『連邦生徒会を裏切り、惑星ごとキヴォトスを完全消滅させるRTA、続きいくよぉ~(ISHR先生)』   作:プリテンダー

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「さて……如何致しましょうか、デカルコマニー」

「おっ、そうだな……」



 ヘイロー破壊爆弾試作品の想定外の効力により《恐怖》と化した連邦生徒会役員、星海モトエ。彼女と連邦生徒会長の希望峰アロナ……二人が堂々とカタコンベに踏み入り、再興間近のアリウス分校でベアトリーチェを殺害してから数日後。ゲマトリアの集会所もまた襲撃された。黒服とマエストロが八つ裂きになり、ゴルコンダらが得体の知れない空間の穴に放り込まれてから、どれほど経ったのか。
 時間の経過に伴い、互いの虚像であり、非実在性を象徴する存在であるゴルコンダとデカルコマニーは、間に存在する繋がりの乖離を感じるようになっていた。
 デカルコマニーの有する人格の一つであるゴルコンダではあるが、デカルコマニーからすれば最早別人の如く考えが読み取れず。同時に絵画をインターフェイスとし、別の時間軸で仲間の一人からサーカスの道化師同然と罵られたゴルコンダの方も、まるで身体を担当するデカルコマニーに負担させていた身体への負荷が返って来ているかのような、異様な疲労感を覚えていた。基本的に、そういうこった、の一言しか言わないはずの彼が、別の発言ばかりするようになった点も気になってはいるが。
 それはこのどこまでも透き通っていながら、しかし一切の光源を持たぬ空間の影響か。はたまた、かの《恐怖》が奇怪な仕草と共に彼らを殴打した際、微かに聞こえた機械音声じみた声……ゴルコンダらを『人格ガチャおじさん』などと呼んでいたものの関与が故か。
 その心身の変異と、どこまで行こうとも無明にして無限の世界に、さしもの彼らも辟易としていた時。
 闇に、孔が空いた。
 二人を誘うが如く、目と鼻の先に、赫々たる世界が拓かれたのだ。
 僅かな逡巡。やがてゴルコンダは決断した。



「……やはり、誘いに乗りましょう」

「おっ……大丈夫か……大丈夫か?」

「踏み入ってみるしかない。更なる窮状に陥るとしても、記号やテクストを付与出来る道具すら持たぬ現状では、永久に闇を彷徨う破目になりかねませんからね」

「おっ、そうだな……」



 実の所、ゴルコンダがそれを選択した理由は他にもあり、それはデカルコマニーにも解っていた。多少の相互不理解が生じている今でも、感じ取れる程度には。
 赤き世界に繋がる孔が開いた直後から、わけのわからない菫色の光が後方より強く射し込み、同色の濃霧が急激に立ち込めて来ていたから。
 赤か、紫か、どちらか選べ。
 言外に強いられた選択を熟考する間も無く、ゴルコンダを大事そうに抱え、デカルコマニーがおっかなびっくり赤き世界へ踏み入る。背後から谺する、ばにたす、ばにたぁたむ、という異様に間延びした呪詛を聞き流して。
 そうして踏み込む赤の世界。一面が大地でなく水面であるにも関わらず、問題なく立てる不可思議な領域。絶え間無い潮騒に、血染めの天を揺らし続ける謎めく波紋。更には雨の如く、実体を持った言葉が降り注いでいた。
 降り注ぐ「繧ゅ▲縺ィ逕溷セ偵r譖?i縺帙◆縺」や「蜈育函縺ッ縺ゥ繧後□縺醍オカ譛帙&縺帙※繧よァ九o縺ェ縺」と言った文字は、地面の代わりに広がる水面に当たると弾け、「もっと生徒を曇らせたい」や「先生はどれだけ絶望させても構わない」という文字に変じ、老若男女の笑い声をしっちゃかめっちゃかに混ぜ合わせたような音を微かに響かせた。
 面食らう二人に、視覚で以て更なる衝撃が襲いかかる……すぐ傍で崩落している、巨大な建造物。
 見覚えがある。黒服の研究資料の一部、遙か昔のスケッチを垣間見ただけの、しかしそれが事実であれば驚嘆すべき存在……その無様な残骸。



「これは……確か、アトラ・ハシースの……」

「おっ、そうだな……?」



『スグルーオ湾へようこそ、あちら側の時間軸のゲマトリアのお二方』



 予期せぬ声に、勢い良くデカルコマニーが振り向く。肉声であるにも関わらず、どことなくあの『人格ガチャおじさん』呼ばわりした機械音声に似た気配を感じ取れる声の方へ。
 そこにいたのは、ゴルコンダらが微かに見覚えのある生徒の一人であり……そのうろ覚えの姿とは明確に異なる、背面から枯れ木じみた翼を無数に生やし、不気味な赤茶色の結晶を体中至る所から伸ばした妖物。



『突然のお呼び立て、誠に失礼致しました。不調法なもので。私は』

「もしや、アビドスの……砂楼ユメさん、でしょうか」

縺ゅ?√≠縺」縺。縺ョ遘√?莠九?(あ、あっちの私の事、)縺泌ュ倥§縺ェ繧薙〒縺吶??(ご存じなんですね!) 縺?縺」縺溘i縺願ゥア縺(だったらお話が)譌ゥ縺乗ク医∩縺昴≧?(早く済みそう!) 濶ッ縺九▲縺溘=?(良かったぁ!)



 砂楼ユメ。アビドス高等学校の、卒業生。
 小鳥遊ホシノを手中に収める為に黒服が練った策略の中で、カイザーPMCが殺害しようと試みて、失敗した生徒。二人としては、一応の所それだけを知ってはいたが……こんな異形ではなかった。いや、キヴォトスの生徒にはこのような怪異はいなかった。
 元はアビドスの制服であった事を窺える装飾を鏤めた、しかし場末の娼婦の如きものに歪んでしまったドレスを翻し、砂楼ユメらしきものは陽気に微笑む。一見素朴な生娘でありながら、その人間と同じ構造の筈の口から異様極まる雑音を吐き出して、無自覚に威圧しながら。
 怖気立ったデカルコマニーが思わず一歩引くと、無礼を悟ったユメが頭を下げる。


『あっ……えへへ、すみません。まだ他の時間軸の有機物との触れ合い、慣れてなくて』

「いえ……お気になさらず」

「おっ、そう、だな」



 ひとまずの謝罪を含む言葉とは裏腹に、その気配は相手への敬意の無い、慇懃無礼なもの。
 威圧される大人を無視して、ユメはさっさと話を進めてしまおうとする。



『こほん……改めまして、私はクリムゾンエフェクトの……ええと、とりあえずの代表? のようなもの? を務めさせて頂いてます、「アビドスのユメ」です。各学園同士の関係で、うちが一番角が立たないからって押し付けられただけなんですけどね、えへへ。えっと、それで、ですね。私達の領域……このスグルーオ湾の【難破船】にお越し頂いた理由なんですが』



 だが直後、上空から放り出された何かがユメの言葉を遮り、両者の間に叩きつけられる。



「ア゜エ゛エエエエエエエ!」



 惨めな残骸と化しながら、悲惨とも頓狂とも表現可能な奇異に過ぎる悲鳴を上げたそれ。認識したゴルコンダ、デカルコマニーの双方が息を呑む。
 人間であれば、とっくに死体となっていなければおかしい程に切り刻まれた……首の代わりに靄を抱く、コートの男性。
 こちら側の時間軸のデカルコマニー。
 切創以外にも、天上より降り注ぎ続けているものと同じ、物質化と液状化を並行する文字群に塗れ、耳なし芳一めいた有様にされている。塗りたくられている文字列が降り注ぐ文字と異なるのは、文字であるにも関わらず、離れているゴルコンダらにも嗅ぎ取れるくらいとんでもない汚臭を放っているという点。



「デカルコマニー……」

「おっ、そうだな!?」

『あらら、ホシノちゃん……ちょっとやりすぎじゃないかなぁ』

濶ッ縺?§繧?↑縺?〒縺吶°(良いじゃないですか)繝ヲ繝。蜈郁シゥ縲(ユメ先輩。)縺ゥ縺?○蜉?蟾・蜑肴署縺ョ縲(どうせ加工前提の、)繧イ繝槭ヨ繝ェ繧「縺ョ繧エ繝溷ア大?(ゲマトリアのゴミ屑共)縺ェ繧薙〒縺吶°繧(なんですから)



 それを追って着地する、巨大な翼を持つ小柄な影。翼の全面には構造的にありえない無数の目玉が配置されており、それぞれがぎょろぎょろと蠢き続け、滅茶苦茶な監視を四方八方に向けている。
 黒服が手に入れようとして、失敗した生徒当人。いや、これは……その末路と呼ぶべきか。



「小鳥遊、ホシノ」

隱ー縺後◎縺ョ阮?ア壹>蜿」縺ァ(誰がその薄汚い口で)遘√r蜻シ繧薙〒縺?>縺」縺ヲ(私を呼んでいいって)險?縺」縺溘s縺?繧(言ったんだよ)繧エ繝溘き繧ケ(ゴミカス)



 憤怒、憎悪、殺意が満ち満ちた声音が響くと共に、空間が揺らぎ、瞬きの間も無く巨大な爪が無傷な方のゲマトリアの二人を押し潰していた。ホシノの腕がまるで鷹の足の如く変じたのだ。
 その一撃で、ゴルコンダもデカルコマニーも、まともに声を放てぬ程度の負傷を受けてしまっていた……不死身の、はずなのに。



「ぐ……う……」

「おっ……大丈夫……か……大丈夫、か」



 巨大な爪に掴まれ、瀕死の虫のように蠢く大人。
 その無様極まる姿に、まるで黒服をわざと真似ているが如くくすくす嗤うホシノを、ユメが窘める。



『こらっ、駄目だよホシノちゃん。めっ。この人達は、クリムゾンエフェクトの皆の為の資材になって貰うんだから。少しくらい我慢してあげないと』

縺オ繧薙?ゆサ墓婿縺ェ縺?〒縺吶?縲(ふん。仕方ないですね。)繝ヲ繝。蜈郁シゥ縺ョ鬘斐r(ユメ先輩の顔を)遶九※縺ヲ縺翫″縺セ縺吶?(立てておきます。)諢溯ャ昴@繧阪h繧イ繝槭ヨ繝ェ繧「(感謝しろよゲマトリア)



 放り出され、襤褸雑巾となったもう一人の己にぶつかるデカルコマニー。爪が掠めたゴルコンダは衝撃で放り出され、縁は削れ、罅が入り、その負傷を鑑みれば既に別の人格へと……例えばフランシス等へと、代わっていなければならない程であった。さながら脱皮でもして欠損部位を補う甲殻類が如く。かの時間軸でシロコテラーに討たれた時のように。
 だが、ゴルコンダは健在であった。変われなかった、と言った方が正しいかもしれない。



「クリ、ムゾン、エフェクト……とは。貴女方は、一体」



 何者なのかという問いは、一方的な通達に遮られ、踏み躙られた。
 理解しようとする意思、対話の意思は、欠片も無い。ただただ自分の意志を押し通すだけで、相互理解など端から求めていない。身勝手極まる悪意の化身。
 調律され、《歪曲》させられた彼女らは、あらゆる次元の先生達に生徒として知られている存在ではなくなってしまったのだ。



『貴方達をこちら側のデカルコマニーさんと混ぜて、私達の奏者とさせてもらいます。先生が、私達を拒絶し、クリムゾンエフェクト(世界ごと歪められた生徒達)を見捨てて……ブルーアーカイブ(のうのうと自由を謳歌する生徒共)を護ろうなどと、馬鹿な考えを起こしていた時の為の対抗策なので……ごめんなさいね』

縺ゅ?霎帶ー苓?縺(あの辛気臭い)轣ォ闡ャ蝣エ縺ョ辣吝?繧ゅ?(火葬場の煙共も、)縺輔▲縺肴ャ。蜈??螢∝セ御ク?譫壹?(さっき次元の壁後一枚の)謇?縺セ縺ァ譚・縺ヲ縺溘@窶ヲ窶ヲ(所まで来てたし……)縺ゅ>縺、繧峨∈縺ョ蟇セ謚礼ュ悶b(あいつらへの対抗策も)蠢?ヲ√〒縺吶°繧峨?縲(必要ですからね。)縺薙■繧牙?縺ォ蜻代∪繧後※縺?↑縺?・エ繧(こちら側に呑まれていない奴を)螂剰??→縺励※驕ゥ蠢懊☆繧九?縺ッ(奏者として適応するのは)蛻昴a縺ヲ縺ァ縺吶°縲(初めてですか。)蝟懊∋繧医?√ご繝槫ア鷹㍽驛弱?(喜べよ、ゲマ屑野郎。)縺雁燕繧峨?螟ァ螂ス縺阪↑縲(お前らの大好きな、)逾樒ァ倥→譛ェ遏・縺ォ貅「繧後◆(神秘と未知に溢れた)蟠?ォ倥↑譌?キッ繧(崇高な旅路を)縺上l縺ヲ繧?m縺?▲縺ヲ(くれてやろうって)險?縺?s縺?縺九i(言うんだから)



 立つことも出来ない、あちら側とこちら側の二人のデカルコマニー。負傷のあまり黙り込むゴルコンダ。
 彼らを睥睨するユメとホシノの表情は……いや。それだけではない。
 やりとりを聞きつけ、このスグルーオ湾全土……アトラ・ハシースとウトナピシュティムの残骸を錨として、どうにか存在を保っている【難破船キヴォトス】全土からいつの間にか集まってきていた、あらゆる学園の生徒だったもの共は。
 その全員の顔に凄絶な笑みを刻み、眼から血涙を溢れさせていた。
 手に手に恐るべき呪縛を感じさせる物体化文字列を掴み、動けぬ大人3名を包囲し、そして。
















 「「「ン゛ー! マ゜ッ! ア゛ッ!」」」








⑥ 異次元通信機第漆号 + 千年王国の怪(A&Kside)

 

「アリス。ゲームオーバーになっていますよ」

 

「え……あ」

 

 

 

 ミレニアムの首領であるリオに言われ、彼女が要塞都市(未完成)(エリドゥ)と名付けたセーフルームに放り込まれてからまだ一時間。

 先にお守り役として送り付けられていたユズらゲーム開発部員と共に遊んでいろと言われたアリスが、それから何度妹や先輩らにこう指摘されたか。

 尤も、キイの方とてさして変わらず、パソコンを少し弄ってはぼんやりと宙空を眺める事を繰り返していたが。

 二人の精神とリンクしているらしい、ミレニアムでも解析しきれていない子供の落書きじみた霊子ドローン達は、共に天井と地面を行ったり来たりしていて、視覚的に鬱陶しい事この上ない。

 

 

 

「アリス~、そういう態度はゲームへの敬意に欠けるよ! もっとちゃんと楽しむ意志を持って遊ばないと失礼に当たるからね!」

 

「そうです、ね……すみません……」

 

 

 

 戯けたモモイの言葉に返すのは、どこか生返事気味な謝罪。

 高等部の3人は労しそうに視線を交わす。

 

 

 

「あの、変なロボットの事なら、2人が気にすることないんだよ」

 

「そうだよ。生徒会長も言ってたでしょ。あくまで不審な情報元の言葉を鵜呑みにして、向こうがグルでないと仮定すればって」

 

 

 

 そもそも、あの金属の化け物がアリスと自称して、なおかつ天童姉妹を成長させた姿……現状から言えば、丁度ユズらと同じ高等部頃だろうか……そのくらいまで齢を重ねさせたものを想像させるからと言って、今ここにいる天童姉妹に何の責があるというのか。どこの誰とも知れない馬鹿野郎に、勝手に自分達に似せた破壊工作用ロボットを造られ、謎の生贄呼ばわりされたからといって、何の罪になると。

 寧ろその場合、何らかの手段を用いて通信していたらしいユウカという存在と名前が同じ、早瀬ユウカの方が怪しまれるべきではなかろうか。

 それでも俯くアリス……のみならず、励ましの言葉に寧ろ逆効果とばかりに思わしげな溜息を吐いたキイに、2人の悩む理由が……2人がとてつもなく忌まわしい過去を持つが故の理由が、理解出来てしまう3人は、どうにか話題を変えて空気を一新させようと試みて。

 セミナーからゲーム開発部への通達の最中、ミレニアムのボスにヴェリタス部長兼特異現象捜査部部長が、二人の後見人なんだから連邦生徒会長代行も引っ張り込みなさい、まああの雌ゴリラは頼まなくても来るでしょうが、と言っていたのが漏れ聞こえたのをミドリが思い出した。

 

 

 

「そういえば、さっきヒマリ先輩が言ってたけど、2人ってあの……怖い連邦生徒会長さんと知り合いなんだよね」

 

「怖い? アロナは別に……NGワードで激怒させたら、アロナ全肯定勢のモトエすらドン引きするくらいブチギレますけど」

 

「神様が~とか、崇高? がどうこうと言った程度でなんであんなにも激昂するのか、キイ達は聞けていませんが。おっかないから」

 

 

 

 なんでアロナ? と思い、言葉が抜けていた事が思い出される。

 代行って付けなきゃそれはそっちになるよね、うっかりしてたな。と思考から流した。

 

 

 

「えっと……そっちじゃなくて、代行さんね」

 

「でも、アロナ会長も怖いんだ……」

 

「そうですね。怒りで頭が沸騰しているのか、喋った時のイントネーションが、エンジニア部の新人が作った言語プログラミングをミスったロボットみたいな感じに……」

 

「怖いって不気味の谷現象みたいな感じの方!?」

 

「それにしても、連邦生徒会長と生徒会長代行とのコネがあったなんて……もっと早く言ってよー! 連邦生徒会からセミナーに圧力をかけてもらったり、賄賂……じゃなくて便宜を図ってもらえば、ゲーム開発部の予算がもっと増やせたりとか……」

 

「出来ませんよ……変な事してバレたら、偏向報道上等のクロノスとか捏造大好きな週刊誌が大騒ぎして、最悪キレたユウカの独断で開発部が取り潰されるじゃないですか……」

 

「第一、初等部の私達が高等部の所に入部出来ている事自体が、アロナ姉の取り成しの成果なんですから」

 

「うお、知らなかった……人員不足での廃部の危機が、御上の温情の賜物で回避されてたなんて……」

 

「各校の生徒会役員ならともかく、一般生徒が連邦生徒会役員との繋がりを持ってるなんて言いふらしても、頭のヤバい人の多いキヴォトスじゃ良いことなんか何一つありませんからね」

 

「自分達もキヴォトス人なんだけどそれは……」

 

 

 

 知己の者の話に、多少は空気が緩む。見るからに陰鬱に沈んでいたアリスも、無表情でありながら顔を強張らせていたキイも、心揺らす漣は和らいだ様子だった。

 だが。

 

 

 

「でも、別にモトエも怖くはないですよ? 常に苛ついてそうな顔と女学生にあるまじき筋肉は別として」

 

「そうです。我が魔王は無愛想で乙女心への理解が欠片も無いノンデリですが、特に意味も無く無辜の民を傷付ける趣味は持っていません」

 

「えっでもさ、あの人昔外部人を」

 

「お姉ちゃん!!」

 

「あ゛っ」

 

 

 

 殺した。クロノスジャーナリズムスクールの報道カメラの真ん前で。キヴォトス全体に、凄絶な姿を晒した。

 当時は分校であったアリウスの生徒を庇い、腹をチェーンソーで掻っ捌かれ、臓物を露出し、どす黒い血を吐きながらの行為で……自身も瀕死の痛み分けだったから、まだ立場もあって許された面はある。無論、実は生体兵器へと改造を受けた兵士であった外部人達の方が、明らかに妖怪や怪獣と表現するべきもの共に成り果てていたからという方が、無罪放免となった理由としては大きい。

 だが、例え元でも……人を殺したのは事実だ。未だにそれを擦る生徒は、特にブラックマーケット等に屯する不良を中心に多い。

 

 

 

「ご、ごめん」

 

「いえ。モトエも、仕方が無いと言っていました。生かして制圧出来なかった自分が悪いのだと」

 

 

 

 声音にモモイへの険は無い。寧ろ、悪評を広められている者の方へ呆れが向けられている。

 大人ですら恐れる者が多い、いや恐れている者しかいない相手へのその態度に、ある意味で感心しつつ、ユズが一つの疑問を呟く。

 

 

 

「で、でも、その……やっちゃった、のに……なんで会長に就任出来るんだろう。あ、あのえっとね、変な意味じゃなくて」

 

「別にモトエは目立ちたくてやってるんじゃありません。あのままじゃリンが生徒会長を押し付けられて、立場に押し潰されてただろうからです」

 

「あっはい……主席行政官の為なんだ」

 

「意外だね……七神主席行政官って、見た目は沈着冷静そのものって感じなのに」

 

 

 

 ミドリの言葉に、昔は見た目のイメージ通りに近かったんですけどね、と返しながら、童女の1人は頭痛を堪えるようにこめかみを揉み、もう片方は肩を竦める。

 

 

 

「アロナがいなくなってからどんどん加速度的におかしくなって。今のだいぶ精神がヘラったリンじゃ、連邦生徒会の室長共を御しきれません。防衛室長だけは、なんで防衛室長になれたかも分からないビビリのヘタレですが。他は清濁併せ呑むと標榜しながらも、実は汚職で私腹を肥やしたくてしょうがなかったアホ共です」

 

「アロナ姉と我が魔王がおっかないから渋々従ってるだけで、その前までは本当に酷かったみたいですよ。汚職。もう壊滅した【ゲマトリア】とか、【無名の司祭を継ぐ者】の構成員との繋がりもあったらしいですし」

 

「うげぇっ、げま……!?」

 

「あ、あのテロリストグループとの繋がりって、それは……辞めさせたらその仕事……? あっ、でももう時期的に卒業したのかな……」

 

「会長が密かに横領して、こんな施設作ってたミレニアムの言えた事じゃないけど。それはもう、本当にライン越えて駄目だよ。ドン引きだよ」

 

 

 

 童女の上げた恐るべき組織の名に、しがない学生でしかない3人の顔が引き攣る。

 外部人の犯罪者集団【ゲマトリア】並びに宗教テロリスト【無名の司祭を継ぐ者】。どちらもキヴォトス史に残るであろう、最低最悪にして最大の犯罪組織。社会情勢に疎いモモイですら、恐怖や嫌悪と共に想起する名だ。

 【ゲマトリア】の構成員として主に知られているのはベアトリーチェと名乗る女であり、なんでも父母の代からキヴォトスで暗躍し、元々はただトリニティと別れて以降没交渉であっただけのアリウスの生徒会長を殺害して身分を偽って学校を乗っ取り、トリニティ憎し、ゲヘナ憎しと住民を洗脳し、自治区を犯罪天国のスラム街へと貶めたという。

 また現在は連邦生徒会に絶対服従の御用聞きに成り果てたカイザーコーポレーションが、かつてのアビドス生徒会役員達に違法薬物を使い、正気を失わせて無理矢理土地の権利書を売らせるという暴挙に及んだ理由が……【ゲマトリア】の統率者、黒服なる輩に騙され脅迫されたから、とも言われている。理由はアビドス校が、アビドス砂漠にある可能性が高いと考えられているらしいという噂がまことしやかに囁かれているウトナピシュティムの本船なる遺物を発掘する邪魔になるから。本当にあるかどうかすら疑わしいお宝を得る為に、住んでいる住民達を人道に悖る行いで放逐しようとする……控えめに言って、狂気そのものの理由だ。

 上記2名以外にマエストロ、ゴルコンダという構成員もいて、そいつらは得体の知れない生体兵器や奇異な武器を造り出しており、時折スランピアと呼ばれる廃墟から迷い出てくるグロテスクな化け物共や海から這い出すモモフレンズめいた怪獣共、キヴォトス人すら殺傷しうる武器の出所とされている。

 【無名の司祭を継ぐ者】は、【名も無き神】とかいう謎深き存在を崇拝して現行のキヴォトスの破滅を目論み、白い陶器の仮面を被って活動していたテロリスト集団。キヴォトスの古の支配者に仕えていた民と名乗り、単なる外部人でもキヴォトス人でもないとされるが、真実は分からない。

 キヴォトスの外縁にある零細学校がこいつらによって生徒を皆殺しにされ、自治区に異常が起きて住民らが学校に向かったら死体が山積みになっていた……という事態も、奴らの壊滅前は珍しくなかった。数年前の、アロナ会長を狙った爆弾テロを起こした外部のテロリストの手引きをしたのはこいつらだったとする説もある。

 他にも《色彩》と呼称していた生体兵器らしきものの開発、召喚の為に常軌を逸した人体実験も行っており、ミレニアムも含めた数多の学園の生徒が攫われてきた。ヴァルキューレやSRTの捜索も虚しく、全ての被害者が発狂した状態で発見され、現在でも精神病院から退院出来るほど回復したものは殆どいないという。

 はっきり言って、ゲーム開発部の3人はキヴォトス全体で言えば弱者の部類に入る……戦闘能力云々ではなく、金銭面や社会的な立場において。

 無差別に害を撒き散らすそいつらの目に付いてしまえば、後はもう餌食にされるのみ。事実、3人のクラスメイトも何人かが【ゲマトリア】の、或いは【無名の司祭を継ぐ者】の実験材料とされ、悲惨な姿で見つかっている。ユズも、モモイも、ミドリも。奴らが餌食を選んでいた賽子の目に、偶然当たらなかっただけなのだ。

 そして無情な事に、さも何事もなさそうに【無名の司祭を継ぐ者】の名を出した天童姉妹は、スクールに就学するより以前にそいつらに攫われ、酸鼻を極めた人体実験の被害に遭っていて。

 一度は……その心を、壊された。

 

 

 

「れ……連邦生徒会こわいな~、とづまりすとこ」

 

「やめなよお姉ちゃん、外部人語録なんて。キヴォトスでは恥ずかしいものなんだよ」

 

 

 

 下手な怪談よりも悍ましく恐ろしい現実。唾棄すべき事実。

 思わずとある外部人が遺したとされる下らない冗句の一種でお茶を濁すが、それでも胸に巣食った不快感は収まらない。

 そんなにも滅茶苦茶な状態であるのに、この幼女達はよくここまで連邦生徒会所属者を信頼出来るものだ。それだけ積み重ねてきた記憶や絆があるということか……と3者共に妙な感じ入り方をしていると。

 室内をひたすら上下動していた、ゆるキャラドローン達……一部の口さがない学生達に、微笑みハゲとか白いハゲ、なんかゲヘナの生徒の足とか舐めてそうとか陰口を叩かれている奴らが、急にわちゃわちゃと別の動作をはじめだした。

 

 

 

"T"(ティック)?」

 

“t”(タック)、何をして……え? “アリス《歪曲(ディストーション)》が来る”?」

 

「“クロコに連絡しなくては”? 何を言って……」

 

 

 

 主らの問いに、酷く慌てながらも、天童姉妹にしか聞こえない声で何らかの説明をしている。

 ミレニアムの最新技術でもこの霊子ドローンらの声は観測出来ず、しかし重ねた実験により、姉妹がエセ霊能力者めいて適当な事を言っている訳ではない事だけは証明されてしまっていた。

 その不穏な響きに、身体の芯から寒気が湧き立ってきた高等部組が、情報の共有を求めるべく口を開き。

 まるで要塞都市自体が恐怖に耐えかねて悲鳴を上げているように喚きだした、室内備え付けの通信機に遮られた。

 

 

 

〘逃げてっ!! アレがそちらに行ってしまったっ! 全員そこから退避……きゃっ!?〙

 

「ユウカ!」

 

「なにあれ……変なオバケ増えてんじゃん!」

 

「あれ、あのロボット(自称アリス)、いなくなって……っ!」

 

 

 

 求めに応じて繋いだ直後、大写しになったのは、流血したまま失神しているリオを掻き抱くユウカの姿。

 向こう側は混沌の坩堝らしく、学生同士の抗争が日常茶飯事のキヴォトスですら類を見ないほどであり……つい1時間前の状況より、戦況は悪化していた。

 リオが持ち出したアバンギャルド君なる頓狂な戦闘兵器は木っ端微塵にされ、ひっくり返されたヴァルキューレの護送車は爆発炎上し、この世に現出した地獄を彩り。

 そして自称殺戮勇者アリスがいなくなり、代わりに場に居座る、2体の妖異。

 阿修羅像めいて頭が4つもあり、その内3つ……金属のマスクで顔面を覆っているもの以外の3つの顔面に、犬のマズルに似たマスクを縫い付けている怪物が、凄まじい速度で走り回り、魔王を……駆けつけた星海モトエを吹き飛ばし、建造物に叩きつけ、崩落する瓦礫の海に沈めていた。

 アリウス新校生と面識を持っている者ならば、その4人の人間を無理矢理縫い合わせたような怪物の4つの頭に、アリウスの現生徒会長や副会長達の面影を見い出せたかもしれない。

 もう片方の異物は、コートに身を包み、頭部の代わりに首へ繋げられた大昔の蓄音機から、異常な雑音を大音量で放ち続ける大男。その姿は、指名手配されている【ゲマトリア】の残党、デカルコマニーを想起させて。

 男の頭代わりの蓄音機が珍妙な音楽の音量を一際増した直後、天童姉妹が両目を見開き、耳を押さえ、床に倒れてのたうち回り始めた。

 

 

 

「あ゛、あ゛、ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

「あ、アリスっ!?」

 

「いだい゛、い゛だい゛っ! あたまっ、わ゛れぢゃうぅ!」

 

「キイちゃん!? どうしたの!?」

 

「音っ! この、穢い音ぉっ! あのオッサンの、キチガイレコードっ! とめてぇぇっ!」

 

 

 

 穢い音。キチガイレコード。過度な罵倒に、しかし高等部3人組は自身らの心身に異常が生じない故、何がなんだか分からない。

 ただ、それでも画面の向こう、まるで二人に連動するように、瓦礫からどうにか抜け出した星海モトエもまた頭を抱えて蹲ってしまっているのは確認出来た。

 惑乱する3人は、苦しむ幼子の絶叫に、咄嗟に通信を切ろうとして。

 それよりも先に、要塞都市(未完成)を襲った激烈な異変によって、通信は途絶えさせられた。

 すぐ傍で連続する爆発音。

 要塞ごと少女らの全身を震えさせる強烈な地鳴り。

 消える照明。

 吹き飛ぶ外壁。

 朦々と立ち込める粉塵。

 そして。

 

 

 

繧?○縺??繧「繝ェ繧ケ縺(やせいのアリスが)後≠繧峨o繧後◆?(あらわれた!)

 

 

 

 

 

 




♪:MX Adventure






MIDDLE
☆3 モモイ
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Lv.10

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