『連邦生徒会を裏切り、惑星ごとキヴォトスを完全消滅させるRTA、続きいくよぉ~(ISHR先生)』   作:プリテンダー

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懍、慶べ!!
役立たずのお前が贄となったお陰で、我が一族は安泰だ!!
窮極の混沌の後継者の恩恵が!!
無貌の神の千の現身を踏み躙るただ一つの化身の加護が!!
我ら夢車の血脈を護る!!
夢車家は幻夢郷の王族として君臨し、やがてはあの根源の神域(キヴォトス)の支配者となるのだ!!


② 星辰35.17.52.139.28.52@start + 鴉羽鏡の先の異邦人

 現在朝の8時。仮眠室を出たのは深夜0時、そこから夜の街を散歩し戻ってきたのが未明頃だから、大体4時間程は事務作業をしていた事になるか。

 ついさっき届いたSRTからの「あんたに直接キヴォトス中で暴れられたら執行機関の自分達の立場が無い」という陳情やヴァルキューレ警察学校からの「生徒を助けて貰った事は礼を言うが連邦生徒会長が率先して建造物を破壊したりしないでほしい」という苦情へ意に添えなかったと遺憾の意を表明しつつリン達にバレないように消し、この箱庭の外縁付近の学校から上がってきた様々な嘆願を、解決する順序を勘案しつつ処理してゆく。会長がお隠れになる前よりも些事と評して差し支えない内容は減ったが、それでも相応に数はある。

 

 

 

 この手の作業をしている間、普段頭の中で喚き続けるクソ野郎は「面白みが無いから加速」と言って私の操作と認識を疎かにし、多少は自由意志で動けるようになる……とはいえ、実行できるのは、事務作業に分類可能な事のみなのだが。代わりにいくつかの種類の珍妙なラジオドラマを流し続ける。マリサやサクヤによるバレンタインのチョコレート作りだの、レイム達による師走のパーティーだの。内容を諳んじる事が出来るくらいには聞かせられた。

 しかし、こういうと失礼なのだが……酷く演技がぎこちない。恐らくギャグと思われる箇所も……神社閉店の日や私は子猫じゃないぜ、など……なんとも不可思議。奴の元いた世界では、あのくらいが基準なのだろうか。しかし私も偉そうに言える程サブカルチャーの知識はないので、そういうものだと思っておこう。

 

 

 

 それにしても、SRTからこんな意見が上がってくるとは。特殊部隊の連中は、誰も彼も随分私を怖がっていたように見えたが。少なくとも、《恐怖》に変じた事で得た卑劣な「洗脳能力」で影響を受ける程度には。

 私に対して恐怖を覚えた者の精神に干渉するという、粗暴な輩が好みそうなこの能力は、軽度で私に関する事項を自然と思考の中から除外するようになり、最悪私を見た瞬間ショック症状を起こして死亡するという最悪の効果を発揮する。未だ死に至るような重篤な効果が生徒達に現われた事がないのは救いと言って良いだろうか。

 能力の影響下にある以上、彼女らの思考には私を除外する為のバイアスがかかる。それはどれ程重要な事でもだ。今回の場合で言えば、会長の代行をしている私が命じていないからと、他の誰に何を言われてもひたすら待機しながら平穏な日常を楽しんでくれる筈なのだがな。

 

 

 

 次は……アリウス新校からの報告……閉鎖したカタコンベの奥からまたベアトリーチェの幼体が出てきた、だと?

 『!』

 またあの豚鳥の遺児か。会長と共に奴の塒に突撃した時の態度からは、自分の血を分けた子供だとしても、平気で自分自身が生き延びる為の囮にでもしそうだったが。腐っても母親ということか。

 しかしどこにあの我儘な子供らを隠していたのか……しかも母親に似て崇高がどうこうと甲高い声で喚き続けてやかましく可愛げもない。こちらの言葉を認識してもいなさそうで、奇異な詩を呟き続けるばかり。

 今の所の実害は無さそうだから、報告された個体は全て矯正局に閉じ込めてはいるのだが……旧アリウスの頃から所属していた生徒は、奴らを発見すると、今までの恨みとばかりにそれを凄惨に虐待する事が多い。今回は1匹見つかったと書かれているが……多分、2、3匹一緒に見つかっている筈で……そいつらは既にこの世にいないだろう。

 それ自体にどうこう思いはしない。アリウスの生徒達は皆、あれらの母親によって悲惨な目に遭わされていたのだ。復讐の権利は十分あるだろう……一応押し止めて、生きた個体を我々に引き渡す選択をする元スクワッドの者達が律儀というだけで。例え相手が豚鳥本体ではなく子供であっても、親の因果が子に報い……という言葉がこの世にある以上、仕方の無い事。

 ただ、製造者の罪を被造物が償うという事柄に、どうにも心がざわついてならない。会った事もない私の親が、何かろくでもない罪を犯していて、それが周囲に露見するのを恐れるような……不快な心地だ。

 

 

 

『……』

 

 

 

──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

「モトエ、昨日は絶対に睡眠を取ると約束しましたよね。何時間寝たんです」

 

 

 

 登校してきた我が友人七神リンは、何故か酷く虫の居所が悪そうだ。開口一番、眉間に皺を寄せ厳しい目をして問うてくる。またモモフレンズ限定グッズの抽選販売にでも落選したか?

 この状態で10分、と正直に答えたらどうなるかなど、火を見るより明らか。故にいつも通り、十分休ませて貰ったと答える。

 《恐怖》に変じた身体は毎日の睡眠を必要とする構造をしていないし、それ以上に眠るのはあの悍ましき悪夢を見てしまうので辛いのだが。

 途端にリンはこめかみを揉みながら瞑目し、陰の気に満ちた溜息を溢れさせる。

 珍しい。いつもなら疑わしげにしながらも、ちゃんと寝たならそれでいいですけど、で終わるのに。

 

 

 

「あのテロの時に、貴女の体が変化してしまったというのは知っています。会長にも言われましたし、単なる強がりではないと理解してもいます。でも睡眠周期が来た時くらい、ちゃんと……」

 

 

 

 なおも言い募ろうとするリンの言葉を遮るように、頭の中で間の抜けた機械音声が響く。

 同時にささやかな自由が失われ、再び自分の体という牢獄の中へ意識は囚われる。

 

 

 

『オッハー! オッハーーーー!(激寒) リン(非成田)ちゃんオッスオッス! 彼女が登校してきましたので、後は任せて本日は外部からキヴォトスへ新規に参入してきた企業へ連邦生徒会長としてちょっとお話(意味深)をしに行きましょう。今の所大人しくても釘を刺さずに放置すると、第二第三のカイザーコーポレーションになって大幅なタイムロスになりますからね(2敗)』

『数年前の外部からの侵攻も、原因としては子供の集まりだからとナメてきた外交官に当時の連邦生徒会長が毅然とした態度を見せられなかったからです』

『だからと言って生徒達を侮るのは、大人としての適切な態度とは到底言えませんが……ゲマトリアの構成員になるような輩を理解出来ないと毛嫌いするくせに、子供を駒としか見なかったり利用して命まで毟り取ろうとするゲマトリア適正イキスギィ! もとい高過ぎの大人失格な奴原が多過ぎるんですよね、この星』

 

 

 

 大人失格……ね。実はコイツは、ソウシャの中では幼体に当たるのだろうか。だがもし成体だとしたら……貴様が言えた義理か、と言ってやりたいね。私を下らない目的の為の道具にしている屑の分際で。

 

 

 

『……この星を滅ぼそうとしている大人の私が言えた義理かって? お、そうだな(適当)』

『生徒と共に楽しいキヴォトスライフを望む視聴者兄貴達にはそう思われているかもしれませんが、良いんだよ元から《色彩》とかの外なるもの共に狙われているんだし、この世界なんて私の玩具でいいんだ上等ダルルォ? キヴォトスを芸術品に仕立てや…仕立てあげてやんだよ、キヴォトスをげいじゅつし…品にしたんだよ! キヴォトスを芸術品にしてやるよ(妥協)』

『という訳で早速D.U.の企業からほもちゃんの能力で傀儡にしていきましょう。オアシスの復活によるアビドス自治区の復興や、ベアおばに過去のトリニティとの諍いやら何やらの全責任をおっ被せた上で惨たらしく殺害した事による支配者シフトシナリオで陽の当たる世界に出て来られたアリウス校への支援、他滅びかけの雑多な学校への足長おじさん行為と、金金って言うんじゃねえよガキのくせにオォン!? と言いたくなるくらい金は幾らあっても足りませんからね』

 

 

 

 ……一瞬、実は全部奴に私の内心が届いているのかと思ってしまったぞ。驚かせやがって。

 先生の召喚が成った暁には、処刑される私共々地獄に引き摺り落としてやる。

 

 

 

「え……新規参入企業との……会合? そんな話、昨日まで一言も……」

 

 

 

 決意を新たにしながらも勝手に動く私の体が予定を告げ、浮かんだ選択の中にあったベアトリーチェの幼体に関してなどの連絡事項をリンに伝えていく。

 だがいつもより反応が苛烈で、「また勝手に!」だの「その案件はこっちで対応するって言ったじゃないですか!」だの「貴女のせいでSRT特殊学園までタダ飯食いのニート予備軍呼ばわりされつつあるって分かってますか!?」と見る見る間に不機嫌度合いが増してゆく。

 遂には俯いたまま。

 

 

 

「…………現在の連邦生徒会のトップは貴女です。どうぞ、全て、ご随意に」

 

 

 

 そう吐き捨てられてしまった。

 なんだ、ソウシャが何かやらかしたか? ここまで機嫌の悪いリンは久々に見るぞ。

 

 

 

『えっそれは(困惑)あれぇ……丘people? なんでこうなるの?』

『JS時代からの3人の付き合いをご覧になられていた皆さんご存知の通り、リンちゃんは仕事減って自分が楽になるなら寧ろ喜ぶタイプというか、JC時代には前連邦生徒会長(未就任)とほもちゃんが汗だくになりながらキヴォトス中奔走してるのを「大変ね(他人事)」とチラチラ見ながら2、3行書けば終わる書類を室内で時間かけて処理していた実績があるというか……』

『仕事熱心なキャラクターなんて設定は無かった筈ですし、楽が出来るのにどうして拗ねるのか、コレガワカラナイ』

 

 

 

「……モトエ、貴女SNSはやっていませんよね」

 

 

 

 柄じゃない。リンも分かっている筈だが。

 なんでそんなものの話が出る?

 

 

 

『……あっ(察し)ふーん、どうやら真夜中のお散歩中に最近出来たばかりのキヴォトス人を商品とする奴隷商店に突っ込んで大暴れしたのを、誰かに撮影されて晒されたみたいですね』

『コンシューマー版は凌辱エロゲー世界めいて治安が最悪で、キヴォトス外部からアプリ版の比でない程に反社会的勢力が入り込んでくるので……ゲマトリア連中が自分達の記号、テクストを自己の確立の為に重んじているのと同じく、外と内で結ばれた約定(前会長改定版)により国という記号に収まる兵隊さん達が押し寄せて来ないのはまだマシですが』

『なお無理を押し通して兵隊さんが入り込んた場合、アプリ版最終編でシロコをアトラ・ハシースの箱船内に誘拐して条件を満たさなければ死の神アヌビスとして覚醒したクロコですら別のキヴォトスに顕現出来なかったように、兵隊さん達はペナルティで存在が虚空に溶けて消える、或いは生き物ではないなにかに変わります。実際対峙した前会長とほもちゃんの前で断末魔を上げて消えましたね』

『それはともかく、流石に何もかもをほもちゃんだけに押し付けるのはリンちゃんの良心が……痛いですね、これは痛い(冷静)』

『しかし今回に限っては、遅れていたら捕まっていたヴァルキューレモブ達がキヴォトス外部へ輸出され、警察学校へボテ腹アヘ顔さよならBDレターが届いてキヴォトスの冷酷な支配者ほもちゃんの《恐怖》値がメガトンコインし、脅迫もといお話(意味深)の成功確率が下がる所だったので……ま、多少はね?』

『ですがこれはまずいですよ! リンちゃんに見限られては連邦生徒会全体からの信用度が下がり、折角クリアしても条件を満たせなくなってしまいます!』

 

 

 

 ああ、だからか。いつも時期が来たらちゃんと寝ていると嘘を吐いていたのもバレたか……メールを消しても、そちらからバレるとは。

 《恐怖》云々は抜きに、ソウシャも発言通り、彼女の怒りを静める事を優先したらしかった。その理由は唾棄すべきものだが。

 だが宥め賺そうとするも、姑息なものだと見透かされたのか瞳に籠められた憂いは増すばかり。遂には密かに好んでいるモモフレンズのぬいぐるみをプレゼントしよう云々と、私でも悪手だろうと解る戯言を羅列し始める。おい、初等部を相手にしているんじゃないんだぞ……。

 ようやく選択肢が現れ、急いで適切な筈のものを選んだがやはり時既に遅く、怒髪天を衝いてしまったリンの表情は抜け落ち、固く冷たい声で、言わせたくなかった言葉を紡ぐ。

 

 

 

「アロナも貴女も、いつもそうですね。全部自分達で解決して、自分達だけ傷付いて。私達、そんなに頼りないですか。アロナがいた時からのおんぶに抱っこを、貴女一人になっても続けて貰わなきゃいけない程、役立たずですか」

 

 

 

 ……違う、そんな事はない。

 会長だけじゃないんだ、リン達もいたから、私は。

 頼む、そんな顔をしないでくれ。

 

 

 

「……もういいです。どうぞ私達を置いていってらっしゃいませ、連邦生徒会長様」

 

 

 

 今にも泣き出しそうな程震えた声で、拒絶するリン。

 そして私の身体は、すまない、と一言残しただけで、悲しむ彼女に背を向けた。

 

 

 

 なに?

 いや……おい……おい! 巫山戯るなよ!

 確かに先生が来た時に私の命は終わる、そして私が悍ましい化け物であると暴露され、裏切られていた事実でリン達は傷付くだろう!

 だからといって、今から無闇矢鱈に彼女らの心を傷付けて良い訳じゃないんだぞ!

 何が楽しくて、大事な幼馴染を悲しませなきゃならないんだ!

 戻れ糞ソウシャ! せめて慰めろ!

 選択肢を出せ! おい! 巫山戯るなぁ!!

 

 

 

 結局私の自我は操り人形の糸同士を絡ませる事すら出来ず、怒りを滾らせたまま、相手先へと向かうしかなかった。

 出くわしたモモカが絡んで来ず、顔を引き攣らせて短く挨拶するに留めていたので、いつも以上に酷い顔をしていたのだろう。

 これだから嫌になるんだ、私の体は……!

 

 

 

『……』

 

 

 

『……先生の記憶の残渣成分を元にした生徒の反応予測、精度30%未満に低下……未来演算結果の精度……くそ、私だって、どうにか出来るものなら、本物の先生みたいに……』




「リ、リン先輩、そんなに怒らないで下さいよぉ……」

「怒ってなどいません。少々ノルアドレナリンとアドレナリンが分泌されているだけです」

「変な言い方しても怒っている事には変わりないじゃないですかぁ……」



 やる事が無い。登校して早々に仕事が無くなってしまった。自然と舌打ちが漏れ、アユムを怖がらせてしまう。
 理由は言うまでもなく、俺の幼馴染であるあの馬鹿オリキャラの身長2メートル超えムキムキマッチョメスゴリラプラナモドキの星海モトエが、碌に休息もとらないで勝手に夜通し仕事を続けていたからだ。あいつがトップに立っているせいで生徒達が萎縮し、連邦生徒会へ要望を上げ辛くなっているから仕事自体が少ないのも一因である。
 深夜に一度サンクトゥムタワーを抜け出し、夜の街で暴れていたようだが、それでもあいつは一切の疲れを見せない。化物じみたタフネスは運動狂いのハイネにすらドン引きされるほどだ。
 失踪してしまったもう一人の幼馴染……正式な連邦生徒会長の【希望峰アロナ】曰く、とある犯罪組織の作ったヘイロー破壊爆弾の想定外の効果で体細胞が妙な変化を起こしてしまったとの事だが、それにしたって限度はあるだろ。
 食事もしない。トイレにも行かない。睡眠も約一月おき。それでいて四六時中キヴォトスを走り回り続ける。まるで俺達連邦生徒会役員なんかいらないと言っているかのようだ。もちろん、そんなのは俺の被害妄想であると理解している。そのはずだ。モトエには俺が必要なはず。そうに決まっている。
 さっき俺に見せたあいつの動揺した姿は、絶対に嘘じゃない。
 この身体、ブルーアーカイブの原作キャラである【七神リン】の中身が憑依転生者である事と、あいつがワーカホリックな事は無関係だ。
 俺のせいでバタフライエフェクトがーとかそんな事はない。そんな事はないにきまっているんだ。



「おはよーございまー。うわ、やっぱリン先輩拗ねてた」



 アユムがそそくさと調停室へ逃げた後、既に全て開封済みのメールボックスを何度も更新し直していた所に交通室の由良木モモカが登校してくる。
 原作では誰が相手であろうとナメた態度をとり、平気でサボる彼女でもモトエは怖いらしく、一応……本当に一応ではあるのだが、モトエがいる間は真面目に仕事をしているように見せかける。内実はいうまでもないし、モトエにはサボりを見抜かれているだろうが。



「なんですモモカ、藪から棒に。私が何に拗ねていると言うんです」



 口に出すと言葉が自動で変換され、俺の転生憑依先である七神リンのものに似せた口調になってくれる。
 この転生特典には本当に助けられている。俺の素の品のない口調で話したら、原作キャラのイメージが完全に崩れてしまうからな。
 オリキャラが連邦生徒会長代行を務めていたり、失踪した連邦生徒会長がアロナのリボン付けてたりそもそも希望峰アロナって明確な名前が付いていたりする二次創作世界の時点で原作崩壊を気にする必要はないかもしれないが、元ブルアカユーザーとして積極的に原作崩壊を助長したいわけじゃないんだ。



「また仕事の分担がーとか、自分勝手に進めてーって喧嘩したんでしょー? いつも以上にスゲーヤベー顔しながらモトエ先輩出てったもん」

「私は悪くありません。全部一人で何もかも解決しようとするモトエが悪いんです」



 そうだあの馬鹿が悪いんだ。アロナを姉貴分として慕うならもうちょっとその運営の仕方も見習え。まあアロナも秘密主義で、肝心な事はあいつ自身で全部解決していたけど。そんで恐怖で不良やテロリスト、キヴォトス外から入り込んだヤバい連中を押さえつけてるって点では、モトエはこのキヴォトスで誰よりもアロナを見習っているんだけど。
 アプリ版のチュートリアルで、連邦生徒会長が失踪してから犯罪率が20倍だかそのくらいに上がったって言ってたっけ。けど、この世界ではそうじゃない。
 アロナ失踪を嗅ぎつけたクロノス報道班がタワーの前で喚き散らして、そこに数千人のスケバン・ヘルメット団連合軍が突っ込んできて。それを今まで見た事無いレベルでブチ切れてたモトエが一人残らずズタボロの病院送りにして……結局ちゃんとした入院施設だけじゃ病床が足りず、キヴォトスの端っこの小さな医院までそいつらで埋まったんだっけ。
 タワーの前は不良達の血でグチャグチャになるし、街をちょっと出歩くだけで連邦生徒会が来たって皆怯えて逃げ惑うし、あの時は散々だったなあ。



「もうそういうもんだって諦めなよー、アロナ先輩が会長だった頃から、こっちに任されてる仕事はそんな多くなかったんだしさー」

「駄目です。それは連邦生徒会の役員としてあるまじき態度ですしなにより私は二人の傍にいる為に役に立ち続けなければならなくてそれは俺の命題であり運命であり宿命だから」

「…………」



 そりゃあ俺は原作の七神リンより能力は劣るだろうし、超人と呼ばれてたアロナと、そのアロナと二人で連邦生徒会を回してきたあいつには役者不足かもしれないけれど。俺だって頑張ってるんだ。
 あいつら本当になんなんだよ。少しは俺を頼ってくれたっていいじゃないか。いつもいつも俺だけのけ者にして。こちとら主席行政官様だぞ。原作のリンちゃんほど冷静じゃないし仕事も出来ないけど。いつぞやの夏に、ゲヘナ自治区から大量のパンケーキモンスターが発生してキヴォトス全体に散っていった時なんて、気になりすぎて書類一枚仕上げるのに数時間かかっちゃったくらいだし。
 このキヴォトスに大勢いる他の転生者達みたいに、凄い特殊なパワーを与えられたわけじゃないんだから、せめて事務作業くらいは俺がしないといけないのに。
 そうじゃないと、俺は傍にいられないのに。その資格がなくなっちゃうのに。護られてばかりの役立たずなんかが、二人の傍にいていいわけがないのに。
 なんで転生者なのに俺には戦う為の力が与えられなかったんだ。どうして一緒に戦場に立てないんだ。どうして鍛えても全く強くなれないんだ。どうして神秘強化出来ないんだ。なんで俺が使った時だけ全ての銃が不発になるんだ。
 あの日あの時助けてくれたアロナちゃんとモトエちゃんの為に例えゴミ以下のクズのカスの無駄無意味無意義無能の命であっても俺の全てを捧げたいのにどうしてそんな程度の事すらこのキヴォトスは許してくれないんだどうして。
 助けなきゃいけないのに魂で繋がったままの暗い淵から幻夢郷を通じて這い出るあいつらの黒き手が俺達を引き摺り込む前にキヴォトス全ての幽星体を解放して、そして、そして、そのまま。



「先輩、爪、爪また噛んでる」



 モモカの呆れた声でハッとなり、また自然と親指の爪を噛んでしまっていた事に気付く。
 まるで中の人である俺の魂の醜悪さが表出してしまったように、痕が残り歪んでしまっている。



「前も言ったし、ミレニアムのおチビちゃん達にも言われてたけど、先輩そろそろガチでメンタルかかった方が良いって。今本当にヤバかったから。ユーセータイとかゲンムキョーとかあいつらの黒き手とかイミフな事言ってたし、自分の事俺って呼んでたし……まるで【転生者病】患者みたいだったよ。発作起こしたあいつらほどじゃないけど」



 え……今俺、何を言っていたんだ? マジでなんだユーセータイとかゲンムキョーって。邪鬼眼か何かか? しかも俺って言っちゃってた?
 でも転生者病患者……いや、他の転生者達みたいな事を言ってたって、まさか自動翻訳的な転生特典まで取り上げられかけてるっぽいのに、デメリットだけはいっちょ前に押し付けられてるって事か? そりゃないだろ。こっそり検査キット使った時も陰性だったのに。
 って事は、俺もそのうち、あいつらみたいに身体が変化して……グロい化物になっちゃうのか?



「今から行ってきなよ。というか今日はそのまま帰って休みなよ。どうせやる事無いんだし、幼馴染の主席行政官がメンタルやられたのに療養もさせてないとかバレたら、ただでさえ悪いモトエ先輩の評判シャレにならないレベルでヤバくなるからね」



 そう常ならぬ真面目な様子で忠告するモモカに背を押され、自身でも不安になった俺は受診してみる事にした。
 でも、もし転生者病……【原発性精神乖離型身体変貌症】の新型だったら、メンタルクリニックじゃどうしようもないよな……まあ、その場合、どこの病院でもどうしようもないだろうけど。
 そうして俺は、単にちょっと心労が積み重なっちゃっただけであれと願いつつ、クロノスとかの面倒な報道機関から隠れる為の帽子を深く被りこみ、D.U.にある心療内科の門を叩いた。
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