皆さんありがとうございます
2023.4.17
誤字報告ありがとうございます。修正いたしました。
自分の出自が梁山泊に知られた翌日の放課後。
相も変わらず、俺はだらけ部で寝転がりながらも参考書をぺらぺらとめくっている。
自宅でやらないのは、自分の家にもかかわらず勉学を持ち込みたくないという、くだらない理由からだ。
俺は寝返りを打ちながら横に目を向けると、視線の先には武松が座っていた。
「大和はいいのか?」
「豹子頭がついている」
「公孫勝は?」
「九鬼紋白と遊ぶそうだ」
「史進は?」
「武芸者との決闘と周辺のパトロールをしている」
「楊史……は、聞くまでもないな」
パンツ魔人の彼女のことだ。どうせいつも通りパンツハンティングをしているのだろう。
「昔よりも感情が少ない理由は異能のコントロールのためか」
「そうだ。安定度を保つために訓練をした」
「精神が左右して、ろうそくの火になったら笑えるからな」
「……そんなに小さくはならない」
カラカラと笑いこけると、それに武松が突っ込みを入れる。
目と口の開き具合からして、笑われて少し拗ねてるな。
異能というものは便利な反面、何かしらの欠点が存在する。
武松の発火は、精神状態によって威力が左右されるというのがそれだ。
ちなみに予知や龍眼だが、多くの情報が目から入ってくるために眼精疲労や脳疲労という精神的疲労が、通常時に比べてものすごく蓄積される。
「ルオは梁山泊には戻ってこないのか?」
「ったく、二人の時だけだぞ」
「わかっている」
「戻るわけないだろ」
「私の部隊の
「何しれっと勧誘してんだ」
「痛い」
「炎を出すな。悪かったって」
覗き込んで来た武松にデコピンを放つと、怒ったのだろう。武松の体からは炎が出ている。
なんで学生服が燃えないのかが理解できないが、これ以上の火力が出た場合、火災警報器が鳴りかねないので、ぽんぽんと頭を撫でてやる。
「髪が乱れるじゃないか」
「すまん、昔の感覚で」
「別にやめろとは言ってはいない」
「どっちだよ。面倒くせぇやつだな」
「乙女心は複雑とよく言うだろう」
「知らねぇよ。撫でてほしいならもう少し寄ってこいよ。寝転がってるから腕伸ばすのだるいんだよ」
左手で参考書をぺらぺらと捲りながら、手を伸ばすのは面倒くさい。撫でてほしければこっちに寄れというと、武松は腹の上にこてりと頭を乗せてきた。
飼ったことはないが、長時間離れた犬はこういう風にしてくるんだろうな。
優しく撫でるように頭を触る。さらさらとした髪質のためか、撫でているこちらも心地よい。
「気を許してくれるのは嬉しいが、病むんじゃねぇぞ?」
「善処する」
「善処じゃなくて、確定の言葉が欲しいんだよ」
「…………大丈夫だ」
「その間はなんだよ」
ヤンデレになりかねない武松を心配しながらも、右手を彼女の頭から離してすぐ横にある鞄の中から、複数あるうちの一つのタッパーを取り出す。それを器用に開けながら、中に入っている一口大にカットして、爪楊枝が刺さっている桃を武松の口の前に差し出す。彼女はそれを条件反射で食べている。
「なんていうか、恋人みたいなやり取りだな」
「ルオがそれでいいなら」
「いやいや武松さんや、ちょろすぎやしませんかね」
「まずは部下と上司の関係からでどうだろう」
「新聞は間に合ってます」
吊り橋効果じゃあるまいしどんだけちょろいんだよこいつは。
不貞腐れている武松に桃を差し出していくが、掃除機のように食べていく彼女は、昔から変わらないなと安心もする。
「ルオは将来どういう仕事に就くつもりなんだ?」
「将来ねぇ……」
なぜかは知らないが、俺が元梁山泊というのは一部の傭兵集団にバレているみたいだ。
最近ではヘルモーズという1980年に設立された傭兵集団に狙われているが、釈迦堂のおっさんと俺で返り討ちをしている。
出所を突き詰めようと尋問しているが、下っ端の連中はどうやって知ったのかは知らないようで、ただ無駄な時間を過ごしている。
「それならなおさら戻ってくるべきだ」
「あれ、口に出てたか?」
「ぶつぶつと喋っていた」
「まじか……」
独り言の癖が抜けない。どうすればこの癖が治るのだろう。
「今度こそルオは私が守る」
「病みそうになってませんかね」
「……気のせいだ」
メラメラと出ていた炎が、俺の言葉でひゅんと消える。しかしそう考えれば、ある意味梁山泊に戻るというのは……
「悪くはないのかもしれないな」
「ならば、すぐに首領に連絡を入れよう」
「いやいやどんだけ俺を引き入れたいんだよ」
「すぐにでも入れたいくらいだ」
訳が分からない。
「んなことよりも、本来の仕事に取り組めよ」
本来の仕事というのは、直江大和の盧俊義の資質の見極めと曹一族からの護衛だ。
俺にかまけている暇があるのならば、そちらを優先するべきではないかと考えるが
「いやまてよ。もしも採用した場合は全員があいつの魔の手にかかるのか?」
「そこまでの関係に行く人物もいるとは思うが」
「今の環境でもけしからんのに、これ以上増えるとは処するしか……って冗談だよ」
「冗談でもやめてほしい」
冗談を真剣に取りそうなことから言い直すと、それを聞いて武松はほっとした様子だ。
左手に持っている参考書を横に置いて、目を閉じながら眉間を人差し指でとんとんする。
先ほど考えたように、正直に言うと戻って梁山泊に所属するというのは、ある意味正解と言えば正解ではないだろうか。首領の宋江からしても、俺が戻った方が安心するので、所属を許可を出す可能性が高いだろう。
「しかし俺がお前の部隊に入るとしても、異能持ちが部下っていいのか?」
「ルオの予知は無くなったのではないのか?」
「あー……譲渡した後に曹一族の追手にかかってな。生死を賭けた逃亡劇で龍眼ってのがなぁ」
「やはり護衛が必要ではないのか? 首領にかけあってみよう」
「はいはい、許可が出たらな」
この問答に疲れた俺は、流すように話を終わらせた。
しかし口は災いの元という。
その日の夜
「許可が下りた。今日からお世話になる」
「きてやったぞ」
インターホンが鳴ったので出てみたら、そこには武松と公孫勝が玄関にいた。
まじかよ……。