真剣で洛に恋しなさい!【完結】   作:Re:CODER

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妄想を綴りたかった。ただそれだけの作品です。


プロローグ

 初夏にはいったためか、起床する時間では寝心地の良かった部屋の室温が上がってきた。

 耳障りなアラームを鳴らし続ける目覚まし時計に対して、鬱憤を晴らすがごとくそのスイッチ押す。

 

 目覚めたばかりのせいなのか、意識と体が少しほどズレている。

 それをリセットするために大きなアクビをしながら、俺は洗面所に直行する。

 蛇口をひねると、その先から出てきた冷たい水を両手ですくってそれを顔へと勢いよくかける。

 

「おはよう。俺」

 

 先ほどよりも意識が鮮明になってきた俺は、鏡に向かって無意識に語り掛ける。

 ある事情で、俺【目次(めつぎ) (らく)】は7歳の時に一人でこの川神市に引っ越してきた。

 家事は得意でお金も潤沢に持っていた俺は、現在不自由なく暮らすことが出来ている。

 しかしながら、ここに引っ越してきて長い年月が経ったためか、自宅ではたまに先ほどのように独り言が出始めたのが悩みの種だ。

 人前では気を付けなければいけないと気を引き締めながら、庭に出ていつも通りゆっくりとした動作で日課の鍛錬である体操を行う。

 

(武士道プランねぇ……)

 

 少し前に九鬼財閥のクローン技術によって生み出された偉人達4名が、俺の通う川神学園へと編入することとなった。

 彼ら曰く、過去の英雄たちを現世に復活させて学園内の若者達に危機感を持たせることで、切磋琢磨をさせるのが狙いとのことだ。

 そしてその狙い通り編入してからすぐに、放課後毎日英雄の一人である源義経との決闘が行われている。

 我が2-Fクラスの武の代表である川神一子も、それに参加していたのを思い出す。

 

 「惜しい逸材だよな」

 彼女は短い期間であそこまでの領域へと足を踏み入れている。だがここ最近は伸び悩んでおり、敗北も続いている。

 それはなぜと聞かれると、俺は教育環境にあると考えている。

 

 確かに武道の総本山である川神院は、修行の場としてはこれ以上にない素晴らしい教育環境といえるだろう。しかし、そこの総代である川神鉄心や、それを補佐する師範代であるルー・イーは無手を得意とする。

 二人とも最低限の武器の技術は会得しているだろうが、それはあくまで最低限であってそれらを極めているわけではない。

 いくら壁を越えているマスタークラスの彼らでも、数多くの武器を極めるのは無理と言える。

 

 とどのつまり、薙刀を得意とする彼女にとってそれを極めるには厳しい環境でもあるのだ。

 

「そうはいっても、彼女は川神院の師範代を狙っているからなぁ」

 

 先ほどの動きに緩急をつけながら体を動かす。独特なリズムを刻みながらも思考を続ける。

 

 ひたむきに頑張る彼女の姿は過去を思い出した。

 切磋琢磨し合っていた仲間たちは元気にしているのだろうか。

 

「ま、俺にはもう関係ない話だな……。なんだ!?」

 

 鍛錬を終えた俺は、深く息を吐いて整える。

 

 刹那。

 

 巨大な気と気のぶつかり合いを肌で感じる。

 長時間のぶつかり合いのさなか、周囲を警戒しつつもその二つの膨大な気を感じ取る。

 互角に戦いあっている二つのぶつかり合いは、どんどんと膨れ上がっていく。

 

 地球大丈夫なのかこれは。

 

 そう不安に思いながらも、俺は気の正体に探りを入れる。

 

「おー、おっさん頑張ってるな」

 

 片方の禍々しくも恐ろしい気は、いつも組手をやっている釈迦堂のおっさんだということに気付く。

 そしてもう片方はおっさんよりは気は少なく感じるが、底を感じさせないそれと鋭利さに関してはあの川神鉄心に後れを取らないほどだ。

 しかしそれにも心当たりがある。

 

「ヒューム・ヘルシング……ねぇ」

 

 1-S組に編入してきた川神鉄心のライバルであり、世界最強と言われている九鬼従者零番のヒューム・ヘルシングだ。

 大地を揺るがすほどの気の衝突が終わったのか、ぶつかり合っていたそれらは一瞬にして消え去っていく。勝敗はわからないが、引き分けか?

 

「気になるから後で聞いてみるかな」

 

 組手をしあうだけの仲だが、知り合いのようなものだ。

 なぜあのような真剣(まじ)な戦いをしていたのかが気になった俺は、呟きながらも汗を流すために風呂場へと足を運んだ。

 

 

 その日の夜に釈迦堂のおっさんに合流した俺は、いつも通り組手を開始する。

 そしてそれが終わって休憩をしている最中に、今朝のことが気になっていたので雑談をすることにした。

 

「で、おっさん。どうして戦ってたんだ?」

「あぁ、ヒュームって野郎がな、俺に働けってんだ」

「ふーん……で、どうなった?」

「膝をついたら負けってんでな、最後は富士砕きをぶち込んでやった」

「それって禁じ手だろ?」

「あれを食らって膝をつくだけだからな。化け物だぜあいつ」

 

 面白そうに口の片方だけを上げたおっさん。正直あの化け物の膝を曲げさせるなんて、そこら辺のやつらには無理なことだ。

 天賦の才を持っている彼だからこそ出来たことだと言える。

 

「いやでもまぁ、お前と組手やってなきゃヤバかったかもしれねぇな」

「最初のおっさん、基礎がてんでだったからな」

「言うじゃねぇか。……事実だがな」

 

 川神へと引っ越す前から武術をしていた俺は、その腕を錆びらせるわけにはいかなかった。

 しかしながら、ある契約によって道場へと通うことが出来なかった。

 

 素振りなどの一般的な鍛錬は出来るが、実践をしなければ当然腕は落ちる。

 良い組手の相手がいないかと彷徨っていたときに出会ったのが、この釈迦堂のおっさんだ。

 

 破門された彼は戦闘を楽しむ、いわゆる戦闘狂(バトルジャンキー)だった。

 無類の梅屋の豚丼好きということで、組手が終わった後にとろろ付きのそれを奢るという約束をして無理やり組手の相手をしてもらうことが出来たのだが、どうやら彼は負けず嫌いという気質もあったようだ。

 

 基礎訓練はおろそかになっていたためか負けが込むと、その気質のためか自主練を開始したようで、メキメキと戦闘能力が向上していった。

 今ではおっさんとの組手で勝った記憶はここ数ヶ月はないほどに。

 

「しかしお前のおかげで俺は働かなくてすんだわけだ」

「いやそこは働こう」

「俺に執事服やリクルートスーツなんて似合うと思うか?」

 

 おっさんの問いかけに、彼が窮屈そうな服を着て働く姿を思い描こうとする。

 しかしそのような姿が想像できないのかいつも通りの服装のおっさんしか脳裏にうかびあがらない。

 

「想像すらできないな。いや、作業着なら似合いそう」

「あんな面白くない職業に就くわけないだろ。まぁこうやって気ままに暮らせるようになったわけだ。一つ貸しにしといてやるよ」

「気が向いたら願い事を叶えてもらうわ」

「とはいっても、俺が無理なものは叶えられねぇぞ?」

「わかってるって。んじゃいつも通り梅屋に行きますかね」

「へへへ。他人の金で食うとろろ付き豚丼は格別だ」

 

 自分よりも一回り年下に奢られる行為に恥じることなく、おっさんは駅前の梅屋に向かって歩いていく。

 

 この日から運命の歯車は回りだしたなんて、当時の俺は想像することは出来なかっただろう。




真剣で私に恋しなさい!Sより

ヒューズが「もし……お前がきちんと鍛錬していれば、結果はまた違っていたかもしれんがな」

釈迦堂さん戦闘能力アップにより勝利を考えたのですが、あのヒュームという化け物が負ける姿が思い浮かばなかったので、条件を変更しました。
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