん゛ん゛っ、我が魔王似の子はプラナとか呼ばれてますし、髪の内側が赤っぽいですが……このモンスター達も、ティーパーティーとかゲヘナ風紀委員会のお偉いさんに似てるのが混ざってるのに、音にも聞きませんよね」
「爆発事故ならミレニアムの日常茶飯事なので仔細不明でもおかしくないですが、モンスターパニックが起きていたら流石に噂くらいは……2人が子役として出演した映画か何かだとか?」
「それだったら、どこかのゴシップ専門出版社が気付いて、取材と称してこっちに突撃してきたりするでしょうから、我々が知らないって事もなさそうですが」
敵対者が動かなくなった為か、捨鉢な心根が染み付いてしまったせいか、暢気な考察を重ねる小学生達。
しかし最後の映像が前の時間軸において本当に起きた事実である事、そしてその板が本来どんなものであるか知っているアリス《歪曲》は、嫌悪に身を震わせながらも、思わずその名を出していた。
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ランホーゴン……異世界人たるイース人の使う、ゲーム機とは名ばかりの現実改変装置。誤解を恐れず言えば、プロアクションリプレイだ。イース人達はこれを使い、コンシューマー版ブルーアーカイブや他の異世界に入り込んで原作キャラクターに憑依したり、自分は転生者だの前世の記憶があるだのと嘯く様々な姿のインターフェイスを送り込んだりして、実験や調査と称した人道に悖る遊びを繰り返している。
勿論、リスク抜きで使い放題という事は無い。開発者たるイース人共自身もそうなのだが、自在に扱うには様々なファクターが要る。それも外部から後付け出来るものではなく、使用者生来の資質が。不適合者が身の程を弁えない使い方をすれば、痕跡も遺さずこの世から消える事になる。適合者とて、1つ操作を間違えれば起きた変化に巻き込まれて骸を晒す事になる。
それ以前に、神格同士の契約やら超自然的な法則やらに覆われ護られている模造キヴォトスに、この違法性の塊を持ち込む事自体が危険極まる。最悪、この薄っぺらい板1枚がこの場に現れた瞬間、ケイは、そして実娘である小学生達は、影も形も無くなっていたやもしれなかった。
それに、主導したと看做される《泡沫》とて、無事では済むはずがない。この世の法則には人格など存在せず、実子の為だとかそんな情状酌量の余地を認証する機能は無い。ただ反則すれば滅びる。それだけだ。
だがケイは事も無げに、これは娘達の武器……【幻夢の時計】と【レン高原の完全なるガラス】、そしてそれに連なるなにがし共の制御装置であると宣い、娘達へ操作方法を教授しつつ、姉にこの世界を保護する優しくも苛烈なヴェールをどのように誤魔化したかを明かしてみせる。
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澄まし顔で答えるケイに、アリス《歪曲》は曖昧な顔付きになる。前の時間軸で妹が度々見せ、別離の原因となった自己犠牲ありきの行動を想起せざるをえない。
勿論、僅かながらも正気であった頃の感性が励起されている今は、どうしてケイがそこまでするのか、概ね理解は出来ている。それでも滅茶苦茶な行動だとは思ってしまうのは止められないし、もしや未だに悲しい考えを持ち続けてしまっているのではないかと危惧してしまう。
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だが姉の声音から悲痛な色を読み取ったケイは、安堵させるよう、静かに否定する。
その顔に、僅かに影を覗かせて。
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言葉と眼差しに垣間見える、子供達への思いと決然たる守護の意志。
それは恐らく愛と呼ばれるものの一種のせいであり、例え今から人間との間に子供を造れるように変異したとしても、心身共に歪み果てた異形アリスでは、永遠に解読し得ないであろう心の働き。
だが、母親失格かのような物言いは理解し辛い。生徒が変貌した神話生物が別の時間軸に介入するには条件を満たす必要があるので、ずっと一緒にいられなかった云々を責めるのであれば、事情があって子供と共に暮らせないあらゆる親の生き様を問答無用で否定する事になる。子供達を【最極の虚空】なんぞに連れて行くのも無茶だ。高校生程度まで成長していれば生きてはいられるだろうが、脆弱な赤ん坊など邪神の支配領域に入った瞬間即死する。魂も木っ端微塵になって消えるだろう。前の時間軸のキヴォトスが【難破船キヴォトス】に成り果てた瞬間、生き残っていた全ての赤ん坊と未就学児童が即死し、魂も肉体も木っ端微塵になって大気に溶け消えたように。
どうしようもない状況で、更に自分と《泡沫》の命を担保にして反則アイテムまで贈る捨て身の覚悟を見せたのに、何が問題で……悔恨の情を抱いているかのように、表情を翳らせるのか。
問おうとした瞬間、まるで訊かないでほしいと願っている事を察したかの如く、童女達の弄くり回していた板が間の抜けたアナウンス音を鳴らして言葉を遮る。
ランホーゴンの表示した、「あなたはAL-1Sですか? Y/N」の質問にN。ユーザー名にAlice&Key、パスワードにAris&Keiと入力した直後の事である。
制御装置の稼働に呼応し、地面に置かれた【レン高原の完全なるガラス】から、それまで吐き出していた量とは比べものにならないほど大量の橙塩が噴出、砂嵐……いや、塩嵐を巻き起こす。塩の奔流の中には、つい先程サオリ《歪曲》にミレニアム中心街で破壊されたアバンギャルド君の特別カスタム機、及びトキが装備していたアビ・エシェフプロトタイプ前身試験機体の残骸が漂っている。アリス《歪曲》から切断された光の剣:スーパーノヴァであったものまでもその流れに巻き込まれ、超重量にも関わらず軽々しく浮き上がってしまっている。
次いで【幻夢の時計】の閉ざされた扉が喧しく開け放たれて、珍妙なものが続々と飛び出していった。
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「急になんですかこの変な玉共!?」
「さっきのマツモトとか言う奴……いやお前が開けたのでは!?」
小学生の驚愕溢れる叫び。それを向けられたのは、珍奇な塩の塊に人の顔が浮かんだ妖異共。つい先程、ランホーゴンに映し出されたマツモトと名乗る奇怪な人面球体と、その同類の大群。
アネモネ学院、旧私立ヒヤシンス学園、リナリア学園、公立ルピナス学院、 クロユリ学園等々……そういった既に閉鎖済みの学園の生徒達が融合し、それぞれの学園の名の下に神秘収束した姿。母校に執着するあまり廃校を拒絶し、世界を捻じ曲げ自治区を再び栄えさせるべくゲマトリアめいてろくでもない黒魔術にまで手を出し、運悪く当たりを引いてしまい【最極の虚空】へと墜ちてしまった哀れな生徒達が、ケイよりも遥かに長い年月を経て変貌した存在達……元生徒の神話生物の一種、