期末考査の結果が配られ、翌日に夏休みが控えた放課後のこと。
部活動をすべく、俺はいつも通り部室へと足を運ぶ。
公孫勝が九鬼紋白を勝手に俺の家に招くらしく、部外者立入禁止令が敷かれているのだが、何故その家の主の俺までもが立入禁止となっているのだろうか。
帰ったらウメボシをしなければいけないと、固い意志を心に宿しながらも部室の扉をくぐる。
「洛じゃん。おひさ」
「学年三位、頭脳明晰な武蔵坊弁慶様じゃありませんか」
「一位と二位の壁は厚かった」
その二つはいつも葵冬馬と九鬼英雄という賢人達は、常時万点をたたき出している。それを踏まえると、三位というものは物凄いことなのだが、今の彼女の姿を見るに称賛を送るものはどうなのかと、少し悩むところだ。
いつも通り畳の上に移動するのだが、その後に来るであろう錫杖が来ない。
「私をそっちのけにしている二人には冷たくすると決めたんだ」
「大和はわかるけど、なして俺まで」
「武松といい雰囲気じゃない? 土曜日なんてわざわざFクラスに行くくらいだし」
「こりゃ拗ねてるな」
それなら仕方がない。段ボールまで歩いていくと、その箱ごと畳まで持っていく。
「今日は盛大だね」
「明日から夏休みだからな。自宅に持って帰るからいいんだよ」
「なるほどね。じゃあ学園には来ない感じか」
「夏休みまで登校って嫌だろ?」
「そりゃそうか」
そこまで拗ねていないことに安心をしながらも、ポテチを開封するためにずいっと彼女の方へと寄る。
さらに二人で食べやすくするために、ビッグサイズを選んでスナックボウル開けをすることも忘れない。
「それで、弁慶は夏休みはどういう感じで過ごすんだ?」
「なんやかんや空き時間が増えるから、主と過ごす予定」
「与一はどうするんだよ」
「そりゃ給士役でしょ」
「あいつも大変だな」
給士役ということは、パシリということだろうか。休みになってさらにパシられるとか、かわいそうだ。俺には関係ないけど。
「そっちはどうするの?」
「俺か? いつも通りじゃないかな」
「そうじゃなくて、梁山泊に戻るのかってこと」
「なんのことだろうな」
一瞬、弁慶の言葉に対して濁りそうになったのだが、適当に流すことにした。
なんやかんや彼女の勘は鋭い。偉人だからなのだろうか。
「いや、武松に公孫勝。史進といった面々に囲まれてたらわかるよ」
「さっぱりわからんな」
「水上体育祭の時にも、武松が言ってたし。隠さなくていいじゃん」
「ガキの時のことだからな。今はもう関係ない話なんだよ」
言い逃れが出来ないことを察した俺は、しらばっくれることをやめた。
「で、どれが本命なの?」
「何がだよ」
「それは決まってるでしょ。クールで熱血娘にロリ娘や元気娘。より取り見取りじゃん」
「弁慶もそういうのって気になるのか」
「そりゃ気になるよ。うら若き乙女なんだから」
「そういいながら、川神水の
「バレた?」
一つを選ぶと突っついてくるのがわかりきった質問には答えるつもりはない。
無言でポテチとコーラを口の中に入れる俺を、弁慶はつまらなそうに見ている。
「でも私もいつかそういう出会いしてみたいな」
「どこかでいい出会いが見つかるとは思うぞ。別の世界線とか?」
「ちょっと腕を出して」
「しっぺするつもりだろ……いってぇ!」
しっぺを回避するべく腕を引いたのだが、変わりに脳天に向かって錫杖が飛んできた。
速度からして本気に近い力を込めていることから、引いた腕でガードに成功はするも、あまりにも理不尽である。
「またつまらぬものを叩いてしまった」
「ちなみに俺の前は誰を?」
「与一」
夏休み前はサンドバッグに、夏休み中は給士役と、ノイローゼにならないか心配になる発言だが、源義経がいいクッションになってくれるはずだ。俺はそう信じている。
「それで本題に戻るけど、洛はどうするつもりなの?」
「今のところは戻らない予定だな」
「なんで?」
「安全な土地を捨ててまで、危険地域に足を踏み入れるバカがどこにいるよ」
「それはそうか」
俺の言葉に弁慶は納得した様子だ。
次々となくなっていくポテチを眺めながら、彼女の質問が頭の片隅に残っているのからなのか、将来のビジョンを思い描いていくのだが、そのビジョンがまったくもって描かれることはない
それもそのはずだ。
一学生が将来の自分の働いている姿なんていうものは、プロを目指している人間以外思い描くことは出来ないからだ。
だが一つだけ思い描くことのできる将来がある。
それは梁山泊の連中と一緒に世界中を回って仕事をしている姿だ。
これは普段からずっと武松や公孫勝が側にいるからと、俺に言い聞かせながらそのイメージを削除していく。
「あ、今。梁山泊で仕事をしてる未来が見えたんでしょ」
「知らねぇよ」
「いいじゃん。本拠点に銅像を建ててさ。未来永劫語り継がせるとか」
なんでこいつは、本拠点にある過去の星たちの銅像を知っているのだろうか。
そういう突込みはしないようにしよう。
「もし銅像を建てれるとしても、星を継ぐのは女性って相場が決まってんだよ」
「なんていうか、傭兵集団って堅苦しい所なんだね」
「まぁそれほど女性の方が戦闘力を持ってるんだろ」
「戦闘力を持ってる洛にとっては、世知辛い世の中って感じ?」
「そうでもないさ。ヒューム・ヘルシングやクラウディオ・ネエロ。川神鉄心やルー・イーは男性だろ」
比較的戦闘力が高いのは女性だが、世界でも屈指の実力者は男性も多い。
星を継ぐ必要もないし、そもそも俺は戦闘関係で飯を食っていく予定はない。
「と言ってるけど、洛はお人よしだからね。多分戦闘関係に巻き込まれて無し崩れで戻ると思うよ」
「何度も言うが、心を読むな」
「さてと。主の決闘も終わったことだし、私は帰るね」
「おう、また夏休み明けな」
弁慶を見送った俺は、残ったポテチをぼりぼりと頬張っていく。
「将来の夢……ねぇ」
再度、梁山泊で働く俺の映像が流れる。
それ以外に何かないのかと思考を続けるも、何も思い浮かばない。
「いつまで経っても、夢というものは変わらないもんだな」
スンとファンとルオが横に並んで一緒に戦う夢。
色褪せることのないそれは、今では無理な話だというのに。
俺の呟きが、虚しく部室にこだまするのだった。